対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
呼吸を整えて、鹿之助くんの目の前で武装解除した装備を一身に纏う。
私が装備を整える間。彼と協力して、敵襲があった時用に備えてもらう。と言っても、全員殺したので襲撃は無いとは思うが。念には念を入れておく。奇襲は戦術の基本だ。
鹿之助くんの話では、どうやら彼が来た方面にも階段も出口らしい出口はないと話してくれた。ここに来るまでの顛末を聞いている様子だと、彼もまた私と同じように気が付いたらこの空間に居たというのだ。
先に進もうとおもったところで、進行方向側の通路から爆発音や連続した銃声が響いてきたから、収まるまで小柄な体格を生かして敵の死角になりそうな自動販売機の隙間へ隠れることにしていたのだと。
そこへテロリストの格好をした私が正面を通り過ぎろうとしたので攻撃に転じた——というのが大まかな顛末だというのだ。
うーん、爆発音や連続した銃声について心当たりしかないのはなんでだろう?
きっと私が大暴れしていた時の音だと思うけど、まさかこっちまで響いていたとは。
しかしそんなことよりも、私達は大きな問題に直面している。
彼の話では出口らしい出口は無かったとの話があった。私もここに来るまでの道で外に通じるまでの出口を見つけてはいない。つまり——
いいや。私が見落としただけかもしれない。
1人では外に通じる出口が見つからなかったとしても2人なら、鹿之助くんとなら見つけられるかもしれないし悲観的になるのはやめよう。
もしも出口や入り口がないのなら、私がこれまでに殺してきたテロリストは何処から入ってきたんだって話になるんだし、私だってどうしてこの変な通路に閉じ込められていたのかも説明がつかないし、考え過ぎだ。
そんな非現実的な出来事など起こり得ない。
きっと私が何処かで出口を見落としただけに違いないのだ。
「上着とか持っていればよかったのですが……その恰好。寒くないですか?」
「あっおう、大丈夫だぜ!」
鹿之助くんの手を引きながら、一回来た道を引き返す形で彼と雑談をしつつ戻っていく。
つい先程まで銃声と爆発音しかしない空間に、人の会話という暖かい色がついた。
窓もない地下のためか極端な寒さや暑さを感じることはなかったが、私の隣にいる鹿之助くんは寒そうな恰好をしていて気になる質問をしてみる。
彼の今の格好は……すこしえっちな姿だ。
私が中学生の頃。東雲革命派という名称のテロリストが襲撃してきた東京都アーカムバイオ社の屋上にてみたことのある対魔忍と同じような服装を着ているし、あの魔法みたいな電撃攻撃。
つまり、彼もきっと対魔忍なのだろう。
同年代で友達なのに、彼が対魔忍だったなんて想像がつかない。
私のような一般人には成し遂げられない素晴らしい責務に彼は就いている。
しかし、いささかその服装は見ているこっちが肌寒くないか心配になる服装だった。それによくそんな薄着で戦地に赴こうと思うのか甚だ疑問ではある。
彼は袖のないノースリーブに、襟付きの緑を基調とした競泳水着のような対魔忍スーツを纏っていた。腹部と大腿部は6角形にくり抜かれてピッチリとしたスーツの代わりに、25デニールほどの薄い黒のストッキングのような滑らかな手触りのメッシュ素材に置き換わっている。
鹿之助くんのお腹は実にエチチだ。くびれや腰つき、肩の筋肉などは確実に男の体格であるが、ヘソは縦割れ、おちんちんがあるはずの陰部は
また両腕には鋼鉄製の小手と両脛にも膝当てがあり、弱点をある程度カバーすることができている。
うん。でも私としては小手と脛当て強化より、まずは素肌の面積を減らす……肩から二の腕を対魔忍スーツで覆う必要があると思うんだけどどうかな?
「鹿之助くんは対魔忍だったのですね。」
「う、うん。そういう日葵は一般人、なんだよな……?」
「そうですよー。」
鹿之助くんがチラリと私の方を見つめる。
その通りな質問に特に違和感を抱くこともない。
「だったらさ。一般人なのにどうしてそんなに強いんだ?」
「……それは……。結構、難しい質問ですね。」
彼の素朴な質問に首をかしげる。
どうして?と聞かれても、武術が身に染みているというか、対象が人間ならば急所を狙って攻撃すればだいたい死ぬ生き物だし、私は強いわけではなく相手の特性を見極めて詰将棋からの一撃必殺で敵を葬っているだけに過ぎない。あとは相手にとってとことん嫌なことをするとか。
前者はともかく、後者の内容に関しては鹿之助くんに話してしまったらドン引きされそうなので心のうちに秘めておく。
「私は基本的に体幹崩しから入って一撃必殺を狙っているだけですよ。恐らくですけど、相手に反撃余地を与えないことで勝利を収めることで強く見えているのかもしれません。」
「……そうかな? そうかも……」
「でも鹿之助くんみたいな素敵な特殊能力があれば、きっと今回の事案ももっと選択肢の幅が広がっていたんでしょうねえ……。所詮は、持たざるものですよ。ですがその忍法とか対魔忍の素質は選ばれし人材が持つべきですよね! 正義の
右手で鼻頭を引っ掻きながら、鹿之助くんの能力をべた褒めしてみる。
彼は褒められ慣れしていないのか、顔を赤らめながら俯いてしまった。
かわいいね。鹿之助くん。かわいいね。
鹿之助くん。好き好き大好き。
青空日葵、心の短歌。字余り!
季語は『鹿之助くん』なので完璧な短歌だ。
「そういえば対魔忍は私が見て来た中では、拳銃とか刀とか武器を持っているものですが……鹿之助くんはどんな得物を持っているのですか?」
「俺か? 俺はだな……」
そういって彼は小手の収納スペースを開いて、三つ巴の家紋を反転させたような……
中央には穴が開いていて、指を入れることもできそうだ。チャクラムのように扱いが難しそうではあるが、小型のナイフとしても活用できそうなデザインではある。
手裏剣とは実に対魔忍、とくに忍者っぽい武器だ。
「へぇ、手裏剣を使うのですね! ということは
「そうだぜ。こいつを投げて敵を倒すんだ! カッコイイだろ!」
「かっこいいです!」
自信満々にまるで戦隊モノのヒーローのように投擲の構えを私に見せてくれる。右手の人差し指と中指を使って親指で挟む。それから上から下、左から右へフリスビーでも投げるように投擲のフォームを見せてくれる。
私も拍手をするように彼の構えを褒める。
「その他の武器は? その小手や脛宛ての中にはどんな武器が仕込んであるんですか?」
「えっと、これだけだけど……」
「……ん? これだけ?」
「おう!」
「これが主力武器?」
「……うん」
「……。」
「……」
微妙な間が私達を包む。
えっと、その手裏剣しか武装が無いということだよね?
鹿之助くんの腕は女の子のようにか細く、その腕から振るわれる手裏剣の投擲命中威力などさしたるものではない。それに彼がテロリストへ便衣している際、私に手裏剣を使わなかったことは不幸中の幸いではあるが、手裏剣ではなく忍法を使って足止めしていたことから彼本人としてもそこまで頼れる武器でもないのかもしれない。
はたして、その小さな小手の中に何枚の手裏剣が収納できることやら……。
「なるほど。先ほどの忍法で足止めして、手裏剣を投擲でトドメというわけですね?」
「あーそれは……」
「?」
「えっと、そういうわけでもないんだ……俺、投げるのそんなにうまくなくてさ。日葵の言う通り忍法で足止めして手裏剣とかも投げるんだけど、時々すっぽ抜けちゃったりするからトドメとかは蛇子に任せてるんだけど……」
「ええっ!?蛇子ちゃんも対魔忍だったんですか!?」
衝撃の事実判明。
私の周りの友達が対魔忍だらけ。
鹿之助くんが対魔忍で、蛇子ちゃんも対魔忍だったなんて!
「……念のため言っとくけど、蛇子は蛇子でも相州の方だからな?」
「? なにを言ってるんですか? 蛇子ちゃんは、相州 蛇子ちゃんしかいないでしょ?」
「…………」
変な鹿之助くん。
私の疑問になんか難しい顔をしているけど、他に“蛇子ちゃん”なんて名前の友達や知人なんかいたっけ?
それにしても、みんな16歳なのに国のために働くのとか偉すぎる。
私は将来どんな職業に就こうかな?
今、株取引が上手く行ってるし、トレーダーとして資金力を生かした対魔忍のみんなの援助とか?
「ということはふうま君も?」
「対魔忍だな」
「陽葵ちゃんも?」
「対魔忍だ」
「心寧ちゃん、駒水ちゃん、なお先輩、コロ先輩、西郷寺くん、石藏さん、氷室先輩、眞田先輩、黒田先輩、弓走さん、磯咲さん、篠原さん、持田さん、神村さん、二車くんも……?」
「対魔忍」
親しい順番に五車学園内での知り合いラインナップを上げる私の名簿帳にリズムを刻みながら頷き返してくれる鹿之助くん。
対魔忍の方が少数派な集団のはずなのに、対魔忍よりも魔族の方が多そうなこんなご時世に、私の周りに対魔忍居すぎな状況に驚愕した表情をせざるをえない。
こんな調子なら
でも正直なんかおかしいとは思ってたよ? 完璧に隠れることに成功している筈なのに蓮魔先生が私の隠れ場所をさも当然のように見抜いてきたりとか、眞田先輩が炎の吹き出る槍を振り回したりとか。
でもまさかみんな、対魔忍だったなんて……。
日本国を護るために尽力を奮って……感心する。私には成し遂げられない偉業だ。
ところで鹿之助くん、私にその話をしても大丈夫だった? 私、一般人なんだけど……。
守秘義務とかさ。
…………でも同い年で親友だから話してくれたのかな?
片目を瞑って後頭部を掻く。
「とにかく俺は、対魔忍でも忍法が戦闘向きじゃないから前衛より後衛よりなんだよ。だからちゃんと足止めとか、レーダーとして敵が何処にいるのかとかが分かっていれば良い役割でさ」
「でももし1人になったらどうするんですか? 例えば敵の手によって分断されちゃったりとか、任務で1人で出撃するように言われちゃったりとか。」
「うっ……」
「今回は私が居てテロリストを先に殲滅していたのでよかったですけど……居なかったら大変なことになっていましたよ?」
「うう……それを言われると、ぐうの音も出ないんだけど……」
鹿之助くんがいつもの気弱な口調になる。
その困った仕草が本当にかわいい。とことん守ってあげたくなる。
任務で1人で出撃するように言われちゃった場合には、そんな危険なことは私が許さず同行したいとは思う。
でも対魔忍と一般人の身分の差では、常に一緒に行動するというのは常識的に考えれば難しい。だから任務とかに同行できなくとも、影ながらに守ってあげられるような案を捻り出せれば良いのだが……。
「じゃあ、その
「……え?」
だから私としてできそうなこと、鹿之助くんに武器の改造案をアドバイスとして伝えてみる。彼の表情は、また私が突拍子もないことを言い始めたとでも言いたげな困惑した表情になっているが……。
この手裏剣に爆発物を仕込むという提案は、理にはかなっている筈だ。手榴弾と同じ要領で、手裏剣を投げた後に例え当たらなくても起爆して破片を一体に拡散させて敵を殺傷する。手榴弾と違って、敵も1発目は手裏剣が外れたことに対して油断をするはず。
そこに爆破を行って背後から複数の敵を一網打尽にする。敵に当たったとしても手裏剣が刺さったままの人間爆弾としてその手裏剣は機能することになるわけだし、もし彼がひとりっきりで逃亡戦を強いられることになっても距離をとりながら敵を一網打尽にすることもできる!
「例えば鹿之助くん、
「ええと、そりゃ慌てて離れたり、身を隠そうとする……かな?」
「逆に
「足に当たらなくてほっとすると思う」
「それですよ。普通はそう考えるものなんです。だから手裏剣に爆弾を仕込んで、相手が油断したところを
キョトンとしている鹿之助くんにテロリストから奪った赤色の出る指ペンで、壁に絵を描いて教鞭を取るように説明をする。
猫ちゃんの絵柄と卍マークの手裏剣で、何を狙って攻撃を行うのか、どのように扱うのか私の想像できる範疇で知識を彼に伝授する。だから実際に投げる手裏剣も材質を変えて、飛距離を稼げるもの、爆発の衝撃で破片化しやすいもの、爆発物から身を隠す方法についても解説する。