対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

252 / 261
Episode214 『ズボンちゃんと蛇子ちゃん(エドウィン・ブラック と スネークレディ)

 

「コホン」

 

 脱線しつつある尋問に校長先生が咳払いをしたことで少し場が律される。

 私も彼女等の忍法について考察を巡らせるのを中断し、意識を津島先生と校長先生へ戻す。

 

「私の聞きたい普段の振る舞いについては、あなたの(いのち)を軽んじる行動についてなのだけど」

 

 校長席の対魔忍の言葉に命を軽んじる行動について考える。

 軽んじる行動について心当たりはある。心当たりはあるが、それが探索者として生きる者としての最終的な生き方だ。

 銀河系等のなかで辺鄙(へんぴ)な地球という惑星で人類という虫ケラ同然の1匹の矮小な哺乳類ができることなど限られている。

 私は人間で言うところの人体を構築している1個の細胞でしかない。ゆえに私の命をもってしてもできる限り最善の結末を、目前の人を助けられるように、神の気まぐれで明日も継続しているかも不安定な世界で悔いのない人生を送ることができるように努力をしているだけに過ぎない。

 

「他の学生に悪影響を与えるので辞めて欲しいとかでしょうか?」

「いいえ。貴女がもし一般人として人生を謳歌する予定だったのならば、むしろ危険は避けるものじゃないかしら。普段の行動と目的が乖離している理由を説明してもらえる?」

 

 うーん。どこまで話すべきか非常に難しい質問だ。両目を瞑って後頭部を掻く。

 話し相手が対魔忍であるならば、この際伝えてしまってもよいかもしれないが……。

 〈クトゥルフ神話〉や超自然についての話題などは突飛な話すぎて〈信用〉してもらえない。されたとして彼女達に要らぬ知識を植え付けてしまうきっかけにもなり得る危うい情報になりかねない。

 

 なにせ、“あの対魔忍”なのだから。

 

 だからと言って変に〈隠す〉ことをすれば……。

 片目を開いてチラリと津島先生に視線を向ける。私の仕草で勘付いて毅然とした態度で自身の職務を全うしようとしている顔だ。

 ならば——

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ひとまず前置きを入れる。

 0.2秒の〈心理学〉的情報に前後の2人の警戒色が強まった。

 だから少し場の空気を和ませるためにおどけたような軟化した声色かつ、態度は真面目なままの様子で校長席の対魔忍に話を続ける。

 

「オブラートに包んで説明するのであれば、常に人生に対して悔いが残らないよう最善を尽くした結果であるとお話させて頂きます。……先生方には心当たりがございませんか? 『あの時ああしておけばよかった』『こうしていたら違った結末になっていた』と悔やむような出来事。私は『そのような結果になるぐらいなら』と私の信念に基づいて常に行動に移しているからと言えばよろしいでしょうか」

「…………」

「…………」

 

 ついに名前ですら呼んでくれなくなった私の背後にいる紫先生の反応は探れないが、少なくとも津島先生と校長席の対魔忍にとっては私の発言に心当たりがあるようで一瞬だけ表情が曇る。その表情からは悔恨の意が汲み取れた。

 正面の津島先生が左手の薬指にはめている銀色の結婚指輪をそっと撫でている。

 

「もし今の説明で校長先生が納得できない。より詳細な事情を知りたいというならば、津島先生を経由して質問をお願いします」

「……」

「言うまでもないとは思いますが、隠匿しているには隠匿しているなりの事情が私にもあります。

 

 ——真理に触れるときヒトは好奇心には抗いにくいものです。されど忘れないでください。深淵を覗くとき深淵もまたこちらを覗き。人間のいわゆる『理性』なるものは、この大宇宙全体の中で見れば、極めて異常で異質な現象に過ぎないのです。——

 

 その抽出された情報は好奇心もろとも身を滅ぼしかねない情報であることも念頭においてください」

 

 最終的な情報の暴露、忌まわしさの宝庫である〈クトゥルフ神話〉知識、パンドラの箱の開封の決断権を対魔忍側に委ねる。

 津島先生という存在は彼女達にとって敵対者の秘密や嘘を暴く便利な武器となる忍術なのかもしれないが、ある観点をもってして発想を転換すれば返し刃となる危うげなものだ。

 暗に『尋問には答える。しかしそれで得た情報で狂うのはそちらの自己責任である』と尋問行為に対する制限と開示時における制裁を公開しておく。

 ある意味では防衛手段として働いているはずだ。

 

 世の中には知らなくて良いこともある。

 それを知らずに生きることができるのは、どれだけ幸せな事なのか失ってから知ることになるだろう。

 

 身近な魔に触れている対魔忍であるならば、要らぬ好奇心の往く着く先についても理解していると願う。

 

「……おおっと、なんか宗教の説法みたいな発言になってしまいました。失礼いたしました。要するに私としては、最初の説明で納得してくださると嬉しいのですが……どうしましょう? 校長先生?」

 

 固くなってしまっているであろう自身の表情筋を両手で揉むようにして、校長先生へ向ける表情を柔和させる。津島先生はどうするべきか校長先生に指示を仰いでいるが——

 

「いえ、構わないわ。その説明で十分よ」

「よかった。さて、私に関する尋問は他にありますでしょうか?」

「ええ。ギンピーギンピーという名詞について心当たりは?」

 

 ギンピーギンピー?

 質問の意図がわからずキョトンとした顔になってしまうが、その植物はネット検索にでもかければすぐにわかる〈自然〉な情報だ。……何かの隠語か?

 

「ありますが……?」

「それがどういうものなのか教えてもらえる?」

「私の知る限りではオーストラリア北東部の熱帯雨林に自生する毒性を持った植物の名称です。葉や枝に刺毛があって触れたものに人間にも有毒な神経毒を送り込みます。英名はStinger(スティンガー)。刺すものと言う意味を持ってます。外見は紫蘇の葉のような形状をしていて、生物に強烈な激痛をもたらす毒性があります」

「…………」

「……以上です」

「そう、津島先生」

「ギンピーギンピーと言うものは何かしら?」

「『先ほど説明した通り——」

 

 ??????

 何かの隠語だと思われている? でも私はあいにく植物のギンピーギンピーしか知らない。津島先生の問いかけに対して私の知りうる情報を答える。

 

「え? 何かこれに疑いを掛けられる要素が何かありました?」

「そう」

「え。えっ。えっ?」

「これ以上ギンピーギンピーという植物について聞きたいことはないわ」

「はぁ……。で、では……ほかに聞きたいことはありますか?」

 

 尋問されている立場なのに、いつの間にか私が進行役を務めてしまっているがこれは私が対魔忍組織に対して、“まだ”敵対的な存在ではないことを示す良い機会なのだ。

 既に津島先生の忍法のおかげで私が一般人であることは彼女等にとって正確な情報であると認知させ、私にとっては有益な対応に変化(へんげ)させることには成功している。

 続けざまの尋問の中で、夏休み図書室に通い詰めて魔族や工学系の本を読み漁っていたこと*1や、東京キングダムへの渡航目的*2や、その発端となった魔族語で書かれた書籍について*3について簡潔かつ赤裸々に話す。

 東京キングダムへの渡航目的の話題の最中では、津島先生は目を丸くさせて口を挟みながら嘘を吐いていないかどうかの確認を逐一してきたが、少しでも嘘を吐けば私が不利になり話が通りにくくなってしまうだろう。だから要点だけを掻い摘んで正直に話す。

 

「ところで対魔忍かつ教師の皆さんにご相談です。高位魔族に目をつけられたこの段階でも一般人枠で人生を謳歌はできますか、ね?」

 

 私の現状を自己嘲笑する顔を作りながら、片目を瞑り後頭部を掻きながら質問を投げてみる。

 紫先生はクソデカ溜息。

 校長先生は初めての表情の変化として憐れむような顔を見せてくれた。

 津島先生はどんな返事を返したらいいのか困っている表情で口を(つぐ)んでいる。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 私の問いかけへ大人の対魔忍が3人もいるのに、この質問には誰も何も答えてくれない。

 対魔忍に加えて高位魔族に目を付けられている現状から考察すると、私もうすうす『一般人枠で人生を謳歌することなんかできないんじゃないかな』と諦観の域には達していたけれども。

 日本国の治安維持活動を裏で統治していて、かつ大人で“プロの対魔忍”3人が何も言わないことからかなり深刻な立場に違いない。それこそ私の身の安全が保障されていたのは対魔忍の本拠地であったクソ田舎ニュータウン(笑)五車町だったからこそ護られていた結果でもあったかのように。

 

 ざまぁみろ!

 エドウィン・ブラックと人間風情に3度も泣かされた蛇子ちゃん。

 私の現在地は対魔忍の本拠地だから迂闊に手を出せないだろ?

 意図はしてなかったが、また高位魔族を出し抜いてしまったな。

 

私の大勝利だ!

 

 だが油断は禁物。現状を鑑みるに、私がいることこそ新たな厄災を持ち込みかねない悩みの種として他の地方に転校させられかねない。

 だが高位魔族に目を付けられているという情報と、敵からそれだけの価値がある人物とわかっている私を()()()対魔忍がそれを実行に移すとも思えないのだが。

 

 ……されどそうなった時こそ最後だろう。

 約半年弱と言う短い期間ではあったが、少しでも高位魔族から逃れるためCIAの退職時ように代わりの身分とまではいかなくても、選別として魔界医療で整形してから追い出してほしいと切に願う。

 

「貴様が偽りなく話していることは理解した。……だが……ならば猶更わからない。何故、高位魔族に目を付けられて生き延びている?」

「1体には情けをかけられて。もう1体からは隙を作り出して、そのチャンスで逃げ出しました」

「駒水と日ノ出を……引き連れた状態で、か?」

「結果的にはそうなってしまいますね」

 

 さらりと流すように返事は返しているが、対魔忍側の反応は……多少なりとも動揺。紫先生の場合、彼女の顔を見ずともひしひしと当惑が伝わってくる。

 津島先生の眼の動きから私に〈隠す〉こともなく、混乱した様子で紫先生と頻繁にアイコンタクトを取っているのがわかる。

 

 さて。ここでどうやって生き延びたか聞かれると面倒だな。

 反応からして対魔忍でも簡単には生き残れる状況ではなさそうだし。私が嘘偽りなく高位魔族どもを出し抜いて生き残っていることに加えて、陽葵ちゃんと駒水ちゃんを連れ返っている状態が余計に異常性を際立たせてしまっている。

 東京キングダムの出来事は話したくはない。話題を逸らそう。

 

「…………念のため言っておきますけど」

「……」

「私は対魔忍になる気は一切ございませんので、そこのところはよろしくお願いいたしますね」

 

 ギヒヒッといつものにこやかな笑顔を向けつつ、具体的な逃走行為について尋ねられる前に自然な話題逸らしとして勧誘を持ち掛けられる前の先手を打っておく。

 ウィンクはおまけだ。

 

「でも流石に対魔忍組織とあろう方々が、頭数を揃えた状態で尋問する必要性があるような一般人に憑依している怪しい人物を手駒に加えようとはしないでしょうけれども。念のため、ね」

 

 嫌味と自虐を挟みつつ、意向をしっかり示す。

 ただ対魔忍にならないならば『なりたくなるような英才教育を施してやる』だの『成る気がないなら五車町から出て行け』だの『監禁』など様々な最悪なケースが脳裏を過ぎらないこともないのだが。

 

「貴様は時に言葉の端々へ毒をのせて……自分の立場は理解しているのか?」

「勿論ですよ、紫先生。私は化けの皮を完全に引き剥がされた転生者。ですが中身は所詮、ただの一般人の小娘にしかすぎませんから」

「えぇと。……まだいくつか聞きたいことはあるけれども、貴女の意向はわかったわ」

「ハハっ、ありがとうございます」

「あの……私達としても対魔忍としてその狙われている高位魔族から貴女を護ってあげたいのは山々だけども、その高位魔族の特徴について話せることはあるかしら?」

 

 この尋問官の中で、津島先生だけが親身な風体を装って相談には乗ってくれる姿勢を見せてくれる。

 情報収集と同時に、交渉術の1つであるアメと鞭のアメの役割を担っているのか。この情報は〈隠す〉までもないだろう。〈隠す〉つもりもない。例え隠そうとしても——

 

「『エドウィン・ブラックスネークレディという呼称でした』」

 

 ほらね。彼女の忍法で勝手に口が滑る。

 でも同時にありがたさまである。私は何一つ嘘を吐いていない。

 これ以上にない証明書付きだ。

 

「んなッ!?」

「」

 

 紫先生は短い絶叫と共に絶句。

 校長先生の表情が憐れむような顔から、驚愕と困惑が入り混じり挙句の果てに信じられないものを見ているかのような凍り付いたかのような無表情になる。

 

「まぁ、今後は愛を込めてこの2人をズボンちゃん*4と蛇子ちゃん*5と呼ぼうと思っているのですけどね!」

 

 紫先生と校長先生の凍り付いた状態をなんとか(ほぐ)そうと、冗談のように今後の2人の呼び名を先行公開する。

 

「えーっと、それはどういう感性でその渾名をつけているの……?」

 

 だが拾ってくれたのは津島先生のみ、かつ2人は凍り付いたままだ。

 アイスブレイクに失敗かな?

 

「エドウィン・ブラックの方はネット検索をかけたらエドウィン製のズボンが画像検索結果に表れたのでズボンちゃん。スネークレディの方は和訳して蛇女、同時に女の子でもあるので蛇子ちゃんですね」

「そ、そう……」

 

 いやはや……。

 対魔忍育成学校の教員と校長先生とあろう人物をそんな反応にさせるなんて、あの2人の名は小物の高位魔族ではなさそうだし絶対に私の人生が四方八方から塞がれて詰みつつあるような気もする。

 ここまで来ると五車町に招待されたことは不幸中の幸いだったのかもしれないとまで思うようになってくる。

 

 いやはや長い目で見れば、五車学園へ招かれたことはこれ以上にない〈幸運〉だったな。

 これ対魔忍が管轄していない市街地で日常を謳歌してたら、ある日突然……!高位魔族に拉致されていたパターンでしょ。

 そして最期の展開は対魔忍(動詞)と。

 

 こわいこわい。

 

 いやー。五車町に引っ越してきて結果的にはよかった!

 高位魔族どもはきっと安全圏内に居て手出しできない私に苦渋を飲まされたような苦い顔をしているのが目に浮かぶし、邪神級の高位魔族を不快な気分にさせることができて

 

 私は最ッッッ高に!大満足だ!

 

 

*1
鹿之助くん、陽葵ちゃん、綴木さんへの教科書作りのため

*2
高位魔族に目を付けられて大変な目にあったこと

*3
転生直後には手中に収めており、転生前の以前の来歴は不明。原本は高位魔族による奪取を阻止。対魔忍側で翻訳するか私の方で翻訳するか提案(現状、保留)

*4
エドウィン・ブラック

*5
スネークレディ




~ほそく~
 パラレルワールド世界線の話で対魔忍ニワカ情報となっていれば『ごめんなさい』なのですが、井河アサギ校長先生も、八津 紫先生もエドウィン・ブラック&スネークレディの存在について周知していたと思います。
 2人ともスネークレディに1回ずつ泣かされていたか石化で殺されていたような……?
 今世界線の彼女たちは、それぐらいの認識力であると思っていただければ。

~あとがき~
 総合評価5555いただきましたー!
 ここの達成に至るまでご協力してくださった皆様、ありがとうございました!
 これからも引き続き物語を楽しんでいただければなと思います!

 そういえば、日本国政府とJICA主導によるアフリカ人の大量移ミンターン(他国からの日本国への技能実習生の行方不明数、年間約1万人)で、対魔忍RPGも世間体の煽りや配慮を受けて黒人の敵とかドレッドヘアの黒人対魔忍とか出てくるのかな?

 数年以内に現実世界が対魔忍世界並みに治安が悪化しそうかつ、対魔忍世界の歴史にまで準え過ぎて逆に怖いんですけど。最初に対魔忍世界の歴史を綴った方は「世界情勢に詳しい方か、未来人かよ」っておもいますね。
 アフリカの移ンターンが入ったら最後、特定外来生物みたいに一気に広がるんだろうな。まえさき市の裏路地みたいな未来を現実世界で想定警戒しにゃならんのか……。
 既に特別ビザも用意してあるし、きっとほとぼりが冷めたら——

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。