対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「ふうま君!」
9月2週目。
とある授業の合間。
2学期の始業式も含め、ドドン太郎が未だに学園へ顔を見せていないため、親族の間柄で事情を知っていそうなふうまの元を訪れる。
「何か用か?」
私に向ける視線は相変わらずの探りを入れているような不快な目つきではあったが、探し人の所在地について尋ねるには身内である彼に探りを入れることが適している以上、こちらも苦渋の決断で何食わぬ顔して近寄る。
「実は聞きたいことがありまして……それも恐らくふうま君にしかわからないことになるのですが…………」
「俺にしかわからないこと? いったいなんの話だ?」
「最近、二車くんの姿を学園内で見ないのですが、近頃の二車くんの様子はいかがでしょうか?」
私の言葉を選ぶ小声の質問に、彼は困ったかのような表情を浮かべる。
ただドドン太郎は彼のことを『メヌケ』と呼びつけ、日常的に罵倒を浴びせているだろうと推測ができるにも歪んだ親戚関係にも関わらず、私の質問に対して彼がドドン太郎について聞かれたことについて不快な表情を浮かべなかったのは印象的に映った。
「なんでそれを俺に聞くんだ?」
「えーっと、これは人づてに聞いた話なのですが……ふうま君は二車くんの親戚なのですよね? 親戚同士だから恐らく隣近所にいる彼の様子を知っているかなー?と思いまして」
「残念だがあいつと俺は青空さんが考えているような関係じゃないし、家が近所にあるわけでもないからあいつが今どうしているかはわからないな」
ふうまの回答に肩を落とす。ふうま家の宗家の現当主、かつ親戚同士なら彼の近況について何かしら知っているんじゃないかと思ったのだが……知らないならば仕方がない。
「そうですか……。残念です」
「でも青空さんがアイツと揉めたことは知っているぞ。みことから聞かせてもらった。いったい何が原因で揉めたんだ?」
「んー、それはー、えーっとですね」
ふうまの言葉に肩を落としていたが、今度は彼側からの質問に対し後頭部を掻きながら左下に視線を落とす。
『ドドン太郎が
今後のことを考えるならば、ここはほんのりオブラートに包むべきだろう。
「期末試験の出来事、覚えていますか?」
「ああ。俺たちの班が勝った時のか?」
「恐らくご存知でしょうが、実はあの時の指揮をしていたのは私でして。当初の目的では、ふうま君に二車くんをあてがう時間稼ぎをするはずだったのですが、ふうま君の策略に私が見事に掛かったせいで思ったより時間稼ぎができなかったのでそのことについて、ちょこっと……」
「それでか」
「私が無作法だったものですから。そのまま色々あって揉めることに——」
「それは骸佐の奴が迷惑をかけてすまなかったな」
「!」
左側にある黒板に視線を向けながらそれらしい理由を伝えると、彼はそのまま何の躊躇もなく私へ頭を下げてくる。これには私も目が丸くしてしまった。
別に彼は何も悪いことをしていない。むしろ作戦でドドン太郎をふうまにぶつけに行ったのは私なのだ。彼はドドン太郎との対峙の時に〈回避〉しかしていなかったが、あの時は私も神村をぶっ飛ばすことに焦点を置いていたし、謝る必要がありそうなのは私の方だ。
ふうまに非はなく、もし謝るのであれば揉めたドドン太郎にあるのであって彼には非礼はない。
「ふうま君は謝らなくてもいいんですよ? 揉め事の発端は私ですし? 二車くんの
「だがそんな些細な一件で、俺の身内が迷惑をかけたのは事実だ」
「でもだからと言って——」
「それに、なぜ青空さんが骸佐のことを庇っているのか分からないが、揉めた理由を聞いて骸佐の奴が青空さんの元へ出向いたことについて見当はついた。この謝罪はその件も含めたうえでさせてほしい」
彼の会話の姿勢に、思わずたじろいでしまった。
「ほ」
意図せずして間抜けな音が口から漏れでた。
ふうまの私を詮索するような目つきはキライだが、いまは今だけはこの身内の不始末に対し、こちらが求めても居ないのに深々と頭を下げることのできる彼に感心の念を持つ。
16歳という学生という年齢で、誰かのために頭を下げる行為ができる人物はなかなかに居ない。
成人を迎え社会人n年である大人ですら、誰かの代わりに頭を下げるという行為ができるやつは相当に限られているというのに……。
それに今回の一件は彼の身内が関与しているのだ。私は彼から友人判定を受けているのかもしれないがそれでも間柄は他人である以上、身内に普通は肩を持ちやすいものだが……。
これ、中身は成人だったりする? 精神が成熟しすぎでしょ。
あるいは——
これが、これこそが
ドドン太郎には決してマネできないだろう。これまでの行動がすべてを物語っている。
ふうまとドドン太郎、あまりにも対照的だ。
「ではお言葉に甘えて、その謝罪は確かに受け取りました。ですから頭を上げてもらえますか?」
やや焦る声色が出てしまうが、こちらの願い通り彼は頭を上げてくれる。
「本当に。本件に関しては、本当に私がやらかしちゃった案件なので……。ええと、では二車くんの住まいは存じませんか? 期間が空かないうちに一度は謝っておきたくて……」
「だったら骸佐の家は……」
彼から伝えられた住所を手帳へと記す。
本心としては謝りに行くなどの行為は毛頭ないぐらいだが、あの一件で致命となっているのはとにかく
彼が何かクトゥルフ神話的事象を発生させたとしても、としても……!
落ち着いている状態で冷静に分析すれば、彼のあの状態から推測するにあれは明らかにドドン太郎にとっても想定外の出来事が起きていて、その上でのあの反応だったのだろうと思う。
そもそも現段階の情報においては、少なくとも『五車学園という機関に所属している対魔忍が、邪道である禁忌のクトゥルフ神話的な知識を活用するか? そもそも、することができるか?』と考えれば、非常にその線は考え難いだろう。
…………すなわち、あれは事故の可能性が極めて高い。
「ところで……」
「はい?」
「青空さんは昔ながら手法を取ることがあるよな。それは昔からなのか?」
ふうまは、筆を走らせる私の手帳に指をさす。
「……そうですね。昔からですよ。……何か気になることでも?」
音を立てつつも手帳を閉じ、彼の指摘で恥ずかしがるように手帳を背中のスカートのゴムに挟み込む。
「今の時代、住所をスマホに登録すればすぐに位置も情報も確認できるのに、手帳に書くのは珍しいなと思ってさ。その手帳に書く特別な理由でもあるのか?」
彼の問いかけに考える素振りをする。
確かにあまり考えたことはなかった。でも私にとって手記は気軽に見返すことのできる資料だから使っているのであって、別段特別な意味はないのだが……。
もしかすると現代っ子の彼等からしてみたら古臭く見えたのだろうか?
「スマホにメモをするのもいいですが、やはりデジタル機器は落としたり水没したりで突然の故障のリスクが付きまといますから。だから私にとって重要な情報は手帳に書くようにしているんです。でもやっぱり書き取れる情報には限度があるので、人の話を聞きながらメモを取る時はスマホを使ったりしますが」
「そうなのか。俺が普段接する青空さんは、手帳や本を見ていることが多かったから意外とアナログ派だと思っていたよ」
「なーにを言ってるんですか!ふうま君は! 私だって現代っ子なんですから電子機器だって使えますよ!」
「だよなー! はっはっはっはっはっ」
「わっはっはっはっは。……おっと次の授業が間もなく始まりますね」
愛想笑いしつつ、露骨に腕時計をチラリと見てタイミングを差し測りふうまから離れる。
指摘されて気づいた手帳でのメモの件も、おそらく“私”についての探りなのだろう。腐っても対魔忍。いやはや仕事熱心で恐ろしい。
されど、そうでなければ対魔忍みたいな
「二車くんの家を教えていただいてありがとうございました。今度訪問してみます」
「青空さんがよければだが、その時は俺も連れて行ってほしい」
「えっ」
「青空さんが1人で行くよりも顔が利く俺がいた方が、骸佐とも会いやすくなると思う。骸佐には何人か付き人がいて、青空さん単身で行くよりも話も通しやすくなるし門前払いされる確率も下げることができる」
ふうまを一緒に連れて行くのは嫌だが、こんなことを言われてしまっては私に与えられた選択肢の幅が『彼を連れていく』or『はい』しか残らなくなってしまう。
この対魔忍こえーな。こんなのが何食わぬ顔して私の友人役として諜報活動に勤しんでいたのか。ハニートラップってレベルじゃねぇぞ!
もし鹿之助くんにこんなことをやられたら、憎さ余って可愛さ3000倍に転換されるんだが? その時には清算してから、親知らず1本で許しちゃう♥
「あ、あはは……お気遣いいただきありがとうございます」
「早い方がいいなら今週末でも——」
「考えておきます!」
ふうまが次に何か口を開くよりも先に、脱兎のごとく教室目掛けて走り出す。
あやうく何もない所で躓いて転びそうになるが、〈跳躍〉して身長の2倍分幅跳びするような形で転倒をまぬがれる。
あそこで逃走を躊躇していようものなら、口達者な彼によってさらに逃げ口をふさがれるような予感が脳裏をよぎったのだ。
でも彼の言う通り謝罪をするならば早いことに越したことはない。
となると、ふうまが提案してきた今週末がベスト……。
ふうまを加えるべきか……それとも単身で赴くべきか……——
~おしらせ~
正直に申し上げます。
また物語が書けない状況に陥ってしまいました。
来週分のお話はまだ完成していません。(描きたくない話を書こうとして詰まった、でも展開的には先延ばしにできない話題で停止してしまったパターンです)
ですのでもし来週、お話がなかったらまたしばらく休載という扱いにさせてください……。(再開のめどが立った時には、活動報告にて一報を入れさせていただきます)
いつも楽しみにして読んでくださっている皆様、また誤字修正してくださる方、感想を書いてくださっている方、本当に申し訳ございません。
よろしくお願いいたします。