対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「そういえば……」
色々考えこんでしまった翌日の数日後。
いつもの教室移動ありきの洗脳授業の合間に、ふととあることを思い出して視線を上に向けて手槌を打つ。
「青空せんぱーい? 何か気になることでもありましたー?」
「まぁ、少しね。でも大したことではありませんので」
私の仕草に他クラス合同授業のため道中合流してきた綴木さんがひょっこりと顔をのぞかせる。ツッコミを入れてくるが、さらっと流す。
実のところ彼女には一切関係のない内容。
五車学園が対魔忍育成教団であるならば、昨年のテロリスト事件の出来事で水城 ゆきかぜちゃんと遭遇したのならば、ここに水城 ゆきかぜちゃんと出会えるではないか?と〈INT〉が閃き、この教室移動のタイミングで思い浮かんだことにあったからだ。
「そこまで意味ありげな仕草をしたんですから私にも教えてくださーいっ! 軽く流さないでくださいよー!もー!」
「俺も気になるな。重要じゃなければ話してくれたっていいだろ?」
「……本当に大したことじゃありませんよ?」
「私と青空センパイの仲じゃないですかぁ~。さぁさ!勿体ぶらずに!」
廊下の端に寄ってから、片目を瞑って後頭部を掻きながら2人に向き直る。
「では……。2人は『水城 ゆきかぜ』さんってご存じだったりします? 在学しているようなら、ぜひ一度お会いしてみたいのですが……」
「!!!」
「知ってま~すっ! ゆきかぜさんなら私達と同学年ですねっ!」
これはツイている。
綴木さんの反応にしめたと思い利き手を口元へ持ってきて口元に当てる。
鹿之助くんの方も先手こそ綴木さんに取られてしまったものの、反応から推察するに存在を知らないというわけではなさそうだ。
「ええと、では次の昼休み。彼女のもとへ連れて行っては頂けないでしょうか? 何分、私はこの“学園”については疎いものですから、人脈に関しては知っている範疇でしか把握していないのですよね。ここまで話を聞いてしまったわけですし、折角ならお二人の〈知識〉、もお借りしたいというわけです」
「あわ、えぇっと……」
鹿之助くんはどこか優柔不断な困惑を見せてくる。
「あれあれ~? ゆきかぜさんのクラスについては上原さんもご存じですよね~?」
私が彼の反応について考察を始める前に、隣の彼女がからかうようなせせら笑いで鹿之助くんの顔色をのぞき込む。それから半分見せている横顔で私の顔をチラリと一瞥してくる。
おや? これはもしや……?
「し、知ってるけどよぉ」
「じゃあ青空センパイをエスコートしてあげてくださ~いっ! 私には昼休み予定があるので案内できないんですっ!」
「お願いします。鹿之助くん」
意図して綴木さんから渡されたバトンを引き継いで、鹿之助くんへ頭を下げる。
ここで即時に断られたら何かしらの事情が彼にもあるのだろうが、〈心理学〉情報と彼の普段の行動から推測するに鹿之助くんは咄嗟の判断には慣れていないこと。初手の反応から知ってはいるが、何かが彼の中で引っかかって素直に案内できない。といったところだろうか。
「いいけどさぁ……でも」
「でも?」
「揉めるなよ?」
鹿之助くんの承諾は取り付けられたが、あらかじめの喧嘩の制止に対して少し片眉が持ち上がるような怪訝な表情になってしまう。
彼女についての前情報が一切——と言っても前世で出会ったことのある被害者であることと、あのビルの屋上での出来事ぐらいでしか彼女を知らないものだから……。
でも私の現在の五車学園内での評価と擦り合わせたら、もしかすると学園での彼女の立ち位置は、優等生なのかもしれないと推測が立った。
以前、陽葵ちゃんが話してくれた優等生であっても対魔忍任務へと引き込む要素によって、彼女が実戦の場に赴いていた点としても不可解な点はない。
「揉めませんよ。軽い世間話と、過去の出来事についてお礼を伝えに行きたいだけです」
「…………」
鹿之助くんの顔が更に曇る。
まるで私が『もっとまずいことを告げに行こうとしている』のを止めるべきか悩むようなそんな険しい表情だ。
「上原さ~んっ! そこは男らしく『わかった』と言い切らないと、そのうち青空センパイに捨てられちゃいますよ~っ!」
私が言葉をつづける前に綴木が鹿之助くんを茶化す。
鹿之助くんは少し慌てたようになりながら〈聞き耳〉で聞き取れるぐらいの声量での『俺にもいろいろと事情があるんだよー』とかのつぶやきを彼女に言いながら、私にもいろいろと弁明をしている。
されどこっちはそんなことは微塵にも気にしてはいない。
私が納得したのを確認すると、そのまま『どうすっかなぁ』と考え始めて移動授業先に向かっていく。
「綴木さん?」
「んん? はーいっ?」
おそらく彼女にとっては『おちょくった』程度の認識なのだろう。
だから先に行こうとする鹿之助くんの後に続こうとする。そこで彼女を呼び止める。
その僅かな一言の間にこちらの感情が伝わったのか、少しどもった反応が出ている。
「1つだけ修正させていただけますか?」
「なんですか~?」
「私は鹿之助くんを捨てたりしませんよ。絶対に棄てたりしない。絶対にね」
「あれはからかっただけですよ~!本気にしちゃいました? にひひひっ♪」
「綴木?」
「あ。あっ。で、でも、あ、青空先輩を怒らせるつもりはなかったんです。ごめんなさい!」
「別に怒っちゃいないですよ。ただ、それだけは白黒つけて置こうかなと思っただけ。ハハハ・ハ。ハ。怒っているように見えましたか? 心外だなぁ」
「い、いぇ~? もしかしたらと思って」
「それは失敬。気を使わせてしまって申し訳なかったですね」
「あははは……」
「行きましょうか。授業に遅れてしまいますよ?」
組手での前例があるためか少し狼狽しているが、今度は私が冗談を言ったみたいに茶化した口調でケラケラ笑うとホッと一息ついたような表情へと戻る。
そう。私は水城ゆきかぜちゃんに対する対魔忍組織のようなことをするつもりはない。
恋人という間柄とは別に、もし私が彼を捨てる時があるとすれば『棄てる選択』が彼のためになる時か、彼から“私”が拒絶されるに至った時だけだ。
………
……
…
「ゆ、ゆきかぜさんはいるか?」
昼休み。
鹿之助くんに案内される形で、水城ゆきかぜちゃんがいるという教室へ訪問する。
彼に続く形で教室へ首を突っ込み教室を見渡す。
彼女の姿は…………あった。他の女子生徒と自席で談笑していたようで名前を呼ばれるとこちら側に顔を向け、そして私とも目が合った。
「あんたは……」
彼女の零れ出るかのようなボソリとつぶやいた言葉に応じるように、私も左のこめかみに当てた左手の人差し指と中指を正面に軽く突き出して海外映画風の挨拶を彼女へと送る。
他クラスから自クラスに学園の問題児が顔を出してきたことで何人かは反応を示してくる。
「ありがとうございました。もう大丈夫です。このまま何も問題も引き起こさず、5限目には戻るようにしますね」
神村との初遭遇時への対応と同じように彼には礼を告げて、後方へと下がるように仕草で意思を伝える。
「ぉ、俺も同席してもいいかな?」
「ん。ええ、構いませんよ」
おや。神村の時のようには引き下がらなかった。
これは私と彼女が揉めないように仲裁しようとしているのだろうか?
私としては本当に彼女と揉めるつもりなど毛頭ないのだが……。
だけれども私としては彼女にいくつか話しておきたいことがある。ついでと言ってはアレだが、このタイミングで鹿之助くんについても“探り”を入れておこうか。
彼と歩幅を合わせてゆきかぜちゃんの元まで歩みよる。私が近づくと彼女の他のクラスメイトが散るがさしたる問題ではない。それと心なしか、私に対するゆきかぜちゃんの表情は険しい気がする。
「お久しぶりですね。水城ゆきかぜさん。これでお会いするのは2、3度目になりますが、その節では大変お世話になりました」
優雅に物腰は柔らかく、笑顔を維持したまま丁寧な口調のまま穏やかに頭を下げた挨拶を行う。
「そっちもね。噂は兼ねがね。元気そうで何よりよ」
まさに悪名は無名に勝るという奴だろう。
噂という悪名のおかげで彼女の耳にも私のその後が届いていたことは、プラスに働いた。
「おおっと。そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私は――」
「『青空 日葵』、でしょ?」
「おや」
「知ってるわよ。それぐらい。“噂の
ゆきかぜちゃんの言葉に鹿之助くんの方を見やる。彼は先ほどまでとはうってかわり、私から目を逸らしてこちらを見ようとしない。
( ,,`・ω・´)ンンン~? いったい何をゆきかぜちゃんへ話したのか知らないが、その様子はもしかしてあまりよろしくないことを言ったのかな? 怒らないから何を話したのか言ってごらん?
「そうでしたか。手短に話を済ませられそうです。ありがとうございます。鹿之助くん」
「い、い、いやぁ。お礼なんてそんな」
「ところで水城さんへ何をお伝えになられたのですか?」
「……秘密だ」
「鹿之助くん?」
「気にしなくていいって」
彼の顔を回り込んで正面からのぞき込もうとすれば、さらに彼はそっぽを向く。
「イチャついているところ悪いけど、私としてはあんた側から出向いてきてくれたのは助かったわ」
「イチャっ!?」
「どう見てもイチャついてるでしょ。その様子だと進展してくっついた感じかしら?」
ゆきかぜちゃんのイチャつき判定で鹿之助くんが彼女の方に向き直り慌てたような顔をしているが、実際イチャついていることには変わりない。そしてくっついたことについても否定しない。実際、彼とは恋仲だし。
赤面する彼の肩を抱き寄せて、ゆきかぜちゃんに対して私も鹿之助くんも正面を任せるように角度を調節する。
「ええ。彼との関係性について否定はしませんよ」
「やっぱり。そんなんじゃないかと思った」
さらに顔を赤らめる鹿之助くんを他所に、ゆきかぜちゃんは辟易としたような分かっていたような顔をしている。
「ギヒヒヒヒッ。それで――そちらの『助かった』というのはまた、どうして?」
「あれ以来のお礼よ。まだちゃんと言えてなかったから。チャンスを作ってくれて、ありがと」
ツンケンしてぶっきらぼうな印象は受けるが、確かに彼女から投げ渡された感謝の気持ちは受け取った。
「だけど自己犠牲は賛賞できるような行動じゃないし、原因を作ったのはあんた自身だから自業自得でもあることは忘れないで」
ピシャリと打ち付けるようなこの世界での価値観らしい彼女の言動で、隣の鹿之助くんの目線が超挙動不審である。
まるで私が左手のストレートで彼女の右頬をぶん殴りに行かないか、まるで夫婦喧嘩の幕開けを予知し気遣う子供のようだ。
「ははは。それに関しては、ぐうの音も出ないですね」
だが心配には及ばない。愛想笑い声を発して苦笑いを浮かべる。
あとこの距離では『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』(81頁)に基づいて左手の〈こぶし〉を放つより〈頭突き〉を叩き込んだ方が最先手だ。対魔忍相手でも確定で先手を取ることができる自信がある。
だがしかし、ゆきかぜちゃんの火力のあるド正論には反論する気も起きない。されどあの時、私がドジさえ踏まなければ、対魔忍達は屋上でのテロリスト殲滅戦は99%の確率で成功を収めていたはずだったのだ。
だがあれは対魔忍が対魔忍に陥らないために、当時の私ができた最大限の尻拭いでもある。自己犠牲で拭えるならば安いものだ。
「その件につきましては、今後は五車学園にて修行と経験を積ませていただく所存です」
私の言葉に隣で挙動不審だった鹿之助くんの視線が私側に固定され、疑問を持ったような顔をする。きっと散々な言われようで、普段の私であれば殴りにかかりかねないとでも思ったのだろう。だがそれを何食わぬスカした顔で肩をすくめて『揉めるわけないでしょ』とアピールする。
一方でゆきかぜちゃんはこちらの粛々とした態度に顔の険が取れて、言いたいことを言い切ったようなため息を吐いている。
「ところで――」
「なによ?」
一息を込めてから次の情報獲得について動き出す。
「水城さんとしましては、これから私が水城さんと肩を並べる形で五車学園の一員として活躍していき、汚名返上するにはどのようにすればいいと思いますか?」
「!?!?」
「そうね。ちゃんと授業に出ること、先生方の指示には従って、好成績を残すことかしらね」
突然の私の口からは言い出しはしないであろう暗に忍ばせた対魔忍の一員発言に対して、ゆきかぜちゃんは普遍的な返答をしてくれる。
が、鹿之助は異なる。この鎌かけの発言に対し明らかに〈心理学〉で伺うまでもないほど、表情筋がチョコボール菓子のパッケージのマスコットキャラクターギョロちゃんみたいに目を見開いて露骨な反応を見せる。
だいたい分かった。
鹿之助君は黒寄りだ。
だがそれでもかまわない。
彼も五車
これまでの情報を精査するに“最初から*1”というわけではないだろう。
どこかで誰かが、彼へ入れ知恵をしたやつがいる。
それも彼が井河アサギ校長先生から私が一般人であることを知らされていない状況から、入れ知恵したのはアサギ校長先生でもなさそうだ。
しかし……。彼女がなぜ私との約束を律儀に守っているのかわかりかねる。
対魔忍と一般人。立場で考えれば〈法律〉上でも〈人類学〉上でも対魔忍の方が強いはずだ。彼に対して口止めに口止めを重ねれば済む話をなぜ。正直に応えるように勤めていた私への誠意返しのつもりか? 様々な推測が立てられる。
だからこそ次の機会で、入れ知恵をした人物について探ろう。
「ご鞭撻、痛み入ります。精進してまいります」
「別に。当たり前のことしか言ってないはずだけど?」
「私はその当たり前ができれば苦労しないのですけどね。ギヒヒヒヒヒッ」
私は鹿之助くんへの観察を表には出さず、照れくさそうな笑顔で片目を瞑って後頭部を撫でながらゆきかぜちゃんとの会話を続ける。
私としては彼女がなぜあんな目に遭った、遭わされたのに対魔忍組織に継続して所属しているのか。うまく聞き出したいところだが彼女とはもう少し距離を詰めてから切り出した方がいい話題だろう。
「さて、と。ご挨拶も済み、聞きたいことは聞き終えましたし、戻りましょうか。鹿之助くん」
「うぇっ? あ、お、おう! てか、もういいのか?」
「ええ。必要なことは十分に得られました。それではまたお会いしましょう水城さん」
「ふん。それじゃ」
だから初コンタクトはこれで十分だ。
さわやかにゆきかぜちゃんに別れを告げて自分の教室へと戻るのだった。
~あとがき~
ウォーッ!
【バニー】日ノ出陽葵ちゃんのラックを100まで上げ切ったぞー!!!
あと、ボテ腹ガチャ(2025)完全勝利、致しました。