対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「しかのすけくぅーん」
「わわわっ! きゅ、きゅうに抱き着いてくるなよな!」
昼休み。
渾身の甘えた声を出して鹿之助くんを背後から抱きしめるようにして覆いかぶさり、彼の頭頂部の臭いを十分に堪能したあとで顎を乗せる。
制汗剤でスメルケアはされているが、それでもほのかにただよう男の子の頭皮の臭い。これは間違いなくテストシカステロン。
くせぇけど、これがクセになるから止めらんねぇ。
ついでに普段の彼の香りと汗の匂いが混ざり合って、生理的現象でムラムラもしてくる。まさに人体の神秘。
体格が鹿之助くんよりも2回りほど大きな私は、簡単に鹿之助くんを包み込む形になる。
座位姿勢の彼に背後から覆いかぶさったせいで、私の長い腕が不用意に彼のイチモツの上に降りてしまったが、これは事故だ。
たまたま腕を適当におろして抱きしめたら先端の着地地点がティンティンダロウスだったというオチ。
鹿之助くんはそれを慌てながら私の腕をつかみ、着地地点を逸らした。
それから弱気な彼らしく、即座にクラスメイトの顔色を窺うようにあたりを見渡している。
「そ、それに触っ///! 学校でそういうのは――」
「ごめん。今のは単純に事故です。触れる気はそんなになかった」
「“そんなに”ってなんだよぉ!?」
私のボケに対して渾身のツッコミを入れてくる。
でもそんなに触れるつもりがなかったのは本当だ。
たまたま腕を回して手を置いた位置がタマタマだっただけ。
「んでさー。かなり真面目な相談を持ちかけてもいーい?」
「……真面目な話をする姿勢でも言葉遣いじゃないぞ。日葵らしくないじゃんか」
「こうでもしないとちょっと話しにくくてねー。リラックスして質問をしたいっていうかさー」
彼はクラスメイトから見られていないことを確認すると私の腹部の中心部で彼は小さく、身を硬くしながらも少し頭を動かして、見上げるようにして彼の頭頂部に顎を乗せている私へと目線を合わせてくる。
「それで真面目な話って?」
「話というよりも勉強に近い話題かもしれない」
「おいおい。それ本当に俺に聞いていい話題か? ってか勉強について聞きたいことがあるって、日葵にしては珍しいっつーか、初めてじゃ?」
「初めてだねぇー。でもこの分野に関しては鹿之助くんの方が詳しいはず」
彼の眼が輝く。
彼にとって『普段の恩返しができるんじゃないか』と言いたげなそんな期待を孕んだキラキラとした煌き。私には眩しすぎるぐらいだ。
「俺が詳しい分野ってなんだ?」
「えーっとねぇ」
ごそごそとスカートの背中ゴムに挟んでいた一冊の本を取り出して、鹿之助くんへ絵本でも読み聞かせるかのように彼の正面で開く。
「対魔忍の忍法についてなんだけど……」
栞を挟んでおいた分、簡単に該当ページは開けた。
「!?」
「図書館で借りた本も参考にしながら勉強中なんだけどさー。やっぱわかんないんだよねー」
「な、なにが?だ、よ……?」
「鹿之助くんの電遁の術と、ゆきかぜちゃんの雷遁の術。これ何が違うの? 2つとも自然系忍法の珍しい忍法なのはわかるけど、大元を辿っていくと二つとも電気じゃん?」
「!??!?!?」
明らかに腕の中で動揺して身じろいでいるが、私の方が体格の差で彼を押さえ込むことができているため彼が大きな動きで私を拒絶するには至らない。
「五車学園で私も基礎忍術論を自習し始めたんだけど、ちっともここの違いがわからなくてさー。陽葵ちゃんとかにも聞いたんだけど、当事者に聞いた方が早いって言われてねぇ。たしか陽葵ちゃんは陽遁の術使いだったから、火遁術との違いについて細かく説明してくれたかな」
「えっえっえっえっ」
「紹介してもらったあとで、ゆきかぜちゃんに聞いた感じだと雷遁の術は雷を操るところまでは聞けたんだよねー」
すごい動揺。かなりの動揺。瞳孔が開いている。
それに背中を彼にくっつけているせいか彼の心音もバクバクとはちきれんばかりの心音がこちらにも伝わってくる。身体は実に正直だ。
「えっだって日葵は、えっ対魔忍?でもふうまが一般人だって——」
焦りに焦りまくっている彼はついにポロリと決定的な単語を口から漏らす。
彼の言葉にこちらのジト目がスゥーっと細くなる。
(やはり
鹿之助くんがこんな調子なのと、過去の出来事を総括するに、おそらく私が一般人だと学生側で把握していたのはふうま、ヘヴィ子ちゃん、鹿之助くんの3人ぐらいだと断定してしまっていい。秘密は大人数が知れば知るほど隠匿性が薄れていくものだ。いくらここの学生達が対魔忍だとしても見習い。限度がある。
だが今はそんなことは重要じゃない。
「そんなことより、ほら見てココ。電遁の術も雷遁の術も電気が大元って書籍にはあってさー。電遁の術って雷遁の術と何が違うのー? 少し前まで一般人の知識しかなかった私にはさっぱりだから教えてくださいよ」
ドギマギしている彼の頭頂部に顎を乗せるのはやめて、彼の肩に首を密着させるよう乗せ、頬をくっつけながら尋問を続ける。
彼の視線を書籍に注目させることで、私が彼の〈心理学〉情報を深く推察している気配を紛らわせる。
ついでに彼がポロリと漏らした私が一般人だという情報は誤情報だったと錯覚するような誘導を仕掛けに行く。
おまけで彼を抱きしめる腕にも力を入れて体をより密着させて僅かな彼の口から漏れ出る些細な声も〈聞き耳〉や〈読唇術〉で拾うことができる万全の体制を作り上げる。
「で、電遁の術は、生物に存在する電気を操るのが、主体の忍法のことで……」
「ふむふむ?」
「ほ、ほら静電気とかあるじゃん? 俺はアレを意図的に発生させたり、あとはふうまの案とかだと電波として、その静電気で相手の位置を特定したりすることができて……」
「ふんふんふん」
「それで、その、おれは、ゆきかぜさんみたいに派手な攻撃系忍法じゃないんだ。あくまでもサポート的な役割であって、その、だから、ぜんぜん強くなくて……」
彼の地雷に触れる形になってしまったのか電遁の術を説明している鹿之助くんの様子がさらに弱弱しく、しゅんっと落ち込むような様相になっていってしまう。
だからそんな彼を励ますように、揺りかごのように抱きしめたまま前後に揺れることで彼の緊張状態を解そうと励ましにかかる。
地雷を踏んでまで追い詰める趣味は………………今はそんなにない。
「別に忍法の強さとか私は気にしませんよー。そこら辺もよくわかんないのですが、やっぱり対魔忍としては忍法の強さとかが大事なのですかー?」
「そりゃ大事だよ。単純に強ければ人もついてくるし、学校ではいい成績を残せるし、部隊を率いることができたかもしれないし、俺の夢だってもっと堅実に叶えられる可能性だってあったし」
当然だろ?とでも言いたげな彼の口調と表情に、私は肩をすくめてその価値観に理解出来ていないとぼけた表情をする。
彼の言葉で脳裏に眞田先輩、ドドン太郎、なお先輩が脳裏に浮かび上がる。
いずれも彼等は対魔忍の忍法や武術として有力者だ。
「ほぇー、心当たりがありますね」
「あのさ。ここまで話して心配になっちゃったことがあるんだけど……」
鹿之助くんの声色が私の機嫌を伺っているようなものへ変化していることに気づく。
これはこの五車町特有、独特の因習村にありがちな価値観での判断の結果と少し彼自身も正直にしゃべりすぎたと思っているような焦燥感のある手のひらの冷や汗から推理すれば、彼と私の関係性について将来の不安を抱いたのだろう。
「やだなー、もー」
「うわっ!わっ!わっ!わっわっわっ!」
ガックンガックンと彼の首が激しく揺れるぐらいの勢いで、鹿之助くんを背後から抱きしめながら揺さぶる。
「私が鹿之助くんに惚れている理由はもっと別のところにありますし、今回の話は電遁の術と雷遁の術の違いを聞きたかっただけですもーん。
「…………。おれをそんな風に言ってくれるの、ひまりぐらいかも。……励まそうとしてくれてるなら、ありがとな」
「本心ですけど? それに私は鹿之助くんの彼女ですからね。好きな人の忍法の強弱程度でこの恋心は変わりません」
私の揺りかごのような揺れに彼も同調して一緒に揺れ始める。
身が一体化したような安心感がお互いを包み込んでいるような気がして、先ほどまで以上にホッとした安堵感で満たされた気になった。
「やっぱ蛇子の言う通り日葵は外から来たからか、考え方が俺達と全く違うな」
「えー?」
「さっきも話した通り、ここでは忍法の強さが物を言うからさ、俺みたいに強くない忍法は立場が弱いんだ」
「ああ、だから二車くんとか眞田先輩とかが台頭しているわけですか。
「虎の威を借りる狐みたいでいつかは脱却しなきゃいけないってわかってるけど、ひまりとつるみ始めてから虐められることもなくなって、ひまりが来てから学校生活がもっと楽しくなったんだ」
彼の言葉にいろいろな出来事を思い出す。
鹿之助くんのお母様のエピソード紹介を筆頭に、彼が私の目の届く範疇で虐めのような被害に遭っていたときは、だいたい私の男女平等ドロップキックが虐めの加害者側に炸裂していたような気がする。
いやぁ。今思うとなかなか無茶をしていたような気がする。一般人風情が対魔忍にドロップキックをかましまくってたと考えるとなかなかに恐れ多すぎるな。
自分の立ち位置を客観視すると、スクールカースト内を自由に行き来しているのかもしれない。
今後同じことができるかと問われれば……――
鹿之助くんの為ならできる。
「こんな俺と一緒にいてくれて、付き合ってくれて、本当にありがとうな」
「滅相もない。私も鹿之助くんが居てくれたからこそ救われたこともありました。私こそありがとうございます」
クラスでの露骨で熱々な抱擁行為にクラスメイトの何人かはこちらを見ているが、1学期での様子を見るに誰も鹿之助くんを相手にしておらず。また彼の口から実力至上主義、成果主義であることも聞かされ、なぜクラスメイトの女子達が彼に興味を持たなかったのも掌握した。
これは恋愛論として、一般人と対魔忍の感性があまりにも違いすぎる。
……もしや、陽葵ちゃんが私に猛烈アタックしてくるのも私が強すぎた結果の賜物か? 狂気のみが1つの要因として作用しているわけではない?
「ところでさ。それを聞いてくるってことは、日葵が一般人じゃなくて対魔忍だったなら、忍法ってなんなんだ? 先輩だって拳で簡単に伸しちまうし、あの神村さんとも互角だったし、忍法は開花してるってことでいいんだよな?」
「あー……それにつきましては……」
彼の問いかけに両目を瞑って後頭部を搔く。
ここは適当に陽葵ちゃんへ説明した内容をそのまま伝えれば良いだろう。
「私も自身もよくわかってないのですよ。特に
「そうなのか……。だったら早くなんの忍法か詳細がわかるといいな!」
「そうですねぇ」
誤魔化すように、わしゃわしゃと鹿之助くんの頭頂部をナデリナデリしながら抱きしめる。
ま。鹿之助くんが知っていたとおり、一般人なので忍法なんか開花してないんですけどね。
陽葵ちゃんの対応とも違って嘘も言っていない。
あぁ^~指先がテストシカステロン臭~。
クッサぁ♥
「もー!頭のニオイを嗅ぐなよー!」
「しかたないじゃないですかー。いい臭いがするんですもーん。柔軟剤なに使ってますー?」
「なんでそこで柔軟剤なんだよ。普通に制汗剤とかシャンプーだよ」
「ギヒヒヒヒヒッ。釣られませんでしたね」
鹿之助くんを抱きしめる。ぎゅーっ、と。
首筋に鼻を押し当てて彼を襟足から吸う。
さりげなく首筋に唇を当ててキスをする。
絶対に離さない。
~あとがき~
Episode222話も無事に達成しましたー!
このイチャイチャ話をEpisode222話でやりたかったんですねぇ!
ただ、いつもなら特別話を達成した翌週にはオマケパートみたいなものが入っていたと思いますが、今回は残念ながら入れられません……。(せっかくの10/22のEpisode222ですけれども)
闘病関連で薬を変えてからちょっと副作用がキツめで集中力が持続しなくて。
期待していた読者兄貴姉貴が居たら、すみません。
いつも本作を応援してくださりありがとうございます!
3000倍にちなんで300話まで頑張りたいです。