対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode205 『実戦用の護身術・殺法術』

 

「……ひまり。日葵がさ、俺達のことを心配して『逃げろ』って言ってくれるのは、俺はすごく、すごく嬉しいけどさ……。それでもやっぱり戦わなきゃいけないときってのは来るものだろ?」

「……」

「その、やっぱり日葵は五車町で過ごしてきた俺達とは考え方とか違くて『逃げろ』って言うのも、俺が言ったからとかじゃなくて、俺は日葵と一緒に過ごしてきたからで少しわかるんだけど……。ほら!紫先生の時とか、まえさき市の時とか、海辺での出来事とかでさ!」

「……」

「だからさ、俺は日葵の言う通り『逃げる』。でも、俺だって。俺達だって護りたいものだってある。その時は逃げるんじゃなくて立ち向かいたいんだ。大切な者を護るためもにさ」

「……」

「俺が日葵(それ)を守るには知識がないと護れないだろ? 頼むよ。日葵の知識が俺達には必要なんだ」

 

 代案の提案でうまく陽葵ちゃんを〈説得〉に至りそうな部分まで持ってきたのに……。

 それに普段は私に〈言いくるめ〉られる側なのに、ここぞというときはしっかりと私を説得する、説得してくる鹿之助くん……。

 隣で綴木さんがニマニマしているけど、ご明察ではある。実際ダイレクトに効いてる。恋人バフもかかっている。

 新クトゥルフ神話TRPGならばボーナス・ダイスが1つ付与。ハード成功あたりの結果だ。

 

 陽葵ちゃんはね。鹿之助くんは恋敵だと思っているだろうからね。私を悲しませない方針でうまいこと〈説得〉する鹿之助くんに対して、隣で露骨に面白くなさそうな顔はするよね。

 でもそれはさておき両目を固く閉ざして、片手でバリバリと後頭部を掻く。

 

「日葵」

「青空先輩?」

「日葵ちゃん」

 

 両目を閉じて堪える『ウムム……』という表情めがけて畳みをかけるように3人の声が掛かる。

 

「わかり、ました……」

「!」

「わかりましたけど、あくまでも緊急時の最終手段ですのでいくつか約束を飲んでくれたら教えます……」

「約束する!約束するよ!」

「さっすが、青空センパーイ! 頼りになるぅ~っ!」

 

 陽葵ちゃん? 一番不安な奴が、一番乗り気なの、一番懸念なんだが?

 まだどんな約束をしてほしいのか説明もしてないんだが?

 

「まずそもそもの話、実戦は心構えから違います。単刀直入に言えば“加害者・犯罪者になる覚悟”が必要です。つまり同時に日本国〈法律〉にも関与するに至ります」

 

 私と長い付き合いである鹿之助くんと陽葵ちゃんにも見せたことはなかった、非常に重圧感のある口調で3人に語り掛ける。

 だが私の真剣さとの度合いとは裏腹に、陽葵ちゃんも綴木さんも『軽く見ているのではないか?』という疑問が沸き上がるような反応をしている。鹿之助くんはピリッと静電気でも走るかのような表情になって、硬い表情で真面目に聞き入れているようだが、率直に言えば全員に憂慮が拭えない。

 

「ですから今から教える技は、習得しても他者に自慢しないこと。また他言無用にすること。緊急時のみに利用すること。学園での組手では使わないこと。使う相手はよく選んでから使用すること。……約束、してくれますか?」

「する!する!」

「約束しますっ!」

「わかった」

 

 うーん、教える手前で見れば

 やっぱり陽葵ちゃんが一番、気がかりだ……。

 綴木さんは調子さえに乗らなければ……? いや……でもな……。

 鹿之助くんは一番落ち着いているものの、彼にこの一線を越えることができるかどうかは甚だ疑問である。

 それ私の戦闘経験から当てはめてしまえば、彼は綴木さんと同じで――

 

「最初に……実戦を見通した指導なら、それぞれの戦闘スタイルを画一してそれを扱うことが第一優先です。組手をした限り陽葵ちゃんは近接戦闘を行っても問題ないでしょう」

「やった~っ!」

 

 私の言葉で陽葵ちゃんは万歳をして、〈跳躍〉しながら両足を曲げつつ高く飛び跳ねて喜ぶ。胸部についた2つの乳房がバルンバルン揺れる。

 

 あのね?

 正直に言えば、()()()()一番に逃げて欲しいんだけどね?

 

「ですが、鹿之助くんと綴木さん。2人は実戦では組手という概念を忘れてください。ハッキリ言います。あなた方には近接戦闘、もとい組手は厳し……いえ、無理。です。不可能といっても差し支えありません」

 

 キッパリと否定から入る。

 鹿之助くんは完全に否定されて絶望に駆られたかのような顔になってしまった。

 一方で綴木さんは——完全否定に対してそんなにショックを受けてはいない。いないものの、心の何処かでは分かっていたような顔をしている。

 

「で、でもよぉ……。それじゃ、いつまでたっても俺の大切な者を守れないじゃんか」

 

 弱弱しくもそれらしい反論はしてくる。

 それはそうだ。数分前の話では大切な物を守るために〈知識〉や技術を教えてくれという願いに応じたはずなのに、門前払いを受けたのだから。

 

「とは言ってもですね……」

「話が違うじゃん……」

「えーっと、弁明しておきますけど。2人とも格闘術――ああ、護身術に関する技術的な面で無理と言っているわけではありませんからね?」

 

 一言、断りを入れるように釈明する。

 

単純(シンプル)に体格差です。陽葵ちゃんは私と同じぐらい、ちょっぴり大きいの身長なので、一定の体格の相手にすることはできるかもしれませんが……」

 

 陽葵ちゃんに視線を向ければ、鼻息を荒くして胸元でガッツポーズを取りながら自信満々の表情を浮かべている。

 

「2人は小柄なので、実戦を想定する場合は前提条件・スタート地点から違うんですよ」

「に、にひひ……。そ、そう、で、ですよね~?」

「ええ。だから、もっと実戦を想定しつつ別のことに特化した方がいいでしょう。鹿之助くんなら腕力があることは判明したので遠距離から〈投擲〉物を投げる——それこそ〈爆破〉物で一網打尽にするとか」

 

 上に視線を持ち上げながら実戦用の最適解を伝えてみる。

 しかし自分が無茶苦茶なことを言っていることに気づき、ハッと我に返る。

 鹿之助くんは一般人だぞ? 一般人の学生に〈爆破〉物を進めるのはおかしな話だ。

 でももっと彼が〈物理学〉や〈化学〉の科目に興味を持ったとしたらいずれは作り方を知る機会もあるだろう。だがそれは今の段階ではないし、そこまでやる必要はどこにもない。

 実戦時、彼は『遠方から〈投擲〉物を投げて暴漢相手の隙を作る』それだけで済む話じゃないか。

 別に殺傷力のあるものを投げなくても自作の閃光手榴程度でいいのに、普段から扱っているものがパイプ爆弾のような簡易〈爆破〉物の弊害からか口が滑りすぎた。

 

 慌てて鹿之助くんに視線を合わせてみると、彼は私の顔を何処か夢見心地・他人の空似でも見てしまったかのような幻覚でも見ているかのような驚いた顔でこちらを見ている。

 そうだよな~! 普通はそう思うよな! 私は何言っているんだろうね?

 私の馬鹿。いきなり〈爆破〉物は話が飛躍しすぎだろ。本当にバカ。

 

「〈爆破〉物なんて現実的ではありませんし、やりすぎです。ごめんなさい、忘れてください。〈投擲〉物、閃光手榴弾方面などで考えていきましょう。——ええと」

 

 ごまかすように綴木さんの方に視線を向ける。

 

「つ、綴木さんは運動以外では何が得意なのでしょう?」

「わたしはハッキングですっ! 電脳戦、精神戦ならお任せあれ〜!って感じです!」

 

 おわぁ……。

 一気に陽葵ちゃん程ぐらい心配になってきた。

 

 そっか。

 ハッキング。ハッキング。ハッキングというと〈コンピューター〉系統が得意なのね……。

 

 あー、うん。

 

 ハッキングできることは素晴らしいけど……。そういう犯罪行為を自信満々げに堂々と大っぴらに話すのはちょっと……。

 そういうことは他人に自慢できる話ではないかなぁ? せめて私と2人きりだとかにしようね。公で話しちゃうのは……まだまだ幼い一般的な学生さんだなぁと思う。

 

 わかる。気持ちはわかる!

 それぐらいのお年頃は他の人に認めてもらいたい一心だとか、自己顕示欲の抑えが利かなくて武勇伝として話したくなっちゃうよね。私も既に通過した身だから気持ちとしては分かる。わかるんだけど……! ダメなんよ。そこは暴露しちゃダメよ?

 私も鹿之助くんに名簿帳解体ショーを見せつけたこともあるけど、2人きりの秘密としてみせたし、本当に露見したら大問題になる行為(ペットボトル爆弾・パイプ爆弾(未完成)生成、教卓に対する応用が利く〈鍵開け〉行為、魔族への殺魔行為)は秘密裏にしているんだからね?

 

 ……ひとまず、私が知り得ている情報で彼女なら何ができるだろうか?

 思考を巡らせる。

 

「……」

「♪」

「…………」

「?」

「………………」

「……」

 

 沈黙の間に嫌な気配を察知したのか、彼女の期待とトキメキの反応が無に還されていく。

 

「綴木さん、大変申し訳ないのですが——」

「えっ」

「実戦用の攻撃手段が思いつきません……」

「えぇ~っ! そんなのって無いですよ! 青空センパイ!?」

「ハッキングが得意ならば自ら危険に飛び込むでもしない限り、そもそも危機的な状況に陥ること自体が想定できないんですよね……」

 

 片目を瞑って、後頭部を撫でる。

 

「——ですから、そのハッキングという強みと、綴木さんの弱点になりそうな部分を踏まえた上で弱点を補う考案は出せます」

「おぉっ、何ですかっ!?」

「そもそも危機的極地に向かわないことも1つですが、〈変装〉技術や〈偽装(芸術)〉技術、〈コンピューター〉のプロテクト技術、〈隠密〉行動を高めるのはいかがでしょうか? 運動が苦手だとしてもこの技術を高めることで、そもそもの危惧している状況に陥ること自体を未然に防ぐことができます」

「ふむふむ。できるかわからないけど、せっかく噂の青空センパイが考えてくれた対策ですしできるところまでやってみますっ!」

「お願いします。もちろん、〈変装〉〈隠密〉〈コンピューター〉〈カモフラージュ〉技術指導は担いますので」

 

 夏休み中は基本的に実技テストに向けた組手がメインになるが、合間合間に即席で作れるギリースーツや、相手に監視されている状態で気づかれずに〈隠密〉する技術を伝えればいいだろう。

 さて残るは——

 

「…………」キラキラ

 

 出たな?

 太陽みたいに目を輝かせた最大級の問題児。

 

「陽葵ちゃんには普通に攻撃の手段の解説、もとい狙う部位の指導ですね」

「お願いします!」

「念のためにもう一度言っておきますが、習得しても他者に自慢しないこと。他言無用にすること。緊急時のみに使用すること。組手という枠組みでは絶対に使わないこと。使う相手はよく選んでから使用すること。……私に使ったら手痛いカウンターを叩き込みますからね?」

「もうっ!日葵ちゃん! 日葵ちゃんは私のことを何だと思ってるの!」

「“大切な親友(ひまりちゃん)”ですよ」

 

 一番不安な要素。

 でもこの世界でこんな私を好いてくれる大切で親友だから教える。

 大好きな鹿之助くんに熱烈な説得をされたこともあるけど。

 東京キングダムでの駒水ちゃんみたいな状況になってほしくないから。

 

「さて人型実体であれば、基本的な人体における弱点は正中線に並ぶ形で揃っています。天倒……ああ、頭頂部、眉間、鼻頭、人中、顎、喉、心臓、鳩尾、胃、女性なら子宮、膀胱、金的と言った次第ですね」

 

 自身の身体に触れながら1つ1つ人体の弱点部位を説明していく。

 彼女は目を見開きながら頷いて話を聞いてくれる。

 ……この部分だけ切り取ったら真剣な学生さんだ。

 

「打撃技でここを狙っていきます。ただし、いきなり狙うのは相手が身構えている以上、攻撃が通ることはそんなにないでしょう」

「さっきの日葵ちゃんみたいに?」

「そうです。ですので、先ほど組手でお話した連続攻撃で相手の体幹を崩して、ここぞとばかりに大技を必殺として叩き込めばいいというわけです」

「わかったよ!」

「……あと、もし人型の魔族と戦う事になった時のための急所もお伝えしておきます」

 

 一瞬眼球を射貫けば死ぬと口が滑りそうになるが、流石に素人の陽葵ちゃんが眼球を叩き潰せるとは考えにくい。

 彼女に預けていた引っ込むナイフを受け取り、自分の弱点に突き刺していく。

 

「このタイプのナイフは諸刃——ああ、ええと両方に刃がついているタイプの短剣なので基本的に刃は地面と水平、横になるように扱いましょう。ナイフを縦として扱うのは相手を切りつけるときのみです。でも正当防衛を成立させるなら一撃で相手を無力化させるに限るので、殺傷能力の高い刺突を繰り出した方がいいです。刺す場合には刃の向きが横の方が攻撃が通ります。狙う場所は、心臓、腎臓、肺、肝臓。この4つのいずれかで構いません。すくなくとも、肺と腎臓を傷付けることができれば確実に逃走時間は稼げると思います。狙いやすいのは腎臓ですね」

「刃物は扱ったことがないけど、念のため持っとくようにしようかな……? 物知りな日葵ちゃんの情報だから役立つと思うし?」

 

 えっ。

 ……あっ。

 うわっ、またやらかしたかもしれない。

 この世界の住人は遠出の外出時に刃物は忍ばせない……のかな?

 いくらこの世界の住人が急所を刺せば死ぬ貧弱体質だと言っても、これは指導方法を間違えたかもしれない。

 

「……いえ、逆に刃物を奪われて危機的な状況に陥りかねませんから先ほどの私の情報は忘れてください。打撃メインで考えましょうか」

「うん!」

 

 たいへん素直でよろしい!

 私の制止もそれぐらい素直に聞いてくれると嬉しいんだけどな!

 

「先ほどお話した正中線以外にも人間にはいくつか弱点があります。ここは一般的に認知されている弱点からは程遠い場所なので連続攻撃の際に織り交ぜていくと良いと思います」

 

 追加で致命には至らないが人体系の激痛をもたらす弱点部位としてつま先、膝裏、膝横、大腿部、下部肋骨(第11肋骨)肘、両耳も教える。

 

 陽葵ちゃんは説明に対して非常に納得したような様子を見せている。

 今回の指導の中ではないが、実際に彼女は実演を見ていることには見ている。

 きっと期末試験での神村と対峙時を思い出しているのだろう。

 私はアイツの膝を最初に破壊して、その次に利き腕の肘、つま先を踏みつぶし、ブラフ行為の顎を目掛けたハイキック、仰け反り回避で体幹を崩したところに大外刈りを叩き込んだ。あと頭部への執拗な蹴りも。あの記録を見ていたのであれば、学習教材になるのは間違いない。

 

 ……五車学園の生徒である神村にいくつか急所攻撃をしていることについては——

 神村も私を爆炎で焼いたり、私の顎を砕いたり、穴の開いたドラム缶みたいにしたから——ね。あれはむしろ使用すべきタイミングだったと思う。

 武器も使ってきて、あきらかに“組手”の範疇から逸脱した状況だったしね。

 

「えっと、今日は色々な事をお伝えしましたけど今日のところは組手をメインにしましょう。一度にたくさん詰め込んでも脳がパンクしてしまいますし、夏休みはまだありますし。まずは夏休み明けの実技テストに備えた組手をメインで行って。実戦については、それからでも」

 

 再び3人を運動場の中心部に集めて、組手の相手を再開する。

 今度は3人同時に相手取る形で私自身の〈近接戦闘(格闘)〉術の技術向上も目指す。

 

 同時に鹿之助くんと綴木さんは彼ら自身の弱点(クセ)についても理解を深めさせていく。自身のことをもっと知れたのならば、弱点を克服していき精度の高い指導が行えるに違いないからだ。

 

 ひとまず今日の所はお昼ご飯までを目安に指導を行なおう。

 午後は家に帰ってから3人へ理論上の組手や実戦用の資料を作って……。

 

 それから私的な研究を再開しよう。

 

 




~生還報酬~
 新クトゥルフ神話TRPG 選択ルール:幸運ポイントの回復(95頁)
 成功した技能の成長ロール


~あとがき~
 深くは語りませんが、原作のほうがなんか色々起きてますね……。
 私は引き続き本作を好きの範疇で綴ります。
 対魔忍×探索者のクロスオーバー作品は書いていて楽しいですし!
 対魔忍は好きなので、ね!
だがメモリー300で貯めた【正月】ゆきママの鹿之助くんの回想があの画質なのだけはマジ許せねぇ!!!!!
 早く立ち絵のカクツキとか元に戻してくれよー。シナリオを読むにしても内容が頭の中に入ってこないよー。

 さて明日の17時34分は本小説の投稿記念日(4周年)ですね。
 今年も記念話を投稿します。
 内容はTipsみたいな情報媒体、『これまでのあらすじ』のようなものになると思います。(3分割予定、投稿日時:6/12 17:34、6/13 18:22、6/15 21:16)

 ほかにも人物録とか、入手物リストみたいなものも検討してますが、どっちも未完成なので完成するか、250話目までには公開します。
 人物録については何を入れるか悩んでいます。活動報告でいい案があれば提案していただけたら嬉しいです。

 その次の日程は6/18の20:37を投稿を予定しています。

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