対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「どうでしょう? 参考になりましたでしょうか?」
「おう、ありがとな! それ開発部の人たちに伝えてみるよ」
「あとは起爆方法ですけど……。」
「それに関しては今のヒマリの話を聞いてて思いついたんだけど、俺の忍法で作動させるとかどうかな?っておもってて……」
「いいですね! 確か鹿之助くんの忍法は静電気や電波でしたっけ?」
「そうだよ」
「静電気ですと水中や湿度、電波ならばジャミング……妨害装置で起爆を阻害される可能性が残りますが、忍法を利用した起爆方法なら忍法自体を無力化されなければ機能すると思いますし、アリだと思います。」
鹿之助くんの自主的な提案に自分のアイディアを織り交ぜて、彼に対して親指を立てる。
私の提案にほんのり浮かんだ彼の笑顔を見ていると、改善案を提示してよかったという気持ちにさせてくれる。
鹿之助くんはきっと頭がいいのだろう。
私は彼の前で、いつも気持ちよく話すことができている。
今回だって、この道中で出口がない奇妙な施設内で1人だけなら、不安と違和感、恐怖に押しつぶされていた。でも鹿之助くんがこうやって話し相手になってくれているから、護らなきゃという気を起こさせてくれたから正気を保つことが出来ているのだ。
いろいろな雑談を挟みながら出口を探したが、私も彼もそれらしい入り口は結局のところ見つけられなかった。
私が捕らえられていた扉を開くのも怖くて、彼と一緒に入り口まで戻って出入り口を確認することもしたが、結局のところ階段も出口も見当たらなくて……。
こんなことになるなら、事を急いてテロリストを殲滅するんじゃなかった尋問してから殺せばよかったと後悔する。
また最初で最後の扉の前まで戻ってきてしまった。
手榴弾で吹き飛ばしたはずなのだが、いつのまにかに修理されている。
だが彼を不安にさせないためにも、このことは秘密にしておく。
「…………ここが泣いても笑っても最後の扉ですね。」
「おう。……ヒマリはさ。この先に囚われていたんだっけ?」
「はい。目が覚めたら後ろ手に手錠で縛られて椅子に座らせられていました。」
「……」
「どうかしましたか? 鹿之助くん。」
「その状態でどうやって俺が隠れている場所まで来たんだろうって思って……」
彼は両目を瞑って腕組みをして首を捻っている。
右手の親指の関節を外して手錠抜けしたのだが……結構これは痛みを伴うし、過去の情報によると手錠自体に爆弾や逃走防止の機能がついていることもあるらしいので、むやみに彼へこの手法は教えることはできない。今回、私が何の問題もなく関節外しで逃げられたのも、鹿之助くんのように対魔忍ではなく一般人向けな単純拘束であったからという観点も考えられるし。
五車学園の名簿表を解体した時みたいに、その手順を彼に伝えることはやめよう。
「ギヒヒヒヒッ。さて、どうやってやったのでしょう?」
「もー、ここまで来たんだから誤魔化すなよな」
「それではヒントです。私の顔を見て何か変化に気づけるでしょうか?」
彼の正面に立って、膝を曲げ中腰の姿勢を作り、彼の顔面の目前に私の顔がくるようにする。
「ふぇっ!?あ、いや、ど、どうだろうな?」
そんな私のヒントに彼はすぐに右下に視線を逸らして誤魔化す。
かわいい反応だ。まるで少年がダウナー系の大人のお姉さんに誑かされているような性癖が曲がるような反応。
髪の毛を止めている髪留めを1つ取り去り、視線を逸らした彼に見せつける。
「正解はこれです。ヘアピンを手錠の鍵穴にいれて外したんですよ。」
姿勢を正し、彼の見ている前で左腕に着いたままの手錠の穴に……あれ? この手錠、穴なくない?
「…………」
「…………。」
「……穴、無いけど」
「ないですね。」
「…………」
「…………。」
「…………そのヘアピンはどこに——」
「イリュージョン!!!!これが拘束抜けマジックです!マジシャン的なあれだからタネはありません!しかけもありませんでした!はい、拍手~!」
すこし瞼を閉じて疑わしさMAXな表情で私のことを見つめる鹿之助くんを誤魔化すようにヘアピンを元の位置に。左手にかかったままの手錠を背中に隠す。右手で鼻頭を掻く。
この建物から出たら、何か適当に理由を作ろう。彼がびっくりしてしまわない方向性で。
「ま、いいけどさ。……焦ると早口になって多弁になる部分も似てるよな」
焦っているという点が図星な私に鹿之助くんがボソッと呟く。
誰に似ているのかは心当たりはないが、先ほどの鹿之助くんのように目を逸らして彼の正面から彼の隣に立ち直る。
「では、鹿之助くん開けますよ?」
「……頼むぜ」
彼に手錠が見えてしまうが右手でドアノブを開け、そっと拳銃を取り出しながら部屋に入室する。
室内は——
「…………。」
先ほどと何も変わっていなかった。
私が座っていた椅子があって、首の骨が折れて私に装備を引き剥がされたテロリストが床の上で方字になって転がっている。
壁を見ても天井を見ても出口らしい穴はないし、テロリストが潜んでいた通風孔のような場所もない。
「どうだ……?」
「……ッ。」
鹿之助くんが私のクリアリング後に続いて部屋に入室してくる。
彼の方に振り返って、なんて励ましの言葉を掛けようかと思って少し気まずそうな顔になってしまうが彼の正面に立って——
「なんだ!出口あんじゃん! 驚かせるなよな!」
「……?」
「よぉ! ふうま! 蛇子! 迎えに来てくれたのか!?」
……。
……え?
鹿之助くんはいつも五車学園で見せてくれる——とびっきりの笑顔を私の背後の壁に向ける。
私も背後を振り返って壁を見てみるが……何もない。真っ白なコンクリート質の壁だけが私の目の前に広がっていて……。
でも彼は壁に走り寄っていく。
壁にはふうまくんも、蛇子ちゃんもいない。でも彼は——
なんだこれは?
何かがおかしい。
いや、最初からずっと全部おかしかった。
目が覚めた時から現在に至るまで。
対魔忍だらけで警備が厳重なはずの五車学園に居たはずなのに。
この空間は五車学園の地下治療施設っぽいけどそこじゃないし。
目が覚めたらテロリストに捕まっているし。
何も言わないテロリストも変だったし。
部屋の構造の作りは普通じゃないし。
鹿之助くんは対魔忍だったし。
他の友達も対魔忍だったし。
先生や先輩だって——。
まるで何か悪い悪夢でも見ているようだ。これは夢なのか? でも痛みだって感じた。夢ならエラーという音声を聞いて私は目が覚めたはずなのだ。だから夢からは覚めている。
でもわからないこともある。結局あのエラー音声はなんだったのだろうか。あの音は何処から聞こえてきていたのだろうか。夢だとするならば、頭の中から——
…00Error、500Error*1って……。
ぐにゃりと視界が酷いめまいみたいに歪んでいく。途端に足に力が入らなくなる。幽霊にでもなったように、足が宙に消えてしまったような。
それこそ鹿之助くんの電遁の術を浴びたみたいに細胞膜が破けてしまったような。
ドンッ
「。」
「うわぁっ!!ひ、ひまりっ!?だ、大丈夫か!?」
囚われていた時の椅子に座ろうとするも、間に合わずにその場に尻もちをついてしまう。
壁と会話をしていた鹿之助くんが、こっちに気づいて駆け寄って来てくれる。
先ほどまでと構図が対比になる。私が鹿之助くんを慰めたように、鹿之助くんが今度は私の心配をしてくれる。差し伸べられた手を握る。彼が、彼だけが私の存在を証明しているようで——
「……すみません。立ち眩みが……貧血、ですかね?」
「しっかりしろよ。その椅子に座れそうか?」
「はい、なん……やっぱりダメかもしれません。」
左手で彼の手を握りながら椅子へ座らせてもらう。
彼は私の手を握ったまま再び白い壁に向かって話しかけている。でも私には、そこにいるらしいふうま君と蛇子ちゃんの姿は一切見えないし、声も聞こえてこない。
気が遠くなってしまったみたいに、こんな近くに鹿之助くんがいるのに彼の声までも耳の中に水が入っているみたいに全部くぐもって聞こえる。
だが会話の内容は支離滅裂なものではなく、明らかに受け答え者がいる筋の通った理路整然なものだ。
では、なぜ?
なぜ、私だけが認識できていない?
不可思議な現象に呼吸が早くなる。
ふと視界端に、私が首の骨を折ったテロリストの顔が見える。逃げ出した時には気づかなかったが、揉み合った時か装備を物色した際に覆面が半分脱げたのだと思う。
「——。」
私は……わたしは息が止まりそうになった。
覆面の下、注視したテロリストの顔には見覚えがある。
別に誰か私の知り合いに似ているとかの話ではない。
ただ、ただあの顔は……私が鹿之助くんと合流する前に、覆面を奪った別のテロリストの顔つきとまるっきり一致している。双子みたいに。
しかも……そこはかとなく、私と似ているような……?
瞬間。
バラバラだった不可思議な点や状況証拠が頭の中で勝手に線と線になって結びついていく。
鹿之助くんには話していない頭の中で渦巻いていた仮定の話が確定へと変貌していく。
その線を全て結びつける最後の仮定は、もしこの空間が現実じゃなくて五車学園の期末試験で使用したシミュレーションルームだとするならば?
鹿之助くんが私の顔を見ても攻撃してきたのは、わたしが現れたことはシミュレーションのシチュエーションとしてありえない状況だったからでは?
私の中で何かが弾ける。
まるでガラスに鉄球でも投げつけたような大きな破損音と共に、私の中で何かが。なにかがバラバラに砕け散っていく。
悪夢から目覚めるどころか、悪夢の中に引き込まれて沈んで往く。
こんなことはあり得ない。あり得ないけど、あり得ないことが今、私の目の前で現実として起きている。
そうか。
私は。
わたしは……
わたしは、あおぞらひまり、なんかじゃなかった。
じゃなかったんだ。
彼にどうして強いのか尋ねられたとき、武術が身に染みているからとしか、思わなかった。
全部が線でつなぎあわされて、いまになれば、わかる。
わたしには、どうして武術が身についているのか。わたしには武術の習得について特筆できる思い出と記憶が“何も”ない。きっと何か、そういう存在に技術だけを植え付けられた、そういう存在なんだ。
ではこれまでの情報を精査しなおして、わたしは、わたしはいったい何者なのか。
「しかのすけくん……。」
「うわっ!イテッ!イテテテッ!」
わたしがわたしでなくなってしまう気がして、自然と彼の手を握る力が強まる。
彼の小さな手だけが、そのまますり抜けて行ってしまそうな私を現世に繋ぎとめているようで、どこかに消えてしまいそうになっている私の意識はそこだけはっきりしている。
こんな時、“青空日葵”ならどうする?
彼女ならどう考える?
……わからない。
わからない、けど……。
違う。
この行動は、絶対に違う。
彼女なら傷付けたり、鹿之助くんを怯えさせたりしない。彼女なら鹿之助くんを最優先に考えるはずだ。彼女がわたしなら、私の命なんかよりも、大好きな鹿之助くんを最優先に考えるはずなのだ。だからこの振る舞いは相応しくない。
こんなの、青空日葵じゃない。
まがいものだ。
鹿之助くんを握りしめていた左手を放す。
指先がバグを引き起こした機械みたいに強張って動く。
考えれば考えるほどに、私の行く手を遮ったテロリストの機械的な行動と。
鹿之助くんと合流する前。
世界が色づく前、邪魔な障害物を淡々と除去してきた
左手で顔面を押さえる。
泣きたいのに涙が出ない。
そもそも青空日葵は泣かない。
だが、わたしは泣きそうだ。
だけど涙は出てこない。
まるで人間じゃないみたいだ。
でも作り物なら当然かもしれない。
「イッテー……おいおい、どうしちゃったんだよ?」
「——はは、どうしちゃったんでしょうね。本当に。」
「?」
「わたしとしたことが、疲れて色々と見落としてしまったようです。すみません。ふうまくんも蛇子ちゃんも。せっかく迎えに来てくださったのに。……ごめんなさい、鹿之助くん。」
「……ヒマリ?」
何もない白い壁に向かって、居るらしいふうまくんと蛇子ちゃんにも話しかける。
右手で握りこぶしを固く握る。握った拳が震える。
本当は左手を離したくない。
鹿之助くんにはずっと
でもそんな我儘を通すのは間違っているし、そんな発想になるからこそわたしは偽物なんだ。仮に。仮の話で、わたしがここで鹿之助くんを離さなかったとしたら?
……その時は本物が現れるだろう。偽物を殺しに来る。鹿之助くんを絶対にどんな犠牲を払ってでも取り返しにくる。わたしがもし本物ならば、そうする。
わたしの大元が本物ベースならば彼女は——一般人なのに複数人のテロリストを単騎殲滅してしまったことになる。それがある種の証拠だし、本物はきっともっと強いことになる。
それこそ私が知らない一面を持って、想像を絶するぐらいに。
ははは…………。
わたしは一般人のはずなのに。
一般人が殲滅戦ができるなんて、もっともあり得ない。人生でたった1回しか持ったことのない実銃*2を素人が急所に当て続けるなんて芸当ができるわけがない。
なんで気づかなかったんだろ?
まさに機械のような芸当。
「…………。」
機械、だとしても。
まがいもの、だとしても最後ぐらいは青空日葵らしく——
彼女が言いそうな文字列を————
「えっと重大なミスをやらかしてしまって……。」
「……重大なミス?」
両目を瞑って後頭部を搔く。
本物は真に困ったとき、こうする。
でも。やはり……
まるで隠すみたいに。
「実は……他の部屋に落とし物をしてしまいました。わたし達がここに居たという物的証拠があると後々面倒なことに巻き込まれかねません。不要な要素は取り除かなくては。ひとまず後方支援の鹿之助くんは、ふうま君と蛇子ちゃんと一緒に行ってください。私は————前衛のわたしが後始末をつけます。また後で会いましょう。」
鹿之助くんは、多分このことにも、わたしが青空日葵ではないってことにも。ずっと前から気づいていたのかもしれない。ずっと気付いていたうえで、そばで話を、帳尻を合わせてくれていたに違いない。彼は頭がいいのだ。
思い返すと所どころボロが出ちゃってたけど。
でも、もしそうなら……。
……少しだけ本物が、彼に恋焦がれる気持ちも理解できた気がする。
単純に一般人の感性で、小柄な小動物みたいな容姿や仕草だけで好きになったんじゃない。
わたしに植え付けられた容姿好み感性も、与えられた情報も間違っている。
鹿之助くんはうっかり不用意なデリカシーに欠けた発言とかしちゃうこともあるけど、そういう優しいところとか惹かれる性格的な魅力があって、きっと彼女は鹿之助くんのそんな一面に、心の奥底から惚れ込んでいるんだ。
いいなぁ。
いいなぁ、本物は。
きっともっとわたしの知らない、わたしも好きになっちゃった鹿之助くんの素敵な性格や一面を知っているんだろうなぁ。
プログラム修理の施された扉を開いて、鹿之助くんから離れながら本物を妬む。
泣きたい。でも涙は出ない。出るわけがない。
わたしは……。
でも鹿之助くんの武器考案については、本物より先に提案できたし、このあとわたしは異常存在として消えてしまったとしても、彼の武器としてずっと傍らにいられるんだ。一般人の本物には成し遂げられない成果を残せたはずなんだ。
自分を鼓舞して、本物にしてやったりと内心で自慢する。
「ひまり!」
部屋から出て行こうとするわたしに、背後から鹿之助くんの声が掛かる。
振り返ったら、わたしが溢れでてしまいそうだけど……最後まで青空日葵であるべきだ。
それがわたしが作られた意義だから。覚悟を決めて振り返る。
「あの……」
「んもう、なんですか鹿之助くん。」
「えっと、ありがとな。ここまで連れてきてくれて」
「っ……。」
あーあ、そういうところ。
そういうところですよ。鹿之助くん。
ちょっと照れながら。目を逸らしながら。でも。
でも対魔忍なのに
しかも"今回も"とか付けないところを見ると、ちゃんとわたしの
「気にしないでいいですよ。わたしも鹿之助くんを最後までエスコート出来て大満足ですし」
「それじゃあ、また……」
「うん。また明日。また学校でね」
きっと明日は期末テスト結果の返却日だから。
無理やりにでも笑顔を作って、その笑顔のまま彼に手を振る。
後始末はわたしにまかせろと。大船、軍艦にでも乗った気持ちでいてほしいと。
——きっと、もう会えないけど。
彼女がわたしなら、偽物の立場だとしても嘘をついてでも。
彼に最後まで不安にさせまいと最大限に努力するはずだから。
自己犠牲も厭わずに最後まで貫き徹すはずだから。
鹿之助くんが
「…………さようなら、大好きな鹿之助くん。」
〜あとがき〜
実は時系列的には、夏休みの最中(24章の後)。時系列的には25章になります。
ヘリに強制搭乗させられてオリ主が東京キングダムから帰ってきた後ぐらいの話ですかね。
広げていた風呂敷の一つを畳みました。
~よだん~
この青空日葵は五車学園のみの情報で構築されています。
ですので、
・前世時代の2020年代の情報を喋らないし、考えもしない。
・2020年代における旧時代の死語を使わない。
・古い映画やネットミームなどを具体例に出して例え話をしない。
・日本国を護る対魔忍組織対して肯定的。
・1章の襲撃があったオリ主は知らないビルの正式名称を知っている。
・スネークレディこと、高位魔族の蛇子ちゃんの存在を知らない。
・鹿之助くんの電遁の術に対して、魔族が化けていると決めつけて即反撃しない。
・自分のことを青空日葵だと認識して、釘貫の名は出さない。
・
・技能ロール〈目星〉や〈アイデア〉を行なわない。
・非現実的な出来事に否定的(あり得ない等)を前提に考える。
・探索者について言及をしない。
・特殊タグを頻繁に使用しない。(他Insideと同一化)
などなど小ネタを踏まえての制約の元描いていました。
他にも今後に繋げようと思う要素を詰め込んだのでいつか回収します。