対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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28章 『格闘術の訓練』
Episode201 『組手の練習相手』


 

 ピンポーン!

 

 朝、玄関のインターフォンが鳴らされる。

 私が説明書(ルールブック)禁忌の呪法解析をしている時に限って、訪問客が来るこの現象は一体なんなんでしょうね?

 いつもなら青空日葵の母親が対応してくれるのだが、商店街へ買い出しに出かけていて不在なので私が代理で出る。

 ドアスコープから誰が来ているのか確認して……。

 

ピンポーン!

 

「…………」

 

 玄関には珍しい組み合わせの3人組がいる。

 いつものニコニコな陽葵ちゃんの姿と、隣には親密な関係になった興奮がまだ醒めていないかのような表情の鹿之助くんの姿。更にその背後には鹿之助くん>陽葵ちゃんほどの背丈をしたオカッパ髪の女の子が挙動不審に(うち)の外観を嘗め回すように見ている。

 陽葵ちゃんは痴女服(いつものやつ)ではなく、私がまえさき市でコーディネートした80年前の衣服で訪れていた。鹿之助くんはいつもの五車学園の制服……流石に2人の前で異性装の格好はできないよね。オカッパの女の子は五車町商店街で購入できる普遍的な露出度の低い衣服を纏っている。

 

ピンポーン

 

 ……多分、これ私が出てくるまで延々とインターフォンを押してくるだろう。

 陽葵ちゃんだけだったらお祭りの木陰での出来事みたいにエッチな行為が目的だったりするので無視するのも一手だが、親友と恋人が雁首揃えて私の家にやって来るのも気になる。

 今日は特に一緒に遊ぶ約束などしていないはずなのだが……。

 あっ。ドアスコープ越しに鹿之助くんと目が合った。

 

「はーい?」

 

 扉を開けて訪問者を出迎える。

 私が姿を見せると親友と恋人は『パァっ』と明るい顔になってくれる。

 

「日葵ちゃん!おはよ!」

「よっ!」

「おはようございまーす!」

 

 玄関の3人とも元気な挨拶をしてくる。

 陽葵ちゃんはさりげないボディタッチ、鹿之助くんはチョップするように手を挙げて、オカッパの子は満面の笑顔を浮かべて。

 

「おはようございます。朝から元気ですね。して、今日は遊ぶ約束はしていなかったと思いますけど珍しい組み合わせでなんのご用事?」

 

 すこし口調が強いような気がするが別に邪険にするわけではない。鹿之助くんが来てくれて嬉しいし、陽葵ちゃんだってやっとまともな服で来てくれたのだ。歓迎して出迎えたいのだが、訪問者としての組み合わせとしてはあまりにも珍しいものだから不思議な気持ちでいっぱいなだけである。

 

「ええと、実は夏休み明けに実技のテストがあるかもしれなくて……。日葵が良ければなんだけど、組み手の相手をして貰えないかなって思って今日は来たんだ」

 

 鹿之助くんが議題を切り出してくる。

 

「ふむ」

 

 左手を口元に当て右手を左肘につける。一通り五車学園から渡された宿題リストを見る分にはそのような趣旨は書かれていなかったが、期末試験に学生同士をぶつけ合う試験を課してくる五車学園のことだ。彼の話はありえない話ではない。

 ……ここで陽葵ちゃんをチラリと見る。『むふーっ』と相変わらず自信に満ち溢れ目をキラキラとさせているが、この表情は〈心理学〉情報から別に鹿之助くんを上手くあてがって私が首を縦に振りやすくさせたわけではないことが窺える。

 多分こっちはこっちで純粋に遊びに来た、もしくは同じ目的だけど鹿之助くんが誘ったとかそんなところだろう。

 鹿之助くんと私は初デート……といえば彼の家に遊びに行ったときの出来事ぐらいしかないが、今回は親友も混じっていることだし普通に遊ぶとしてカウントすればいいだろう。

 

「構いませんよ」

「やった!」

 

 彼の提案に笑顔で肯定する。

 彼も小さいガッツポーズをとりながら喜びを表す。

 

「ただ組み手の相手をするのは構いませんけど、どこで相手をしましょうか……。硬い土の地面に3人を叩きつけるのは遠慮したいですし、マット敷きの運動場とか柔道場のような施設が五車にあればいいのですが……」

「それなら公民館とかどうですかぁ? お望みであれば、わたしがちゃちゃっと一室の予約を入れますよ!」

 

 考える素振りをする私へ親友と恋人の背後にいた彼女が2人を割って入るようにひょっこり顔を出して進言してくる。右手にはスマートフォンが握られており、画面を私に見えるように突き出してくれる。

 公民館……。確かお祭り会場にも居た臼橋さんという方が管理しているという施設だっけ。

 

「お願いしてもよろしいでしょうか?」

「にひひっ! まかせてくださいセンパイ!」

 

 彼女はそのまま引っ込んでスマホで貸出予約の申請をし始める。

 私を先輩と呼ぶ彼女の容姿は、前述した通り日本人形のように綺麗に整えられたオカッパの髪型をしている。髪色はベースは深い紫色だが、毛先はバイザーゴーグルと同じく碧色をしていて、インナーカラーは韓紅色。3色に染め上げているオシャレさんな髪色だ。

 碧色のバイザーゴーグルを付けていて、その奥のぱっちりとした大きな瞳には蜂蜜色の虹彩が彩っている。私ぐらいの薄い胸のスレンダーな肉体だが、小さな肩と比較してお尻が大きなこと、声が甲高いことから女の子であろう。

 私は彼女と面識はないが、私のことを先輩と呼んでくるあたり五車学園の中等部の子あたりなのだろうか? 人脈的には陽葵ちゃんの友人とかなのかもしれない。明るく振る舞う様子が陽葵ちゃんと波長が合いそうだし。

 

「では私も準備を整えてきますので、3人はうちのリビングで待っててもらえます? 冷たい麦茶ぐらいなら出しますよ」

「サンキュー!」

「やったぁ!」

「わーい!」

 

 3人をうちに招き入れて、適当な茶菓子を出す。

 私は自室に戻って、研究中の説明書を隠して荷造りを済ませる。

 Tシャツにジャージなど普段とは異なる基本的な動きやすい格好と、稲毛屋で購入した引っ込むナイフを持っていく。これ等の玩具はノスタルジーすぎる一品に思わず無駄遣いしてしまったものが、今回の組手でうまい事活用できそうだ。あとは3人が怪我してしまった時用の応急手当道具もいくつか持っていく。あと現地の自動販売機で飲み物を買うと高くつくから、飲み物類も持って……と。

 彼氏が一緒なのに色気のない服装だが、陽葵ちゃんに感づかれたらきっと大変なことになるのは目に見えているので、本当に組手をしに行く服装を整える。

 新妻と恋人、浮気と不倫、先妻と後妻、正室と側室あたりで大騒ぎになるのが見える見える。

 

「準備が済みましたよ。行きましょう」

 

 リビングで涼んでいる3人に声をかけて、コップを洗面台で洗ってから公民館へと向かう。公民館への行き方は知らないので鹿之助くん達に先導してもらう形でついていく。

 

 

………

……

 

「ところでそちらの……私のことを先輩と呼んでいましたが中等部の子ですかね?」

「ううん、私たちと同年代だよ! 彼女は——」

綴木(つづるぎ)みことですっ! 青空先輩については噂や各種情報記録、ふうまセンパイや日ノ出ちゃんから色々聞いてます!」

 

 陽葵ちゃんの説明を遮る形で綴木(つづるぎ)みこと、そう名乗る彼女は先導しながらもこちらに振り返って小悪魔的な笑みを浮かべる。

 

「これはどうも。ですが同年代なら、なぜ先輩と呼ぶのでしょう? 別に同い年なんですから普通に“青空さん”とか“青空ちゃん”呼びでも構わないのですが……」

「それは青空先輩が同い年なのに個人での将来への資産形成に成功したり、1人で弓走さんや神村さんを素手で殴り倒した豪傑ぶりや、上原さんからの色々な情報を加味してそう呼ぶべきだと判断したからですっ!」

 

 彼女の言葉に苦みのある愛想笑いを浮かべつつ、片目を瞑って後頭部を掻く。

 ふと先行している綴木さんの隣の鹿之助くんの方へ視線を移してみるとどこかドキマギしているかのような表情を浮かべている。あれは女性に対する免疫がないことによるドキドキした様子ではない。何か綴木がボロを出さないか心配している顔……だろうか?

 

 もしくは私と恋人の関係になってから日も浅いのでまだ緊張しているのかな? 初々しくて、かわいいね。好きだよ鹿之助くん。

 今日はウカツに愛の言葉は囁けないけど、綴木さんを見つめた彼のドキドキした横顔をにんまりと眺める。でも鹿之助くん、彼女にいったいどんな情報を流したのかな?

 自分のボロが出ちゃう鹿之助くんかわいいね。

 

 そして陽葵ちゃんだね? 彼女へ私が株取引をしていることを喋ったの。でも利益を出していることについては喋った覚えないけど……? まぁでも陽葵ちゃんだし。ちょっと誇張して株について話しちゃったのかな? しょうがないね。陽葵ちゃんだもん。

 

「そういえば日葵ちゃん、この前のお祭りの時よりも乗り気だったけど今日は暇だったの?」

「ええ、まぁ、そんなところです」

 

 隣で歩を合わせながら歩いている陽葵ちゃんが私の顔を覗き込んでくる。

 内心で繰り広げる鹿之助くんへの愛のささやきは内心で収めながら普段と変わらない顔で彼女とも対応する。

 暇かどうかで尋ねられれば、今日も“やらなきゃいけないこと”があったので暇ではない。

 ただ親友が遊びではなく新学期での課題に困っているという事ならば、そちらを優先すべきと判断したことにある。それにこんな世界なのだ。私が組手ならば彼等に戦いにおいて重要な要素を伝えられる良い機会だと感じた。

 だから陽葵ちゃん問いかけに対して、笑顔で応じながら綴木さんと鹿之助くんの後ろをついていく。

 

「お祭りぃ!?もしかして五車町の夏祭りのことかっ!?」

 

 おっと? ここで鹿之助くんが陽葵ちゃんの発言へ異様に喰いつく。イントネーションが謎ジジイによる『お前あそこに行ったんか!?』というニュアンスでまるで禁足地に踏み込んでしまったばかりの食いつき方だ。

 

「そうだよ! 2人きりで演舞を見たり、屋台を練り歩いたりしたんだよ!」

「マジかよ……?」

 

 出し抜いてやったとばかりにドヤ顔を浮かべる陽葵ちゃん。

 鹿之助くんはそれを悔しがる様子もなく深刻な表情になっている。どうしてそんな反応になるのかな、鹿之助くん? 陽葵ちゃんと2人で夏祭りに行っただけだけど……。そんな深刻な表情になることなくない? しかも五車学園のお祭りに行ったのは鹿之助くんからの告白に正式に応じて、私達が仲睦まじい間柄になる前の話なのは知っているでしょう?

 炎のシバオラの舞とか、おぞましい水のスライムが龍になるのを見たり、雑にテキ屋の闇を暴いたり、あとは普遍的な屋台を楽しんだだけなのに。

 何か悪い事をしてしまった行為とは思えなくて、私は首を傾げる。

 

「あっちゃー。それは、やっちゃいましたね……」

 

 綴木さん!? 君も!? 君もそんな反応をするのかい!?

 もしかしてテキ屋の店主の扱いが雑だったのも、私が五車町出身者ではないのに夏祭りに参加しているとか、田舎特有のよそ者に排他的な理由が原因だったりする?

 

 でも陽葵ちゃんだけは、自分が何か悪いことをしたのかよく分かっていない顔になっている。陽葵ちゃん側を見る私に視線を合わせて同じように首をかしげるばかりだ。

 まぁ、何かしらの事情があったのだろう。今度その理由について聞いてみればいい。

 

 そうこうしているうちに、いつのまにか敷地内にグラウンド、体育館、図書館がひとまとまりになった建物の門戸を潜っていた。恐らくここが公民館なのだろう。

 

 

………

……

 

「おはようございまーす。訓練場を予約した綴木ですけどー?」

「おっ? いらっしゃ~い! 8番ブースを開けてあるからそこを使ってね♪」

 

 受付にて手慣れた様子で綴木さんが手続きをしてくれる。

 受付にある小窓から、演舞場で見かけた臼橋さんが顔をひょっこりと出して受付のテーブルに爆乳を乗せてにこやかに私達に手を振ってくれる。

 こちらも会釈を返して挨拶を済ませる。

 

「更衣室はこっちだよ!」

「はいはい。そんなに急がなくてもちゃんとついて行きますよ」

 

 陽葵ちゃんに手を引っ張られながら、鹿之助くんへ手を振りながら別れ更衣室に連れ込まれる。

 と言っても私は着替える必要などないのだが……。更衣室にはカギが刺さったままのロッカーがいくつも並んでおり、荷物も収納できるようなので不要な荷物は中に放り込む。

 私の目の前で陽葵ちゃんが見せつけるように堂々と着替え始め、綴木さんも運動着に着替え出す。

 

「陽葵ちゃん……」

「だってこれが一番、動きやすいんだもん!」

 

 2人が着替え終わるのを待ち、陽葵ちゃんはやっぱり痴女服(いつもの)を纏っていた。

 うーん、そのモノキニ型の痴女服は鼠径部の締め付けが無い分、足技は快適に繰り出させるだろうけど……。うーん……。

 

「えっ、日ノ出ちゃんその服は……」

対魔忍スーツ(いつものやつ)だよ!」

「そ、それはそうなんですけどっ」

 

 体操着に着替えた綴木さんが私をチラリと見る。

 私は充分見慣れているからツッコミはしないが、彼女の反応としては陽葵ちゃんのその服装に物申したそうな……でも私の反応も同時にうかがっているようなそんな様子だ。

 

痴女服(いつものやつ)ね。私は見慣れているのでもうツッコミもしませんけど」

「青空先輩っ!? この装b——服に見慣れているんですかぁ!?」

 

 綴木さんのすごく真っ当な反応に安堵する。

 ああ、良かった。『私の感性は何も間違っていなかったんだ』と自己肯定感が高められる。

 陽葵ちゃん、やっぱその痴女服は一般的に受け入れられてないってさ。それを着るぐらいなら今日の所は別に五車学園の制服おケツチラリズムミニスカートでも良かったと思うよ。

 

「今日の普段着を買うまでは、いつもこの服装で一緒に遊びへ出かけてましたから……」

「えええええっ!?」

「どうしたの? 驚くほどのことじゃないでしょ?」

 

 私のすべてを諦めた顔、陽葵ちゃんの何が悪いかよくわかっていない顔を往復するように、正面の綴木さんがキョロキョロと首を振る。

 陽葵ちゃん。驚くほどのことなんだよ。どうして君は服装に関する頭のネジが外れちゃっているのかな? しかも、その服装に関する頭のネジは確かデフォルトだったよね?

 私の記憶が正しければ求愛を始める前、洋館事件の際にはその格好でうろついていた覚えがあるよ。

 

「さて鹿之助くんを1人に待たせてしまっていると、心配させてしまう事でしょう。着替え終わったのなら運動場のほうに行きましょうか」

 

 一足先に更衣室から出ていく。

 続くように陽葵ちゃん。明らかな動揺をあらわにした綴木さんもくっついてくる。

 

 




~あとがき~
 今日だけ! 今日だけ、この時間にさせて!
 大正114年05月14日の記念を何らかの形に残させて!

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