対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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27章 『鹿之助くんのおうち』
Episode197 『最初からクライマックス』


 

「すぅー……。ふぅー……」

 

 深呼吸をして酷く脈打つ心の臓を落ち着かせる。

 

 ついに。

 ついについに、この日がやってきた。

 この日のために、いつもより早起きしたし。

 この日のために、普段よりもオシャレな格好もした。

 いつも通りの習慣にはなるが、朝のシャンプーもやった。

 あと気持ちが穏やかな気分になるボディスプレーも少々。

 てかこの日のためだけに、東京キングダムでの騒動は火事場の馬鹿力を振り絞り無理をしてまで、高位魔族やら魔族の包囲網を外道の道を全力疾走しながらでも駆け抜けてきたと言っても過言ではないだろう。

 

「よぉし、行くぞー」

 

 玄関の出口で靴のつま先で地面をノックしながら、玄関の鏡に映る自分と対面する。

 変に緊張しているせいか、鏡の中にいる自分にかけた声が覚悟仕込みの神格との決戦に挑みに行くようなドスの効いた声になってしまった。心なしか、声も震えているような気もする。

 されどほぼ決戦といっても間違いではない。

 2本の人差し指で口角を上げて笑顔の練習をする。いつも通り。いつも通りだ。

 いつもより顔色もいいし、そういう化粧も施した。癖っ毛は相変わらずだが見慣れた彼は気にも留めないだろう。ついでにツバの広い麦わら帽子で隠しちゃおう。そうしよう。

 丸い女性らしさを出すだめに小さめのショルダーバッグを肩からかけ、いざ出陣ッ!!!

 

 彼と待ち合わせしている十字路まで歩みを進める。

 

………

……

 

 普段、外出するときは常に実戦や機能性、実用性の高い服装であるズボン系統しかを履いてこなかったせいか、スカート履いているといつも以上に突拍子もない風が通った時にヒラヒラとして妙に落ち着かない。五車学園の制服のスカートに比べたらマシな部類かもしれないが……。

 てか制服のスカートは丈が短すぎる。強風で尻が見えるデザインとかシンプルに馬鹿だと思う。

 

 とにかくスカートなんか履き慣れてないせいで、時々立ち止まってはウェストからスカートが落ちてきていないか。裾を引き摺って歩いていないかチェックすることになってしまう。

 

 さて、目的の十字路はこの角を曲がってすぐだが……。

 

 

 曲がった瞬間に彼とばったり目が合う。

 彼が一瞬で顔を赤らめたことに対して、私も咄嗟に左手首で口元を隠して顔を逸らしてしまう。

 この反応は決して彼が変な格好をしていただとか、何か笑いをこらえて——というわけではない。

 自分が普段とは異なる格好で彼と出会って、おかしな恰好をしてないかその不安で頭がいっぱいになってしまったのだ。

 でも、このままここで立ち止まったらもう二度と歩みだせなくなってしまうような気がして、彼の傍まで歩いていく。

 まるで軍隊の行進みたいだ。

 

「よ、よぉ。今日も元気か?」

「え、えぇ。元気ですよ。鹿之助くんはどうですか?」

「お、俺もバッチリ元気だぜ……!」

 

 まるで初めての英会話で体調を尋ねるようなぎこちない会話。

 そっと彼の隣に寄る。

 鹿之助くんが私のことをチラチラ見てくる。

 明らかにいつも蛇子ちゃんやふうま君と一緒に学校に向かうときとは明らかに異なる反応。

 

 や、やっぱり、変だった……かな?

 張り切ってオシャレするべきじゃなかったかな?

 他人の目を意識したオシャレなんて十何年ぶりだろうね?

 もしかして神村のギャルコーデ(オリジン)みたいなことになってる!?

 

 と、不安が背後からジワリジワリと滲む。

 ヤスリがけした爪先をいじってしまう。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙。

 いつもみたいに話題を振れない。

 

「…………」

「…………」

「そ、その、さ。今日のその格好、日葵に似合ってるぜ」

「そ、そう? ありがとう。鹿之助くんも、その帽子素敵ですね」

「そ、そうかぁ?」

 

 鹿之助くんも、白を基調としたツバが広い女性っぽい帽子をかぶっていた。ご丁寧に帽子には黄色のリボンがついていて、私の麦わら帽子よりもよほど女性っぽくて、とてもかわいい。

 

「あ、あ。それにさ、そのいつもより明るい雰囲気があるっていうか……。あっ! いつもが暗いって言う意味じゃないんだ! ただ、いつもより、もっとかわいいなぁって……」

 

 

 

BOOOOONNN!

 

 

 

 あーあーあー!!!!!

 今、私の中でBOOONッ!ってすごい音! 電子レンジで火薬と発火剤をチンしてしまったかのような簡易時限爆弾が破裂したかのような音がした!

 WARNING! WARNING!

 鹿之ニュウムの値が急上昇! 早々に臨海突破します!

 ビー! ビー! ビー!(警報音)

 キュワン!キュワン!キュワン!(警報音)

 WARNING! WARNING!

 

 

か、かわ……い、い?」

「おう。そ、その、なんつーか、ひ、日葵が緊張しているからか、俺も緊張しちまって、い、いつも通りで良かったんだぞ!?」

「ゥン」

「だ、だからか、さ。言葉が詰まっちゃうんだけど、さ! べ、べつに今日は俺ん家に行くだけだし、そんなかしこまんなくてもいいっていうか……」

 

 なんかもう半分以上、鹿之助くんの声が聞こえない。

 おめめぐるぐる。顔がまっかっか。指先同士がぴったりとくっついて口元にまで運んで、動きがガタガタと錆びついた機械のような緩慢な動きになる。

 

「ほんと!いつもの格好でよかったんだぜ!? 俺のとーちゃんとかーちゃんに会うかもしれないって言ってもよ。実際には俺の部屋に遊びに来るだけだし、タイミングによっては会わないと思うし」

「ソッカ、ソウダヨネ」

「声が裏返ってるぞ……本当にそんな調子で大丈夫か?」

「大丈夫デス」

 

 なんとか声を振り絞ったものだが、喉の奥から響く悲鳴のような断末魔しか出てこない。

 本当のことをいうと大丈夫ではない。まったく大丈夫ではない。

 

「じゃあ、俺んちはこっちだから……はぐれないでついて来いよ?」

「ハイ」

 

 鹿之助くんに連れられて彼の家に向かう。

 いつもより足が小幅になって、鹿之助くんの背後を小鳥のヒナがちょこまかとついてくるように小走りでついていく。

 ときどき、彼が私のほうを心配そうに振り返るが麦わら帽子で彼との視線を区切る。そんな実年齢でもないのに、片手をぎゅっと握りこぶしを作ってしまう。

 私よりも20㎝以上も身長の小さな彼のあとについていくだけなのに、どこかみっともなさもあって威厳という威厳が叩き壊される音がどこかで響く。

 

 すごい!

 私、対魔忍世界で対魔忍世界らしくない威厳の壊され方をしてる……!

 

………

……

 

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