対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode202 『陽葵ちゃんの相手と鹿之助くんの組手』

 

 公民館の運動場は、柔道場のような柔らかいマットが地面に敷き詰められた一室だった。

 部屋の大きさは公民館ということもあって小部屋ではあるが、ここならば3人との組手で地面に叩きつけることになったとしても怪我のリスクを最小限に抑えることができるだろう。

 入室した際に綴木さんが鹿之助くんの元に駆け寄って、陽葵ちゃんの痴女服(いつものふく)に対して色々尋ねているが……鹿之助くんも陽葵ちゃんが普段から痴女服を纏っていたことは知らなかったようで目を丸くして口は『凹』をひっくり返したような形にゆがめて心底驚いた顔をしていた。

 陽葵ちゃん……。

 

「さて組手の相手とのことですが、私はどのようにすればよいのでしょうか?」

 

 陽葵ちゃんの嘘が看破したところで、鹿之助くんへと向かって声をかける。

 私としては3人纏めてかかって来てもらい東京キングダムでの乱戦のように〈近接戦闘(格闘)〉術を高めたいのだが、今回は3人の成長が目的なので主体的な動きは3人に任せる。

 それに護身術として、3人には覚えて欲しい技術もあることだし……。

 

「えっと日葵には俺達の組手の相手をしてもらって……アドバイスをしてもらいたいんだ。どうすれば、その日葵みたいに強くなれるのかとか。日葵から見て俺達の動きはどうなのかとか」

「わかりました。では1人ずつとの組手をした方がよさそうですね。その方が1人1人の動きを確認できますし的確な指導もできるでしょうし」

「セ、センパイ? その様子だともしかして3人同時に相手するつもりでした……?」

「組手で何を目指すかによってはそのつもりでしたね。では始める前に準備体操をしましょう。予行練習なのに怪我をしてしまっては元も子もありませんから」

 

 ゆっくりとストレッチで手足の筋や腱を伸ばして怪我をしないように努める。

 実戦では身体を十分な準備運動をすることは現実的ではないが、五車学園の実技テストの予行練習ならば問題のない動きだ。

 

「まずは誰からやります?」

「はい!はい!はい!はーい!私から!私から!」

 

 問いかけへ間髪入れずに陽葵ちゃんが、ピョンピョンその場で跳ねながら大きく手を上げる。

 一番手に陽葵ちゃんが行くことに対して、鹿之助くんと綴木さんが心配げな目を私へと向けてくるが、実のところその申し出は非常にありがたい。私としても最初は陽葵ちゃんだと良いなと思いながら、彼女に熱い視線を送っていたところもあった。

 彼女とは組手とは別に何度も取っ組み合いをしたことがあり、その時に知り得た力の差から疲労が溜まった後半戦に持ち込みたくないことも1つの理由だ。

 

「じゃあ、陽葵ちゃんからですね。よろしくお願いします」

「お願いします!」

 

 武術のように一礼をしてから身構える。柔道の型のファイティングポーズを取る。

 陽葵ちゃんは左右の足を軽やかに持ち上げ、まるでチアガールがステップを踏むように私と対峙する。

 

「♪」

「……」

 

 ……加えて。

 私を犯し倒すときのようなギラリとした目つきに変わる。

 なんだか今回の組手に際して、彼女の魂胆が表情に表れている。もしや鹿之助くんに見せつけようというのだろうか? うーん、そういうのはよろしくないなぁ陽葵ちゃん。

 もちろん組手の練習相手として向き合うが、私はそうやすやすと鹿之助くんの前で組み伏せられるような失態を披露させはしない。

 ……陽葵ちゃんのことだから、鹿之助くんの前で私にエッチなことをしそうだし。

 

「よぉーし、いっくぞー!」

「はい!」

 

 開幕両腕を突き出して押さえ込もうとしてくる彼女の突進を左に抜けて〈回避〉する。

 陽葵ちゃんの攻撃の傾向としては、私を押し倒したい欲に駆られていることもあってかレスリングにおける組み技で押し込もうとする様子が顕著に見られる。

 レスリングと言ってもレスリングとは別に独学の格闘術が混じったかのような攻撃方法で、技量的には——正直な評価としてギリギリプロとして生計を立てられるレベル、訓練を受けた程度のアマチュアほどの技術力はある。しかし変な自信を付けて無鉄砲な行動に至ってほしくはないので彼女には直接的な技術力について告げるつもりはない。

 既に彼女に押さえ込まれると成す術もないことを私としても掌握していることから、彼女からの攻撃はすべて〈受け流し〉をするように立ち回る。柔道のように彼女のオレンジ色の袖を掴み、太極拳のごとく衝撃をわきへと逸らす。

 時にはそのムチムチとした足を活かした蹴り技も飛んでくるが、高位魔族の蛇子ちゃんに比べれば止まっているようなものだ。身を翻して〈回避〉する。

 

「なんで当たらないのー!?」

「なんででしょうね? それを考えるのも訓練組手の醍醐味ですよ」

 

「なんで一般人相手なのに当てられないのでしょう。日ノ出ちゃんが当てられなかったらわたしは絶対無理ですよ」

「俺も分かってたら日葵に組手をお願いしてないよ。しかも日葵のやつ、まだまだ余裕だぜ?」

 

 陽葵ちゃんの良いところはその力もさることながら、相手を倒そうという攻撃の苛烈さにある。高位魔族の一閃のような鋭さはないが、当たらなければ次。当たらなければ次。当たらなければ次。というように連続した〈近接戦闘(格闘)〉術の攻撃は良い方法だ。相手が魔族でなければ通用するだろう。

 また本人自身も常人ならば疲れてしまうような連撃であっても、彼女は息を上げることもなく私に根気よく攻撃を続けている。

 

「せいっ!」

「はい」

「とりゃ!」

「はい」

「そぉれっ!」

「はい」

 

 だいたいの動きと指導内容は掴めてきた。まだ初戦で、この後に2人も控えていることもあるので陽葵ちゃんとの組手も次の一撃でフィニッシュとしよう。

 

「やーっ!」

「はい」

「ひぃやぁっ!?」

 

 連続技に混じっていたいくつかの大技を見極めて〈応戦〉に移る。

 今回は大きな回し蹴りのチャンスを狙う。彼女が大きく足を振り外した時を狙って、彼女のレスリング技のように不安定になった片脚にタックルを仕掛ける。

 

「よっこい……しょっ!」

「ひゃぅんっ!」

 

 陽葵ちゃん本人の回し蹴りの勢いと私の全体重をかけた突進。そして性感帯に近い、彼女の大腿部を握ったことで可愛らしい悲鳴と共にあっけなく倒れ込む。彼女が後頭部を強打してしまわないように手を回す。本来なら〈組み付き〉して仕留めの型に入るところだが、私は彼女に力で及ばない。

 性行為における対面片足上げ立位・Y字片足上げ対面立位を寝技として展開。押し倒す魂胆どころか押し倒されてしまった状況(こと)に呆気に取られている隙を狙って、喉仏に親指を押し当てて急所を取る。

 

「勝負あり、ですね?」

「は、はぅ……っ」

 

 顔を真っ赤にして、負けたのに何処か嬉しそうな陽葵ちゃんからゆっくりと離れる。

 女に興味はないが、陽葵ちゃんの太腿はかなりムチムチして太く掴みにくかった。でもそんなに筋肉はついていなかったような……? 何をしたらあんなに健康的な美足になるのか教えて欲しいぐらいだ。

 

「えーっと、では忘れる前に総評と行きましょう」

「どうだった!?どうだった?!」

「まず陽葵ちゃんが繰り出す連続攻撃ですが、相手に休憩の暇を与えないとてもよい連撃だったと感じました。そしてその連撃を続けることができるだけの体力。組手を行う上で切っても切り離せないスタミナの要素ですね。陽葵ちゃんの場合は他の人よりも多く感じましたので持久戦では無類の強みになると思います」

「えへへ……そうかな?」

「ええ。短期決戦だとしても連撃でついていくことができるので、最終的には持久戦に持ち込めるのは良いことだと思いますよ」

「褒められちゃった」

 

 陽葵ちゃんの顔がデロデロと目尻が垂れ口元が緩んだ心底嬉しそうな顔になっている。また私が普段する仕草のように後頭部をポリポリと掻いている。

 

「ただ、そうですね。私と対峙しているから、という点も考えられますけど力技で捻じ伏せようとしたでしょう? あと押し倒すことにも固執してましたね?」

「……バレちゃった?」

「はい。と言うか、いつものことですし。あれは、そうですね……。そもそも相手に見切られていることが判ったなら戦法を変えましょう。何か目的があって押し倒す必要があるのなら、相手が気構えている状態では捻じ伏せるのにはうまくいかないと思います。ですので力で捻じ伏せたい場合には相手の体幹をまずは崩しに行ってみてください。きっと良点である連続攻撃はその補助となるはずです」

「日葵ちゃんのそういう、全部わかってたけど真面目な時は受け止めてくれる包容力大好き」

「はいはい」

 

 鹿之助くんがいるけど、今日も平常運転の突然の告白は適当に流す。

 トロけた色気むんむんな顔で言われても、なびかないからな?

 もう私には鹿之助くんがいるし。陽葵ちゃんは大切な親友だけど恋人にはできない。

 残念ながら男が好き。バイセクシャルでもない。諦めて。

 

「改善点はまだありますよ。あとは大技とかもですね」

「大技も駄目だったかな?」

「駄目ではないですよ。敵の体幹に通じるのですが、あれはトドメで使ったほうが良いです。崩してからトドメ。今回は私が陽葵ちゃんを組み伏せた時のように大きな隙が生まれてしまうので、ある意味では相手が陽葵ちゃんを捻じ伏せるときのチャンスとなってしまいますから」

「おお~っ! 八津先生と同じこと言ってる!」

 

 目をキラキラさせながら、解説する私に喰いつくように顔を近づけてまるで初めてテレビを見た子供のような目で感動した様子を見せてくる。

 

 えーっと……。

 

 八津先生って誰だっけ……。

 八津先生……八津先生……。

 

 あっ、紫先生(ゆかりん)のことか!

 

 紫先生(ゆかりん)にも同じこと言われたなら話は早い。先生が教えてくれた内容と一致しているなら、それは弱点ね。

 これから直して、夏休み中に克服しようね。クラスメイトに一皮むけたところを見せつけに行こうね。

 

「と、陽葵ちゃんはそんなところです。さて次はどちらが組手をしましょうか?」

「じゃ、じゃあ俺!」

 

 一通り解説が終わって、部屋の隅で見取稽古をしていた2人に視線を送る。次はどちらでもいいので漠然とした視線で見つめたつもりだが、割合的には鹿之助くんの方が長かったかもしれない。

 

 先に鹿之助くんが元気よく立ち上がったので陽葵ちゃんと交代してもらう。すれ違い様に陽葵ちゃんが私と組手についての情報を鹿之助くんに言語化して伝えているのが〈聞き耳〉でわかるが、とてもいい行いだ。相手への情報共有と情報収集は戦闘では常に欠かせないこと。

 あとで陽葵ちゃんを褒めなければ。

 さて二人とも私と陽葵ちゃんの組手をぼんやりとした表情で眺めていたが大丈夫だろうか?

 

「それじゃ、鹿之助くん。よろしくお願いしますね」

「お、おおおう!」

 

 こうして鹿之助くんと対峙するのは、初めてだが手加減しつつ様子見に入ることにする。

 彼の戦闘スタイルはどんなものか分からないため雷家流の型を……いや、あの構えは不気味すぎるな。恋人にドン引きされたくないし、神村にやってみせたような某黎明卿のように腕を大きく横に広げたフリースタイルで行こう。

……ところで声が震えているが、そんな調子で組手ができるのだろうか? 彼の構えも何処かへっぴり腰で歯を食いしばり、眉をひそめながら立ち向かうだけで精いっぱいとでも言いたげだ。

 でも私も必要以上に手加減をする気はない。彼が恋人だからと言って必要以上の手加減は彼の自尊心を傷つけることになるし、彼のお願いを無下にすることにもつながる。

 

「いい、い行くぞぉ!」

「はい!」

 

 彼は私の周りを素早く回り始める。機敏で良い動きだ。

 正面、側面、背後、側面、背後、側面、正面、側面、背後。

 小柄な身体を活かした規則性もなく翻弄という意味合いでは素晴らしい。しかし翻弄だけでは相手は倒せない。

 

「わぁーっ!」

 

 背後からの攻撃……!

 

「よっと」

 

 いつかは仕掛けてくるとは思っていた為、彼の右手側に身体を逸らして、彼の左隣を悪代官によって帯回しをされる芸者のようなステップで〈回避〉する。

 攻撃がすっぽぬけたところで再び翻弄の作戦に入って来る。

 おや?おやおや。初撃を回避されて焦ってる。焦っている表情ですね?

 私もそんな彼に……すこし意地悪してみたくなってしまった。顎を少し引いてニヤリと笑いかける。

 

「♪」

「ぅあ……」

 

 彼の翻弄のステップに合わせて壁側に寄ってみる。

 さて、これでは背後は回り込めなくなってしまいましたね。この状態からどうやって私と戦いますか?

 僅かな希望のある背後を防がれて鹿之助くんの表情が分かりやすく絶望で満たされる。

 これで背後からの奇襲できないですね。奇襲できないですねぇ?

 

 さぁ、どうします?

 

「うっ、えぇい!」

 

 我武者羅な正面からの攻撃。

 やけくそな捨て身の特攻技。しかも両手をぐるぐると風車のように回転させて、かぁ~ッ! その攻撃を現実で見る日が来るとは!

 

 かわいいねぇ!

 

 でも攻撃手段としては理に適っている。手を振り回す行為自体は、相手に捕まれる危険性を同程度の体格の者であればある程度、防ぐことが可能になる。魔族には通用しないが自分の大きさの人間相手なら十分ではある。獣にも通じるだろう。自然界において自分を大きく魅せること、ディスプレーは強さを誇示する行為として一般的だ。

 例えるなら、レッサーパンダの威嚇のポーズ。

 

「♪」

 

 抱きしめたくなっちゃう本能を抑えて、彼のぐるぐるパンチ1発目は横に飛びのいて〈回避〉する。

 

 そもそもこれは私のいじわるによるものだ。実際の組手では壁を背後にされて攻撃手段が封じられるということはそんなには無いだろう。

 これは私のいじわる。

 鹿之助くんの可愛い一面を海馬に収めるためのね♪

 

「あぁん!もぉう!」

「♪」

「あまりジロジロ見るなってぇ……う、うぅ……」

「これは観察です。鹿之助くんが一体どんな技を持っているのか、見極めないと。陽葵ちゃんとはいつものことなので手の内は掌握していますが、鹿之助くんとの組手は初めてですので。アドバイスをするにはまずは相手のことを知らなくてはならないですからね」

 

 いいねえ。ニヤける顔が止まらないね。

 

「なら、これはどうだ! とぉう!」

 

 再び大ぶりの〈こぶし〉による攻撃。

 なるほど、鹿之助くんは攻撃に繰り出すとき左の足首で地面を踏みしめて攻撃を繰り出すようだ。

 

 そしてこれは個人的な興味。

 過度な手加減や別のやましい理由があるわけではないが、〈回避〉行動もとらずに一発殴られてみる。

 

 

ボグッ!

 

 

「ア痛っ」

、当たった……?」

 

 殴られた場所は脇腹だったが、そこそこ痛かった。

 彼の体格からそんな力はないだろうとタカをくくったのだが、そんなことはなかった。普遍的な体格の人間から殴られた程度から徐行している自動車に撥ねられる程度には痛い。

 だが重症になるほどの威力はないので、何発も殴られたら私といえども気絶してしまうだろう。

 攻撃を当てたところで彼の足も止まる。そこで足を止めると私の反撃が届く範疇であるが、私は今の攻撃に怯んでしまい身動きが取れない。

 〈スタン〉状態に陥る。

 

 




~あとがき~
 対魔忍RPG今日も箱イベ走ってます。
 今回実装されたキャラは、結構システム的なキャラ付けでいいですね!
 この箱イベの間にもっと、教員だとか異能系の術者の2人目とか出してほしいです!

 Rの万華ちゃんは陰遁と陽遁とで、陽葵ちゃんと同じ陽遁使いだし、
 HRの館石先生は、五車学園内の数少ない教員+メンタルケア(津島先生と同タイプ?)要員だし。
 配布SRの“つくも”ちゃんの情報欄には対魔忍上層部からはちゃんと見抜かれているとあるので、オリ主もいずれ視察に来た上層対魔忍には「?!一般人が混ざっているが!?」みたいな反応が実現できるんですね! 楽しみです。

~アップデート~
 私のやる気スイッチはどこにあるのでしょう?
 1/20しかアプデしてません。

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