対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「く、ふっ……や、やりますね……鹿之助くん」
殴られた部位を押さえながら、よろけるように後ずさる。
追撃が来ない。その間に距離をとる。
「や、八百長だーッ!」
「アッ違」
私の反応に見学している陽葵ちゃんから迫真のヤジが飛ぶ。
い、いや、あの違うんですよ。彼の力量を計りたかっただけで決して八百長では……。
「青空先輩!上原さんが大好きだからと言って手加減するのはどうかと思いますっ!」
「!?」
綴木さんも止めてね!本人の前で私が鹿之助くんのことが大好きだとか言い出すのは止めてね! 大好きだし、この前から恋人の間柄になったんだけど! 精神攻撃はやめて! でも有効な手段! あとで褒める案件!
ところで鹿之助くんを見てごらん! 2人のヤジは私に向けてだけど、彼にも効いてるから! 今、八百長されて攻撃が当たっただけで残念そうにしているのと、私が大好きって単語に反応しちゃってる顔を赤らめて複雑な顔だよ!? あと完全に意識が私から綴木さんの方に向いちゃってるし!
あと手加減自体なら陽葵ちゃんにもやってるし! 全力でボコボコにしたらそれはもうアドバイスを渡せるだけの内容を知り尽くせないでしょうが!
「……外野のヤジがうるさいですが、鹿之助くん?」
「な、なんだよぉ?」
「大好きですよ」
「ぁ。ぁぅう……っ」
「ふふっ」
「……え、えぇい!もう!どうにでもなれぇ!!」
会話の途中での再び大ぶりの〈パンチ〉。
不意を打ったいい攻撃なのだが、完全に先ほどのヤジと突然の私からの求愛のせいで冷静さを失ってしまっている。顔は真っ赤だし、最初の時のような翻弄するわけでもない単調な攻撃。しかもまた左足のクセがある。
〈受け流し〉て脇に逸らしつつ、腕のレンジを活かしての彼の肩付近の襟を掴んでまるで社交ダンスでも踊るように正面を向かせる。
「ぁわぁっ!?」
そのまま抱きしめるように、愛の抱擁を交わすように〈組み付き〉押し倒す。
身体全体を使って柔道における抑え込みの技をかける。
「あはぁっ!」
「好きです。鹿之助くん。大好きです」
「ひゃっ、ひゃめろぉよぉ……」
30秒間マットレスの上で抑え込み無力化を行う。
抑え込みながら、他の2人には聞こえないような声の大きさ、かつ耳元で愛を囁く。鹿之助くんも力が入るどころかだんだんに抜けていく。
耳のふちを唇で挟み込んで甘噛みする。鹿之助くんの力がもっと抜けていく。
「……さてキマりましたね。柔道では一本です」
身長が140㎝しかない小柄な鹿之助くんでは、160㎝もある私を引き剥がすどころか、仰向けかつ片脚と片腕が抑え込まれた力が入りにくいでは成す術もなくなる。
しかも色仕掛けのコンボ技も相まってまともな抵抗もしてこなかった。
ゆっくりと上体を起こして、鹿之助くんも乙女のように顔を赤らめながら私の前で座り込む。
「さて、気持ちを正して鹿之助くんの総評と行きましょう」
「ひゃっ、ひゃい!」
寝技状態から起き上がった私に対して、彼はシュババッと効果音が付きそうな勢いで正座の姿勢を取る。
「まず序盤で展開してみせて下さった素早い動きで翻弄して攻撃の隙を狙うという行為は良いところでした。そしてあのぐるぐるパンチも良かったですよ。具体的に腕を振り回すことで相手から掴まれにくいという状況を見事に作り出すことができていました」
「ほ、本当か……?」
「勿論ですよ。鹿之助くんは私よりも体格が小柄なので、襟首をつかんでノックアウトしてしまおうと画策していたのですが……いやはや、あのように腕を振り回されてしまっては捕まえられませんからね。寝技に落ち着きました。それにこれは組手とは関係ありませんが、他にもぐるぐるパンチは獣に対して身体を大きくみせることで威嚇という形では有効打になってくるでしょう」
「えっと、じゃあ直したほうが良い部分は……?」
鹿之助くんは陽葵ちゃんのようにデレることもなく、そのまま悪点も尋ねてくる。
褒めちぎったところで素直に喜ぶ姿を私は見たかったかな!
「そうですね。いくつかあるのですが、全部伝えてしまってもよろしいですか?」
「そ、そこを直せば日葵みたいに強くなれるってことだろ? こ、怖いけど……知りたい。頼む、教えてくれ!」
絞るような声でも最後は力強い決意が表れている様子で、私も彼に対する忌憚のない意見を伝える準備が整った。
「まず私が翻弄に対する対策を練った時、焦ったり絶望的な表情を浮かべましたよね? あれは辞めたほうが良いです。あれは相手から見れば、鹿之助くんにとってどんな対策が有効打なのか自分から弱点を晒してしまっていることになります」
「あぁ……」
すこし納得したようなやっちまった感のある表情になる。
そんな素直な反応をしてくれるのが鹿之助くんの良いところでもあるのですが。
かわいいな 鹿之助くん かわいいね
素直な君が 好き好き大好き。
釘貫神葬 心の短歌 字余り!
季語は『鹿之助くん』なので完璧な短歌だ。
「次に私に攻撃を当てることができた時、立ち止まりましたね?」
「いや、え、あ、あれは日葵に俺のパンチが当たるとは思わなくってぇ……」
「『まぐれに驚いた』という事でしょうか? あれも避けたほうが良いですね。理由は2つ。1つ目は、相手から見れば鹿之助くんが攻撃を当てることに自信がないと言っている弱腰な気持ちが伝わってしまいます。2つ目はあのとき鹿之助くんは小柄なため完全に私の攻撃範囲にいました。急所に当たったため、私は怯んでしまいましたが——もし、仮に怯まなければ立ち止まった所に反撃を入れていたでしょう」
「うっ……気をつけます」
「他にも、追い詰められたとき何度かヤケクソになって攻撃なったのも良くないです。1発目は見切りましたけど、2発目は抑え込みに至ったので」
「はぃ……」
「えーっと、ですから……んー……」
鹿之助くんの改善点を上げるたびに彼の気持ちがだんだんに落ち込んでくる。
陽葵ちゃんの時のように最初に褒めたからと言ってその気持ちが持続するタイプではないっぽい。アドバイス方法を変えるべきだろう。
「よし。とにかく鹿之助くんは、体格差の不利は覆せない大きなアドバンテージを持っていますが、身軽に素早く動けることは良い事です! ですが身構えている状態での背後からの奇襲は集団戦でもない限り予見されてしまいます。初手から背後の奇襲を行う場合には相手に見つかっていない状態で。相手を翻弄して、攻撃を見極めて、相手が生み出した隙を見つけて攻撃する。そして攻撃を繰り出すときに左脚を捻って地面を蹴るクセを無くしましょう。それからヒットアンドウェイ戦法で攻撃を当てて即離脱ができるようにすればいいんです」
「頑張ります……」
頑張ってほしい。でもできることなら無理をしない範疇で頑張ってほしい。
あくまでも学園での実技テスト対策における組手に限った話ですからね。社会に出た時の組手(護身術)は後程伝えるが、この組手とはまったく別の方法だし。
「鹿之助くん。そんなに落ち込まないでください」
「でも、だってさ……」
しょんぼり鹿之助くんの傍に近づいて2人には聞こえない声で励ましに入る。
「今日の所は2人が居るので過激なことはできないですが、強さを差し置いても今日の君は可愛かったですよ。私の愛している人、護ってくれる人がこれから強くなってくれるのが楽しみで仕方がないです」
「うぅっ」
落ち込みの表情が、歯がゆいような嬉しそうな表情に変わる。
その調子、その調子と励ますように私も微笑む。
「それと鹿之助くんとの組手の最中で陽葵ちゃんと綴木さんも良かったですよ!」
「えっ!?」
「おぉっ!?」
それから見取稽古をしていた2人にも声をかける。
自分達が褒められるとは思ってなかったのか2人とも目を丸くして、口もまるくなる。
「陽葵ちゃんは鹿之助くんに私と戦うときのコツを情報共通して、綴木さんは私に対して精神攻撃を加えて来たでしょう? あれらの行為は鹿之助くんが未知の相手と戦う上で勝率を上げる重要な行動でした。ただ綴木さんの場合、言葉を選んで欲しかったですね。私に対して有効だったかもしれませんが、鹿之助くんにまで効果を与えてしまっては本末転倒です」
陽葵ちゃんは照れるようにデレ始め、綴木さんは何処か納得した表情を浮かべている。
「さて、最後は綴木さんですね」
「よろしくお願いしまーすっ!」
きゅんきゅん、悶々している鹿之助くんと入れ違いになるようにして、まるでウサギのような足取りで彼女が私の正面に立つ。
「そういえば、綴木さんは先ほど手加減がどうのとか、おっしゃっていましたよね?」
「んぇ? 言いました……けど」
彼女の言葉ににっこりとアルカイックスマイルを向ける。
「では今回は特別に手加減なしで組手の練習相手になりましょうか」
「え゙っ。い、いやぁ~っ? そ、それはぁ~? に、にひひ。あ、あっ、冗談がきついですよ~青空せんぱーい……」
「冗談だと思います?」
「あぅ」
見よう見まねではあるが雷家流の型で構える。
前世での友人、雷の話では対人近接戦闘における最強の構えらしい。その姿は仁王立ちになり、胸を張り、相手を睨みつけながら応援団員のように両腕を脇腹の横で引いて両手の拳を握ったかのような構えではあるのだが……1400sの戦国時代から一族に代々伝わる特別な構えらしく。確か名称は……雷なんとか甲冑術とかだったかな?
「く、組手のアドバイスは欲しいですけど、わたし運動は苦手なんでボチボチ進行でお願いです!」
「……」
彼女の言葉に笑顔と上目遣いで睨むような視線は崩さない。
彼女の組手の技術については何も知らないが既にアドバイスなら1つは思いついている。
精神攻撃を仕掛けるときは、次に自分が報復されない状況を作ってから精神攻撃を仕掛けることだ。その対策が練られていないのに精神攻撃を仕掛けるのは悪手でしかない。
「上原さん!日ノ出ちゃん!たすけてくださぁーい!青空先輩、わたしを殺すつもりです~っ!」
「いやいやいやいやいや殺すなんて人聞きの悪い。“手加減なしで”・“組手をしましょう”ってだけの話じゃないですか~。大丈夫です。葬る時は
「ひゃああぁぁっ!いやああぁぁ~~~っっ!!」
少し〈威圧〉的に脅しただけなのに見事に踵を返して鹿之助くんと陽葵ちゃんの方へ、下半身だけは機敏な動きができるキョンシーのように両腕を突き出して逃げて行く。挙句の果てに心の昂りが抑えられていなさそうな鹿之助くんの背後に隠れて、その背後からこちらの様子を涙目で窺う。
おまっ……! お前……ッ! それをやったら戦争……ッ! 戦争だろうがッ! 私の親友を味方につけようと画策した挙句、恋人を盾にするのは卑怯だぞ!
組手じゃなければ行動として100点! でも私の前では-5,000,000,000,000,100点!*1
許さねえッッッ!!