対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
Episode27 『Bad End.』
「……ッ!」
目覚めたときには、やっぱり薄暗い白い部屋でした。はい。またですよ。はいはい。
上原くんは近くに居ませんし、ここは
しかも、今度は両親の見守りもないと来ました。服もパジャマから手術衣です。ッハァ! 現在時刻が夜とはいえ、メモ書きも何も残されていないとなると……いよいよ本格的に嫌われちゃいましたかね? サバンナ サンバ☆サンバ。
……あれから何週間経過したんでしょうか? 体は動きます。痛みもありません。でも、なんか生魚臭いです……。身体が東北に存在する
ひとまずナースコールで意識が戻ったことを伝えます。はい。
………
……
…
「……」
……おかしい。鳴らし始めてから30分以上が経過している。……誰も来ない。ナースコールの反応は正確だ。点滅して呼び出し中となっている。
もしかすると認知症患者が点滴を腕からぶっこ抜いて、血まみれ大暴れの大脱走の壁やベッドに糞を塗りたくる弄便行為をして、夜勤の看護師の看護助手が手を焼いているのかもしれない。しかたないにゃぁ……。もう、しばらく待ってようっと。
………
……
…
「ツゥー……」
1時間30分が経過したが誰も来ない。おかしい。これは、明らかにおかしい。
我、意識不明の重体だったと思うけど……誰も看護師が迎えにも様子を見にも来ないのって、どうなの? 巡視は? ねぇ、巡視はどうしたの? ちゃんと巡視しないと翌朝、冷たくなってるかもよ? 警察の事情聴取が入って しばらくの間おうちに帰れないよ?
ざんぎょうだいは でないよ! 私が、巡視をサボってたことを警察官に
………
……
…
「フゥー……」
おい。3時間30分経過したぞ。巡視に誰も来ねえし、ナースコールは鳴りっぱなし。1時間前にムカついて、心電図のパルスモニターを0にしたのに誰も来やしねえ! どうなってるんだ!!! この病院は!
コノヤロウ……。
こうなったら、直接 ナースステーションに乗り込んでビビリ散らかさせてやる。
「——冷たっ……うぅ……」
……やれやれと肩を落としてベッドから足を下ろして冷たい床を素足で歩く。
居室を出た私のペタペタという足音だけが廊下をこだまする。どうやら、廊下から各居室に付けられた小窓から内部を覗いた感じでは、他の病室の患者はカーテンを閉め切ってちゃんと寝ているようだ。
「今回、主治医の先生の見立てでは何カ月間入院かなぁ……。肺に一突き程度だったし、前世での入院経験では2~3週間ぐらいかなぁ……。欲を言えば2週間ぐらいで学校に行きたいけど……。この世界ではどうなんだろ……長く入院生活を強いられたら夏休みにも入っちゃうし……。……上原くんの安否確認や紫先生に筋トレの成果報告もしたいし、あぁ。そうだ。
消灯されているため、非常灯だけが光源となっている やや薄暗い廊下を勇気付けるように小声でぶつぶつと独り言を呟きながら歩く。聞こえるのは私の独り言と、素足の足音だけで他は何も聞こえない。そもそもナースコールを鳴らして来ているはずなのに、ナースコールの反応音すらも聞こえない。
「ははぁ……さては、消しやがったな……? ……とっちめてやる」
その後は長い廊下を黙々と歩いていく。途中で、外の景色を眺めることのできるはめ込み式の窓があり、そこから外の景色を覗く。……視界の殆どが木々で鬱蒼としており、遠くまでは見ることが出来ない。月は出ておらず……新月なのか、はたまた分厚い雲が空を覆っているだけなのかすら、目を凝らしても何も見えない闇が広がっていた。
遠くの方には町らしき光すら見えないことから、グンマーの僻地 五車町付近にいることは確かだった。すくなくとも『都心部』と謳われているまえさき市市街近辺の光景ではない。
適当なところで外の景色を眺めるのを止め、温かい掌で素足の裏を温めながら再びナースステーションを目指す。
途中、自動販売機を見つけた。そういえば、喉が渇いたような気がする。意識が戻らない間は、ソリタ-T3輸液で水分補給はされていたとは思うが……今は乾いた口の中に刺激の強い炭酸を含みたくなっていた。ポケットから硬貨を取り出そうとするが、今着用している衣類は手術衣で小銭など持っているはずもない。
今から病室に戻るのも面倒で、ひとまず小銭返却機に拳を突っ込んで前の客の取り残しがないかチェックする。
……横領罪だが、判明しなければ罪にはならない。
「……うん」
無かった。
しかし、代わりに自動販売機の下でキラリと何かが光るのに気が付くことが出来た。しめしめと笑いながら、自動販売機の下を覗く。
やった! 100円玉を見つけた! やった! やった!
が……ダメだ。炭酸水を買うにはあと30円足りない。仕方ないので、紙パックタイプのジュース(バナナ味)を購入する。刺激は無いが、それでもきっとこれなら、口の中に甘い味と香りを楽しめるに違いないと思ったからだ。
お金を入れて、ボタンを押して、反応音が響いて、商品が落ちてくる音が聞こえた。取り出し口のカバーを開いて、ジュースを取ろうと手を入れたとき——
「……ッ!?」
自動販売機の取り出し口の中で 何者かに腕を掴まれた。この中に人なんか入ることができるようなスペースなんかない。でもそれは5、6本の指があって、ふにゃりとした指先の肉の感覚があった。不自然な格好のまま、腕が自動販売機の内部に引きずり込まれて行く……ッ! 腕が何者かに捕まれて折られそうになっている……! 嫌だッ! 自動販売機に喰われて死ぬなんて、肘と肩の関節が外れて、鎖骨、胸骨、顎、頭蓋骨の順でベキベキと不快な音を立てながらじわじわと圧縮死を堪能するなんてッ!! まっぴらごめんだ! あんな凄惨な死に方なんてしたくない!
即座に片足を地面に、片足を自動販売機に当てて、人々を取り込んだまま地割れの口が閉じていく現象を目前に、地面に押しすりつぶされる前に友人を助け出した時と同じ姿勢になりながら全身の力を使って腕を引き上げる。
ガリッ……!!! ……スポッ!
腕が抜けそうだと思った瞬間、手の甲に夢とは思えない凄まじい強烈な痛みが走る……ッ! 痛みに顔を歪ませて引っこ抜いた反動で転がりながら、手の甲を見れば……手の甲が……私の手の甲が……大工道具の
取り出し口に視線を移す。……そこには2つの人間の目玉がこちらを覗いていた。
全身の毛が逆立っていくのを感じる。血の気が引いていく。
鼻のない人間の歯にホワイトニングをかけたような……。
不気味な白さで闇に輝く怪物が、大口を開けてこちらを嗤っている。
鼻のない目と口だけの怪物の歯には、テラテラとお歯黒のように私の血肉で赤く染めていて……。
後ずさりする私に怪物が追撃するが如く、20㎝もない自動販売機の取り出し口から人間のような四肢を生やす。大柄な人間ほどの図体を持ち、影のようなのに質量があるように見えて……輪郭がザトウグモの集団ような動きでうねっている。ヒトがブリッジしたような姿勢で……まるで私が折ったことのあるカルティストの首のように座らない頭部をブラブラと左右に揺らしながら、カシャカシャと四肢だけは機械のような小刻みでぎこちない動きでこちらへ向かってきた。
手の甲に受けた患部を抑え、脱兎のごとくその場から走り去る。抉られた手の甲を止血のため、震えを抑えるため、固く握って逃げ出す。
……あれは影だ。あの光のある場所に逃げ込むことが出来れば、きっと “あいつ” は入って来れない。何故だかわからないが……そう思って。手術衣を手の隙間から溢れ出る自分の血液で赤く染めながら、痛みに耐えつつ、恐怖にのまれないよう ほくそ笑んで逃げる。
………
……
…
やがて何とかカウンターより差し込む光の下に辿り着いた。頭上には『ナースステーション』の文字が目に移る。
あんなことがあった後では、巡視や様子を見に来ない看護師や看護助手のことなんて、もうどうでもよかった。人の出来損ないのような影に『ざまぁみろ』と悪態をつきながら、安堵して中に入る。
中には様々な患者に繋いでいるであろうモニターが映し出されており、画面が3面もある大きなデスクトップパソコンの前に白衣を着た薄黄緑色の髪をした女性が、顔の見えないような後ろ姿でキーボードを打っている音だけが聞こえていた。
「あの……」
「……」
「あのっ。……お忙しい中、すみません……。手を……怪我しちゃって……手当してもらえますか?」
「えぇ♪ いいわよ。そこに座って?」
「ありがとうございます」
パソコンの前に座った女性は、こちらに振り返ることもなく彼女の傍に置かれた円座の椅子を指さす。指示された通りに椅子へ座り、抑えて止血していた腕からゆっくりと反対の手を放す。ベリベリベリ……というガムテープを剥がす音と鈍い痛み。……手から骨が出て見えているのが、とにかく気持ち悪かった。自分の傷だが……痛々しくて顔を背けるほど、目すら開けていられない。けがをした手が正面の女性によって添えられる。すべすべとして柔らかい手だった。
「あらあらあらぁ? ずいぶんと派手な怪我ねぇ……この傷はどうしたの?」
「変な話ですけど、自動販売機の取り出し口から商品を拾おうとしたら何かに噛まれたんです。……あんな自動販売機の内部にヒトが隠れるスペースなんかないのに……」
「それは確かに変な話ねぇ……」
正面の女医は私の話を流すような口調で聞きながら、怪我した方の手を両手で触り処置が始まる。消毒液に浸された脱脂綿をピンセットで摘みながら、丁寧に傷口の消毒がされる。骨にあたる度に響く様な痛みが、腕全体を支配する。
「……ぃぅっ」
痛みで声が漏れる。目から涙が零れる。
「女の子でしょう? そんな怯えた顔しないで♪ その顔、すごく……♪ 私の好みだから♡ はい、終わったわよ。
……。
……え。
——今、なんていった。この女医。なんで私の本名を知っている? この女は——
「え? 今……なんて——」
顔を向け、目を見開く。固まるほかなかった。
……あの女だ。
……動けない。彼女が添える手は、振り払えれば簡単に解けるほどに優しく掴まれているのに。筋弛緩剤を盛られたみたいに。両足へ力が入らない。逃げなきゃ、逃げなきゃいけないのに——
「処置が終わったって言ったの♪ 神葬ちゃん♪ ゼラト シーカーちゃんと呼ばれたほうが嬉しかったかしらぁ?
なんで。なんで、この女が、病院に……。どうして私の本名を……誰にも話していない名前を……だって、あいつは、あの時、〈頭突き〉で——
「神葬ちゃんの世界では大喰らいの泥濘っていうんだっけ? あれねぇ……。私が従順な家来を使って使役させていたの♪ まさか、その家来たちを蹴散らして囚われの『上原 鹿之助』ちゃんまでも、助け出すことなんて想定はしてなかったけど♪ でも……残念ねぇ……♪ ちゃんとあの怪物から逃げ切ったのに、その魔術師の支配人に捕まっちゃうなんて♪」
そうだ……。あの時、私は……。
——上原くん。上原くんは!?
「あぁ、“彼”ね♪ そんなに焦らないで♪ 会いたかったら会わせてあげるわ♪」
指をパチンと鳴らす。天井の一部が、マンホールの蓋が開けられるように穴が開いて……暗闇の中から2つの物品がゆっくりと降りて姿を現わす。
1つは、様々な機械に繋がれて半透明色のホルマリンにつけられた脳みそが詰められた水槽。
もう1つは、上原くんの髪と顔面、頭部の皮だけになったフィメールマスクだった。内部には
彼女は、上原くんのフィメールマスクを掴み、クシャリと音を立てながら……輪切りにされた首の皮を被れるように引き延ばして
それから、脳に繋がれた機械の電源を入れて……マスクの口をパクパクさせて——
「あぁ……あぁぁ……」
『よぉ日葵! どうしてあの時にあんなところで倒れたんだ?
「ああぁあああぁぁぁぁ!!?! やめてッ!鹿之助ちゃんにひどいことしないで!謝ります!あやまりますから!だからっ、お願いっ!やめてっ!あぁ、ごめんなさい!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいッッッ!!!!」
今度は。今度こそは。……助けられたと思ったのに。
あの時。……あの時。自分があの場で倒れたりしなかったら……。
……結局、何も学べてなんかいなかった。
……私は経験からも学べぬ愚者だ。
「……ほんっと、馬鹿な子。……でもね? もう何もかも遅いのよ」
涙が留めなく溢れ返り、叫びながら地面に崩れるよう丸くなりながら、地面に額を付けて必死に許しを請う私の髪の毛を彼女は掴み乱暴に引き上げる。ブチブチと毛の抜ける音がする。喉仏を押しつぶされるように首が掴まれる。
にじみ震える視界に、光彩の色だけが蜂蜜色に鈍く輝いた鹿之助くんの顔が映る。
「最後に良いこと教えて、あ げ る♪ 蛇ってね、執念深いのよ♪」
——次に意識を取り戻した時、病院のベッドの上で寝転がっていた。
周囲は真っ暗でベッド以外何も見えず、スポットライトのような明かりだけが私の寝ているベッドを照らしている。四肢はすべて堅牢な鎖のようなもので固定されていて、身体でXの字を描くように拘束されていた。衣服は何も纏っておらず、なだらかな胸部と整えられた陰毛の森林が見える。こんな状態でも、首だけは自由に動かすことを許されていた。
ベッドの正面。私の足側の先でスポットライトが点灯する。上原くんの
「さぁ! 皆さん、今宵は人体解体ショーにご参加いただき 誠にありがとうございます! 今回の生贄は口が達者な小娘です。この娘、ただの人間の小娘ではございません。なんと中身には、今回ご来場である皆様が仇が! とある憎き精神体が憑依しております。皆様が今回のショーに楽しんでいただけるよう、既に彼女の感度を3000倍にしております。心行くまで解体をお楽しみくださいませ」
スポットライトが切り替わり、再びベッドの周囲のみが大きくうつし出される。
そこには説明できないほど、大量の……目がらんらんと輝く前世の怪物やカルティストの残党たちが私を取り囲んでいた。
震えて……尿道から零れるように尿が弧を描きながら漏れ出す違和感を大腿部のみで感じながら、迫ってくる手に持った刃物やかぎ爪から逃れるように身をくねらせて、本当の小娘のように……ただただみっともない悲鳴を上げながら全身をゆすることしかできなかった。
~あとがき~
四肢拘束されて、人間解体ショーってえっちですよね。