対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode190 『のどかな昼食』

 

 あすなろ抱き状態で完全に拘束が決まっている状態では、陽葵ちゃんからは逃れられず。

 当然ながら彼女には力技でも勝てない。

 五車の稲毛屋道中*1で陽葵ちゃんの拘束を〈噛みつき〉で逃れていた以上、同じ手は効果がないと判断していた。既に爆弾発言と百合文化で公衆の面前での注目の的になっているのに甘噛みし始めて更に注目を浴びるのは避けたかった。

 ならば仕方がないだろう。運搬ができる手段など1つに限られる。私の筋力(STR)で陽葵ちゃんの肉体(SIZ)を持ち上げるのみ。最終的には前傾姿勢になって背負う形にてそのままアウトレットモールを目指したのだ。

 

 ゆえに最初こそズルズルと強制的にホテルに迫っていた私達だが、今は何とか元の道に戻りアウトレットモールまで到着することができた。

 

「……そろそろ、降りてもらえます? 炎天下の中、背中に密着する陽葵ちゃんをここまで運んできたせいで、汗ビタビタなんですけど……」

「それは困っちゃったね! ここはさっきのホテルに戻って汗を流し合いっこしよ! バスタブの中で水風呂とかきっと気持ちいいよ!」

「ここで普段着を買えなかったら“二度と”陽葵ちゃんと遊びに行かないことになりますけど、それでもいいならいいですよ」

 

 声のトーンを落として、要所を強調しながらいつもの〈威圧〉的手段に出る。

 

「……」

「……」

「…………よっと

「…………」

「わぁい! アウトレットモールはどこから行く!?」

 

 流石に彼女もまずいと思ったのか絶妙な間を置いてから、あすなろ抱きの抱擁を解除してウロウロと徘徊を始めてくれた。

 

「はぁ……。そうですね1時間ぐらい、一緒にぐるーり店を見て回りましょう。そのうち、その中で私や陽葵ちゃんが気になる普段着が見つかるかもしれません。あと、試着するのに汗まみれはまずいですから、このボディシートで汗を拭ってください」

 

 私の元に戻って来た犬彼女にリュックの中にあるボディシートを渡して身体を拭かせる。店を見て回っている間に、また汗は吹き出してくるだろうが見て回るだけだとしてもビタビタはまずい。

 しかもこれまでの道中の出来事で、私と陽葵ちゃんの汗が混じり合っているのも……なんか嫌。

 

「それじゃ、んっ♥♥

「ん?」

「んっ♥♥

 

 キスをしてほしいと言わんばかりに右の手の甲が私に対して突き出される。

 尊敬と敬愛のキスを求めているのであれば、もう少しお淑やかにしてほしいのだが。

 

「……ん。とは?」

「迷子にならないように手をつなご!」

 

 危なかった。

 キスじゃなかった。

 危うく墓穴を掘るところだった。

 

「はいはい」

「何に驚いてたの?」

「なんでもないですよ」

「ウソだー。目がまんまるになってたもん!」

 

 彼女から差し出された右手をすくい上げるように左手で握る。

 これまでの道中と同じように陽葵ちゃんがまた1人でどこかに行ってしまわないよう、誘拐犯に騙されてしまわないよう手を繋いでアウトレットモールを回る。

 

 平日とはいえ夏休み期間のため、アウトレットモールは家族連れが辺りにそこそこ見受けられる。

 この世界の表側で出会う家族は、どの家族も幸せそうに見えた。もしかすると前世みたいに各家庭が他人には分からないそれぞれの地獄を抱えているのかもしれないが……。父親がいて、母親がいて、子供が揃って笑顔で買い物を楽しんでいる。

 対魔忍世界では魔族が人類に干渉している世界線だが、80年前、私が見聞きしていた夢のような空間がそこにはあった。探索者として生きる私が辿るには修羅の道。だとえ目先の幸せは掴むことができても、いつかは必ず奪われる。

 深淵を見てしまった者とは無縁の世界。

 

「…………」

「……? ん♪」

 

 アウトレット商品以外にも家族連れを眺めていた羨ましそうな私の様子に気づいたのか、途中で握手で繋いでいた陽葵ちゃんが指を交差に絡めた恋人繋ぎへ変えようとしてきた。

 

「ムッ」

 

 だから恋人繋ぎに発展する前に、乱暴な手首を引っ掴む持ち方に変える。

 

「ナンデー!?」

 

………

……

 

「そろそろどこかで昼食を取りましょうか。今日は何が食べたいとかあります?」

「じゃあ、あるかわからないけど日葵ちゃんが東京で連れて行ってくれたあの魔法詠唱みたいなお店が良い!」

「ああスタバですね。都心部ですし……ん。ありますよ」

 

 希望に沿ってサクサクスマホ検索を済ませ、GPS付きの〈ナビゲート〉を始める。

 

「あのお店ってたしか飲み物以外にもあったよね!」

「まぁ軽食程度ですが、サンドイッチやケーキぐらいならあったと思います。……大きさはコメタほどじゃないですけどね」

「マッシロノワールだっけ?」

「そうです。陽葵ちゃんと駒ちゃんが焼肉をお腹いっぱいに食べた後に、1つずつ注文して地獄をみたデザートですね」

「まさか、あの大きさが出てくるとは思わなかっただもん……」

 

 陽葵ちゃんと東京での思い出話を交わしながら、スタバで昼食を注文する。まず店内飲食を伝えて私はいつもの魔術詠唱開始、グランデ*2・抹茶クリーム フラペチーノ・バニラシロップ・エクストラパウダー・ エクストラホイップ・ウィズキャラメルソースを唱える。

 陽葵ちゃんは実際に注文するのは初めて*3になるので、一緒にメニュー表を見ながら実際の飲み物のサイズなどをジェスチャーで伝えながら1つずつ正確に、ゆっくりと魔術詠唱ができるように注文を行う。

 

「あとヴィーナス・ソーセージ 石窯フィローネが2つと、もっちりおボールを1つお願いします」

「かしこまりました~」

「……ここの最大魔法はどれだけ長いの?」

「今はどうかわからないですけど、私の古い記憶の中では確か『クワトロベンティエクストラコーヒーバニラキャラメルへーゼルナッツアーモンドエキストラホイップアドチップウィズチョコレートソースアップルクランブルフラペチーノ』だったと思いますよ」

「無理だよ。長いよ。覚えらんないよ……」

 

 ……?

 妙だな? あの陽葵ちゃんにしては珍しく弱音をはく。

 普段なら、覚えようと頑張ろうとするのだが……ま、お腹が減っているのだろう。お腹が膨れたらまた反応も変わって来るに違いない。

 

「まぁまぁまぁ、世の中には格好つけようとしてドドールで魔術詠唱開始、店を間違えたことに気づいた釘貫(くぎぬき) 神葬(しんそう)(いかづち) (ともえ)という人物もいましたし、できる範疇でいいんですよ。覚えなかったところで人生の本筋には影響が及ばないですし、店員さんによっては伝わらないってことだってありますから」

「そう?」

「そうです」

 

 フォローのための失敗談をするために、少し口が滑ってしまったが顔色には表さず何食わぬ顔で雑談を続ける。

 適当なタイミングで店員さんからトレイで商品を受け取り、店内を見渡す。

 

 残念ながらこの直射日光が厳しい真夏では、冷房の効いた店内はどこも親子連れ、デスクワークの社会人、受験生の満席状態で座れそうにない。そうなってくると残るは店外のパラソルのついたテラス席になる。

 

 店内飲食にして座れるだけラッキーだと話しながら、適当な席に陣取り軽食を取る。

 たしか、鹿之助くん達とまえさき市に遊びに来た時は、低コスパの家庭料理屋サイゼリアで色々食べたっけ……。

 そういえば鹿之助くんと東京キングダムの騒動と魔都 東京での出会いを除いたら夏休みはそんなに会っていないような気がする。

 

 まぁ今日は事前予約ありきの女子会だし、オシャレに重きを置いて奮発してもいいだろう。

 2人っきりで女子会なんて言葉を使おうものなら陽葵ちゃんがデートだと大々的に騒ぎかねないから口には出さないが……。

 

 さて。

 陽葵ちゃんの普段着を巡る買い物譚は、実のところ目標の半分しか買えていない。

 アウトレットを巡ってほどほどに良さげな服を何着か見つけたことには見つけたのだが、致命的にSIZが合わない。確かに五車の服のブラウスやミニスカート、いつもの痴女服と比較すれば露出度は抑えられるのだが……。

 

 そもそも乳袋対応のインナートップスが無い。

 アウターに関しては、前開きの衣類にすれば問題ないのだが……。

 

 ユニク口にあるようなまな板から普通サイズの胸が入るような一般的な服ならいくらでもあるのだが、陽葵ちゃんほどたわわになると胸がミッチミチになってえらいことになることが判明した。XLサイズでまだ入ればいいのだが……。入ったとしても、前丈が……。胸突起のヘソ丸出しコーデになってしまう。ロングインナーでギリギリ。

 ベルトは本人の好みではないようなので利用しない方向になった。せめてXXLか3Lが欲しいのだが、そんなものがアウトレットモール内にあるなど極稀である。店内で良さげな商品に〈目星〉をつけて、ネットショッピングで買うしかない。

 

 ボトムズは揃えられた。本人の元気いっぱいな様子や動きやすさを重視して、どこでも走り出しやすいような機能性のある防水加工スニーカーとアンブレラスカートを1着ずつ。

 あと『私と靴を合わせたい』という本人の要望もあったのでブーツを追加で2足。1つ目は私が履いているようなベージュ色のロングブーツ。もう1つは新調したアーミーコンバットブーツ。ズボンは無難にカーゴパンツを選択。

 ボトムズを揃えたことで五車学園制服であるミニスカートよりは走り出した時や、電車のイスに座った時にパンチラ確率80%が発動することはなくなるだろう。

 

「ん~ おいしい~! 美味しいね!日葵ちゃん!」

「ええ。このもっちりおボール、半分は陽葵ちゃんの分ですから遠慮なく食べてくださいね」

「わーい!ありがとー! んふふふふっ

「なんですか、気色のわるい声で笑いだして」

「2人っきりのおでかけって特別な気分に浸れていいね!」

「気分転換にはピッタリなのは間違いないですね」

 

 陽葵ちゃんの意味深な表情と言い回しを適当に流しながら石窯フィローネを頬張る。ジューシーなソーセージと卵をマヨネーズで和えたものが程よい味で口の中に染み渡る。

 しっかりとしたお昼ご飯として満足のいく一品となっている。

 

「はい、日葵ちゃん あーんっ

「……」

 

 二口目にかかった所で、今度は彼女からもっちりおボールが差し出される。

 まるで白熱したアベック*4の如く、食べさせあいっこでもしたいのだろうか?

 

「あーんっ♥♥

「あーん」

 

 一度目で諦めないので、もう一度差し出された方は仕方なく頬張る。イチゴ味かつ商品名に恥じないモチモチ感、中にしっとりクリームが入った甘いお菓子だ。

 

「ゴブフゥッ!!! ゲホッゴホッ!ゴボッ!」

 

 突如、斜め後ろの角の席から誰かが激しく噎せ込んだかのような咳き込む声が聞こえる。

 当然の反応として、弾けるような異音に対して意識が自然とそちらに向けられる。その咳き込んでいる主は、かなり気管の奥まった場所まで水滴か咀嚼した食品が詰まったようだ。最初の吹き出したドリンクをそのまま床にまき散らしている。

 

 その人物は陽葵ちゃんのメッシュと同じ橙色の髪をした、少し癖っ毛のあるロングヘアの——

 

 

*1
15章 Episode97

*2
470ml

*3
前回の東京百貨店では、駒ちゃんと一緒に私の注文と同一のものを選んだ。

*4
死語:カップルの前身単語。恋人や夫婦のような組み合わせを指す




~あとがき~
 誤字修正組、いつもありがとうございます~!
 執筆していると気づけない不思議。またあればお願いしたい所存です。

 222話目イェーイ!!!!
 ヨミハラ祭、メイジャーさんが出るとのことで参加しました。
 Getしました! 二次創作でも〈改造した釘打ち機〉持ちのオリ主とパイルパンカー持ちのメイジャーさん、いずれ邂逅させたいですけどね!(遠い目)
 ただヨミハラ祭、今後は目当てのキャラが出ないでもしない限り回さないことにしました。
 去年のヨミハラ祭は集金目的っぽい取ってつけたような乳揺れもない突然のキャラ実装でしたけど、今回のは奥義演出は大したことは無かったので……。

 来月の五車祭にタケミカヅチフォルムの鹿之助くんが出て来てくれるのを待ってます。

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