対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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31章 『尋問』
Episode211 『強制連行』


 

 新学期を告げる始業式も無事に終わり、翌日。

 今日も今日とて代り映えのない日常を送る。

 今日の所は夏休みの課題を提出して、ちょろっと前世で学んだ高校の科目の講義を受けて、ほとんどの日程は終わり。

 幸いなことに今日も昨日も二車のグループに絡まれることも接触することもなかった。

 

 今日も他のクラスの陽葵ちゃんが心寧ちゃんを引き連れて元気に突撃してきたり、新しい交友関係を結ぶことのできた綴木さんや鹿之助くんと何気ない会話を和気あいあいとしながら日常を過ごす。

 ふうま君や重いパンチを繰り出すヘヴィ子ちゃん、夏休みの一件を踏まえて私を心配しオッパイセンの動向を密告しに来てくれた藍野先輩にも囲まれて、やっと。

 

 対魔忍世界へ転生したけど、一般人らしい人生を謳歌できているそんな気がする。

 

「青空 日葵!」

 

 午前中が終わり鹿之助くん達と昼食を学食で満たして教室へ戻ったところで、ピシャリとかつ凛としたハキハキとした声で名前が呼ばれる。

 声に釣られるようにして振り向けば紫先生(ゆかりん)が怖い顔をして、入学初日に着ていたような白をベースとしたチャイナドレス恰好のまま仁王立ちで私を見据えていた。その表情は怒っているような表情で……——

 

「ひまりさぁ……また(なん)かやったのか……? まだ学校始まって2日目だぞ?」

 

 先を進む鹿之助くんが私の前で見上げてくる。

 考え込むときの仕草はするが今学期に関しては特にやらかした覚えはない。

 思い当たる節があるとすれば夏休みだ。東京キングダムへ遊びに向かった一件や、夏休み初日から鬼崎きららオッパイセンの尻と胸を揉みしだいて窓ガラスを叩き割って逃げ帰ったこと、二車との衝突で公民館の入り口や備品を滅茶苦茶にしたこと、公民館の出入り口に二車の下痢便尿を放置したあたりの出来事が脳裏を過ぎる。

 もしくは大穴として、一般人風情が対魔忍である駒水ちゃんのインシデントレポートに手を加えたことか。

 

「うーん……今学期ではなにも思い当たらないですね」

「嘘つけ。その顔は思い当たりしかなさすぎるときの顔だぞ」

「ギヒヒ……わかりましたか。強いていえば、夏休みの時に——」

「……東京キングダムに遊びに行ったこと以外で何があるんだ?」

「まぁ、ちょっと、色々と……」

「絶対に“ちょっと”じゃないだろ」

 

 片目を瞑って後頭部を掻きながら誤魔化す私へ鹿之助くんは慣れたかのような反応をしてくる。1学期のような初々しさが込められた驚きの顔ではなく、呆れたかのようなそんな表情だ。

 

「校長先生がお呼びだ」

 

 鹿之助くんと言葉を2、3交わしている間に音もなく近づいてきた(ムラサキ)先生に二の腕を力強く掴まれる。逃がさないと言葉では表さないものの鬼気迫る気迫と校長室呼び出しという案件に相当まずいことを薄々察する。

 職員室どころか校長室へ呼び出されるという最終関門まで突破してしまった以上、私としても逃げる気は一切ないが何がまずかったのか再度考え始める。

 夏休みでやらかした一番まずいこと……やはりオッパイセンから逃れるためにブチ破った窓ガラスの一件…………?

 

「来いッ!」

 

 有無を言わさず引き摺られるようにして、鹿之助くんから引き剥がされる。

 乱暴。ガチ乱暴。でも紫先生をそこまでにした私に責任がある案件だろう。抵抗もせず、逃れることもなく引きずられる。

 されどクラス内において紫先生の行動を驚くものも凝視するものも誰もいない。紫先生がシンプルに怖いのかもしれないが、それ以上にまたどうせ私が何かをしたのだと思われている。

 だってどこか私を見る目線がシラーっとした冷たい視線だもの。

 

「わぁぁぁーー……」

「頑張れよー。5限目の組手の板知屋(いたちや) 小町(こまち)先生にはちゃんと紫先生に連れていかれたって言っておくからなー」

「よろしくおねがいしますー」

 

 気の抜けるようなトーンで鹿之助くんと別れの挨拶を交わして、引き摺られる状態から姿勢を戻して腕を掴まれたまま紫先生の後ろをついていくように追う。

 

「…………」

「おぉッ!?」

 

 途中、生徒指導部の蓮魔先生ともすれ違う。

 彼女はいつものブルーベリー色で揃えた服装のまま曲がり角でまるで私を待ち構えていたかのようにジロリと殺気のある眼で睨みつけてくる。その腰にはとても教師が持つとは思えない一本鞭が巻かれた状態で傍らにあって……。

 

「蓮魔先生?!」

「…………」

「えぇっ!?そんなに怒らせるようなまずいこと私やらかしました!?ちなみにどれですか!?!?」

 

 私の呼びかけに蓮魔先生は何も返事をしてくれない。

 してくれはしないが、紫先生と合流するかのように強制的に引っ張られて行く私の背後について、私が逃げ出してもいつでも捕まえられるようなポジションに陣取ってただただ無言でついてくる。

 ここまでくれば流石の私も神妙な青い顔になる。相当にまずいことをやらかしている。やらかしているに違いないのだが、一体何がそんなに2人を怒らせるに至った行動であったのか、その見当がつかなくて私は困り果てる。

 眞田先輩と黒田先輩が生徒指導(暴力)にあたったとき、窓ガラスを割ったときはこんなに教師陣が介入するほどはひどくなかったはずだが!!?

 

 夏休みは心当たりが多すぎるんだ! 何かヒントを!

 何かヒントをくれっ!

 

………

……

 

 広大とも呼べる五車学園内で学園引き回しの刑を受けながら、『校長室』と扉の上部にプレートが掲げられた扉の前までやってきた。

 五車学園なのだから、『校長室』ではなく『学園長室』ではあるのだが……そうじゃないところがこの学園の面白くもやべーところのひとつだ。

 

「アサッ…………校長先生。青空 日葵を連れてきました」

 

 ノックがされ、扉が開かれる。

 まるで囚人を独房にぶち込むかのように乱暴に手が引っ張られて、校長室の中に投げ込まれる。文字通り投げ込まれる。身体はふわりと浮かびよろけたものの転ぶには至らず、1歩、2歩とまるで躓いたときのようなステップで入室することになる。

 校長室に入るのはこれで2度目だが、余裕をもって室内を見ることができたのはこれが初めてだった。状況的には全然余裕じゃないけど。

 

 室内はまさに私立学園を統括する校長室もとい学園長室にふさわしい一室であった。

 つくりはまるで西洋の教会を連想させるような正面に一面の窓ガラスがあって午後の光が室内を照らしている。そんな直射日光を浴びる一室であっても、室内の空調は適切な温度湿度として整えられていて就労するには適した気温になっているように思えた。

 室内には客をもてなすような白を基調としたソファーとコーヒーテーブルがあって、校長席を正面に左手側の天井付近にはロフトのような室内バルコニーまである。そのまま視線を落とすと床側の左手側には職員室へと繋がる扉があり、最奥には様々な書籍が並べられた開放感のある棚。右手側には資料が詰め込まれた木製の本棚とステンドライトが置かれている。

 

 また職員室へ直接通じる扉の前には、一人の女性教員がニコニコと愛想のよい笑顔を浮かべて両手を後ろで組んでいるのが見える。

 その教員は鮮やかなオレンジ色の長い髪をしていて、薄い橙色のシュシュで髪の毛を結っている。私と同じ黄緑色の虹彩で、八の字な眉は彼女の優しげな様相に拍車をかけていた。服装は紫先生と似た——紫先生よりも太腿の露出を抑えたボディコンのような服にピンク色の可愛らしいカーディガンを羽織っている。

 

「いらっしゃい。待ってたわ」

 

 差し込む西日のせいで、真正面の校長席に座っていると思しき先生のご尊顔は確認できない。しかしその声は入学初日に聞いた女性の声と同一のものであった。

 声に強弱は無く落ち着いた声色の女性校長だ。

 紫先生や蓮魔先生とは異なり怒っていそうな声色ではない。

 

「お邪魔してます……」

 

 弱々しい発音量になってはしまうが校長先生には挨拶と剣道でのお辞儀程度には頭を下げる。

 背後を振り返れば紫先生と蓮魔先生は2人とも厳しい目つきで私を睨みつけ、顎で校長先生の方に近づくように指示する。

 出入り口がほぼ完全にふさがれていることから、普段逃走行為に発展させる私の行いを相当に警戒されてしまっている。

 教員の指示通り、おそるおそる校長席に歩みよっていくにつれて逆光が柱に遮られて見えていなかった校長先生の姿が——

 

「————ッ!」

 

 言葉にならない息を吸った時に出るような悲鳴が口から洩れる。

 何か悪い冗談だと誰か言ってほしい。

 校長席には私が中学生の頃、転生も間もない頃に出会ったあの紫色の服装をした対魔忍が口元だけ微笑んで——

 

「どこへ行くつもりだ?」

 

 完全包囲網を敷かれ、逃げられるはずなどないのに、反射的に入ってきた出入り口に踵を返したところで紫先生に行く手を阻まれ突き飛ばされる。

 その加減のない突き飛ばしの威力に、まるで押し返されるようにしてひっくり返ってカーペット上へ尻もちをついてしまう。

 ピシャリと音を立てて蓮魔先生によって出入り口の扉が閉められる。最後まで私を冷めきった目で睨みつけて、まるで私が対魔忍に盾を突いた魔族として見るような目で……。

 

あ、ひ、い、いぇ……

 

 情けないぐらい泣きたくなるような声しか出ない。

 あの高位魔族の前ではドヤ顔でハッタリをかまし続けていた私でも、対魔忍を相手にそんな度胸など——

 

ズダァッンッ!!!!!

 

 突き飛ばされた拍子で大きく開いた足元に、脅しではない何処から取り出したのかもわからない巨大な戦斧が突き刺さる。私に立派な巨根がついていたとしたら巨根が真っ二つに切断されてしまうかのような勢いとギリギリ股下に振り下ろされる。スカートに不要なスリットが強制的に〈製作〉された。

 ガタガタと震えながら視線を上げれば、紫先生もまた蓮魔先生と同じ眼をしていて——

 前髪で目元に影ができて顎をしゃくりあげている。その影の中からLEDみたいに赤い2つの眼だけが食屍鬼/チェンジリングの鬼のように爛々と輝いて——

 あ、これ。殺される——

 

——死神って見えないタイミングでくるよな。

 

 対魔忍世界へ転生したけど、一般人枠として人生を謳歌する前に終わりが目前に——

 

 なんとかよろめきながら、抵抗する気はないと——両手を見せながら足が小鹿のように震えながらも立ち上がる。

 

「座れ」

「はい」

 

 紫先生に命令されて応接席のソファーに座る。

 紫先生は私の背後に回り込んで、トントントンとまるで教鞭や定規で手の平で叩くように自分の背丈よりも大きな戦斧を弾ませる音が聞こえる。そのリズム感がまるで、私から見て右隣の校長席にいる紫服対魔忍の指示次第で首を切り落とすかのような時を刻む音。

 

 私の視線は自分の両膝しか目に入らない。

 それと完全に突っ張った両腕の肘と膝の上の握りこぶし。

 顔を隠すなんて入学初日みたいな大それた行いはしないほうがいい。

 この様々な事態が発覚している状態で不用意な行動をとれば、それこそ頸椎を経由して腕ごと斬り落とされかねない。

 同時に視界に彼女等を捉えていなければ〈回避〉できる攻撃であっても、自ら〈回避〉の権利を放棄するようなものだ。

 

 それから優しそうな顔をしたピンク色のカーディガンを着たオレンジ色の女性が私と対面するように座る。

 強張っていても彼女だけは優しい表情のままだったので、中立的な立場なのかとおもっては助けを求めるように視線が向く。

 唯一の味方になってくれそうな優しそうな顔をした彼女は、うしろで組んでいた手は膝に置かれ直される。膝上の左手の薬指には銀色の結婚指輪。

 その手には刃渡り30㎝はあろうかというステンレス製で銀色に輝く包丁が握られている。

 刃先は私へと向けられ、その包丁が窓ガラスから差し込んだ太陽光に反射して妖しく鈍く光る。

 それから見せつけるようにその優しい顔のまま一連の——まるで極道主夫1話目の『訪問販売話』のようなスタイリッシュな包丁さばきが私の目前で繰り広げられる。

 まるでその気になれば私の手を骨ごとスライスすることなんかなんの造作もないと。優しい笑みを浮かべたその裏に、いかなる残虐非道なことも成し遂げるような心臓が縮み上がるような恐怖が秘められている。

 心臓が鷲掴みにされているかのような恐怖心で身体がガタガタと小刻みに揺れ始める。

 

 




~あとがき~
 なんだかんだで後回し後回しになっていた尋問回がやってきました……。
 作者が対魔忍の長と邂逅させるのによい展開について考えている間に、新キャラが次々に実装されて遂には異世界人・転生者・怪しい二次創作オリ主キラーこと『津島 優紀子』先生まで実装されることになって……。
 オリ主特攻がついている対魔忍世界の超有能な先生を、作者の都合で登場させねえわけにはいかねえよなぁ!!!!

 8月中には尋問回になると思います。
 初期段階で尋問展開を行っていれば、津島先生も居なかったのでオリ主も作者もこんなに苦しむことはなかったのでしょうけどね。
 ツケは払わなきゃなぁ!

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