対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
状況は3人が釘貫 神葬こと青空 日葵の家に訪問する前の話。
Episode-Inside28 『組手の経緯』
数日前、日葵との新たな関係性となったせいで少しドギマギしながら、日葵んちを目指す。
今日はデートとか、遊びに行くとか、特別な約束はしていないけど俺としては、恋人とかそういう特別な関係や事象を差し引いて、夏休みの間に日葵にどうしても教えてもらいたいことがあったからだ。
そりゃ、くさぶき城の海辺で『日葵を護りたい』と伝えたし、その気持ちは今も変わらない。そうしたいとは思っているけど……。
現実的なところを言うと、対魔忍として男なのに忍法なんか全然前衛向きじゃないし。体術だってマシかもしれないけど男としてはそんなに強くないし。俺のことを何度も窮地から救ってくれた日葵と比べたら……俺は、蛇子みたいな前線で戦えるほどの実力がない。
もしかすると……対魔忍なのに、俺は一般人の日葵より弱いんじゃないか? そんな言葉だって脳裏をよぎる。
だから今日は初デートとかそういうのを抜きにして、日葵のように強くなるために格闘技を習おうと思っている。
『護りたい』って言った俺が、護りたい対象に格闘技を習うというのも変な話だけど……。学校の合同訓練でふうまの相手にもならない俺だって、きっと日葵に指導してもらえれば強くなれるかもなんて期待もある。
「ふんふん♪ ふふーん♪」
楽しそうな鼻歌が俺の進行上数歩先から流れてくる。
実は初デートが格闘技の訓練という状況に意識を置いてしまわないように、日葵が学校で最も仲良くしている日ノ出さんも誘った。
その期末試験での出来事を思い出せば……。
俺と同じで日ノ出さんも、日葵に対して強い憧れというか、変な話になるけど女性同士だけど特別な感情を持っているっていうか。どう言葉に表せばいいか分からないけど、とにかく日葵のことが大好きだ。
彼女の求愛の申し出に対して日葵はいつもあしらっているけど、きっと性別が俺と同じだったら、日葵は俺なんかじゃなくて日ノ出さんを選んでいたんじゃないかと思う。
日ノ出さんは俺なんかよりも強いし、積極的だし、距離感も近いし……。
「日ノ出ちゃん、上機嫌ですね!」
あと今回はもう一人、日葵に対して興味を持っている奴も誘った。
彼女は綴木 みことさん。
「ほぼ毎日、青空先輩と出かけているっていう情報がありますしそのせいですかね?」
日葵と直接的な面識はないけど、ふうまに対すると接し方と同じで同年代だけど日葵のことを“先輩”呼びをして慕っている。
たぶん、ふうまの時が忍法が開花してないのに独立遊撃部隊の隊長を務めていることに対して敬意を称したの先輩呼びだったから、もしかすると日葵が一般人のことも……?
でもアサギ校長先生から固く口留めされているから、対魔忍の中でこの情報を知っているのは俺とふうまと蛇子だけだから知らないよな? 知ってるわけないよな……。
きっと日葵に関しては転校してから色んな噂があるし、別の理由で先輩と呼んでいるのかも。
「やっぱり青空センパイと『デキてる』ってウワサもありますし、どうなんですかね~?」
綴木さんが俺と日葵との関係を見透かすような顔で俺の顔を覗き込んでくる。
「うぇ?!えぇぇっ!??」
思わず声が裏返ってしまう。
そんなバカな!?
俺と日葵が付き合っていることをどうして知ってるんだ!?
俺は数日前に付き合い始めたことは電子機器に書いたりして無いぞ!?
ふうまの話じゃ、忍法に開花してない代わりに“電子の申し子”って呼ばれるぐらいのハッキングと情報操作に長けている奴だって話だったけどさ!?!
どうやって俺と日葵が付き合い始めたってことに嗅ぎつけたんだ!? どっから?!
「……おやおやぁ? もしかして上原さん? にししっ!」
右手の指先を口元に近づけて小悪魔的な笑みを俺に向けてくる。
綴木さんは学校でも秘密の情報屋って呼ばれているところもあるけど、もうこんな情報も嗅ぎつけてるなんて! そんなの聞いてねぇよぉ?!
「な、なんで知ってるんだ……? 俺と日葵が……付き合い始めたってこと……?!」
俺の言葉に少しだけ綴木さんの面白そうに俺をからかうような目が少し丸くなる。でもすぐにニマニマと目尻が垂れ下がる。
「『デキてる』っていうのは日ノ出ちゃんのことですよ~?」
「えっ。………………へっ?」
「ほうほう、ほほぉ~う。青空センパイと上原さん付き合い始めたんですね? それは知りませんでした! 本人からまさかこんなビックニュースが転がり込んでくるとは……特ダネ情報つかんじゃいましたっ!」
しまった! 俺の馬鹿!
後悔したけどもう遅い。言っちまった……。
頭が真っ白になる。
「にししっ!そんな顔しなくても大丈夫ですよ~。この情報はちゃんと秘密にしておきますねっ!……じゃないと大ダメージで
綴木さんはそのまま視線を先陣を切った日ノ出さんへと向ける。
今の会話を日ノ出さんは聞いていなかったようで、上機嫌な鼻歌もピークに達したのかハミングを口ずさみ始めている。
曲名は知らないけど聞いたことはあることにはある。
俺が小さい時にじーちゃんとか、ばーちゃんが聞いていた曲だったと思う。
たっぽいたっぽいとか、ナーナーナナナ、ウルトラソウルッ!とラップのようなハイテンポな古い曲。あ、変わった。今度は『いろはにほへと』を繰り返すみたいな夕方の空をモチーフにしたオペラ調の歌だ。
「クインテット!」
「選曲が古いですよね〜。いまのは2013年3月末まで放送された音楽番組のオープニング曲ですよっ」
「……」
「それにしても五車学園の激熱な色恋沙汰では青空センパイは日ノ出ちゃんと、女同士の禁断の愛に発展するんじゃないかと予想されていたのですが……。寸差で上原さんが先に青空センパイのハートをゲットしたみたいですねっ! でも、まさか上原さんが……」
「な、なんだよぉ……」
日ノ出さんには秘密にするとは言ってくれたが、新鮮すぎる情報を手に入れたことで、とことんからかうつもりなのか俺と日葵の関係を弄ってくる。
「付き合い始めてから何日目ですか? 初デートはどちらに? 告白のセリフは? キスはしました? えっちなことは——」
「も、もぉ、や、やめろよ。べ、別にいいだろ? あ、そ、そうだ! 日ノ出さん!」
「んー?」
根掘り葉掘り俺と日葵の関係を聞いて来ようとする綴木さんから逃れるようにして、日ノ出さんの方に駆け寄る。
日葵のうちに着く前にどうしても話しておかなければならないことがあったためだ。
べ、別に逃げているわけじゃない。逃げているわけじゃないけど。大事なことだから話しとかなきゃいけないだけだし。
「そのさ、日葵に色々教わるけど今回は忍法を使わない方針で行こうと思うんだ。だから日ノ出さんにも忍法は使わないで貰いたいっていうか」
「なんでぇ? せっかく日葵ちゃんに稽古つけてもらうなら忍法の改善策ことも色々聞こうよ! 日葵ちゃんは優しいから手取足取り教えてくれるに違いないよ!」
日ノ出さんのよく分かっていない疑問になんて伝えようか頭を捻る。
端的に言ってしまえば、『日葵は一般人だから、対魔忍の情報は秘匿しなければならない』ってことに尽きるんだけど……日葵が一般人だって情報も秘密にしなきゃならないから俺は日ノ出さんに『一般人だから』と説明することはできない。
こんな時、日葵なら片目を瞑って後頭部を掻きそう。
「そ、それはそうかもしれないけどさ。俺達の忍法を使ったとしても未熟だから日葵に対して実力不足だろうし。日ノ出さんの言う通り忍法の改善案も大事だけど、俺も日ノ出さんも綴木さんも忍法よりはまずは組手で強くなることの方が、相手を打開する上で大事だろ?夏休み明けの実技試験小テストで組手はあると思うしさ」
俺の言葉に日ノ出さんはウーンと唸るように考え込む。
この誤魔化しで納得してもらわないと俺としては凄く困る。日ノ出さんを説得したら次は綴木さんに『日葵の前で対魔忍的な話題は振らないでほしい』ってことを誤魔化しながら伝えなきゃいけないわけだし。
「わかった! いいよ!」
「本当か!?」
「うん! 日葵ちゃんの弱点は分かってるし、そろそろ『分からせなきゃ』って思ってたところもあるから!」
「へ?」
「ガンバルゾー!」
両腕でガッツポーズと腕を伸ばすとを繰り返して、両手の手のひらにニギニギする日ノ出さんに、言いようのない不安が絡みつくけど……。
忍法を使わないことに乗り気になってくれたのであればよかった。
ところで、日葵の弱点ってなんの事だろう?
壊れた洗濯機みたいにガタガタ震えてた飛行機の話じゃないよな? 組手での弱点のことなのか?
俺は日葵の戦闘力に関しては、期末試験の神村さんとの一戦でしかみたことがないからどんな弱点があるのかわからない。
けど日葵にそんな弱点を知って、補助することができたら日葵を護ることに繋がれるのかな?
「それで綴木さんにも似たようなお願いがあって」
「任せてくださーいっ! 青空先輩には秘密にしておきますからねっ」
「え?」
日ノ出さんの説得も無事に終わったから、綴木さんにも声を掛けに行ってみればまるで分っているような反応にキョトンとしてしまう。
「青空先輩って『一般人』なんですよね?」
「!?」
「にししっ! 上原さんってホンットわっかりやすい顔をしますよね! でも私も最初知った時はびっくりしちゃいました! でも期末試験の時も他の対魔忍と大差なかったみたいじゃないですか、だから先輩って呼んでるんですけど!」
「ど、どこでそれを……?」
「そりゃもちろん色んなところで話されてますよ!最近だとヨミハラだとか!」
「!?!?!?!?!?」
ヨミハラ!? ヨミハラで!?
どうしてヨミハラで!?
何を!?
今度は何をやったんだ日葵?!
東京キングダムには行くって言ってたけど、ヨミハラに行くって言ってなかったよな!?
「それで~? そんな大物な一般人と付き合うってどんな感じなんですか?」
「ま、まだ付き合い始めたばかりだから、わ、わかんないよ……。そ、そんなことより、な、なんでヨミハラで日葵の話が……」
「詳しくはわかりませんけど、みことさんの情報網レーダーによれば東京キングダム無差別爆破大事件騒動の主犯に青空先輩が1枚絡んでいるらしいです。どれも誇張された眉唾情報ばかりですし、青空先輩は一般人なので、わたしとしては青空先輩に似た別の魔族の仕業だと思ってますけどねっ!」
綴木さんの推理混じりの言葉に頭を抱える。
何を…………現地調査と観光に出かけただけなのに、何をしでかしてたんだよ…………。
ホテルですごく警戒したような顔をしてたけど、あの時のアレってつまり……。そういうことだよな……。
「ぐ、具体的に教えてもらえたりしないか……な?」
「彼氏さんとしては気になりますよね~。……ここだけの話ですよ! なんでも多彩な魔族相手に工具と斧一本で一騎当千を繰り広げたとか、ノマドのトップであるエドウィン・ブラックに喧嘩を売ったとか、建物を放火したとか、魔族の血でレッドカーペットを敷いたとか、楕円形状範囲を建物ごと消し炭にする大爆発を引き起こした張本人だとか、空中に浮いたままノマド幹部の角をへし折るパワープレイをしたとか——」
ラインナップ化された情報を聞いてほっと一安心する。
たしかに大袈裟で無茶苦茶すぎる情報だ。
日葵は周りを驚かせるような無茶苦茶なことをやったりするけど、少なくとも俺だって日葵の隣で3カ月間一緒に過ごしているからわかる。
俺の知っている日葵は、噂の情報ような大それた無鉄砲で殺戮者かつ破壊神みたいなことをする奴じゃない。
シミュレーションルームの人質役の日葵’もテロリストの殲滅とかしてたけど、あれは機械装置の異常反応、バグだって機械技師の人が教えてくれたし。
そこは俺が一番よく知っているつもりだ。
日葵はそりゃトラブルメーカーの怖いもの知らずで破天荒で、天地がひっくり返ろうが俺たちの手に負えないような怪物が出てこようが、正面を向きながら笑い飛ばして奇想天外な方法で対処してくれそうな豪胆すぎるところもあるけど……。
ちょいちょい女の子らしさもあって、俺の知らないことをいっぱい知ってて、瞳の奥に不思議な煌めきがある目をしていて、でもちゃんとフォローしてやらないと破滅しそうで、1人にするとこっちが心配になっちまうぐらいに脆い一面もあるやつだって分かった部分もあったし。
「ドSで有名なカオス・アリーナの花形にSMプレイをして泣かしたという情報もありますね!」
……おう。
ここまでの話だけなら日葵の所業じゃないと思ったけど、それを聞いた途端に急な信憑性が高まったような……。
この前、高位魔族の女を泣かせたとか言ってたよな。
これは俺が知ってる情報が混ざって信憑性が高まっただけだよな……。
カオス・アリーナの花形がどんな奴か知らないけど、まさかまた高位魔族を泣かしたわけじゃないよな?
ちゃんと『逃げろ』って俺言ったもんな……。