対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode200 『最愛の人』

 

 鹿之助くんの親元から正式な交際許可をもらって、濃いめのオレンジジュースで喉もしっかり潤して、化粧も直して、鹿之助くんが待つ2階の部屋への階段を昇る。

 

 でも鹿之助くんのお母様から、交際許可が降りることなんて想定してなかったからか興奮でいつもより心拍音が早いような気がする。

 

 脈拍を計るがやはりいつもより速い。

 

 落ち着け。

 

 ……落ち着け。

 

 落ち着け、私。

 

 まだ鹿之助くんから正式な返事は貰ってないんだ。

 

 くさぶき城での海水浴場でのあの言葉はプロポーズと言っても差し支えなかったかもしれないが、あれから少し日付が経って鹿之助くんも冷静になって、もしかしたら違った反応を返すかもしれないもの。

 

 フラれた時は。大丈夫。また親友の関係で、これからも、その先も、彼を護れる立場に居られたら私はそれだけでも幸せだ。

 

 

 

トントントンッ

 

 

 

「鹿之助くん?」

 

 襖を3回ノックして、声をかけて6秒待つ。

 

「ぁぁっ、あ、お、おう!日葵か!?大丈夫だったか!?」

「うん、鹿之助くんが焦ってたよりもすんなりと話は纏まりましたよ」

「ああっ、よかった~! 正直に話すと気が気じゃなくてさ……俺が様子を見に台所へ入ろうとしたら、かーちゃんは怖い顔して俺を追い返すし、日葵のすすり泣きは聞こえるし……」

「ごめんね、心配させちゃって。……でももう大丈夫。それで部屋に入ってもいいかな?」

「ぁ、お、おう! 大丈夫……って、やっぱ大丈夫じゃなくて……えっと、その、あのっ」

 

 彼の言葉を聞いていると心なしかトロンっと頭がぼやけてくる。

 

 無性にムラムラしてくる。

 

 直接会っているわけじゃないのに。

 

 少し先急ぎすぎじゃないか……?

 まだ返事をだって聞いていないんだぞ?

 何を考えているんだか……このスケベな私の煩悩は……。

 

「どうかしたの?」

「えっと、おれさ! 実はかーちゃんに日葵と会ってほしくなかった理由がもう1つあって……さ。あの……もしかしたら、外から来た日葵にとっては考えられないような——……そのふうまのところみたいな、仕来りみたいな家訓が俺んちにもあってぇ……さぁ」

「はい」

「あのっ、あの……っ、それが魔除けの仕来りでぇ……」

「あー……」

 

 いつも以上に動揺の声をみせる鹿之助くんの言葉に妙に納得する。

 

 でも私は別にそれが変だとは思わない。

 そんなことを言ってしまったら、釘貫家……否、そもそも私の一族全体もそういうところはある。

 

 

 釘貫家を含む一族全体の共通の仕切りと言えば、

 

 1つは〈改造した釘打ち機〉を幼少期から自分の身体の一部のように扱えるように叩き込まれること。なぜこのような技術が仕込まれるかについては、一定の特殊な知識を経て気付きを得るまで詳細は伏せられる。

 

 もう1つは、新たに生まれた子供の命名は初代当主——先祖が名づけること。これが主に鹿之助くんが話しているような当家における“忌み名”の魔除けの仕来り。

 

 そしてもう1つは——いや、今は私の一族の仕来りについては関係のない話か。

 

 

 とにかく、鹿之助くんのうちが魔術的な仕来りを伝統にしていると言われても、それに対して何か反感を買うような感覚はなく、むしろ理解と同時に合理性。そして、ふうま家に武家家来のような仕来りが残っているならば、まぁ……こんな古くからの建造物で歴史ある一族なら仕来りの1つや2つ普通だろうとは思う。

 自由恋愛の時代に交際許可が降ろされることも仕来りの1つだ。

 

「その、もしかしたら面喰らっちゃうかもしれなくて——」

「鹿之助くん」

「は、はいぃっ!」

 

 予防線に予防線を張って、こちらの衝撃を押さえようと言葉を繋げる鹿之助くんへ襖越しにピシャリと声をかける。

 

「おっしゃる通り、私も——最初は驚くかもしれません。でも、だからと言って、私は鹿之助くんを嫌いになったり、否定するようなことはしませんよ。……魔術的な仕来りであれば、私もいくつか心あたりがありますし——その魔術的な仕来りは、一般的には知られていないだけであって裏に重要な意味があったりするものですから」

ぁ……。……うん……ありがと、な」

「……。えっと、入っても良いですか……? 大切な話をしたいのと……その魔術的な仕来りについて興味が湧いたので是非ともお話をしてほしいのですが……」

「おう……いいぜ。……入って来ても」

 

 すこしナヨナヨとした彼の返事で下腹部が熱くなる。

 

 かなり熱くなる。

 

 鹿之助くんが私に挿入()れる側なのに、倒置法での挿入(はい)って来ても良いと言われて未開発のノーマルアナルがふやけるまで舐め啜って縦割れメス化させたくなってしまう。

 

 まだだ!まだだ!ステイ!ステイ!早い!気が早い!何を考えているんだ!

 

 内股になるな!人の家で自分の陰核を触ろうとするな!

 そもそも初手アナル開発に入るのは鹿之助くんから拒絶される可能性が高いって!

 A型肝炎ワクチンは入院中に接種はしていて私の準備は万全だとしても!

 こういうのは段階を踏んで、まずはアナルに指を挿入されることへの嫌悪感を取り除いてから舐めに入るのが最適解でしょうが!

 お前ッ!釘貫神葬!その段階を踏むという色欲の常識はどこに置いてきたッ!恋愛はアナル拡張と一緒でしょうが! 段階を踏め!段階を!

 

「失礼します」

「いらっしゃい……」

「」

 

 襖を開け、こちらを向いて座っている弱々しい鹿之助くんを見た途端に言葉を失う。

 いろいろ尋ねる前に頭が真っ白になる。直ちに襲い掛かりたくなる獣のような本能を理性(〈POW〉)で押さえつける。

 彼は——彼は——

 

「その、この服は、さっき話した仕来り、でさ。うち、男子は6歳になるまで女として育てられる風習があってっ。昔は、男児の死亡率が高かったから、それを避けるとかのまじないとかなんとかで……。お、おお、おれ一人っ子だからなのかさ……ほんとうは6歳で終わるはずだったんだけど、それが何故か今も続いてて……」

 

 端的に言ってしまえば、私よりかわいい。

 いいや鹿之助くんは私よりかわいいのはいつものことだ。

 髪を掻きあげて、両目ガン開きのまま後頭部を掻く。

 

 彼は、彼の姿は、女の子の姿だった。

 海水浴場でのように髪をツインサイドテールに結って、まるで新婚夫婦のベッドにあるかようなYesNo枕をYes側を向けて抱きしめ……ちがう。あれは鹿のぬいぐるみだ。

 

 煩悩で幻覚まで見え始めたか。

 

 耐えろ。

 私の〈POW(りせい)〉。

 

 ともかくデフォルメされた鹿のぬいぐるみを可愛らしく抱きしめて、黄色のインナーに、ピンクをベースとしたのセーラー服のようなフリルとかが付いたアウター、五車学園のスカート並みに丈の短い紺色のプリーツスカート、inゴスロリフリル付き。ふとももが大胆にチラリズム。縁にピンク色のリボンがデザインされた白のサテン素材のサイハイソックスを履いていた。

 プチプチプチっと切れちゃいけない理性の紐の繊維が千切れる音が聞こえる。具体的に例えるなら、乳歯を歯茎から無理矢理ひき剥がすときに聞こえる肉の裂けるような音。

 

「かーちゃんに見つかったら、普段着のこれに着替えるようにって、ぜってー言われるから、その会いたくないっていったのも、その、日葵に見せることになるから、見せる勇気がなくって、えっと、そんな感じで……」

 

 視線を左に逸らしながら、口元をかわいい鹿のぬいぐるみで〈隠す〉鹿之助くんに音もなく近づき、目の前で座る。

 

「へ、へへへ……」

「ふむ。鹿之助くんのうちは異性装(いせいそう)の仕来りが残っているのですね」

「へ? いせい、そう……?」

「今では女装とは呼ばれていますが、日本各地で執り行われた神事の一環や、魔物に子供をとられないようにと男児に女性の格好や振る舞いをさせる風習のことです。平安末期に描かれた『とりかえばや物語』とかでもその仕来りについて記述が見られています」

 

 キョトンとする彼をまじまじと眺めながら眼球にメスのこ鹿ちゃんを脳裏に焼き付ける。

 さらっと〈歴史〉知識をそっと披露して、私が鹿之助くんの格好について否定的ではないことを示し同時に襲い掛かりたくなっている私も同時に引き止める。

 やめろ!私!!!『メスの子なら襲い掛かってもいいよなぁっ!』とかオークみたいなことを言いだすんじゃない!

 外野も『女装は男にしかできない行為なのだから最も男らしい行為』であるだの、『男だろうが女の子として扱えば女のコになるんだよ。そういうもんだぜエヘヘヘヘ』だの、『鹿の子ぱんぱん腰ぱんぱん』『鹿の子ぱんぱんのリズムでピストンと深めのストロークとかどうだ?』『ちんちんがついているなら、それは男だ』『ついていてオトク』とか言い出すんじゃねえ!

 私の煩悩ども、今回の最大級の目的を忘れるな!襲ってもいいけど、それは絶対に全部片がついてからにしてくれ!

 片がついたら合法だぞ!全部!合法ッ!!ゴーホーッ!GO HOME!!!

 段階を踏んでから、コピ・ルアクに直腸プリンに大腸ミルクセーキ!何してもいいんだぜ!

 

 ヒャッホウッ!

 

「神事では元服前——つまり当時の成人前ですね。10歳から15歳前後以前の男子や男児に女装させる風習があったので、それと混ざっているのかな……? 鹿之助くんも今は16歳ですし、成人前ということを踏まえれば、今もその仕来りが継続していることにも頷けます」

「えっ?」

「ん?」

「あー……えーっと。それは変じゃない……って反応でいいのかな?」

「変なわけがないでしょう? 魔術的な儀式を重んじているのであれば、普通ですよ普通。むしろ古来の元服の年齢に当てはめず、現代の元服——成人の年齢に当てはめて仕来りを継続させているのですから『真似事とは異なるぞ』という道理に芯が通ってもいますし」

「えへ、えへへへへへっ……」

 

 あ゙ーっ!

 ダメだダメだダメだ! ポーカーフェイスで気取って長々と博識感を披露して気を逸らしてたけど、鹿之助くんのその眩しいえっちな照れる笑顔で全部台無しになった! 私の理性がもう堪えられないところまで来てる! 押し倒して犯したい! 膀胱に領海侵犯したいっ!

 

 でも私は人間!ケモノではないので理性で理性を抑えられるだろッ?!

 

「…………。んっ、んん゙っ」ゴクッ

 

 空腹時、目の前に豪勢な料理を出されたときのように生唾を飲み込む。

 ダメだってぇ! そんな顔したらァ! えへへっじゃないんだが!?

 

「……俺、やっぱ日葵と友達になれてよかったよ。日葵はふうまと同じでいろんなことを知ってるし……。最初は俺だけが、俺のうちだけがおかしいのか、からかわれるんじゃないかと思ってたけど、そんなことはなかったんだ」

「っ♥♥

 

 あ゚ッ! ちょっとィグゥッ♥♥♥?!

 今イッた?! ちょっアレ? 本格的に何かおかしくないか……!?

 感情……否、肉体の官能快楽が抑えられていない……? 今、確実に達したよな……?

 

「入る前に『驚くかも』とは言いましたが、『否定はしない』と話したじゃないですか」

「えへへっ。そうだったな!」

 

 心拍数が増大しているね? 毛細血管が集合している部位がほっかほか亭だね? 性器周辺がとても疼いているね?

 

 まるで……媚薬でも盛られたみたいな……? 媚薬、盛られたことないから……よ、よくわかんないのだけど……?

 高位魔族の蛇子ちゃんに首を絞められたときと、だいたい感覚が似ている気はする。

 すっげぇ、えっちな気分だな? これ、なんかおかしいな……?

 ちょっと私の理性くん気張ってくれる? これ異常かも? 異常。少し落ち着こう。これは過ちを引き起こしかねない。肉体関係はまだ早い。早すぎる。

 すげえ犯し倒したいけど堪えて。堪えろ。

 

「……。……鹿之助くん。私も、鹿之助くんとの関係についてお話したいことがあるのですが」

「ん? なんだ?」

「この前の、海水浴場で。鹿之助くん私になんて言ったか、覚えて……らっしゃいます?」

 

 私の言葉に、鹿之助くんの頬がほんのり朱色に染まる。

 

「あの時は、高位魔族の蛇子ちゃんの邪魔が入って、答えられなかったんですけど……」

「ウン」

「えと、ああ、えと……」

「……」

「今も、その、気持ち。って、変わって、ない、ですかね?」

 

 私が上目遣いをしたところで鹿之助くんのようにかわいらしさどころか、三白眼の強調。〈威圧〉感しか与えない目つきになってしまうが……。まさか自分からこの気持ちを切り出すなんて、こんなに大変だとは思わなかった。興奮と、本能と、理性が絡み合った電気コードのようにグチャグチャになって、呼吸が早くなる。

 でも鹿之助くんの気持ちとも、白黒つけなきゃと思って再確認をする。

 

おれと付き合って、今度は俺が日葵を護らせてくれって話……だよな?」

「……うん」

 

 鹿之助くんも胸のぬいぐるみをギュッと抱きしめながら、あの時——こんな私に投げかけてくれた質問を問い返してくれる。

 想定しているよりも流暢な彼の問いかけに、ぎこちなく頷く。

 

「日葵、俺のその気持ちは今も変わらないよ。たしかに今日も日葵のこと友達とか言ったけどさ。アイツのせいで答えが貰えなかったからだし……。それに…………」

「……それに?」

「それに最初は不安だったんだけど俺は日葵のこと信じたから、この家に招いたんだ。あの時は勢いで言っちゃった手前もあるんけど……いまの、今日のっ、日葵には、そのっ、もっと俺の事、深く、いっぱい、知ってもらいたい!って思って」

 

 興奮と本能と理性の三つ巴の大戦場に、破壊された情緒が濁流のようにすべてを押し流してしまう。照れ隠しの彼の笑顔が眩しくて。

 なんか“憧れ”についてとか、神村についてとか、陽葵ちゃんとの関係性とか、彼の心境について聞き出したかったこと諸々がどうでもよくなる。

 意識が聡明な冷静な気持ちになって『疑念なんかどうだっていい。彼の問いかけに応えよう』という真摯な感情でいっぱいになる。

 

「は、話が逸れたな。……で、どうなんだ? 日葵は、日葵の答えは……?」

 

 

 

 ……そんなの、あの時から決まっている。

 

 

 

 色々あって、迷いが生まれて、諦めかけたけど。道は決めた。

 

 

「はい。——お願いします。今度は護ってください。ずっと、あなたの(かたわ)らで」

 

 

 言い終えるのと同時に鹿之助くんの背中に手を回して抱き寄せる。

 

 彼が抱えている鹿のぬいぐるみが板挟みされることも構わず可能な限り身体を密着させる。

 

 彼の瞳に私が反射する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

——そっと彼の下唇から、ゆっくりと全体にかけて口付けをする。

 

——好きな人との初めてのキスは、息を止められる範疇で唇の上辺だけ重ねる。

 

——キスしている間。照れを隠すように目を瞑る。

 

——ぷるんとした柔らかい部分が互いの形を確かめ逢う。

 

——それから瞳をうっすらと開けて、固まっている彼をほぐすように。

 

——浅い類のキスだけど、深い愛情を込める。

 

 離れるのを惜しみながらも唇を離した時——彼の驚いてポヤ~とした顔の緋色の瞳に、私のしてやったりとしたノロケただらしのない表情が反射している。

 本来であれば、この役割は彼がするべき行動なのかもしれないが……今はまだ私が彼を護る立場にある。いつか彼がもっと強い男になるまで、その時まで私は待とう。

 

——だから今は、これでいい。

 

 




~あとがき~
 ちょっと早めのジューンブライド。


~生還報酬~
 正気度回復 1D10
 新クトゥルフ神話TRPG 選択ルール:幸運ポイントの回復(95頁)
 成功した技能の成長ロール
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