対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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~3K~
 クソ報告書、カス形式、過大要求の3セット
 パワハラ・セクハラ・モラハラは添えるだけ。



Episode187 『3K報告書』

 駒水ちゃんを隣に座らせて報告書のざっくりテンプレートを見せてもらおうとする。

 ショルダーバッグの中からメモ帳と筆記用具、そしてA4用紙の——えっ?

 

 紙束じゃん。

 

 うわっ、めっちゃ書かなきゃいけなくない?

 コミケで売られている平均的な薄い同人誌のページ数ぐらいあるじゃん?

 コピー本、2冊分あるじゃん?

 

「ご教授よろしくお願いいたします!」

「あ、あぁうん、よろしくね……えっと何を書かなきゃいけないか、見ても良い?」

「はい!」

「……。!!!!?」

 

 ッッッはぁー?!!!!?

 

 内容を見た瞬間にジト目が見開き、側頭部を思わずガリガリと掻いてしまう。

 やっぱ、主な内容は成果報告書でしたとさ!

 インシデント・レポート*1もあるし!

 

 なにこれ? ねぇ、ナニコレ?

 状況報告も書面で、これを全部手書きで残さなきゃいけねえの!?

 

 こッッッんなに分厚いのに!?

 

 毎回作るのに!?

 

 馬鹿じゃねぇの!?

 

 これ公式書類だぞ!?

 

 週一の読書感想文じゃねえんだぞ?!!

 

 あっ。

 だから五車学園ではレポート提出の課題とか他の学校に比べて多いのかぁ(前世比)。納得。

 学園から対魔忍組織に優秀な人員をあっせんした時に、レポート類書類を書くという教育をあらかじめ施しておくことで難易度を下げておく。実に理に適っている。

 

 でもこの量を筆記とか、頭対魔忍の片鱗が見え隠れしてんぞ!!!作成者が汚ねぇ文字だったらどうするんだよ!!?

 あのさぁ、時代は昭和じゃねえんだけど?

 

「ウムムムムム……」

「あ、青空ちゃん……?」

 

 ワープロ*2

 なぁこれ全部ワープロでやっちゃだめか!?

 ワープロや最近のソフトで言えばExcel、PDFで作っちゃダメなのか?!

 ぜってー、そっちの方が書式も作れるし楽だって! 社会人になったらどうせソフト使うんだから。

 ええ、ワープロで作る。絶対にワープロで作成する。

 はいー、ブルーカット率95%のメガネも使っちゃうー。銀色の下縁楕円形メガネー。

 

「ねえ、駒ちゃん。これワープロで作らせて」

 

 本件に関して駒ちゃんは何も悪くないので、声を穏やかに内心のブチギレモードはひた隠しにして代案を提案する。

 

「わ、わーぷ……ろ?」

「ああ、ワープロ。ワードプロセッサーですよ。……ご存じない?」

「……ごめんなさい。知りません……」

「あー? ……そっか。そうかも」

「……?」

「ごめん。私が旧い言葉を使ってたかもしれない。ワープロというのは文字を打つための専門機械のこと。つまり今は……パソコンの文字打ちソフトって言った方が伝わるかな? どうかな?」

「……! それなら……」

「よし、じゃあ、これワープロでちゃちゃちゃっと作っちゃうから」

「あ、あっ、で、でも。パ、パソコンは情報媒体を盗まれるかもしれないから、夏休み期間中はダメって……言われて、て」

「」

「……が、学生は、その……まずは手書きでの提出が基本で……」

 

 ……正気か? 対魔忍組織??

 それは、テメエのところのコンプライアンス研修の実施と就労者平均年齢の上昇、サイバーセキュリティ研修の実施をすればの話じゃねえかよ?!

 そもそも予算でそういう業務用ノートパソコン配布とかねえの? 2010年代の自衛隊みたいに予算削減でカツカツなの?

 デジタル庁の担当大臣の癖にUSBを知らねえみたいな事情はなんなんだよぉッ!

 カーッ! こんな調子なら、さぞかし報告書を収納している資料室は広々としたお部屋なんでしょうねぇッ!!! そんな紙の媒体も燃やされたり、内通者が居たらパァなんですけどねェッ!

 あー見える見える。対魔忍が敗戦するときは重要な書類は中庭に引っ張り出して、中央で全部燃やして情報隠滅に走る対魔忍組織が見える。

 

「でも、どうせ手書きで書いたところで、赤ペン添削が入って修正されるんだろうから、下書きだけでもパソコンで作った方が早いよ。で、添削されたものを手書きで書き写したほうが1000倍楽だよコレ」

「そ、そうですかね……?」

「そうだよ(迫真)」

「……だ、だけど……」

「よーし分かった!」

 

 対魔忍上層部の言うことを聞き入れる真面目な駒ちゃんの心配を解消するために、物置から〈機械修理〉と〈電気修理〉で組み立てた自作の文書作成編集機に接続したディスプレイ、印刷機、パソコンを取り出して平行作業でセッティングを始める。文書作成編集機ならネット回線に一度も繋げられないし、ネット機能を入れてない自作したパソコンを中継にするなら文句ねえだろ! 対魔忍上層部!

 対魔忍世界でありがちな感度3000倍に対抗して、私の新卒時代最新鋭だったWindow2000で殴ってやろうかなとは思う。でも駒ちゃんがデータで作成して提出先の印刷機がWindow2000に対応していなかった時が致命的なので最新のOSは使用する。

 

 ぴろぴろぴろぴろり↑、どぅんーぅぅーん!↓(Window2000起動音)

 

「さて、既に下書きを始める前から大波乱なのですが……」

「は、はい」

「具体的に何を書きましょう?」

「あ、えっと。実は書く内容も青空ちゃんに手伝ってもらいたくて……」

「ほうほう、つまり一般人ですが本格的に私が介入していいという事ですね?」

「だいじょうぶです」

 

 座布団ではなくゲーミングチェアの方の机に座り直して、株価を眺めるときのような仕事モードに入る。

 駒水ちゃんも、手招きでちゃぶ台から呼び寄せて傍で椅子に座らせて画面を眺めてもらう。

 

「書いて欲しい内容なのですが……」

「はいはい?」

「実は……その……

 

 またもや口ごもる。

 まあ、東京キングダムでは色々あった。リカちゃん人形のような透明なパッケージケースに閉じ込められていた時の内容は公式記録として残したくないことは分かる。

 てか、それを16歳に対してその記録を公式記録に乗せろというのはセカンドレイプといっても差し支えないんじゃないんですかね? 味方から背中を撃つって大問題では?

 対魔忍組織サマがよぉ。ボケカス。

 

「大丈夫ですよ。駒ちゃんが辱しめられたことは書かなくたっていいんです。むしろ、公式書類だからそんなもの残した日には一生デジタルタトゥーとして人生に刻まれるハメになりますし。書かない方針で行きましょう」

「……ですが、最初に教えてくれた先輩は……全部書けって……

 

 はーい。絶対に駒ちゃんを対魔忍から辞めさせるぅー。今日が最後の任務でーす。転校先から両親ともども五車学園に帰って来てもらいまーす。

 そしてそんなこと吹き込みやがった先輩を連れて来てもらって、邪神がはびこる宇宙の彼方に消し飛ばす。殺そうぜ。殺してもいいよ。日本国の〈法律〉の不能犯を使おうぜ。私がソイツを殺す。私の味方じゃないから殺していい判定。得意分野。そういうの超得意分野。お星様にしちゃおう。

 半世紀未来の日本国じゃどうなっているかわからないけど、私の時代では年間失踪者は約8万5000人居たし1人ぐらい失踪したところで誤差だよ。誤差。

 

「わかりました。では辱しめは修正を求められたら書くことにしましょう。もし求められたら、“()()()”私に相談してほしいのと、クソ野郎(いったヤツ)を私の前まで連れて来てもらえます?」

 

 笑顔は保つが正直、青筋がピキってる。

 

「はい。あと……実は……。……」

「…………言いたくないこととか、別に言わなくてもいいんですよ」

「いえ……えっと、もっと変かと思われるかもなんですけど……」

 

 平行作業で駒ちゃんが自宅に報告書を持ち帰った時用に1人でも報告書を作成できる参考資料を作っていると、背後で小さな深呼吸が聞こえる。

 ……PTSD発症しちゃってない? 思っているより、精神面が深刻じゃない?

 もしかしたら——もしかしなくても半分——

 もしくは1/3ぐらいは私が原因かもだけど。

 

実は、私——途中から記憶があいまいで……そのあいまいな部分を青空ちゃんに書いて欲しくって……」

 

 彼女の言葉に耳を傾けながら両目を閉じる。

 完全に心的外傷後ストレス障害が起きてしまっている。記憶があいまい……となると、記憶障害、健忘症の症状だろうか。

 この報告書を書けと突きつけた対魔忍上層部のことだ。記憶が新しいうちに情報となるものを書かせることが目的なのかもしれないが…………こんな状態で無理矢理記憶を思い出させて、報告書を書かせるとかイカレてる。

 人材は消耗品じゃないんだが? ノリが平成初期。もしくは就職・氷河期世代。バブルの世代がのさばっていた時代か?

 

「記憶にある最悪が始まったのは、その、東京キングダムでオーク達に捕まって……色々されて、みんなとバラバラになって、オークションにかけられて……」

「…………」

「檻の中に閉じ込められて、どこかに連れ出されたところまでは覚えているんですけど——誰に飼われたとか、その先の事はまったく何も思い出せなくて……」

「…………」

「気づいたときには——ゴミ箱の中に捨てられてて、あ、でも人間らしい服は着させてもらってて、青空ちゃんが薄緑色の髪で裸だった蛇目の女魔族の人と一緒に冗談を言い合いながら、私を引っ張り出してくれたところからしか記憶に残ってなくて——」

「…………」

「あとは青空ちゃんも知っているでしょうけど、港湾地区で青空ちゃんを『大将』って慕っている泣いてばかりのオーク……さんと、『伝令』って呼ばれていた魔族さんと初めて出会って、港湾地区で青空ちゃんが泳いで本土まで行こうって冗談みたいに言ったり……」

「…………」

「平たい船とショベルカーで船を作ったりしていたこととか、日ノ出さんが港の先でピョンピョン跳ねてたりとか、青空ちゃんが一般人だってことが判明したりとか、3人で温泉に入ったり東京で遊んだこととかも覚えているんですけど……」

「…………」

 

 駒ちゃんが記憶で思い出せるオークと伝令との出会いはあの時点では2度目だし、薄緑色の髪の蛇目の女魔族というのはきっと高位魔族な方の蛇子ちゃんのことに違いない。

 ……蛇子ちゃんとの敵対状態を思い出せていないのは変だ。

 

——健忘症。

 

 ほぼ間違いなく狂気状態で健忘症にかかっている。

 あるいはエドウィン・ブラックから【忘却の暗示】を掛けられているだとか。高位魔族だし、そういうことは出来てもおかしくはない話だ。

 前世でも《記憶を曇らせる》魔術があるぐらいだし。

 

「駒ちゃん?」

「はい?」

 

 ゲーミングチェアを反転させて、駒水ちゃんの方に向き直る。

 彼女は顔をしかめて必死に思い出そうとしている。

 片手で椅子の座面を握りしめている。

 思い出さない方が絶対に幸せでいられるような忌まわしい記憶のはずなのに。

 報告書を書かねばならないという責務に囚われて。

 

 ……無理をしている。

 

「まったく」

「え……わっぷ!」

 

 椅子を握りしめている駒ちゃんの手を引き寄せて、まな板のような胸で彼女の頭や身体を抱きしめる。

 

「この際。先輩や上司に言われたことは、ぜーんぶ忘れてください」

「…………」

「言ったでしょう? 報告書には書かなくていいことだってあるんですよ。駒ちゃんはまだ16歳(こども)なんですから、無理に嫌な記憶を思い出さなくたっていいんです」

「………………」

 

 彼女のおろした髪を梳かすようにゆっくりと撫でる。

 彼女も何も言わず手を振り払うことも、怖がったり嫌がったりする様子は見せず、胸の鉄板に顔をうずめたままだ。

 

 ——本当に記憶が無くなっているのだろう。

 

 身体に震えはなく強張りもない。それどころか抱きしめている間、リラックスしているかのような筋肉組織の緩和もみられる。

 当時には〈変装〉の一環で、オークの生皮を剥いで被っていた私への嫌悪感を抱いていた彼女の反応からは考えられない反応だ。

 

 …………東京キングダムで私が彼女に対して振る舞った行為や見せつけてしまった蛮行からすれば、私も彼女を狂気に陥った一端の可能性はある。

 

 この記憶を紛らわせる行為など本来は駒ちゃん自身から突き放されてもおかしくないような行為。はたから見れば私が対魔忍から逃れるための、利己主義に突き抜けた邪悪の塊のような振る舞いであることも十分に理解している。

 

 されどこれは彼女が都合よく記憶を忘れたことに対してほくそ笑んでいるわけでもなければ、自分の都合で思い出してほしくないわけでもない。

 

 すくなくとも今は——

 

 今の気持ちでは——

 前世の私の人生の半分すら歩んだこともない16歳という幼い身が——

 様々な残酷な現実のできごとなんか、無理に思い出す必要なんかないと私は判断した。

 

 ——あの場での記憶のない彼女の心が安らぐように、嫌な記憶を想起させて更に彼女が傷つかないように。

 忘れているのならそのまま彼女の意識が別の所に向かうように気を紛らわせる。

 

 彼女はまだ子供なのだ。

 こんな田舎町(ニュータウン)という閉鎖空間で世間を知らず、対魔忍として献上と洗脳を施され、実地で魔族に利用されても仕方のないこと。

 

 こんなつらい思いをするのは大人だけでいい。

 子供が日本の未来の命運を強制的に背負わされなくたっていいんだよ。

 

 汚れ仕事も。

 過酷な任務も。

 魔族との対峙も。

 本来は大人の役割なんだから。

 

「——あとは私が上手いこと書いておきますから」

 

 抱擁は短めにして彼女を元の席に座らせる。

 表情をつぶさに確認して〈心理学〉的な反応を診る。……怯えたりしていない。ぼんやりとした、でも不思議そうな顔をしている。

 

「あ。私が執筆したことは内緒ですよ」

「は、はい……」

 

 人差し指を口元に当てて秘密のポーズと右目でウィンクをする。

 駒ちゃんに事情聴取をする形で書類をテキパキと作る。ときどき画面も見てもらう。辱めについては、こっちから鬼添削して打ち込む。時には手元に残してある東京キングダムの地図をすり合わせる。どこで捕まったのか、座標なども書き込んでそれっぽい対魔忍用の書類を作成する。

 駒ちゃんが思い出せない範囲の私による蛮行もテキトーにぼかして描く。コンプライアンスガバガバでセカンドレイプ上等の最低な対魔忍なんかに目をつけられたくないからな!

 

………

……

 

「お、おじゃましました」

「報告書が通ったら、次の任務が課せられる前に対魔忍関連の事について大事な話をしたいからまた教えに来てね」

「……はい!」

 

 夕方。

 いつのまにかに大人同士の話し合いは終わっていたようで、日が落ちる手前まで私の部屋で報告書の作成に同伴していた駒ちゃんを玄関まで見送る。

 手にはワープロで作成した報告書と、暗号化済の報告書入りUSBメモリ、彼女が自宅に戻った際に資料を参照しながら修正できるような簡易版の教科書も持たせた。

 

 いくらなんでも国で16歳から就労が認められているからと言って、あんまりすぎる。

 本人の意向も聞いて、迷いがあるなら辞めさせてやる。

 

 ただ……対魔忍側から洗脳されている兆候もあるから、うまく解かないと……。

 いつ頃から洗脳してたんだろうな?

 ——子供のころから?

 

 まさか、な。

 

 カルト的クソ(ドブ)ラック組織が。

 

 

*1
事故報告書

*2
死語:『和名:文書作成編集機』、Micr0s0ft wordの前身装置。見た目がタイプライターに似ている。




~あとがき~
 総合評価5000達成できました!
 5000に至るまで応援してくださった方々、今も読み続けて下さっている方々に感謝です。
 ありがとうございます!

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