対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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~まえがき~
 今日は事前約束通り陽葵ちゃんと2人きり、おでかけデートの日です。



Episode189 『買物予定』

 

 半ば眉間に皺を寄せてガードレールに腰をかけ、待ち人来訪まで待機する。

 五車駅前を通過していく通行人がそそくさと目の前を過ぎていくが、別にいらだっているわけでは無い。

 

 今日という今日は我慢ならないだけだ。

 

 もうまえさき市で高位魔族の蛇子ちゃんと遭遇するリスクを犯したとしても、今日はまえさき市に遊びに出かけて服屋に立ち寄る。

 そんなにノーマルな服を着るのが難しいって言うならば私が80年前の旧版(いにしえ)コーディネートで私と遊びに出かけるようの私服を選んでやる。

 そんな決意を胸に灯して。

 

「日葵ちゃーん!」

 

 今日も今日とて私へ好意全開のオレンジ娘が地平線の彼方から、笑顔全開で大手を振って全力疾走で近づいてくる。

 さて『まえさき市に出かけるから今日は痴女服(いつもの)じゃなく普通着で来い』と伝えたが……。

 

「おまたせ! 待った!?」

「いいえ。私もつい先ほど到着したところです。陽葵ちゃん、それでその服は?」

 

 白色のブラウスに、丈の短い深青色のミニスカート、くすんだ青色のネクタイ——

 

「制服だよ!」

 

 ですよね。だよね。知ってる。

 夏休みじゃなければ、五車学園で毎日みたことがある服だなぁ……と思ったんだよね。

 視線がお太い太腿まで降りていき、小さな溜息を1つ吐く。

 

「……その反応だと……今日の遊ぶ約束、ダメ……かな?」

 

 私の反応で色々察したのか、チワワのように目をウルウルとさせて顔を近づけてくる。少し声に張りもなくなって元気がない。

 んー……。いつもの痴女服に比べたら、比べたら……マシ、マシ(当社比)だけど……。普段、どれだけあの痴女服で五車町をほっつき歩いているのか、知りたくなるほどの日焼け痕が生脚に……。

 

「…………他の服は……?」

「日葵ちゃんに見せたことのあるやつだと、これが無難かなぁって……」

 

 苦笑いを浮かべながら右手の人差し指でぽりぽり頬を掻いている。

 

「……前に買った古着は?」

「あ、あれは……間違って洗濯物に出しちゃって今はなくて……」

「……」

「そうだ! まえさき市がダメなら五車町の観光案内とかに予定変更~! とかは——」

「…………」

「とかもダメなのかな……」

 

 私の表情にシナシナシナ……とまるで、日々枯れていく植物のように声にハリと元気がなくなっていく。

 ま、五車学園の制服ぐらいならいいか。いつもの痴女服に比べたら許容範囲内。

 わたしも意地悪するのはやめよう。

 

「ダメではないですよ」

「……! じゃぁ!?」

「ええ。まえさき市に行きましょうか」

「わぁ!やったぁ!」

 

 まるで尻尾をブンブン振り回す犬のように、目をキラキラさせながら私の周りを左右にウロウロする。

 うーん……。でも許容範囲内とはいえ、その服装は……まえさき市が限度かな……。

 こんな服装で魔都 東京の原宿なんかに服を買いに行ったら速攻悪人どもの餌食になりかねない。ただでさえ古着を買いに行ったときですら、私が目を離した隙に『裏路地で友人が倒れたから助けてほしい』と近づいてきた浮浪者*1に対してホイホイついて行って駒ちゃんもろともサヨナラしそうになってたのに。

 

 あの時は東京湾の悪臭を漂わせていたからジロジロみられるか、盗撮されるか、イロモノに目をつけられたぐらいで済んだけど……。

 次は臭くないその恰好でフラフラされたら、確実に行方不明者の仲間入りする未来しか見えないの。

 

………

……

 

 3時間かけて都心部であるまえさき市に、陽葵ちゃんと降り立つ。

 中央まえさき駅は最近、改装工事に入ったのか電車の乗り降り口を鉄板で囲って、工事音が響くようになっている。

 

「かなりうるさいね」

「そうですね。ひとまずここから少し離れた場所にあるアウトレットモールのほうに行きましょうか」

「あれ? すぐそこの歩道橋を渡ったところにもショッピングモールがあるけど……」

 

 陽葵ちゃんが私の両耳を軽く押さえながら、耳元で話しかけてくる。

 そして視線を使って、横隔膜をブチ抜かれたり、人間風情に泣かされた蛇子ちゃんのお店やら、フードコートやらがある立派なショッピングモールを示す。

 あちらにはいかない。あちらには蛇子ちゃんとの遭遇の可能性が極めて高すぎるからだ。

 

「あのショッピングモールはロクな存在しかいないので却下です。ほら、行きますよ」

 

 気が付いたら迷子になってしまいそうな、陽葵ちゃんの手を掴んで徒歩で先にあるアウトレットモールへと歩みを進める。

 

 

 私に手を繋がれると、陽葵ちゃんもしっかりと手を握り返してついてきてくれる。

 

「ところで日葵ちゃん、ショッピングモールとアウトレットモールって何が違うの?」

「ショッピングモールは文字通り様々な店舗が集った買い物施設で、アウトレットモールというのはショッピングモールと構造はほぼ変わりないですが、定価品を割引価格で買えたりお得なお店群のことを指します」

「へえー!」

「今回、私が陽葵ちゃんをコーディネートしたい服は、最新の流行りものより前時代的な服装になるのでアウトレットモールの方がいいんですよ」

「この前、一緒に行った古着屋さんとは何が違うの?」

「古着屋は完全な中古品。もしくは割合が少ないですが新中古品を取り扱っています。一方でアウトレットはほぼ新品、もしくは新中古品という商品展開の違いがありますね」

 

 歩道を歩きながら陽葵ちゃんの素朴な疑問に回答していく。

 アウトレットモールの事を『定価品を割引価格で買える』と聞こえが良い言い方をしているが、割引されているのにはちゃんとそれなりに理由もあって販売されているのが店頭で掲示されているのサンプル品や運送や返品などでキズ物になって返ってきたものがそのまま売られているという秘密がある。

 ただそれは陽葵ちゃんには伝えない。

 私だって『お金がないので安売り年間セールフェスティバルモールに行きます』なんて口が裂けても言えない。

 

「陽葵ちゃん、私も聞きたいことがあるのですが……」

「なになに!? 私のスリーサイズとか!? 日葵ちゃんだったら特別に教えてあげるよ!」

 

 握っている手を力強く掴んで、目を大きく見開きながら先行している私の顔を覗き込んでくる。

 街中の大声でそういうことは言わない方がいいかな……? 周囲の何人かに見られ始めちゃったよ……?

 あとスリーサイズならスーツ屋とかに立ち寄った際で知れるから、別にいま教えて貰わなくてもいいかな。

 就活時期になったら、一緒に面接用のビジネススーツを仕立てに行こうね。

 

「違います。陽葵ちゃんが私と遊ぶときに来ている痴女服(いつものふく)のことです」

 

 陽葵ちゃんの大腿部に残った日焼け痕を指さしながら視線誘導する。

 

対魔忍スーツ(いつものふく)のこと?! 何が知りたいの!?」

「近い近い近い。近いです陽葵ちゃん。……あの服、もしかして五車に居るときは常に着てたりします?」

「うん!今は夏場だし、動きやすいから毎日着てるかな! あとは日葵ちゃんも受けたシミュレーションルームとかで運動するときとかもあの装備(ふくそう)だよ!」

 

 あー、うん。そりゃそんな日焼けもするよね……。

 一瞬で納得してしまった。スカート焼けもしてないはずだわ……。

 

「そっか。……日焼け止めクリームとか塗らないの?」

「塗らないよ! 日焼けは気にしても仕方ないことだし私、日焼けは好きだから!」

 

 彼女に日焼けについて注意するか悩む。

 世間一般的に流布されている情報として日焼けという単語は、肌を黒っぽく焦がす一種のファッションだと思われがちだが、正確には異なる。あれは〈医学〉の観点からみれば、れっきとした一種の火傷の症状なのだ。だから喩えは悪いが、日焼け行為はリストカットをファッションの一環として行っているようなもの。

 若い頃は肌のターンオーバーによる細胞の生まれ変わりが早いから、日焼けをしたところで大した傷にはなりにくいけど……。20代、30代と大人になっても日焼けを繰り返していると、その部分が色素沈着で黒ずんでシミができる原因の一因ともなり得る。

 だからこそ若い頃からの日焼け止めクリームなどの対策を練って肌を守るのだが……。

 

「日葵ちゃん? 難しい顔をして考え事?」

「……ちょっと失礼しますよ」

「えっ! ひゃぁっ!」

 

 甲高い悲鳴があがってまた通行人の視線を集中的に浴びる羽目になってしまうが、私はただ淡々と彼女と握り合っている手を持ち上げて腕の皮膚観察をしているだけだ。

 こんな道中では太腿の日焼けは確認できないが、腕の次は彼女の顔に片手を添えながらつぶさに見つめて皮膚状態を把握する。

 

「日葵ちゃん、大胆だよっ そんな普段嫌がるのに急に来られてもっ 私だって心の準備が欲しいよ……っ

 

 肌を眺めていただけなのに顔を赤らめてを背けてしまった。

 へんな勘違いをしていないでほしいのだが……。

 ……でも結論から話そう。彼女の肌には高揚とは別に少し赤みがある。本人は日焼けを好んでいる様子だったが、日焼け自体の行為は彼女の肌に合っていない*2。このまま日焼けを続ければ将来はその綺麗な素肌に黒ずみシミが現れることだろう。

 

「陽葵ちゃん」

「なぁにっ

「あまり肌を焼き過ぎるのも、やめておいたほうがいいですよ。今日も日差しが強いですし丸焼きはやめて腕とか顔にこれを少し塗っておいたほうが良いです」

 

 好きなものを外野が非難する権利はないが、リュックサックのポケットから日焼け止めを取り出して彼女のもう一方の手のひらの上に渡す。

 

「」

 

 瞬きをするほどの速度で、表情がアニメで言うところのガーンッ!とでも言いたげな顔になっている。

 

「言っておきますけど、別に日焼けが嫌いなわけじゃないですからね。私も日焼けしてますし。でも何事も『ほどほどが一番』って言いたいだけです」

「ほどほど……」

「ほどほどです。……陽葵ちゃんは、私と違って顔も可愛いんですから。日焼けのし過ぎでシミとか作らないでほしいだけです」

「日葵ちゃんっ♥♥♥♥♥!!!」

 

 先を進み始めた私を背中から、唐突にあすなろ抱き*3にされる。

 私でも完璧な背後からの奇襲攻撃による〈組み付き〉になすすべもなく捕らわれる。

 

「ア゙アッ! 夏場なのに引っ付かないでください! 暑いんですよ!」

「日葵ちゃんだって、私の腕を引き寄せて腕を組んできたからお互い様だよ!」

 

 引き剥がそうと画策するも、やはり単純な力勝負では陽葵ちゃんには敵わない。

 でも五車町の時と違って、人目のつかないところに連れ込んで犯してこようとしないところだけはいつもと多少違っ——

 

「日葵ちゃん!ホテルが空室だって!!!ちょっと休憩してイこっ♥♥!」

 

 そんなことはなかった。

 犯行が大胆。

 

「このっ……お馬鹿! そんなことしてたら、アウトレットモールをまわる時間がなくなるでしょうが!! 五車まで片道3時間ですよ! 現在時刻は午前11時! 15時、遅くとも15時半にはまえさき市を出ないと五車町では外が真っ暗になるので却下です!」

「やだやだ!アウトレットモールも行くけど、日葵ちゃんとホテルにも入るの!ビュービュー日葵ちゃんの白いのたっぷりぶっかけて…真っ白にしちゃっても——してもらうんだもんっ!」

「そういう語弊を生むことを大通りで言わないのッ!」

 

 

*1
死語:ホームレス

*2
参考文献:あとがき情報参照

*3
死語:抱擁の一種。背後から抱き着くこと




~あとがき~
 SR/陽葵ちゃんのセリフを一部抜粋と
 日ノ出 陽葵ちゃんの肌の赤みについては、旭先生の書下ろしイラスト情報を参考にしました。
 何度、素肌状態のイラストを参考にしても普遍的な肌よりも素肌が火傷のような赤みがあるように見えるんですよね。作者の閲覧デバイスの問題なのかな?

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