対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
あ、そういえば……。
「話は変わりますが……」
「あっ、逃げた!」
「逃げてないですよ!話題を変えたいだけです。逃げているわけではなくて、思い出した聞きたいことが別に思い出しただけなので聞いてみたいだけです!たとえ逃げに見えているなら逃げでもいいです!でもこれは陽葵ちゃんにしか相談できないんです!もう陽葵ちゃんは私の相談を聞いてくれないんですか!?」
「それは喜んで聞くよ!」
〈魅惑〉の話術の1つ女性特攻術である“あなたは特別感”を出すことでゴリ押しで話題を変えにかかる。彼女は私に好意を抱いてくれていることもあってすぐにゴリ押しの話題変更へと乗ってくれる。
「……つかぬことを聞きます。既に実戦には出たことがありますか?」
「それは……——」
陽葵ちゃんの言葉が詰まる。
いつもの彼女の調子ならば、例え対魔忍側に守秘義務があろうと成し遂げた功績をスラスラと私に教えてくれそうなものなのに何も言わない。
特に私の気持ちが鹿之助くんになびいている現状から少しでも自分に注目を向けるチャンスだとアピールしそうなものだが……すぐに次の言葉が出てこない、会話が続かないことから彼女にとっては好ましくない話題だと判断する。
もしかすると、もう既に陽葵ちゃんもゆきかぜちゃんのように——
「いえ! 言いたくないことを私が尋ねているようで、言いたくかったら秘密でいいんですよ!?」
「あはは、そんなことはないかな。心配してくれてありがとう。日葵ちゃんのそういうところ好きだよ」
「……」
「正直に言うと私は日葵ちゃんみたいに強くないから、まだ実戦は出たことないかなぁ。任務として参加したのは補給とか裏方ぐらいかな」
陽葵ちゃんの対魔忍任務での参加経験が私が想定していた実戦とは——戦闘や殲滅、潜入になるのだが、彼女が経験がないことを知れるとその一瞬だけはホッと一息をつく。
「………………」
されど同時に既に対魔忍として一歩を踏み出した証拠である補給・裏方という任務内容のことを考えると下唇を噛みしめ、顔も少し歪む。
そして陽葵ちゃんも言っていたように“私のように強ければ”という言葉の羅列。それは彼女がもし私のように前線を張るようなタイプであれば、あろうことか彼女は戦闘系の危険が伴う任務に就かされていた恐れがあったということだ。
対魔忍組織ってやつは、本当に。
本当に…………っ。
「私だって、実戦に出たことなんか、ないですよ」
「ええーっ!?なんでー?!あれだけ強くて、なんでも知ってるのに!?」
「(前世での)昔の友人と比べたら強くもないです。それになんでもも知らないです。私が知っているのは、私が知っている情報だけです。その情報も旧くて誤っていることだってありますよ」
感情を押し殺しながら、あくまでも淡々と事実のみを彼女に伝える。
対して陽葵ちゃんの反応は、それはそれはとても意外そうで、しかも実力があるにも関わらず晴れ舞台に出られていないことを1人の親友として心底残念がっているように見えた。
まるで祖父から聞かされた第二次世界大戦中に赤紙*1が届いたことを喜ぶ家族・周囲のような。
うまく言葉に表すことができないけれども、
「あ!でもでも!夏休み中に日葵ちゃんに鍛えてもらったから! 二車君で実力が身を結んだし、2学期は学校の方で良い成績が良かったら実戦任務の方も申請してみるつもり! 成果が出ちゃうね!
陽葵ちゃんはピースサインを送りながら、まるで心が励まされるかのような
まるで『
いいや、彼女はまだ子供なのだ。
だが私はそんなつもりで彼女に護身術を教えたつもりはないし、同時に彼女が対魔忍であることを知っていれば、彼女が最前線に立たなくても良いようになる手法を教えていたに違いない。
「学校の勉強苦手だから科目を落としがちだけど、任務に赴けば苦手な科目は免除されるし!」
決して聞き捨てならない言葉までもが飛び出す。
自分でもわかるぐらいにジト目が大きく見開いたような気がする。
「それに任務を成功させたら普段の筆記試験結果よりも好成績として成績を残せるんだよ!」
腰の隣で自然に降ろされた左手が、痙攣するかのように開く。されど直ちに己を律して左手で握り拳を作り、爪が手のひらに深く突き刺さるぐらい力強く握りしめる。
五車学園における基本科目の基礎であるはずの教科書が、やけに混乱を招くような書き方をしている訳も。
ゆきかぜちゃんや秋山凜子ちゃんのように学生という身分にも関わらず、ヨミハラという魔族しかいない街での救出任務のような危険しか伴わない最前線に身を赴いている理由も。
優等生であろうと落第生であろうと任務へと駆り出される・駆り出させる
「…………」
「?」
そうか。そうかそうか。そうかそうかそうか。
かつて『女王の教室』なる風刺ドラマで語られたことと、この
くだんのドラマで語られていたことは“特権上級国民の人々が自堕落で楽しく幸せに暮らせるよう、凡人たちの国民負担率を引き上げ、課税し成り立たせている実情。それらを強いている特権上級国民の人々望みは『凡人達には今のまま永遠に愚かでいてくれること』”
この文章の文言のいくつかを入れ替えれば、対魔忍組織の上層部にも十分に例えられるだろう。
そして上層部を人間が率いているならば、行きつく先など容易に想像できる。
いつの時代になろうとも人の営みである以上、組織の基本的な仕組みは変わらない。
対私特攻であるアイツが言いそうなことを私も考えてしまう。
不公平など気にせず。周りの娯楽用品に溺れて何も考えず。
任務では司令塔の言うことを大人しく聞いて、真っ先に危険な所に行って戦ってくれる便利な手駒の育成。
“人は低きに流れる習性”を理解して悪用する典型的な手法。
特に世渡り術や社会経験値の低い学生ならば、なお沼りやすい安楽な道でもあるだろう。その先に待ち受ける道が地獄とも知らずに。
それに上層部の言い分としては別に日本国憲法に違反して、〈法律〉第二十六条“すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する”ことを学生達から剥奪しているわけではない。
一見する分には楽で簡単な道に《見える》選択肢をチラつかせ、学生自らが愚かな道を選択し、進み、破滅し、特定の特権上級国民の私腹を肥やすシステムになっているというのがこのクソみたいなシステムのオチだ。
確かにこの手法ならば責任転嫁もしやすい分、罪悪感すら抱かなくても良いだろう。
彼らに罪悪感などという正気が残っていればの話だが。
きっと彼らのお決まりなセリフはこうだ。
『だって彼等学生が自ら選んだ道だから!』
……まさしく自己責任主義者の日本国上層部が考えそうなことだ。
反吐が出る。ふざけるな。ドグサレが。
NPO法人みたいなことしやがって。
テメェ等の薄汚ねぇ思惑。
誰が思い通りになんかさせるか。
「…………日葵ちゃん? 今度は怒っ——」
「えいっ」
「あいた」
陽葵ちゃんの頭頂部めがけて、右手で斜め45度の角度からチョップを軽く叩き込む。
衝撃で彼女が目を瞑り、両手で叩かれた頭を押さえている間に少し血の味のする下唇をなめて、左手の力を緩める。強張る左手の指先を解すように握り開きを繰り返して、煮えたぎる感情を理性で抑え込もうと——
「ええ、怒ってますよ。何が『実力が身を結んでいる』のですか?今の私の不意打ちを〈受け流し〉することもできず、〈回避〉することもできず直撃していたではありませんか。実戦というものはこういうことの連続が巻き起こり、常にそれらは危険を伴う形で自身や周りの人間に降りかかってくるものであることと同時に自身の人生を棒に振ることや時には死直結するものなのですよ。実戦とは陽葵ちゃんが考えているものよりも、ずっとずっとずっとずっとずっとずぅっ~~~~っと恐ろしく常に自分で何とかしなくてはならない。それを対処し続けることが実戦なのです。常に気を張り詰め周囲を警戒し、例え任務をその場で達成することができても成果——否、陽葵ちゃん自身が五車町に帰還するまで継続していなければなりません。時には味方だと思っていた存在ですら敵であるのです。陽葵ちゃんにはそれを見抜けるだけの力はありますか?見抜けていますか?未だ見抜く力を身に着けていないでしょう?既にそれらしい実戦では夏休みにて判断力を鈍らせたタイミングで二車程度を伸した程度じゃないですか。私との訓練も1週間程度しかしてないでしょうに。たった1週間程度で私からどんな技術を盗めましたか?いったい何を学んだというのですか?私、初回で言いましたよね?武器を持っている相手には戦う選択肢では逃げましょうって。初回のみならず適宜講義の中で繰り返し説明しましたよね?その上で何を学んだんですか?陽葵ちゃんは大太刀を抜いた二車に対してなにしたか覚えていらっしゃられますか?堂々と敵対勢力が取り囲んでいた広場まで突き進んできたことは覚えていますか?当時の状況は見えていましたか?敵は二車だけじゃなかったことは見えていましたか?的確な状況判断はできていたと思いますか?私の〈魅惑〉に打ち勝ちましたか?その上で、どの口がそんな生意気なことを言うんですか???この口ですか?この口が言っているんですか???」
早口でまくし立てながら詰め寄る。
続けざまに反論の余地を与えず、陽葵ちゃんのプリッとした唇を左手で摘まむ。
「うぶぶぶぶ……いふぁ~い! ひばりひぁん、ふぉふぁ~い!」
何も
ちょっと、まんじゅうが凹む程度の握力で彼女の両唇を封するように摘まんでいるだけだ。思いっきり逃れようと思えば簡単に逃れることのできる握力。
「要するに本当に対魔忍として危険な実務に出るつもりで申請を行う気ならば私を倒してからでなければ、師範代として実戦を許可しません。それはたとえ陽葵ちゃんが
「ふ、ふぁい」
返事を受けたのでパッと手を離す。
彼女から少し離れて軽く深呼吸をする。
「……。すみません、感情的になってしまいました」
感情を抑え込もうとしたがまったく抑え込めなかった。
もし陽葵ちゃんが上層部に踊らされて駒水ちゃんやゆきかぜちゃんのように
未熟だ。人生二週目なのに恥ずかしい。
日陰側の壁に額を漬ける。両目をつぶって軽い〈瞑想〉にて心を落ち着ける。
このような状態に陥っている理由は、これまでの友人関係にあるのだろう。
前世では死別が多く友人は少なく、訳あって親友的存在も僅かだった。
また陽葵ちゃんのように“目が離せない”親友が同年代はいなかったことも現状を生み出すことに直結しているのだろう。
私の子供の頃からの親友は雷 巴ちゃんだけだったし、彼女は戦闘面において他を追従させないほどに安心感のある戦闘部族の家柄の出であった。私の武術の一部も彼女から教わった技法だし。
それ以外の友達といえば社会人特有の利害一致したもの同士の集まりであって。知人以上の関係ではあったが、友人の立場になると失った時の
しいて言えば私と雷 巴ちゃん。そしてもう1人が“三すくみ”の都合で、“便宜上”親密な関係性の人物が1人居たものだが……。
「……」
「!」ソォー
「……」
再び目を開いた時、陽葵ちゃんが抜き足差し足忍び足で近づいていること。
振り上げた
「やーっ!」
「甘いッ!」
おそらく仕返しのつもりだろうが、私が目を開いたところでピクッと細かい動揺反応で攻撃タイミングがずれたところを狙って、一撃をわきへ〈受け流し〉する。
「あーっ!もうちょっとだったのにー!」
「ハハ、残念でしたー。ともかく今ので攻守ともに技量としても追い付いていないことは理解できましたね? 私との忍法の特訓だって始めても居ないんですから、実戦はまたのまたです」
「むー……」
唇を尖らした表情筋から納得していない感情が〈心理学〉的に読み取れる。
そんな顔をしたって駄目なものはダメだ。
絶対に許さない。
「さ、これでナイショの話はおしまいです。基礎忍法論の講義ありがとうございました。実戦に出たいなら小目標は私を倒せるようになりましょう。押し倒しという意味ではなく組手で、ですからね!」
とは言ったものの、あまり押さえつけすぎると若さによる反骨精神のあまり意地で勝手に実戦に走り出してしまいそうな予感もある。あとはどうやってうまく彼女と折り合いをつけて実戦に対して意欲的な気持ちを汲み取るかだろう。
「陽葵ちゃんは伸び代が良いので望みは比較的に早く叶えられると思いますけどね」
「本当!?」
「ええ。だからこれからも修練を頑張りましょうね」
「うんっ!」
だからこうやって嘘を交えながら適度にパンク抜きも行ってみる。
優しく微笑みながら希望的情報も小出しに提供する。
だが実戦に出すつもりはない。
出させるつもりもない。
これは対魔忍全般に言えることだが、陽葵ちゃんも他の学生対魔忍もまだ若すぎること。まず第一にキミ達は学生であることを自覚してほしい。
学生は勉強が本分! 任務が基礎を応用へと転換させる実習の一環だとしても……!
旧時代の人間から言わせてもらえば『任務に出席したから苦手科目は免除』『任務成功で筆記試験より好成績転換』のシステムはおかしい! 絶対、裏に何かがあると私の経験則や〈歴史〉が物語っている!
それに大人になったら嫌でも定年まで約40年間の強制労働と納税義務が控えているのだから、先急いで自ら就労へ進まなくていいこの思想もどうかわかってほしい……!
~あとがき~
いぇあ!
対魔忍RPG 7thおめでとうございます!
しかも今回のマップイベント(beta)日ノ出陽葵ちゃんが登場してきて、とても嬉しかったです! 久しぶりにイベント内容全文読んじまったよ……。これは【ダブルひまり】から推しになった私への運営サービスか!?(うぬぼれ)
でも2D6の期待値は7ではなく、3 or 4ですよ。運営さん!
今月はイベントアーカイブも【バニー】日ノ出陽葵ちゃんなので、残り6日の期間でラック100を目指しています。……ゲーム側でも鹿之助くんよりラック備蓄度が優遇されていますねぇ。
あとふうま君たち、五車町から抜け出してるんですね。……しばらくストーリー追いかけず、イベントも作業だったので知りませんでした……。