対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
陽葵ちゃんに連れられて祭り会場に到着した後。
女なのに男物の襦袢を着ていることから違和感があるのか、それともまだ私は“よそ者”の扱いなのか、数々の“悪行”が知れ渡っているのか、すれ違う町民にジロジロと怪訝な目つきで見られ気分が悪かった……。
陽葵ちゃんが屋台で無難な版権のないお面を一枚買ってくれたおかげで、以降は周囲からジロジロと見つめられることもなく、2人で屋台を練り歩くことができている。
「陽葵ちゃんの言う通り、大賑わいですしいろんな屋台が出店してますね……」
「でしょっ!?しかもすごいのはそれだけじゃないんだよ!あっち見て!」
陽葵ちゃんに腕に抱き着かれ、引っ張られる形で視点を移動させる。
陽葵ちゃんの大きなたわわへ私の腕ががっつりと食い込むも、彼女は気にしていない様子だ。
私の恋愛対象は女よりも男側であることや前世までの人生経験によって、そのような純朴な男であれば勘違いを誘発させ恋に落ちてしまいそうな彼女の過剰なスキンシップについて特別な感情が湧くことはないが……誰にでもそういう行動を取っては欲しくないと思う。
これは嫉妬でもなんでもなく、単純に異性間の勘違いや逆恨みから危険に巻き込まれてほしくないことにある。
世の中色んな人間がいるからね。優しさやちょっとした善意、もしくは陽葵ちゃんにとっては何気ない行動なのかもしれないけれど、変に勘違いさせると傷害事件や殺人事件に発展したりするからね?
いやマジで。
『エレベーター内で同乗して挨拶や階層を尋ねられただけで自分のことが好きだと勘違いした人物の犯行』とか『レジでぎゅっと手のひらにお釣りを返しただけで自分を好きだと勘違いした人物の犯行』とか……。世の中にはそういう恋愛思考回路がエキサイティングしている人物がマジでいるんだって。認識しているよりもはるかに狂気じみた危険な事件はたくさんあるんだよ? 挙句の果てには逆恨みとかね?? 五車町ではそういう報道はあまり耳にしていないだろうけどね。
私は陽葵ちゃんが、そういう被害者側にはなって欲しくないの本当に。
でもこれをどうやって私の感情を履き違いさせないように配慮しながら陽葵ちゃんに伝えればいいのかと考えるとうまく言葉が出てこない。
思わず演舞をそっちのけで両目を瞑って考え込んでしまう。
ドーンッ!
「おおっ!」
「おおっ!?」
両目を瞑って考えている間に、正面で巨大な炸裂音が迸る。
目の前の出来事に二人の声がハーモニーを奏でる。
瞼を開ければ思考を張り巡らせている間に、舞台の上では大胸筋や腹筋バキバキの男性が12人躍り出て福島のスパリゾートでしか見られないようなショー:シバオラのような舞が派手に展開されていた。
陽葵ちゃんにどうやって距離感が近いスキンシップを注意しようか考えていたが、爆音と目前の演舞の光景に共に丸ごと吹き飛んでしまった。
それの何が凄いって、誰でも無料でその光景を見ることが許されている事態もさることながら、その炎をまるで身体の一部のように振り回す技術もすさまじい。
きっと舞台装置やマジックのように仕掛けやタネがあって、袖に炎の発射機構などを付けて腕から炎が出るようにみせているのだろう。だがあの一歩間違えでもしようものなら大事故になりかねないのに演舞者はまるで炎を自分の身体の一部のように操り、高揚に満ち足りた笑顔でその危険な芸当をいくつも成し遂げているのはまさにプロそのものだ。
陽葵ちゃんとお互いに顔を見合わせて、笑顔が自然と浮かぶ。
腕を抱きしめる彼女の力が一段と強まるが、私も目の前の巧みな演舞に興奮して、応じるように彼女の腕を抱きしめる。
やがて舞台は一区切りを置いて、拍手ののちに一時幕を閉じる。
「すごい、これは……すごい!」
「でしょっ!きっと気に入るって思った!」
語彙力も失って目の前の演舞に釘付け、他の観衆に促されて拍手を送る。
隣で一緒に演舞を眺めていた陽葵ちゃんも何処か興奮気味で拍手をしている。
「参番隊の皆さんありがとうございました~!」
参番隊と呼ばれた最後の演舞者たちが舞台裏へと戻って行ったところで、入れ替わるようにして1人の女性が姿を現す。
彼女は水色の虹彩をしてプラチナのような髪色、輝くばかりに艶のある髪の毛を私と同じようにポニーテールで結い、白のリボンがたなびいている。服装は紺青色と水色の2色ベースの競泳水着に紫色の帯のついた水干装束を上半身だけ纏った状態で舞台に上がって来る。その足には競泳水着と同じ色合いのサイハイ丈のピッチリとしたソックスを履いて、足先はダイビングで用いるフィンを装着している。
服装の場違い感は否めないが……ほかの演舞劇で水泳ショーでもあるのだろうか?
「あっ、あの人が
臼橋 乃々さん。
……たしか、滝つぼまで泳ぎに行ったときに公民館を管理している人だと教えてもらったような気がする。
あの人がそうなのか。
陽葵ちゃんが彼女へブンブンと大手を振っているのを見つけると、こちらへ自然に微笑みながら小さく手を振り返してくれる。気さくな人っぽい。
ところでその臼橋さんがインナーで着ている競泳水着からは、零れ落ちてしまいそうな豊満な横乳がはみ出るほどの巨乳なんですけど。
右を見ても左を見ても真横を見ても正面を見ても、この五車町には爆乳しかいねえな。
「続きまして水龍陣の方々による演舞になります。それではどうぞ♪」
臼橋さんが手のひらを観客側を向けた拍子に、7人の男女が円陣を組みその中央で無から水が生成される。あれは〈科学(化学)〉における大気中の湿度を舞台装置を用いて水へと置換しているのだろう。それはある程度まで集まるとまるで高波のような水が私達に襲い掛かる。しかし、その水の塊は観客に衝突することなく、まるで生き物のようにうねり始める。
周囲からは感嘆のつぶやきが漏れている。
しかし周囲の反応とは裏腹に私の身体は自然と強張っていく。
この場から早急に離れなきゃいけないと頭の中で警鐘が鳴らされる。
「ウネウネしてるよっ! あれがだんだん龍になるんだって、すごいよね!」
「……」
「? 日葵ちゃん?」
足がすくみ下半身が引き腰になる。
まるで私がまえさき市で出会ったあの神話生物のようにどっぷんどっぷんと制御もないのに、脳すら存在しない骨のないスライムが自我を持って自由自在に蠢いているような……。
正面の観客たちは、そんな不自然な水の動きに気にすることもなく平然と先ほどまでの私達のように狂気的な笑みを浮かべながら眺めたままだ。
やがて水の塊は形状を変えて、龍を形作る。それは意思を持った高度な1つの生命体のように。否。もしかするとあの大喰いの泥濘なんかよりももっと高次元に存在している生き物のように大気中の湿気を自ら吸収し、その身体は底知れぬ胃袋が膨れ上がるように見境なく肉体を形成していく。水はまるで海の波のようにざわめき、波で一枚一枚身体を覆う鱗までもが浮かび上がる。波立つことで発生した白い泡が、牙を形成して、水が取り込んでいたであろうゴミが圧縮されて黒い塊としてギョロリとした目玉を生成する。鞭のような筒が腕を形成し、4本指の肉や服を簡単に引き裂いてしまいそうなかぎ爪を幾重にも生え伸びて……。巨大になれば巨大になるほど大いなる存在として知力を持つような——
藁にも縋るような思いになって、陽葵ちゃんの腕を抱き枕のように固く抱きしめる。
「日葵ちゃん あっち行こ!」
「ん。はっ。えっ」
目前に現れた水龍に睨まれて恐怖で動けなくなったところに、陽葵ちゃんが腕を抱きながら引っ張って未だ私を睨みつけている龍の舞台装置から引き剥がしてくれる。
棒のように強張った足を何とか、直線を描いたまるで関節のない人形が身体を揺らしてあるくようにその場から脱することができる。
「ひ、陽葵ちゃん……?」
「……」
「えっと……?」
「今日は楽しいお祭りだもん。転校して来たばっかりだし、学校でも入院ばかりであまり慣れてなかったよね。……びっくりしちゃったよね?」
「えぇ? まぁ——」
「……怖がらせるつもりはなかったんだ。ごめんね。私が見せちゃったから……だから無理して演舞を全部みることなんかないよ」
彼女が私を演舞会場から引き剥がすように腕を抱きしめて先を歩いているため、表情は見えないが、声色がどこかつっけんどんで怒っているような……ふてくされているような強い口調だった。
炎のシバオラを見ていた先ほどまではあんなに楽しそうだったのに、こんな態度を豹変させる不機嫌な陽葵ちゃんは今まで見たことがない。
「それに日葵ちゃんのお義母さんとも約束したもん。日葵ちゃんのことは私が絶対に守るって」
「!」
もしかして……?
「夏祭りはまだまだこれからだよっ! 駄菓子にゲーム! まだ何もやってないからね!」
演舞会場の拍手喝采が聞こえなくなるぐらいまで離れたところで、先ほどまでの口調から一転。いつもの私が良く知っている明るい彼女の口調へと戻る。
振り返っていつもの自信に満ち溢れた笑顔を浮かべてくれる。
私としたことが……。
……まったく。情けないな。
前髪を左手で掻き上げてそのまま後頭部を掻く。
陽葵ちゃんのことは、今日もどこかで何かがあったら守るつもりでいたけど……。いつの間にかに守られて、あの陽葵ちゃんに気まで使わせていたようだ。
まぁ陽葵ちゃんの紹介で演舞は見たからマッチポンプ味はあるけど〈心理学〉的に探っても、彼女が吊り橋効果を誘って計画したことじゃないぐらいわかる。
そんな鮮やかで計画的な芸当が陽葵ちゃんに出来たのなら、私はとっくに彼女の手中にあるはずだ。
それに彼女は、まだ16歳の子どもな女の子なのだから。
「…………」
「わわわっ!え!?なんでぇ!?」
いつの間にかに大きく成長していた彼女の頭を、モシャモシャの髪越し毛並みに沿って撫でる。
表情が自信満々な顔から驚いた表情になり、撫でた左手に手を添えてくる。
「おっと失礼。気が付いたら頭を撫でていました」
「ううん!失礼じゃないし、もっと頭を撫でていいよ!」
「そうですか? 驚いた顔してましたし……嫌なら——」
「私は日葵ちゃんの新妻だよ!?嫌な事なんかないもん!日葵ちゃんが暖かい目をしながら、私の頭を撫でたのは初めてだったから驚いただけだもん!」
「そっか、そうですね」
いつもなら彼女の新妻宣言に即否定するところなのだが、彼女の成長っぷりが嬉しくなって否定することなく再びゆっくりと彼女の髪を撫でる。
陽葵ちゃんの顔がポーっと赤らむ。たまにはこういう切り返しもいいだろう。しかし、本気になってもっと熱烈になっても困るのでほどほどにはする。
……彼女の狂気反応は一時的なもの。
洋館事件から最長で6カ月後、今から4カ月が経過して12月になればきっと正気に戻って私への興味も失せる。
あくまでもこれは一時的な精神疾患による異常行動。日本国における〈法律〉で考えるならば、刑法第39条1項基づいて刑は免除される精神病による特殊な期間*1。
この私へ向けられている劇的な恋愛感情も、4カ月以内に消える。まぁ良くも悪くもうっとおしさはあったので落ち着いてくれるなら私はそれでいい。
彼女は私の親族みたいにならずに済むならば、親友としてこれほどまでに嬉しいことはない。
私は
ワタシハ、アイツジャナイ。
だから真面に戻れるのは、彼女にとってもよいことのはずだ。
だから、これでいい。
「………………でも新妻ではないでしょ」
鼻で笑い、いつものように否定をする。
「えっ!でも今、認めたよね!?」
「え? 私は陽葵ちゃんの頭を撫でたことについて同意しただけですが……」
「そうかもしれないけど! いつもならすぐ『新妻じゃない』って言うのに、さっきはすっごく優しい顔で『そっか、そうですね』って言ったよ!」
「ははぁ、ではその後に否定はしたので」
「むーっ!!!」
頬を膨らませて怒りだす陽葵ちゃんへ、軽快に笑いながら話を流す。
東京キングダムで荒んだ心が彼女と行動を共にしていると浄化されていくような気もする。
すこし形は違う気もするが、まさに前世で私が想い憧れて思い描いていた日常の1つの光景だ。
「まぁまぁまぁ。そんなに不貞腐れないでください。その他に陽葵ちゃんは何処へ行きたいのですか? 先ほど様々な屋台を紹介してもらいましたし、ここでは陽葵ちゃんの〈知識〉には敵いそうにもありません。次に私は何処へ連れて行ってもらえるのでしょう? 楽しみですねー」
一歩先を歩き誘導を促して、振り返って彼女へ利き手を差し出す。
「ほら。迷子になったら大変ですからね」
「もー! 日葵ちゃん! またそうやってー!」
「はっはっはっ、なんですかー?」
すぐに後を追いかけて来て私の手を掴んで隣に並び歩き出す。
ふと見た腕時計は19時を指している。小腹も減ってきたことだし、何かつまみ時でもある。
………
……
…
~あとがき~
日常回です。
現代人(+探索者)が対魔忍達の様々な忍法を目視したら、どんな反応になりながら眺めるのかをに意識を置いて描いてみました。
五車祭いかがでしたでしょうか。
私は1日目150連しました。22連目で鹿之助くんが来てくれました。
即日、回想開放しました。
世間の動きとしてショタすらも規制が厳しいはずなのに……ありがとう。回想をありがとう、対魔忍RPG……。一生ついて行きます。