対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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29章 『ひと悶着』
Episode206 『接触』


 別日。

 今日も今日とて3人を集めて公民館にて組手の訓練に付き合う。

 

 大人の付き合いであれば日程調整スケジュールに全員の日程を確認してすり合わせなければならないという一手間が加わるものだが、流石は学生。

 本人たちのやる気も十分あることも一因しているが、日程のレスポンスが早くすぐに日程が定まること定まること。

 むしろ公民館の管理人を務めている臼橋さんの方が、毎日に近い私達の公民館利用について来れない日。まさに今日のような日もあった。

 

 1週間のうち、ほぼ毎日9時~12時、つまり午前中いっぱいを組手の指導や実戦時の振る舞いについての講義に割り当てている。

 最近は陽葵ちゃんには動画を一緒に見ながら共に〈マーシャル・アーツ〉を習得しはじめようと動いている。

 

 簡易的な資料も完成したので近頃は座学も交えて〈知識〉の強化学習も行っていた。

 うれしい出来事として、3人とも私が想定しているよりも飲み込みが早く、かつ勉学に対しても興味を持ってくれたようだ。

 特に魔族が引き連れているデビルズドッグなどの異形のものに対する〈動物学〉や〈生物学〉の解説。ドローンやアンドロイドに対する〈科学(工学)〉の解説は目を輝かせて話を聞いてくれる。

 こちらが作成した資料とは別に、個人的に筆記用具まで持ち込んで手渡した資料に書き込みまでするほどののめり込みだ。

 前世で大学に通っていた際の教授たちの講義の方法。実体験をぼかして豆知識として説明を加えると通常の説明よりも生徒が食いつきがよくなるのだが、そのやり方は3人と相性がよいらしい。

 

 いずれの情報も夏季休暇期間時に開放されている五車学園の図書室にて吟味した情報を3人に伝えている講義にしか過ぎないのだが、彼等の反応を見る限り勉学が苦痛なものではなく座学で知識を増やすことがすなわち他の出来事との関連性を持つ楽しみを見いだせたようだった。

 

 教えている身として、これほど嬉しいことはこの上ない。

 3人の可愛い生徒のおかげで、私は〈図書館〉通いをすることで同時に東京キングダムで出会った魔族や魔獣の知識について改めた理解と性質について見聞を深めることができていることもそうだし、迫る脅威への対策は着実に練られているはずなのだ。

 私も同時にまだ見ぬこの世界における一般的な脅威について、情報を収集することができている。

 

「今日の組手はこれぐらいにしておきましょう」

 

 2~3時間ほど身体を動かして、滴る汗をぬぐいながら3人に声をかける。

 無理をして身体を壊してしまっては本末転倒なので長時間ダラダラ組手をするのではなく時間内でみっちり指導を行って技術の向上を図る方針を取っている。

 2~3時間程度であれば朝から始めて、昼からはそれぞれの自由時間を謳歌できるようなスケジュールになる。休日の部活動とそう変わらない長さだ。

 

「結構、動きが良くなってきましたね。陽葵ちゃんは体幹崩しに磨きが掛かってますし、鹿之助くんは〈回避〉行動をとる際の方向に変化が加わっていい感じです。綴木さんも最初に比べたら人体の可動域を活かした攻撃ができるようになって私としてはとても嬉しいです」

「にししっ! そうですかー?」

「ええ」

「ぐぬぬ……」

「…………」

 

 綴木さんは嬉しそうだ。

 されど陽葵ちゃんは不満足そうな顔をして、鹿之助くんは非常に難しい顔をしている。

 

「鹿之助くんと陽葵ちゃんは納得してなさそうな顔をしてますが、何か今日の組手で気になることでも?」

「むぅ。日葵ちゃんは私達に成長しているって言ってくれるけど、今日の組手でも日葵ちゃんのこと押し倒せなかったし……」

「うん。それは陽葵ちゃんに押し倒されたら大変なことになるのが目に見えてますからね。そりゃ私だって逃げますよ?」

「でもだからか強くなっている実感があまり湧かなくて」

 

 しょぼーんと言った顔になるが、今後とも私は手加減して押し倒される気はない。

 陽葵ちゃんはね、私を押し倒して色々えっちなことをするのが目に見えているからね!

 私の記憶上でも、洋館事件、入院生活、稲毛屋訪問、私服購入、夏祭りで私を抱いたもしくは抱こうとした実績がありすぎるからね!

 少なくとも5回もヤられたら普通は警戒するでしょう。

 

「そんなことないですよ。現に、陽葵ちゃんとの組手では、初回こそ〈受け流し〉で攻撃を逸らしていたのですが、ここ最近は〈回避〉一択で〈受け流し〉自体が厳しい状況にありますし」

「それはそうかもしれないけど……私としては日葵ちゃんから決定的な一本が取りたいんだもん!」

「ではもっと精進しましょう。そうすれば1本取れる日は必ずやってきますよ」

 

 励ましの言葉で不満足そうだった陽葵ちゃんの表情が希望的観測方向へと緩和される。

 

 まぁ、その1本が取れる日になったら組手の指導は辞めるがな!

 

 絶対に抱かれる。

 私が教えた〈近接戦闘(格闘)〉の技術が、組手ではなく私を抱く方向性へ悪用される未来しか見えない!

 

 せめて鹿之助くんがいないときなら、ギリ。

 鹿之助くんの目の前で抱くのは辞めて欲しい。私と鹿之助くんの脳みそがNTRでパーンッするから。

 そういえば鹿之助くんと付き合い始めたこと、陽葵ちゃんに言ってなかったなぁ……。どこかのタイミングでちゃんと伝えて諦めて貰わないと……。

 …………。

 ……諦めてくれるのか?

 その未来が予測できないんだが?

 

「それで鹿之助くんは?」

「うーん、日葵本人には聞いたことないと思うんだけど、どうしてそんなに強いんだ?」

 

 彼の素朴な質問に首をかしげる。

 どうして?と聞かれても、これまでクトゥルフ神話TRPGの世界線で様々なカルティストや神話生物、伝説の怪物、時には軍人と殺し合ってきた結果。自然に武術が身に染みつき始めたのだが……。

 そもそもこの世界の住人は誰も彼も、魔族までもが非常に脆い身体構造をしている。

 基本的に急所を狙って攻撃すればだいたいみんな簡単に死んでしまうし、私は強いわけではなく相手の特性を見極めて詰将棋からの一撃必殺で敵を葬っているだけにしか過ぎない。今回の組手でもそうだ。あとは相手にとってとことん嫌がることをするとか。

 前者も後者の内容に関しては鹿之助くんに話してしまったらドン引きされそうなので心のうちに秘めておく。

 ここは無難な理由でも説明しておこう。

 

「これは転校する前の話になるのですが、私の友達に(雷) (ともえ)ちゃんという友人がいたんですよ。あるとき私達は悪漢(神話生物)に襲われたことがありました。当時の私はまだ幼く悪漢に対して何も有効打を与えられなかったのですが、巴ちゃんは武術の家系の子だったので彼女に護ってもらったんです。以降、私がいま鹿之助くん達に教えてもらっているように、巴ちゃんに武術の指導をしてもらってここまで上り詰めた感じですね」

 

 良い感じのそれっぽい8割作り話の嘘をつく。

 もしここで(いかづち) (ともえ)と会いたいなど聞かれても五車学園へ転向してから疎遠になったとか、携帯電話の番号が変わって連絡が付かないと言った方針で話を広げない方向性に持って行けばいい。

 世界線が異なる以上、彼等が巴ちゃんに会えることはない。

 

「だからそんなに日葵は強いのか……」

 

 今の説明で鹿之助くんも納得できたようだ。

 難しい顔から険が取れたかのような顔になる。良い感じに誤魔化せたと確信に至る。

 

「その巴ちゃんという方に訓練してもらったら、私達はもっと強くなれるということですか?」

「そうですね。私は彼女に鍛えて貰ったので大元を辿ればその可能性も十分にあると思います」

「その人の電話番号とかって今も持ってたり……?!」

 

 綴木さんも食いついてくる。

 だが綴木さんの問いかけは既に想定済みだ。

 

「残念ながら……。巴ちゃんの電話番号が記載されたスマホは水没させてしまって、壊れてしまったんですよね。だから電話番号は覚えてなくて……」

「なるほど。それは残念ですね……」

「ええ」

 

 悲しそうな表情を作って旧知の友を懐かしむような、困ったような表情で誤魔化す。

 

「……んー?」

「なんですか、陽葵ちゃん?」

「今の携帯電話の話、本当かなーって」

 

ギクッ

 

 陽葵ちゃんの顔が訝しむ顔になっている。

 なぜバレた? バレるの早くない?

 

「……本当ですけど?」

「んー?」

「こわい、顔が怖いですよ陽葵ちゃん」

 

 上半身をまげて私の正面に回り込んでくる陽葵ちゃんから目を逸らす。

 そっぽを向いたまま片目を瞑って後頭部を掻く。

 

「…………」

「ともかく、なぜ私が強いのかについての話は以上です。そろそろお昼ご飯の時間ですよ。ここからは自由解散です。貴重な夏休みという長期休暇なんですから、訓練ばかりじゃなくて他の楽しい事にも使いましょうね」

 

 陽葵ちゃんから逃れるように更衣室へと向かう。

 でもまぁ、ピッタリと彼女は背後霊のようについてくるわけだが。

 

「スンスン」

 

 ……陽葵ちゃん?

 なんか追求が目的じゃなく、私のうなじのニオイを嗅いでない?

 

………

……

 

 適当に着替え、荷物を纏めて更衣室から離れる。

 自由解散宣言はしたものの公民館から家に帰るまでは陽葵ちゃんは私を家まで送ってくれるし、途中までは鹿之助くんも綴木さんも分かれ道まで同行してくれるのでいつもの学校の帰り道のような流れではあった。

 

「?」

 

 ただ、今日はいつもと違った。

 公民館の外に出た途端に鼻上までサイバーパンクファッションじみたカラスマスクですっぽりと覆ったガラの悪い男共に出待ちされており、瞬く間に半円状に取り囲まれる。

 どいつもこいつ等もまるでマフィアのように髪の毛をオールバックで固めている。脅しのつもりなのか腰には中型ナイフ相当の刃物が鞘に納められている。

 

「さがってください。目的は私です。……何か御用ですか?」

 

 不用意な自信がついてしまったせいで私の前へ出ようとする陽葵ちゃんと鹿之助くんを両手で制止して、公民館側に押しやる。

 それから睨みつけるようにガンを飛ばし男共と対峙して要件を伺う。

 こんな白昼堂々の蛮行ではあるが、一体だれが何の目的で接触してきたかは男共の顔ぶれを見れば一目瞭然だった。

 

「居るんでしょう? 二車くん」

「ああ、貴様とは一回話しておきたくてな」

 

 問いかけに応じるように男共が左右に分かれ、その中央から血濡れた髪色のアホ毛の目立つ、顔面の右半分を眼帯で覆った男が私の目前に現れた。

 水星の魔女に登場する初期のグエル・ジェダークみたいな顔しやがって。

 

 

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