対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode195 『五車町の夏祭り(後編)』

 軽食にわたあめをつまみ、じゃがバターを半分こにして、アイスバーを頭が痛くなるまでいっぱい頬張って小腹を満たす。

 盆踊りに参加して散々動き回ったのにも関わらず女性用浴衣姿なのにいつも通り元気いっぱいに動く陽葵ちゃんの後についていく。

 前世の私の身体で同じような動きをしようものならアキレス腱がピキってするだろうし、腕があんな風に全力で上げ続けられなかっただろうよ。あれだけ動き回ってピンピンしてるのって、いや〜若いねぇ~。本当に若い。

 

「次はね! あれ! あれやるの!」

「はいはい。どれですか。どちらですか?」

 

 彼女が次に指を指したのはコルク銃を使用した射的屋だった。

 

「ふむ。射的屋ですか……」

 

 パイプ椅子に頑固そうな的屋のオヤジがタバコを吸いながら座っており、こちらを不審物でも見つけたように睨みつけてくる。一応、お面をずらし素顔を晒して会釈程度の挨拶は交わす。

 

 五車町の射的屋は田舎であることを良いことに従来型の射的屋とは、異なってまるで本物の実銃の射撃場のように長方形な敷地を取っている。

 景品は簡素な木材でくみ上げられたピラミッド状の棚に並べられており、会議室や会社にしかないような長テーブルの上にはそれなりの数のコルク銃が並べてある。また会議室の机には、風のエフェクトが禁止マークでラミネートされた紙に描かれて見やすい位置に大量に取り付けられていた。

 

「今年こそバスバス景品を倒して、賞品を手に入れちゃうよー!」

「頑張れー」

「がんばっちゃうよー!」

 

 腕まくりをしながら私の目前で500円を支払って、6発弾を購入する。

 景品には500円では決して入手することができないような3000円以上もする大型の景品がいくつも並んでいるが……。ま、あれは取れないようになっているに違いない。そもそも500円で取れるようであればテキ屋としても採算が取れなくなってしまう。

 それに景品の中には、3万円以上の携帯ゲーム機や家庭用ゲーム機なども並んでいるがあれも論外だ。日本国の〈法律〉で考えれば景品表示法の上限金額に引っ掛かる。

 

 しかしそんな野暮なことは楽しんでいる陽葵ちゃんの目の前では言わない。

 

 夏祭りの屋台での思い出づくり・儚い夢にかけて射的をするということ、この行為自体は何も悪いことではないのだから。彼女が射的屋で沼ってしまいそうになった時に引き止めればいいだろう。

 

パスっ……(スカ)

パスっ……(スカ)

パスっ……(スカ)

パスっ……(スカ)

パスっ……ポコン(ヒット)

パスっ……(スカ)

 

「もう一回!」

「あいよ」

 

 ちょ、ちょっと陽葵ちゃん?

 撃ち切るの早くない?

 でも1000円ぐらいなら、まぁ……。うん。次は止めるけど。

 

パスっ……(スカ)

パスっ……(スカ)

パスっ……(スカ)

パスっ……(スカ)

パスっ……(スカ)

パスっ……(スカ)

 

「もう一回!」

「あいよ」

「待った待った待った待った待った、待 っ て」

 

 フラグ回収が早すぎる。

 私が〈法律〉に関して思考を巡らせている間に早々に6発全弾打ち切って、再び500円玉を取り出し的屋のオヤジに渡そうとする陽葵ちゃんの手を掴んで止める。

 オヤジがギロリと鋭い眼光でこちらを見つめてくるが、どうせ手出しはしてこない。命までは取られない。だから堂々と割るように間に入ってもう一回、遊ぼうとする陽葵ちゃんを制止する。

 

「どうしたの?」

「射的はもうやめません? 陽葵ちゃんに射撃技術については、見て分かりました(ノーコン)。えっと、その500円があれば他のもっとおいしいものとか食べられますし、そっちでお金を使いません? あとは風船ヨーヨー釣りとか、金魚釣りとか、スーパーボールすくいとか、カタヌキとか」

 

 オヤジに聞こえないように背後を振り返って小声で他の屋台へと気を逸らそうとする。

 ここで沼るな、沼るんじゃない。この的屋の射的はソシャゲの0.8%のSRキャラを引くよりもひでえ景品取得確率なんだから……やめようね!

 

「でもあれが欲しくって……」

 

 陽葵ちゃんはデフォルメされたライオンのぬいぐるみを指さす。

 あー、あれね。ぱっちりお目目が可愛い陽葵ちゃんみたいなぬいぐるみね。

 スマホの〈図書館〉機能を使って、通販でサクサクと同じものを見つける。

 

「……言っちゃなんですけど、その欲しいもの別に通販で買ったらどうでしょう? 絶対にここでは取れないですよ」

 

 身も蓋もない。

 

「そうなの?」

「そうです。よくよく考えてみてください。たとえば参加者全員が1つ3680円するぬいぐるみが欲しかったとして、全員が1000円(12発)のコルク射撃でその景品を取れたとしましょう。テキ屋さんは大赤字になりませんか?」

「それはそうだけど、それは命中率に寄らないかな?」

 

 うん。12発中、1発しか当てられなかった陽葵ちゃんが言うと有言実行の謎な説得力があるなぁ。

 でもあのぬいぐるみ1発だけじゃ微動だにもしてなかったよ。当たっても景品が倒れるか、地面に落とすかしないと手に入れられないものだとも思うんだ。

 背後を振り返る。オヤジは私を睨みつけている。今日は何も悪いことをしてないし、何だったらこのオヤジとは面識がないはずなのに、どうしてそんなに目の敵にされているんですか?

 

「じゃあ、代わりに私が実演しましょうか。すみません1000円分お願いします」

「…………」

 

 なぜか私にはコルク銃の弾が投げ渡される。返事もされない。なんだこのテキ屋のオヤジ。

 

「ふぅー……」

「がんばれー! 日葵ちゃん!」

 

 陽葵ちゃんの声援を浴びながら、彼女に買ってもらった般若のお面をテーブルに置き、ボルトアクション式のコルク銃を手に取る。

 商品を本気で狙いに行くなら、木材の支柱部分を倒壊させて全商品を奪いに行くところだが、今回の目的はあくまでも陽葵ちゃんへの啓示。

 12発連続でぬいぐるみに当て続ければ、彼女もいかに無謀な挑戦に挑んでいるか分かるだろう。

 特に誰かと命のやり取りをしている危機的な状況ではないため、ゆっくりと時間をかけて『新クトゥルフ神話TRPG』における109頁“狙いを定める”。そのまま、地面に寝そべって124頁“伏せ状態”を維持。コルク銃を地面に123頁“銃を固定”し、目標を定める。

 また同説明書における109頁、“火器の再装填”を用いて、命中させる予定のぬいぐるみに対するDPS稼ぎを行う。1発では揺るがないぬいぐるみも連続して同じ場所に当て続ければ多少は動くだろう。

 〈物理学〉の観点も用いて、ぬいぐるみが最も倒れやすい角度と命中部位を狙う。

 ついでに豆鉄砲程度の威力のコルク銃だとしてもぬいぐるみの急所に当て続ければ、いい線を狙うことも可能だろう。

 

「正しい固定 正しい照準 正しい頬付け コトリと落ちるように」

 

 まるで自衛隊上がりの知人のような《魔術》的詠唱を一言つげてから〈射撃(R/SG)〉にて弾丸11発を見事にぬいぐるみに集中砲火させる。

 

「おおっ!」

 

 ぬいぐるみを大きく揺らして倒すことには成功したが、地面に落とすことは叶わなかった。あの倒れ方では、地面に叩き落とすまでが至難の業だ。

 でも結果としてはこれでよかった。私がここで成功させてしまったら陽葵ちゃんが沼ってしまう未来が見える。

 

(……1つぐらい別のもの狙おうか)

 

 だから最後の1発分は、彼女の喜び声とは裏腹にぬいぐるみの隣にあったお菓子を射貫いて地面に落とす。

 

「……チッ

 

 テキ屋の詐欺師から舌打ちをされ、地面に落ちたお菓子のみが足元の地面に投げ渡される。最初から最後まで無愛想な野郎だ。しかも私がお面をつけた不審者だから警戒して、扱いが雑なのかとも思っていたがそういうわけでもなかったらしい。完全に私に対して悪意がある。

 コルク銃を元あったテーブルに並べて、地面に転がった業務用まとめ買いすれば1個50円の——ああ、こりゃ賞味期限が近いから10~20円ぐらいかな? 安いお菓子を拾い上げ砂を払う。

 それからポカーンとしている陽葵ちゃんの方に振り返って、肩をすくめて取得したお菓子を渡し肩に手を置く。テキ屋の射的屋なんてこんなもんだよ。大人は汚い。良い社会勉強になったんじゃない?

 

「おじさん! ぬいぐるみが倒れたよ!」

「落ちてないから無効だし、そっちの坊主……ズルしたろ?」

「フッ」

 

 酷い言いがかりだ。失笑して睨みつけてくる詐欺師を嘲笑う。

 その景品取得方法について明記してねえテメーに言われたかねえよ。新宿のボッタクリ店における法外な金額ルールみてえだな。

 

「日葵ちゃんはズルなんかしてないし、坊主でもないもん!」

「いいやズルしたね。そこに禁止ルールを貼ってるのに使ったろ? じゃなきゃ全弾命中なんかできるはずがない」

 

 禁止ルール?

 ヤツが指をさしている風のエフェクトに禁止マークのついたラミネート加工の紙を見る。

 なんだ。この店は神風もとい運も味方につけたらいけないルールがあるのか。そりゃ知らなかったなぁ。こりゃまいった、まいった。陰謀論と同じで証明の出来ない非科学的なマウントごっこは苦手なんだ。声のデカいオヤジの勝ちでいいよ。議論するのも面倒くさいし。

 

「そんなことを言ったらおじさんだってズルじゃん! 景品を倒したのにくれないなんて!」

「景品は落としたら渡すことに俺は決めているからな。倒しただけじゃあ、譲渡条件を満たしてないんだよ」

「でもそんなこと禁止マークみたいにどこにも書いてないよ!」

「はいはいはい。もういいじゃありませんか。面倒くさいので私がズルしたことでいいです」

 

 再びお面をつけてヘラヘラと笑う。

 半襦袢に付着した土埃を払い落として言い合う陽葵ちゃんと詐欺師の間に入り、彼女のハートを打ち抜くように撃ってから指銃の先を煙で吹き消すようにみせる。

 

「ぁぉ……っ

 

 無事に陽葵ちゃんのハートはGetできたに違いない。

 でもGetすると、五車地下病院での出来事みたいに大変なことになるから不用意に手に入れるべきではないのだが。

 

「そんなことより、陽葵ちゃん。私の銃捌きは如何でしたか? つい本気(ムキ)になって百発百中してしまったのですが……」

「それはもうすっごくカッコよかったよ! だけど……」

「いいんです。これが1つの証明。1つの社会勉強になったのであれば、私は1000円で最大級の成果を得られたわけですから、清々しい気持ちですよ」

 

 しょんぼり気味だけど、心は私に夢中な陽葵ちゃんの手を引いて別の店に向かう。

 

 炭火焼のたこ焼き屋、氷の中に閉ざされたりんご飴、ネットでは名前を言ってはならない特急呪物(五車では今川焼・大判焼き表記)、ふわふわのお菓子のようなカキ氷を食べ歩く。水力モーターが無いのに回転し続ける不思議な風船ヨーヨー屋でカラフルな水入り風船を乱獲し、スーパーボール掬いを楽しむ。

 屋台を練り歩いている間に五車学園のクラスメイトとすれ違う。他にも心寧ちゃんを引っ張り回している鹿子ちゃんの姿。対魔忍らしく忍法で霧の幻影を町民へ披露している駒水ちゃん。怪しいお菓子を売り捌く稲毛屋の店主……の娘っ子による露天販売。鬼崎きらら(オッパイセン)のおっぱいと尻を揉みしだき陰部へソフトタッチしたことをまだ根に持っている風紀隊の面々の登場。その風紀隊に追いかけ回されている私と陽葵ちゃんに驚いている様子の教師陣とも出会えた。

 

………

……

 

「またねー!日葵ちゃーん!!」

「ええ。また」

「よろしくお願いします、お義父さん!」

 

 青空日葵の父親の車に乗って、夜道を送迎されていく陽葵ちゃんの手を振って自宅から見送る。

 ブレーキランプが見えなくなるまで彼女を見送ってから、自宅に入る。

 

「ただいまー」

「おかえりなさい」

 

 玄関では母親が壁に寄りかかりながら、満足そうな表情を浮かべて私を見ている。

 

「どうだった? 行ってよかったでしょ?」

「うん」

「だと思った。泥だらけだものね。早くお風呂に入っちゃいなさい」

「そうする」

 

 心の奥底から楽しかったと言えるだろう。

 禁術の取得は少し先延ばしになってしまったが、それでも今日は充分満足した。

 

 




~生還報酬~
 正気度報酬 1D6
 新クトゥルフ神話TRPG 選択ルール:幸運ポイントの回復(95頁)
 成功した技能の成長ロール

・特記
 釘貫 神葬ちゃんに、《クトゥルフ神話》技能を+1% 贈呈。

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