対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode198 『唐突なスニーキングミッション』

 

「ついたぜ。ここが俺んちだよ」

「…………オジャマシマ——」

 

 鹿之助くんの道案内が止まり、私も視線を麦わら帽子で遮るのをやめて視界を広く遠くまでもつ。

 

「いや、玄関は門をくぐった先なんだけどさ」

「ス——」

 

 これが鹿之助くんの家……いや、これは家なんて小さな括りではない。

 

 これは屋敷。

 そう。

 

武 家 屋 敷

 

 そのように表現する方が最も正しいだろう。

 出迎えたのは重々しいくすんだ歴史を幾年も刻んできたかのような巨大な表門。

 表門の両端は家の敷地を囲うための約9フィートからなる塀が続いている。まるで名古屋の熱田神宮にあるような信長塀のような古き時代から存在するような瓦屋根付きの立派な塀。

 表門の先には巨大な池と庭園が見えていて、ぐるっと黄土色の土の道を回った場所に2階建ての母屋が一つ。

 母屋を向かって正面に左手側には江戸時代などの文献でしか見たことのない白色の壁でできた防火蔵が備わっている。庭園には大小様々な石が置いてあって、松もいくつか植えられている。まさに国指定重要文化財に匹敵するかのような日本庭園がそこにはあった。

 庭師の姿は見受けられないが、いずれの松は盆栽のように丁寧に整えられて管理が行き届いている。観葉植物は松のみならず、蔵の近くには花壇のような生垣も見える。

 

「いやだからほんと別に気にしなくてもいいっていうか——」

「……」

「そんなに緊張しなくても…………って日葵?」

「……」

 

 いつぞやだったか……。

 私が初めて五車学園の地下病院に幽閉されたとき、鹿之助くんから将来の夢を聞いたときに彼のバトロン・スポンサーになるみたいな大々的なバックアップの援助の話をしたのだが……。

 

 これは……。

 

 鹿之助くんち、普通にパトロンが不要な程に太くないか?

 あの発言、身の程知らずにもほどがあったんじゃ……?

 

「日葵? おーい? ひまりー? おーい?」

 

 これ、正面でこの広さだと……。

 前世で私の先祖が住まう家より広くないか? いろいろ〈隠す〉ための裏山とかを含めた固定資産を考慮すればどっこいどっこいか?

 いやでも鹿之助くんちの敷地がこの屋敷だけに限った話じゃないしなぁ。もしかしたらもっと他に土地を持っているかもしれないし。この実家の太さだと五車町の市街地方面に不動産や企業の株証券とかもいくつも持っていてもおかしくないような広さだよな?

 

「ひーまーりー?」

「……」

「駄目だこりゃ。……いつもの完全に考えるときのポーズになっちまった」

 

 最低でも年間の固定資産税と都市計画税が課税されることになるわけだから、ここが東京から離れた群馬県。政令指定都市のまえさき市から離れていることも換算して——あ。でも、五車町って確かニュータウンとして設計されているだったなぁ。だからそんなに政令指定都市ほどじゃないけど普通の田舎町よりは税金を多くとっている筈かな? ええと、だからその時のおおよその税率は——

 

「日葵ッ!」

「ひゃいっ!?ひゃい!? はいぃ?!」

 

 脳内で年間税金納付額の金額を暗算しているところに、誰かの怒声と腹部に抱き着かれたかのような衝撃が走って我に返る。

 視線を落としてみれば鹿之助くんが眉を吊り上げて気迫ある顔をしている。

 

「ここは入り口だし、まだ俺んちに入ってもいないぞ!」

「あ、あ、あっ」

 

 私を税金計算の坩堝から脱したところで、眉を吊り上げて早く来るように手を引っ張っている。

 表門、鹿之助くんち、鹿之助くんのループで、視界が早々と切り替わる。

 

「ほら早く行くぞ!」

「あ、う、うん!」

 

 表門で帽子を取り、ショルダーバッグを肩から外す。

 一度、お辞儀をしてから表門の敷居を跨いで鹿之助くんの敷地内に入る。

 

………

……

 

「ここが玄関」

「おじゃましまーす」

 

 そっと鹿之助くんが門戸を開けて、私をそのまま入るように促してくる。

 その声は小声で家族にバレたくない様子にも見えた。

 〈聞き耳〉で室内の音を拾うが、どこからの部屋からテレビから聞こえるバラエティー番組の音声が聞こえてくる。誰かいるのだろう。たぶん、鹿之助くんの御両親か。

 

「えっと、今更で悪いんだけど……実は今回の訪問。俺、かーちゃんには伝えてないんだ……」

「えっ」

「うちの親、“大袈裟”でさ。騒ぎを起こしたくなくて……」

「ありゃ……。でも、それはまずくないですか? ちゃんとご挨拶しといたほうが見つかった際に後でこじれなくて済むと思いますけど……」

、いや、でもさ。こうやって俺が誰かを(うち)に招くなんて初めてでさ。そのっ、かーちゃんにそのことがバレると……もっと大騒ぎ以上に面倒な事になるかもしれなくて」

 

 眉を八の字にして、視界を左右下方向へと泳がせる。

 視線の動きとどもり具合から真実と嘘が入り混じったかのような反応だ。私には何が真実で、何が嘘なのか現状判別する程の情報は手元にはないが鹿之助くんから親族に私を会わせたくないという気持ちはヒシヒシと伝わってくる。

 

 『私が鹿之助くん()へ一番槍!』と力強いガッツポーズが心の中であがるがそれは頭の片隅に追いやって、すこし自分に当てはめて考えてみる。

 釘貫 神葬だとして、借り住まいではなく実家に彼を招いた時。鹿之助くんを先祖や先祖信者の両親へと会わせられるか?と問われた場合は躊躇ってしまうだろう。あれは一周まわって危ない宗教だ。

 しかし逆の立場として自分の娘や息子が見知らぬ男や女を連れ込んでいたら……? うーん。ちょっぴり関係性が気になる程度かな!

 

「…………わかりました。その様子だと発覚した途端、鹿之助くんの想定よりももっと大変なことになりそうですけど、ここは鹿之助くんの意を汲みたいとおもいます」

「サンキューな。……俺の部屋はこの廊下の先を左に曲がった2階にあるんだ。靴を持ってそのまま来てくれ」

「……」コクコク

 

 先ほどまでのロボットダンスはどこへやら、鹿之助くんの挙動不審な様子や実家の太さ、固定資産税金算出、突然のスニーキングミッションという展開の発生に逆に気分が落ち着いてきた。スムーズな動きで鹿之助くんちの母屋に潜入する。

 

 本来であればやましいことは何もないのだから、一声挨拶するべきなのだろうが……。

 もう1つの可能性として……五車町での私の評判が悪すぎて出会った途端に即叩き出される可能性も考えられるだろう。実際に鹿之助くんのお母さんと会って反応を見てみない限り、私に対する感情は差し測ることはできないが……。

 

 鹿之助くんは、こんな実家がお太い、由緒正しき坊ちゃんだ。

 

 どこぞの馬の骨とも知らない女が——

 もとい古い仕来りが残存している田舎町では、私という問題児との付き合いが疎ましく思われている可能性は65%ぐらいある。

 万が一、私が原因で鹿之助くんが怒られるようなことになった時は、その咎は一身に受けようと思う。

 それにこんな田舎町だ。私が鹿之助くんに恋心を抱いていることも既知かもしれない。

 

「……」

「……」

 

 初めて訪れた家にも関わらず、抜き足差し足〈忍び歩き〉で音が床鳴りしそうな板の間を選別して鹿之助くんよりも私が先に先行する形でクリアリングを行う。

 実家よりも、他人の家で〈隠密〉行動をとっている。

 

「……待って」

「?」

 

 彼が先行している以上、異常があれば小声かつ彼の服を引っ張る形で彼を制止させる。

 

「……そこの板の間。あれを踏むと音がなっちゃうから、私の通るルートを通って」

「?!」

 

 鹿之助くんが相も変わらず五車学園で時々みせるような『なんでそんなことがわかるんだよぉ!?』と言いたげな驚いたような、かわいい顔を浮かべている。

 

「少し(ひず)みがあったから分かっただけ」

「!?」

 

 はっきり言えば〈隠密〉経験の場数が違うからね。今回は切羽詰まった危機的状況下でもないし、床板に少し足を乗せたら自然とわかるのよ。

 

「……?」

「私が通っても鳴らないなら、鹿之助くんの体重なら大丈夫」

 

 彼に私が通るルート足跡を踏むように指揮をとって第一の難所を突破に取り掛かる。

 私が指定した床の一部は(うぐいす) ()りと呼ばれる昔からの日本の古来の建築物に見られる構造物だ。人が床の板の上を歩く事によって、きしみ音が鳴るように作られている。目的としては外部侵入者の危険探知の為に設けらているという〈歴史〉的な文献がある。

 まさに武家屋敷のような古来からある建築物、鹿之助くんの家にあってもおかしくはないものだ。

 また私のような素人でも突破できる程度に全体が鶯張りでないことについては、過去に床板をリフォームした痕跡があるのでそれ故だろう。毎日、廊下を通る度にキュピキュピ鳴っていたらうるさいものね。どれだけ鶯張り建築が続いていたかはわからないけど、老朽化の心配もあっただろうし。

 だが詳細を聞かれているわけでないから、この〈知識〉を彼にひけらかすつもりはない。

 

「……」

「……」

 

 なんとか、第一関門は突破したようだ。

 鹿之助くんがとても真剣な顔で親指を立てて関門を突破したことを教えてくれる。

 

 現在地は玄関の廊下をまっすぐ抜けた突き当りのT字路だ。このまま左に曲がって階段を登れば鹿之助くんの部屋までイージーモードで辿り着けるらしいが、その前にまた1つ難関がある。

 先ほど私が〈聞き耳〉で判明したテレビの物音だが、階段前に点在しておりそこを突破しなければ鹿之助くんの部屋にはたどり着けない。

 

 再び〈目星〉で体重の重みで軋みそうな床板や鶯張りを選別する。

 大体は見抜けたが何枚か怪しい床板がある。こちらはリフォームが施された痕跡が見当たらない。となると床全体が鴬張りの可能性が極めて高い。

 だがしかし床板を踏まずに彼の部屋へと続く階段に向かうには、天井を〈登攀〉して遊具の雲梯(うんてい)の要領で突破するか〈跳躍〉で幅跳び突破するほかない。

 

 左手を口元に右手を肘に持ってくる。

 〈登攀〉で天井伝いに雲梯するほうが最も発見リスクは抑えられるだろうが、鹿之助くんのおうちは古い日本家屋だ。天井からぶら下がって親友の家の天井をぶち抜くマネは勘弁願いたい。……となると幅跳びの要領で〈跳躍〉し、床鳴り疑惑の板を突破。

 飛び蹴り壁〈キック〉して飛距離を稼ぎたいが、これも鹿之助くんのうちの壁を蹴り破ったら大惨事になるのでボツだ。

 

 無難な選択を選ぶ。

 

 いずれにせよ、鹿之助くんには無音突破は不可能だ。

 だからここは私の背中に鹿之助くんがしがみついて荷物や靴などを持ってもらい、私が突破・制覇する。

 

「……」

「!??!?」

 

 流石にテレビの部屋に近いため、声は出さずにジェスチャーとハンドサインだけで鹿之助くんに背中にしがみつくように指示するも、目を丸くして目の前で手を左右にブンブン、首をブンブン振り抜いてできないとアピールしてくる。

 

「……!」

「!!!」

 

 まるで形勢逆転だ。先ほどまで私が顔を真っ赤にして熱されたヤカンのようになっていたが、今度は鹿之助くんが目をまんまるにして顔を真っ赤にして湯気を出している。

 

「……。……?」

 

 そのままジェスチャーで本人の意思にはそぐわないけど、ご家族に挨拶してから部屋に向かうか尋ねてみる。

 

「……」

「…………」

「……」

「…………」

「…///

 

 私の提案に観念したのか、私の背中に背負われることにしたようだ。

 小さな彼の掌が私の両肩に置かれる。背中に居る彼の爽やかで素敵なニオイが私の鼻孔をくすぐる。

 私の靴と、ハンドバッグ、自身の靴を纏めて持つために胸、腹、下半身を私に密着させる。思わず、アレが接着した途端、歓喜の身震いをしてしまいそうになるが堪える。

 両手が塞がっている以上、鹿之助くんは両足を私の胴体に回し、疑似的に抱き着いてくる。頭が煩悩に支配されかけるが、ここで鹿之助くんを襲えば間違いなく鹿之助家に侵入してきた不審者の犯行だと断定されてしまう。

 

 理性で堪えて、彼に『3、2、1、GO』の指さし合図で飛ぶことを伝える。

 

 彼の鼻息が私の頬にかかるぐらいに急接近しているが平常心を保つ。

 ……よし。

 

 …………なぜに、親友の家でスニーキングミッション+SASUKEをやる羽目になっているのか今となっては分からないが、真面目に考えはじめたら飛べなくなってしまうような気がして〈隠密〉で助走を取り、そのまま〈跳躍〉で板の間を跨ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トッ

 

 

 

「~~~~~ッ!」

 

 身長の2倍の距離*1を平行方向に飛び越えることには成功したが、着地音が僅かに響く。

 鹿之助くんが背後を振り返って、テレビの部屋を確認しているような体重変動を背中で感じ取る。わたしも恐る恐る。背後を振り返る。

 

「…………」

「…………」

 

 セーフッ!!!!!!

 

 背後を振り返ったがテレビの音が聞こえる部屋、その奥の部屋から誰かが気づいて出てきた様子は見られない。

 鹿之助くんと顔を見合わせて、表情筋と頷きだけでお互いを讃え合う。

 さて、あとは階段を私が駆け上って、鹿之助くんが「ただいまー」と声を上げるだけで、唐突に始まったこの潜入ミッションは終着を迎える。なぁに、ここからは〈物理学〉で彼の歩幅は算出済なのだ。〈変装〉で足音を成りすまさせるなど容易、容易。

 帰りは私がバルコニーの方からそそくさと出て行けばいいだろう。……なんで対魔忍世界へ転生したが、私は一般人枠で忍者しているのかは未だ不明。でも深く考えたら負けな気がする。

 

 さーて、ラストスパート。

 この2階への階段を鹿之助くんの歩幅で——

 

「惜しかったわねえ」

 

 突然の年季の入った中年女性の声に、私も鹿之助くんもハッと正面を見る。

 正面にはところどころ鹿之助くんの顔のパーツとよく似た女性が——

 

「か、かーちゃん……」

 

 あれが鹿之助くんのお母さん……。表所はニコニコとしていて、一切の敵意を感じられないがだからこそむしろ恐怖が——

 背後で鹿之助くんの足による腹部のホールド力がキュッと強まるのを体感する。

 

「青空 日葵ちゃんだね? 五車学園でうちの鹿之助と仲良くしてくれているっていう」

「かーちゃ——」

「勝手にお家に侵入して申し訳ございませんでした! 私が鹿之助くんに無理を言って鹿之助くんのお部屋が見てみたいと無理を言いました!!」

 

 鹿之助くんを床に降ろし、即土下座の謝罪の型に入る。

 鹿之助くんが何か口を挟むが、上から覆い被さるように言葉に畳みをかける。

 

「えっ?!ひまりぃ!?違ッ!?か、かーちゃん!違うんだ!俺が日葵んちにお見舞いで遊びに行かせてもらったから代わりに俺が遊びに来いよって誘っ——」

「鹿之助?」

「はひっ!」

「家に帰ってきたんだから、まずは“着替えて”らっしゃい。かーちゃんは、日葵ちゃんとお話があるから、ね?」

「……はい

 

 土下座の型から、鹿之助くんのお母様に首根っこ掴まれ立ち上がらせられる。

 こちらの弁明や弁解を聴き入れてもらえる時間的猶予はなく……。

 

 私はテレビの音が聞こえる部屋へと、鹿之助くんは2階へと強制的に上がらせられる。

 

 

*1
3ⅿ24.6㎝




~あとがき~
 対魔忍RPGがとても五車祭前のバグ(フェス)で困ってます。
 無操作状態からの蹴り出しも早いので資料集にも転用できていない感じです。
 まぁ、コラボが終了したら改善大型アップデートが入るでしょう……。

 これを期に私もこの場をお借りいたしまして
 本二次創作側の原作の対魔忍RPGを見習った大型アップデートを閲覧者兄貴姉貴達にご報告を申し上げます。

【具体的な作業内容】
 本文:1話~100話(その先は未定)
 本文:日本語エキサイティング部の修正。
 本文:句読点の位置調整。
 本文:読みやすさ確認。
 本文:行間を現在の書式に統一(思いつきのため予定)
 表題:Episode0→Episode001(試験運用(思いつきのため採用未定))
 特殊タグ:一部機能していない・おかしな部分の箇所の修繕(特にスマホから見るとルビ付近の文章が全表示されていない、揺れ動くが超脈動。震えるが大震災)

 などの大型アップデートを予定しています。
 二次創作の方もEpisode200話を記念してIFコラボ(探索者)するからさ……。
 私もコラボ前に大型アップデートをぶち込むんだ……。

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