対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「てめえは俺をどこまでコケにすれば気がすみやがるッ!!」
「コケにするつもりはないですけど、ここから私の土下座から許してもらうことはできますか!?」
「ああ、良いぜ!あの生意気な下忍を葬ってからならなぁッ!」
交渉決裂。
私の
怒涛の大太刀による突き攻撃は、刀の峰側の剣先を狙って弾いて弾いて、弾いて弾いて弾いて弾いて。SEKIRONINの如く大きく弾いた隙を見計らって、午前中の組手で使っていた運動着を素早く右腕に巻き付けて簡易的な防刃対策をする。
大太刀という重さ10kgもあるような刃付きの質量の塊で殴ってきている敵に対して細やかすぎる防刃対策になるが、しないよりはマシだ。
それに私の推測を大きく外れて、大太刀をまるで筋肉質な人物が戦国刀*1を振るうかのように繊細なコントロールでこちらを斬り付けてきたのだ。彼の筋肉からはそれができるようには到底見えないができている以上、対策を取らねば最悪死ぬ。
「ひ、ひまりっ!」
あーもーッ!!!!
入れ違いで今度は鹿之助くんが出てきた!!!
「お、おれは、う、裏口を封鎖して来たぞっ!」
でかした!
それはでかしたけど……ッ!
私、包囲される前段階で裏口から逃げろって鹿之助くんには伝えなかったけ!?
思い通りに動いてくれない親友と恋人に『もうなんかすげえ困る(語彙力喪失)』がそっちに視線を割いている余裕はない。
カッカしている二車の凶器から目を離す方が、よっぽど愚かな行為だ。
「あと、これぇ!」
ゴトンッ
何か重量のあるものが足元へ転がる。
視線の端にソレが映る。それは赤くて、円筒状の——
——消火器だ。
思うことは色々あるが、邪念として振り払う。
大太刀との打ち合いによってボロボロかつひしゃげたパイプ椅子を手放し、恋人から投げ渡された消火器を拾い上げる。いい重量武器だ。
だが消火器に付属している黄色の安全ピンは差されたまま。これでは内蔵された薬液は使えない。されど、11フィート(3.3m)先の距離で凶器を振り回す輩の正面で安全ピンを抜いて構え直す暇などない。
だから運動着を巻いた右腕を半ば犠牲する形で、二車の突きの剣戟を搔い潜り懐に入る。大太刀の峰側で殴られ腕が痛む。顔がゆがむ。
明日は青痣コース確定だが骨が折れなきゃセーフ、死ななきゃかすり傷なので痛みに耐えながら神村を追い詰めるに至った歩術で一気に距離を詰める。
「少しは、落ち着いてッ、くださいよっ!」
「うるせぇァッ!」
助走をつけながら頭に血が上っている二車の目元、目掛けて消火器の金属部位を叩きつけようと下から遠心力をかけて大きく振りかぶる。
だが二車も私の動きに合わせるように遠心力を加えた消火器の一撃を片手だけで軽々と防ぐ。
さすがに消火器を大太刀で斬り付けさせる誘導にはかからなかった。斬撃の切り口から内用液を浴びせるには至らなかったな。
されど構わない。
初手がうまくいかなかっただけだ。
連撃のつもりで、次打を狙いに行く。
現在ヤツは片手で大太刀を持ち、片手で顔面への消火器の鈍撃を防いで視界は遮られている。
かといって彼が防御のために展開する可能性のある足での〈キック〉での一撃は体幹を自ら崩し隙を露わにする一手である。
隙を突かれた弓走はどうなったか――彼はよく知っている。そしてアレを見ていれば私の次の手もわかっているだろう。これは一種の賭けに近い行為だが、わたしはどちらに転ぼうが構わない。既に詰めには入っている。
私の身長は162㎝、ドドン太郎は180㎝。顔面への攻撃は必然的に下から上に振り上げるものとなり、一瞬であれ下からの攻撃を彼は感知できない。
頭では理解できたとしても大太刀を片手で握りしめ、もう片手で迫る消化器による打撃を防ぎ、私の下半身への攻撃を退けられるならば大したものだ。
「落ち付けって!」
ガッ
「コヒュォッ!?」
消火器が掴まれたところでブツを手放し、私の奇襲を予期してか〈キック〉が飛んで来るもそれを右腕全体を犠牲にして私の左脚によるヤクザ〈キック〉が二車の股ぐらの大太刀へ突き刺さる。
股間プロテクターは着用してこちらの攻撃への備えは万全ではあったようだが、私の一撃の方がプロテクターの防護に
些細な一撃であれ、周囲の男性従者たちへにも波紋する痛みの想像力。
これは私が悪いとは思う。
攻撃が通った以上、金的は相当に痛いと見てわかる。
女子で言うところの堕胎パンチに通じるものがある。
若い女の子が尿意に耐え切れず失禁してしまったように、彼は顔面蒼白のまま片手で股間を覆い隠して下半身がガクガクと震えている。
生まれたての小鹿のように膝をガクガクと震わせてよろける。しかし転倒するには至らず。ただ内股気味に後ずさる。
映画『コマンドー』で股ぐらに斧を突き刺された敵兵士みたいになっている。
そのまま右手で握りこぶしを作って、ふうま君を『目抜け』呼ばわりしたツケの清算への追撃に入る。
前傾姿勢になって殴りやすい位置にある頭部に向けて、アッパーカットッ!
だが直撃は控える。あくまでもこちらの目的は戦意の喪失。
彼の眼球目前で寸止めする。
でも反撃の可能性を極限まで低下させ、落ち着いてもらうにはこれが一番だった。
ただこちらの想定と異なったのは、左手に握られた大太刀が未だに握りしめられたままであることか。
「コォ……」
「二車くん。……えっと、仰られた通り期末試験の件につきましては私が司令塔として作戦を展開した挙句、敗北したことは申し訳なく思っていることには変わりありません。ただ今日はハプニングは発生してしまいましたし、必要とあれば土下座はします。ですが今日のところはお互いに痛み分けということで引きませんか? あー、お望みとあれば学校集会とかでの謝罪会見とか……しますよ?」
落ち着かせた(物理)タイミングで、内股気味で
とても謝っている妥協案を提示している側の態度ではないが、ドドン太郎は何もできない。
彼は額から脂汗をタラタラと垂らしながら私を睨んでいる。よほど大太刀と2つの鍔への一撃が重すぎたらしい。
もう……二度と当主に成れないねぇ……。
その時は女の子になっちゃおうね。
Twinterのハッシュタグ #カマホモJapanese というタグがあるぐらいに現代において男の娘の需要は急上昇しているから、二車ちゃんもそっちに走ろうね。
いや、でも悪いのはレスバに負けてキレ散らかしたの君じゃん。陽葵ちゃんは私を庇おうとしただけだし、私も陽葵ちゃんと同じことは思ったけど3人の手前言わなかっただけだし。土下座もするつもりだったし。
その真剣とかいう物騒なものを振り回し始めたのも君じゃん。周囲の従者にもナイフを持たせて〈威圧〉してきたのも君達じゃん。
キンタマを蹴ったことは私が悪いけど、でも悪いのは君だろ?(水曜どうでしょう感)
「ざ、ざけんなぁ……っ、俺にもプライドってモンが……ッ」
やっぱ田舎町って怖いわー。
殺生の理由がプライドとかどうなん?
未来の日本国とは思えねえ。修羅だよ。修羅。もしくは因習村。実家のような不審感。
昭和時代の暴走族とか、茨城ヤンキーの関東全制覇とかの世界か?
平成の時代なら、半グレとか。
現実は小説よりも奇なりって言葉もあるぐらいだしな……。
「……二車くんの家は名のあるおうちだと聞きました」
「……あぁ……ッ?」
「なので、もしかすると五車は田舎町ですので感覚がマヒしているかもなんですけど……。私は、あなたの“お友達”が言うように
引っ越しからまだ3,4カ月だけど青空日葵の父親の転勤の都合で引っ越してきたけど、もう一回地元に戻りたいわー。まだテロリストがいる治安1980sの都心部の方がマシ。権力を振り回す有権者が真剣も振り回すとか、日本国の治安相当終わってる。
ごめんパパ。私、親友が殺されそうになっちゃったから、有権者の息子の息子を折っちゃった。
明日から仕事がしづらくなるかも。その時は私が責任をもって両親を養うから。警察官やめて引っ越そ? 今月は8月だから来年度の住民税が怖いけど、なんとかなるって。扶養から外れてちゃんと働くからさ。
あ、でも鹿之助くんとその時は別れないと駄目か……。
陽葵ちゃんも住みづらくなっちゃったな……。殺されるよりましだけど、最悪な道は辿りそう。私が養うかぁ……。
うわー!やだやだ!
鹿之助くんと別れたくない!
ここからなんとか、なんとか和解ルートとか……和解……。
「繰り返しますが、私としては二車くんとは“和解”で済ませたいと考えています。土下座もしましょう。謝罪だって何度でもしましょう。望むのであれば示談金、慰謝料や賠償金も支払いましょう。ですが親友を渡すことはありませんし、君が殺そうとするなら代償は支払っていただきます。そもそものことの発端は私と君と磯咲さんの期末試験での出来事なのですから。陽葵ちゃんは無関係です」
「ほざけッ! 邪眼——」
おっ。
金的で一回落ち着かせたけど、まだやるつもりか?
期末試験で見たように、右半分を眼帯で覆い隠している右目が妖しく赤く輝き始める。
「夜叉髑髏——」
メキメキと建物が軋むかのような音を立てながら鎧が形成されていく。
鹿之助くんが以前話してくれた“瘴気”のようなものが大太刀にまとわりつき始め、一般人の私でも視認できるような
——ッ!
直感で伝わる——
コイツはヤバイ。
〈クトゥルフ神話〉事象として何かを召喚/招来させようとしてしている事象に酷く似ている。
されど、あれらの《魔術》はノータイムで成せる簡易的な術ではない。まさかの事態が唐突すぎてあっけにとられる。
結末に何が起きるのか分析している間にも刻々と事態が悪化していく。
闇の色が忌まわしい私の記憶を彷彿させるように黒から紫電色へ、紫電色から宇宙の銀河帯ように煌めいて、放射能に被ばくしたときのようなチリチリとした痛みと水ぶくれが出来上がるようなプツプツとしたかゆみが肌を刺激する。快晴の青空へ時計を早送りにしたように入り乱れる乱気流のような灰色の入道雲が形成される。
まるで邪神が招来されたときのような、否。二車自身に邪神が宿した依り代となったかのような青白い後光と色とりどりのオーロラが白昼の空に浮かび上がる。それは大太刀に宿り、どす黒い怨嗟の念が渦を巻くように。私に対する報復の機会を得られたチャンスを得たかのように。意思を持って蠢き始める。
大地が震え始め、二車の取り巻き達の中には尻もちをつくものまで現れる。公民館周囲の電柱に亀裂が落雷した木々のように走る。鹿之助くんや陽葵ちゃんの心配をしている余裕などなく、異形化していく二車から目が離せなくなっていた。活火山にいるわけでもないのに硫黄のニオイが立ち込め始める。
「——か、さね——」
「ッ」
二車の人間離れした動きに反応しきれず、文字通り瞬きした時にはヤツにとって私を葬るには十分な致死的間合いを取ることを許していた。
〈応戦〉〈回避〉〈受け流し〉いずれの選択肢も取ることができず、正面の神話的な恐怖の再来に身を竦ませ身動きが取れなかった。
ザァンッ!!!!
でも当たれば即死は免れないような一太刀は私を逸れて、地面に突き刺さる。
空気を斬る音と、服をたなびかせるぐらいの衝撃波が伝わる。
外れた。
……いいや。外し……た?
あのまま振り下ろされていれば、わたしは文字通りに額を大太刀の剣先で割られて死んでいたはずだ。
でも二車の一太刀は急に軌道を変えて地面にめり込んだ。
だけどそれは〈幸運〉的な太刀筋のズレや、超自然的な存在や第三者が影から私を助けるために介入したわけでは無いことも分かる。
二車の斬撃への軌道が明らかに逸れた。二車の意思で斬撃の軌道が逸れて私には当たらなかった。
まるで脅しのつもりだったのに意図せず当たりそうになって、慌てて太刀筋を切り替えたかような――
「」
ドスンッと、異形化した二車が私の目の前で尻もちをつく。
まるで背後から足払いを掛けられたみたいに。
「」
彼の慈悲がなければ私は額ごと割られて殺されていたに違いない。
あっけなさすぎる唐突な死を目前に、声も何もが出なかった。
この場にいる誰もが声を出せない。
不気味なことに先ほどまで五月蠅かったセミの鳴き声すらもピタリと止んで時が止まったかのように環境音が何も聞こえない。まるでドラク工7に登場する『リートルード』内の時計塔のスイッチを切ってしまったかのようにすべてが停止した。
きっとこれは二車や彼の太刀筋のせいではない、あの二車が纏っていた大太刀に纏わせていた“瘴気”もとい神話的存在にあてられてしまって動けないのだ。
シャーーーー……。
ブチチチちっぶりりりぃぶりゅりゅぅ……。
プスー……ッ。
私がやっと動けるようになったのは、目前から響く異音とスカトロ臭、蒸気機関車が停車するようなすかしっペな放屁音が聞こえて来てからだった。
すぐにその脱糞音と失禁者、放屁をした人物が二車だと判明する。
「」
「」
「」
「——ぁ」
「」
「に、ぁ」
「」
言葉が詰まって発語が出来ない。
ポカンと開いてしまった口を閉じて唾液で喉を潤す。
極度の緊張状態でカラカラに渇いていた。
「に」
「」
「にしゃ、く、ん?」
先ほどまで殺されそうになっていた状況も忘れて、人として社会的に抹殺されてしまうような状況になった二車に近づく。
私が幻覚でも見ていたのか、二車の身体は異形化などしておらず普通の人間の身体をしている。
彼は言葉では一概に表現できない神話生物でも見たかのような、呆気にとられた顔で私を見上げるように見つめている。
「あ、えっと、しきり、あ、ほら、た、たっ――」
「いぃいぃいいぃいいいいいいいいぎいいいイイイイイギイイイイイィィイイイイッ!!!!」
「っ」
手を伸ばした瞬間、二車が気が狂ったかのような引き声の絶叫を上げて、ばたばたと逆ブリッジを描くような姿勢で後ずさっていく。
聞いたこともないような耳を塞ぎたくなるような金切り声。断末魔ならいくらでも聞き慣れているが、これは聞き馴染みのない悲鳴。まるで電車が火花を散らすほどに急ブレーキするのを傍で聞いたかのような。
先ほどまでの出来事で突然の奇声で再び身体が硬直して、差し伸ばした手も引っ込めてしまう。
「な、な、なぁっ」
まるで私の背後に恐ろしい怪物が出たかのような、ホラー映画のワンシーンでもあるようなお決まりのような、指さし行為を二車は私へと向ける。
私もドキドキバクバクする心臓を押さえながら、路上に残されたブレーキ跡のような排泄物の道を描きながら後ずさっていく二車を見守る。
「な、お、お、な」
彼の言葉にならない呻きに合わせて恐る恐る背後を振り返るも、そこには公民館しかない。
〈目星〉をつけても何も——
「お前は、なんなんだよぉおおおおおおおおっ!!!!」
子供が癇癪を起して叫び声だけで相手を精一杯に威嚇する様子を想起させるような拒絶の絶叫。喉が壊れることも
怒鳴り声じみた悲鳴に身体を震わせて正面に再び向き直れば、寒さで震えるように全身を震わせながら二車が“私”を指さしている。
そこには威厳やプライドなど粉々に叩き潰された、身長だけが大人になったような子供の姿。
拒絶のために
まるで対価として体中の穴と言う穴から様々な汁が絞り出されるように二車を
「ぅぁあああぁっ!!ああぁぁああああああアアアアアアァアアッァァァアァァァァアアアッッッッ!!!!」
まるでゴキブリが叩き潰されるのを拒み逃げ回るかのように、地面を四つん這いになった二車がワシャワシャと正気ではない動きで、恐怖に彩られ叫ぶことしかできなくなった状態で逃げ出す。
軽々と振り回していた大太刀はそのまま地面に突き刺したまま。
『お前は何だ』と言われたがそれはこっちのセリフだ。
何か魔術的なモノを使用しようとしてそれが失敗かなんかして、邪神を招来しかけたのはそっちの業だろうに。何故、私が責められなきゃいけない?
二車の従者たちも、全体の2割は完全にイカれてしまった二車の補助に向かう。残りの3割は茫然とそのまま立ち尽くし、3割は蜘蛛の子を散らすように逃げ去り、かろうじて正気を保つことのできた2割と――
親分の悲鳴を聞きつけて裏口から駆け付けた複数人が——
「あぁ……まずい」
私が硬直していたあいだに背後の退路が断たれている。
主を侮辱し、あろうことか脱糞させてしまうまで追い詰め、とことん侮辱にしたようにみえる私へ中型ナイフを抜いて迫って――
こわれ、ちゃったぁ……っ!