対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode212 『尋問』

 

「まずあなたの本名を教えて頂戴」

 

 前後左右すべてを封鎖された現状で、右側から紫色の対魔忍に詰められながら尋問が始まる。

 対魔忍に捕捉されてしまった以上、ここからどのようにして誤魔化すかなんて——誤魔化そうなんてことをすれば私の命運がどうなるかなんて火を見るよりも明らかだ。

 

「あ、青空 日葵?」

 

 疑問形のイントネーションではあるが、嘘は言っていない。

 ご、ごごごご誤魔化すつもりはないが、ここここの世界の名前としてのほほ本名のことを指しているのならば、な、なななな何も間違っていないはず?

 

「…………」

「…………」

 

 でも私の背後にいる紫先生……八津先生からは発せられる圧が一段と重苦しくなった気がする。無言の裏側——手のひらで転がされる戦斧のリズムが一瞬ブレた。

 まるで『まだしらばっくれるつもりか』と憤りを示すように。

 

「本当は?」

 

 最終通告と言わんばかりに正面のピンク色のカーディガンを羽織った女性が、ステンレス製の包丁をチラつかせ揺らしながら穏やかかつにこやかに尋ねてくる。

 

「『あ、あお、青空 日葵です。』す、少なくとも、間違いではないはず……」

 

 青空日葵に別の本名があったのか?と考えながら左手を口元に当てて、目を左下側に逸らしながらポツポツと彼女の質問に答える。

 青空 日葵の家にあった書物は粗方読み漁ったが、青空家には忌み名の文化はなく『青空 日葵』以外に本名はなかったと思うのだが……。

 

「質問仕方を変えてみましょうか♪ 貴方には青空 日葵とは別にもう1つの名前があるんじゃない? その名前は何というのかしら?」

 

 必死に思考を巡らす。

 でも、脳が恐怖委縮し考えが纏まらない状態では何も思い当たらない。私が把握している15歳以前での出来事について本名に関しては心当たりは一切ない。

 15歳以降での本名についてで考えてみれば強いてゼラトシーカーだが、あれは高位魔族の蛇子ちゃんに使った偽名だしな……。本名と言われてしまうと見当違いな回答になってしまいかねない。

 あと本名として機能しているものと言えば……。

 

「『ネットの本命ハンドルネームとかでしたら、G-Nook(ギヌーク)。』と言う名称でTRPGのコンベンションは開きましたが…………?

「…………」

「え? もしかして未成年が主催者としてまえさき市コンベンションを開いて不特定多数と出会い系をしたことが、まさか一番まずかったですか!?」

 

 それか!? それなのか?!

 もうこの場で名前について深く聞かれて尋問をされるようなことなんて、それぐらいしか思いつかないぞ!?

 でもそれが原因でこんな事態になっているのならば、大穴すぎる。

 わかるか!そんな脳内当てクイズッ!!!

 

「……異なる世界で使っていた本名があるんじゃない? そちらはなんていうの?」

 

 ん?

 あれ? これって、もしかして……。

 前世での名前を聞かれて…………?

 いやいやいやいやいや、そんなまさか。私が転生者なんて誰にも話したことはないし、これまでの出来事(あらすじ)を綴った書籍だって見つけられるわけがない。だから学園長の席に座っている対魔忍が私が転生者だと突き止められるようなことは……なにも、そんなにないはずだ。

 となると、考えられるのはカマをかけられて何か尻尾を出さないか、何かの事件の関与で疑われているのか?

 ならば、その質問に関しては〈隠——

 

「『それは釘貫 神葬といいます。』……。? ……!?

 

 私の意思に反して、口が勝手に前世での本名をこの場にいる全員に告げる。告げてしまう。

 これにはたじろいでしまう。私には意識があって、同時に考える意思もあり、その尋問に答えない選択肢もあったはずだ?! なのに勝手に口が……!?

 私の反応と前世での名前が発覚したことで校長席に座る対魔忍の眼が獲物を追い詰めた狩人のように細まる。動揺のあまり左手で口を塞いだり、歯に力を入れて口を押さえるも“無駄な抵抗”と言わんばかりに正面の彼女は優しく、本当に優しく微笑む。

 

 表情を強張らせながら、頭の中では自分自身に落ち着くように語りかける。

 慌てるな。バニックを起こせば、要らぬことを引き起こして状況は悪化する。だから今は冷静に分析するんだ。

 

 クトゥルフ神話TRPG世界線系統の《支配》や《セイレーンの歌》系統の魔術の類いを真っ先に疑うが、アレらが発動したにしては私の意識ははっきりしている。心に霧がかけられて惑わされる。操られたという自覚症状がなかった。

 それに《魅了》自体なら東京キングダムにて、様々な淫魔族系統の魔族に掛けられてきた。

 身に受けた感覚とこれまでの魔族との外見的特徴からすり合わせをすれば、目の前の人物が魔族である線は考えにくい。そもそも学園長席に対魔忍がいるのに、魔族なんかが堂々と居合わせるなんてことも考え難い。

 とここまでの情報から……ほかに考えられるのは——?

 

「やっと尻尾を出したな?」

 

 口を隠して思考を張り巡らせている間に背後ではドスの効いた先生の声が聞こえる。

 背後を振りむけば、紫先生が校長と同じように目を細めて睨みつけてきている。

 “まだ”身体の自由が利くということは行動が赦されているからなのか、それとも私が反抗したとしても簡単に捻じ伏せる自信があるのか、それとも私が逃げ出すよりも先に紫先生の無慈悲な一刀両断が振るわれる方が早いからなのか、正面の彼女の術中に完全に陥っているわけではないのか、まだわからないが『有無を言わさず』という状況でもなさそうだ。

 五車学園の中枢にまで魔族が潜り込んでいるとは考えたくはないが、校長席にいる人物が対魔忍だと仮定して、判明している以上その線も考えにくい。

 

 ——ゆえに、ここから導き出される解は……。

 

 校長室にいる人物——私を除いて全員、対魔忍?

 

 もしかして。もしかしなくても、五車学園こそが対魔忍の本拠地だという私の推察は的を射ていたのか? 最初から仕込まれていて、しかも誘い込まれた?

 

 オイオイオイ。

 

 もう払拭できないほどに五車学園内で色々とやらかしてしまった後なのですが?

 でも五車学園が対魔忍の本拠地であり、私が五車町で見てきたいろいろな出来事が対魔忍の忍術によるものだと仮定すれば説明がつくことにはつく。むしろここが対魔忍の本拠点という情報が手に入ったことで、すべての辻褄が合う。

 完璧に〈隠れる〉ことに成功している筈なのに蓮魔先生が私の隠れ場所をさも当然のように見抜いてきたりとか、眞田先輩が炎の吹き出る槍を振り回したりとか。五車の夏祭りの舞台で見たジバオラの舞もあの水龍も対魔忍による忍法だとするならば造作もないことだっただろう。もしかしたら、コロ先輩の超能力:読み取り(サイコメトリー)も対魔忍の忍法の1つだってありうる。

 

 近日に起きた出来事、二車のアレだって……でもあれはどちらかといえば、“こちら”寄りの現象だったような気がしなくもないが『対魔忍の忍法の1つ』と仮定してしまえば説明がついてしまいそうだ。

 

 鹿之助くんが話してくれた二車がふうまの家来という話にも、対魔忍由来の技術“一門”という系統という一括りにしてしまえば辻褄が一致していく。

 

 ここにきて飛んでもない事実が判明して、両手で顔面を覆いかけるが両手を持ち上げて見つめる程度に堪える。このタイミングで不審な行動は取るべきでない。

 

 確証に至るトドメの裏付けは、親友である陽葵ちゃんの自己申告だ。

 

 陽葵ちゃん、私へ正直に話してくれていたんだね……。

 

 そりゃ頭の片隅には、あの陽葵ちゃんが嘘をつくのは珍しいなとは思ってたけど……。

 絶対に私の気を引きたいがために“対魔忍”だと、嘘をついているのかと思っていた……。実際やりかねないし。

 

 ごめんね、陽葵ちゃん。

 お詫びに対魔忍以外の他の仕事を斡旋するからね。

 

「それじゃあ、釘貫さん。まず貴女の目的を教えてもらえるかしら?」

「……目的? ですか……?」

「青空 日葵に成りすまして何をしようと思っていたの?」

 

 カーディガンを着た対魔忍の問いかけに上に視線を動かして少し考える。

 青空日葵に成りすまして何を? 『何をしようと?』とh——

 

「『一般人として人生を謳歌ですね。具体的に言えば、因習村の集団(トライブ・メンバー)所属でもなく、新興宗教にハマった毒親ではない親元で生活して、安心して眠りにつくことができるようになったり、日本国の食事を躊躇や疑いなく食べられるようになったり、何も考えずに熟睡できるようになったり、病気になっても病院で処方された薬を飲むだけで治せたり、公共機関の地下鉄道に平然と乗ることができるようになったり、表の世界に一切の陰りがない場所で安心して過ごしたり——』」

「…………」

「『学生時代に彼氏を作ったり、彼氏とえっちなことをしたり、結婚したり、子供を作ったり、育児に励んだり、上場企業に就職したり、バリバリのキャリアウーマンになったり、前世では叶えられなかった夢を成し遂げたり、工学・物理学分野で偉業を残したり、株式保有や不動産所有などで総資産3000万以上の大金持ちになったり。当面の方針は、高校生活の充実とAO……駄目なら一般入試で大学進学を目指して、普通の友達をたくさん作ったり、楽しい学校生活を送る?』」

 

 腕組みをしながら首を左右に動かし斜め下に視線を動かしつつ、目的について口が勝手に滑るように告げてしまう。

 対魔忍の本拠地に居ることは想定外すぎる出来事ではあったけど、別にこっちから意図して乗り込んで対魔忍と関わり合いを持とうとか思ってなかったし。むしろ逆で私としては対魔忍世界だけど、対魔忍とは関わり合いたくなかったし。

 『絶対に対魔忍にはなりたくない』とか思ってたぐらいだし。

 

「なぜ疑問形になる?」

「えー……? 話しといてアレですけど……。回答として『拍子抜けさせてしまうかな?』と思ってですかね……?」

「…………」

「あまりにも普遍的過ぎ? 紫先生。いまの私の発言、一周まわって変に思われる回答ではありませんでしたか?」

「……確かに。普段の貴様の行動からは考えられないほどの安定志向だな?」

 

 私の回答に拍子抜けしたのか、紫先生の殺気が明らかに目減りする。

 教鞭を手のひらで転がすようにリズムを刻んでいた戦斧が、彼女の手に収まっていることが何よりの証拠だ。どうやら『紫先生は正面の尋問者のことを余程手厚く信頼している』ようだ。

 すなわち『私が嘘をついている』という可能性を考慮せずに素の疑問を私に投げかけている。

 要するに正面の対魔忍の忍法は、『私が嘘を吐けなくなり隠し事がすることが出来ず、正直なままに赤裸々に話してしまう』忍法か精神に作用する何かを持っているのだろう。

 

 ならば対策はできる。

 対魔忍組織に対する個人的感情の質問をされると厄介かもしれないが、それが発覚するまでの間はあくまでも誠実に真面目に返答をしていると思い込ませるために彼女の忍術が発動しているか否かに関わらず率先して正直に答えよう。

 死中に活を見いだせ。

 

「本当?」

「『本当かどうか問われればあいまいにはなりますが、当初はそうでした。』包み隠さず他の目的を言えば、対魔忍とは関わり合わずに一般人として人生を送ろうとしていましたね!」

「…………」

 

 やはりそうだ。

 正面の彼女の言葉には逆らえず、正直な私の意思、意見が口から勝手に飛び出てくる。

 私の推測が正しく彼女の忍法が解明できたのであれば、過度に怯える必要は何もない。

 だがこのオウム返しのような同じ目的の発言は、私が紫先生に対しても誠実な回答をしているという証拠にもなるはず。

 対魔忍と言えど神話生物よりはマシで、未知を拭えれば過度に恐れるに足りない。

 

「逆に聞かせてください。どうして対魔忍側が私へわざわざ接触してきたのか教えてほしいです!私の一般人枠で人生を謳歌する人生設計プランを滅茶苦茶にしやがってよぉッ!」

 

 自分の左太腿を叩きながら声に怒りを込めて逆に詰めてみる。両手の動きが二車の野郎がキレたときのような、アニメ『絶望先生』で「絶望した」と言う時のように両手が持ちあげて迫真度を上げる。

 完全な逆ギレのように見えるが、私のこの発言で馬鹿正直に答えてしまう口が正面の対魔忍に“本当かどうか問われればあいまいにはなりますが、当初はそうでした。”と別の目的*1があるようにも捉えられる発言を、対魔忍側(おまえら)が私の人生目的を破壊したとのニュアンスへとすり替える。

 ただし今の大きな動きのせいで背後で紫先生が戦斧を構えたような気配がするので、すぐに両手を下へとおろして粛々とした態度をみせる。

 

 ところで私の記憶に誤りが無ければ、そもそもの話として五車学園に誘ってきたのはそちら側ではありませんでしたか?

 …………ん? つまり、あの時から目をつけられていたということ……? なんで? アレより以前の思い出と言えば……どこかのビルの屋上でテロリストと差しで撃ち合ったぐらいだけれども?

 

「——失礼しました。当初の計画が破綻したことが発覚して感情的に……」

「……それは、正直に話してくれているということよね?」

「『私は対魔忍の敵ではないつもりですので。』ところで質問できる側の立場ではないとは承知しておりますが、逆に何が目的で私の両親へ五車学園に入学案内を送ったのですか?」

 

 私の問いかけに正面の刃渡り30㎝の包丁を持った対魔忍が私を気の毒そうな目で見つめてから、校長席に座る対魔忍へ困ったように目配せをする。私も釣られるようにビルの屋上で出会ったことのある校長席の対魔忍へと視線を移動させる。

 対魔忍世界での第2人生計画を最初(ハナ)からぶち壊しに来られたことで、怯えるのが馬鹿らしくなって今は怒りの方を前面に押し出しているように振る舞う。

 

「……あなたは一般人のはずにも関わらず対魔忍について知っていたからよ」

 

 …………というと、世間一般的には対魔忍の情報は秘密裏にされているのか。

 東京キングダム湾にて駒水ちゃんや陽葵ちゃんが私に堂々と対魔忍であることを隠さず告白してきたのは、私が五車学園に在籍していたことから対魔忍——同じ仲間だと思われていたからだろうか?

 

 で、あるならば……気になることもある。

 

 鹿之助くん、ヘヴィ子ちゃん、ふうま君の3人は長い付き合いだが対魔忍であることを私の前でおくびにも出して来ようとしなかった。……鹿之助くんは〈言いくるめ〉がヘタクソだったけど。他の2人に関しては——ヘヴィ子ちゃんに関しては私の口車に乗せられて病室でそれっぽいこと言っていたか。

 

 だがやはり、ふうま……。

 

 アイツは侮れない。

 ふうま家の一門とした括りで考えるならば、二車よりもかなり厄介なタイプだ。

 クラブ・ペルソナという情報屋にもつながっていたわけだし、伊達にふうま家の当主を務めていないということか? 両親ゆずりの人脈(コネクション)や実家、親戚関係が太い?

 それとも——

 

「…………はい?」

 

 校長の座にいる対魔忍側から出された情報で私の初期組交友関係に亀裂が入りそうだが、一旦保留にしてすっとぼけた疑問の声を上げる。

 〈アイデア〉を閃かせて過去の自分の発言を思い返す。

 しかし私が対魔忍について知っているという情報を漏らした覚えがない。逆に言えばそんなことが漏れようものなら接触される可能性は跳ね上がることになるわけだし、そんな自分から喋るわけがないだろうに——

 

「…………私と初めて出会った時の出来事のことは覚えているかしら?」

「……ええ、まぁ」

「その時、テロリストに放った言葉については?」

 

 両目を閉じて考え込む。

 あの時は転生早々から黄泉の国送りになりかけて、なんとか自分を殺そうとあわよくば対魔忍もろとも凌辱しようとするテロリストの意識を逸らすために色々と喚いた思い出はあるが……具体的に何を言ったのか思い出せない。

 とにかく少しでも打開策として隙を作ろうと喚いたものだから——

 

「覚えてないって顔ね」

「……当時は必死だったものですから」

「あなた、あの時私達を見て“対魔忍”と言ったのよ」

 

 【悲報】一般人枠の人生計画をぶち壊したバカ野郎は私でした。

 

 くぅーん。

 私の一般人人生計画は大いなる一歩目から、自分でぶち壊してました。

 両手で自分の顔面を包み込むように隠して嘆き声が、身体が震える。

 半分は怒りの矛先が対魔忍から自分自身へと向いているようにパフォーマンスの一環。

 残りの半分は自分自身へ対しての本心からの怒り。

 

「…………逆ギレしてすみませんでした。私が原因でした……」

 

 でもこれは、ウカツ。

 バカ。私の。クソバカ。

 転生初日から致命傷。

 

 

*1
友人達を対魔忍から退職させること。




~あとがき~
 約250話目越しのオリ主自覚。

 さて運営が大規模改修を行ってから教員が増えて私は嬉しいぞい!
 選択科目の『屍忌島(しきしま) シメイ』先生
 学年主任*1龍前(りゅうぜん) トモコ』先生
 魔界学の『エーテル・バレメギア』先生
 養護教諭『館石(たていし) 芳美(よしみ)』先生
 最近、ふうま君が先生と呼んでいたことで教諭だと発覚した『薬師寺(やくしじ) 瑞穂(みずほ)』先生

 こういうのでいいんだよ。こういうので。
 2学期では出したいキャラだらけでありがたいですねぇ。

 でもコラボガチャが終わった後にヨミハラ祭ぶち込むの辞めませんか? 9月下旬には五車祭もありませんでしたか? すべて金を積めば解決できる些細な問題ですが、ここまでのバグ祭かつ修繕が終わっていないのにガチャのラインナップ頻度感覚が…………不安です。

*1
主人公たちの学年主任

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