対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode3 『Fight Song 【fighting spirit】』

「そうか。……そうだな。そうだよな」

 

 館内放送から響き渡るすすり泣く人質の女子生徒の声と、えずき汁が混じったガッポガッポという不快な粘着音、テロリストと思わしい男の愉悦に浸る薄汚い喘ぎ声をBGMに立ち上がる。

 第二の生を受けてから、導き出した答えはただ1つ。投降してようが捕縛されようが、どうせこのまま肉便器エンドが私に約束された未来なら、そのクソッタレな未来をぶち壊すために自由気のまま獣のように暴れて鬱憤を晴らし、テロリストから逃げ延びるだけだ。

 早期な決断に誰かがこの正面突破脳筋法に異論を唱えるかもしれないが、現在私は致命的な情報不足下にあり、最悪なことに望まぬ形で敵の手中にいるような状態だ。『もう少し何か考えようよ』『生きる努力をしようよ』『前世から何も学んでいない……』『お前も頭対魔忍かよ』と思うかもしれないが——かれこれ12時間トイレに籠城しても特殊部隊や警察が現れるどころか……誰か。そう、対魔忍が助けにくる様子も見られない。対魔忍の世界線なのにな 仕事してください。国家公務員(たいまにん)

 最終的に今持っている携帯簡易食——もとい、お菓子もなくなって空腹で抵抗もままならなくなる前に、自分の身を護れるのは……もう自分しかいない。

 

 ————この世界に 対魔忍(ヒーロー) はいるが、非情にも その対魔忍(ヒーロー) は不在だ————

 

 さらに逆に。そう。ポジティブに考えれば、今の私は何も積み上げていない状態である。

 ここで死のうが、私には失うものは何も存在しない。……であるならば、あのナイ牧師と呼称した人型実体には残念な目にあってもらうが、対魔忍が一向に現れず丸腰の私が出来ることはただ1つ。強姦される前に派手な抵抗をして、勝ち目のないときはさっさと死体となって転がることだ。

 全身を処刑槍で穴だらけにされて、頭皮を抉られ、眼球を焼かれ、ギンピーギンピーを体中に刷り込まれることと。全身の穴という穴に肉槍を差し込まれて、髪姦され、眼窩姦に至り、精液を体中に刷り込まれること、何が違うのだろうか。

 自死の選択肢を選ぶことができるこちらの現状の方が断然マシ。

 

——……カシャコン……

 

 そっと音が響かないようにと細心の注意を払いながら個室の鍵を開き、ゆっくり外に出る。トイレは紛争地帯のようにひどく荒れていた。

 実は4時間前。テロリストがこのトイレにも姿を見せていた。私は当然、居留守を決めたわけだが……結果的にそいつは、1マガジン分の弾丸をトイレ内で乱射していきやがった。きっとムシャクシャしてやったか、個室から悲鳴が聞こえれば大義名分のままに、便座の上に乗った私を文字通り肉便器にするつもりだったのだろう。

 人の気配を察したとき、即座に〈隠密〉行動を取りながら床の上で胎児のように蹲ったのは正解だった。乱射魔である奴がいなくなるのを背中を伝う汚水を浴びながら床に蹲って静かに我慢していた甲斐もあったものだ。早速『新クトゥルフ神話TRPG』選択ルール:123頁“完璧な遮蔽”124頁“伏せ状態”が役に立ったな。

 現状、武器になりそうなものは手元にはない。つまり武器は現地調達となり、なおかつ14歳の少女でも扱えるような軽い得物が必要だ。

 バラバラになった掃除用具入れから鉄製のモップを取り出す。明らかにテロリスト相手には、不十分な武器ではあったが……ないよりはマシだろう。

 

「ふふっ……」

 

 この状況に失笑してしまう。

 まさか、中学生が妄想するような~学校にテロリストが侵入してきた~ときのムーブを本当に実行する日がやってくるなんて。私も過去に妄想したことがある。“痛い”記憶だ。

 ……私はヒーローにはなれないことぐらいわかってる。前世の記憶を持っているが……この世界では今のところ“ただの少女”だ。

 だからテロリストに馬鹿な正義感を掲げて突っ込み殲滅を狙うような真似はしない。戦闘はあくまでも遭遇時。最小限が大前提だ。

 ……ありえない結果ではあるが、私が万が一にも生き残った場合のことを考え、情報の詰まった電子機器類と『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』、『新クトゥルフ神話TRPG』の2冊は無事な状態を保たせたいと思い、念入りにリュックサックの深部に詰めこむ。

 ふとそんなことを想定している自分に『……本当は生きたいのでは?』と考えてしまう自分もいるが、前世も来世でも女として、性奴隷として性的搾取されるなどまっぴら御免なのは確かであった。

 

………

……

 

 トイレの外に出る。

 窓の外では警察ヘリのサーチライトが建物内を照らし、拡張メガホンでテロリストに呼びかけを行っていることがわかる。彼等も最善を尽くそうとしているのはわかるが、人質を取られている状況では彼等に出来ることは少ない。

 屋上のヘリポートから突入できないところを考えるに、屋上にもそれなりのテロリストが展開していることが想定できる。……で、なければ今頃、機動隊とテロリストのレインボーシックスシージのようなド派手な撃ち合いがこのビルで起きていたはずだ。

 

 そんな窓の外側を見つめ、街を眺める。

 昼間にも見た街は、どこか物々しい重厚な雰囲気であるが、点灯したライトがイルミネーションのように七色に輝き東京都庁の景色と重なる。ノスタルジーに浸りたかったが、今はそんなことをしている場合ではない。

 まずは〈隠密〉状態でパンフレットを片手にエレベーターの前を通過する。停電している時点で、初めから期待をしていなかったがとても乗れるような状態ではなかった。

 何かバールのようなものがあれば、このエレベーターの扉を〈機械修理〉で抉じ開けて、垂れ下がる中央のロープを〈登攀〉で降りることも考えたものだが……。流石にそんな道具を探す時間を設けることと、逃げ場も隠れる場所もない袋小路で頭上から鉛玉の嵐を食らうリスクは避けたい。

 結果的に非常階段から脱出する場合、ルートは外の非常階段から降りるか、内部の非常階段から降りるかの2つだった。飛び降り自決の行える外の非常階段が望ましかったが、出入り口に備え付けられた警報装置付きの鍵と音が響きかねない鉄製の階段も避けるべきであると判断し、内部の非常階段からの脱出を図る。

 ……48階層降りるのは地獄だが……停電している今、それ以外の方法はない。

 

………

……

 

 ……やっぱり私は不運に愛されている(ツイていない)

 現在、逃げ場のない非常階段の階段の中央で、4つ目の暗視装置に防弾ベストを着用した まるで軍隊のような装備の兵士に挟まれてしまった。

 ……コイツ等がテロリストならば、一端のテロリストにしてはやけに装備がいい。恐らく恥辱の墓暴きであるCドライブ上に記録されていたような“魔物”とかと結託しているような連中なのだろう。

 どうやら彼等はビル内部に設置された監視カメラをハッキングし、こちらの位置情報を割り出した上で挟撃に乗り出したことが、目の前で繰り広げられるあからさまな無線機での下種な笑み交じりの茶番劇から分かる。

 ……なるほど、技術にも長けた相手とは非常に厄介だ。彼等はこちらに敵意を向けて、更に股間を三角形に突出させ、しっとりと濡れて微かな栗の花や塩素系漂白剤(ハイター)の匂いを充満させていた。

 

……バチバチバチッ!!!

 

 彼等の兵装はスタンロッド兵が3名。階下に2人、上階に1人。派手にスタンガンの音を鳴らす様子から、私を音で萎縮させるつもりなのだろう。耳障りな無駄に大きな音を立てこちらを威嚇してくる。その3人のテロリストのうち階下にいる1人はアサルトライフルを背負っていた。銃器に詳しいわけではないが、AKと呼ばれる種類の銃であることはわかる。

 

(なるほど。四つ目だから、東雲(しののめ)……ね)

 

 下手に刺激しないよう、私が音にビビる様子を見せ、恐怖で表情をこわばらせる様子を作りつつトイレから持ち込んだモップを素人臭く構える。

 恐らく彼等には私が“ただの中学生”にしか見えないだろう。今回はそれを逆手に取ってやるつもりだ。

 

バチィッ!!!

 

 下種めいた笑い声を漏らしながら、階下の方向に展開していた男が私にスタンロッドを押し付けようと腕を突き出してくる。すかさず〈応戦〉で腕を往なし、階段側へと相手を引き込む。いくら体勢を崩した相手と言っても胴体には厚いケブラー製のベストがある。正面から殴っても衝撃を緩和されるのは想像に難くない。

 

……ブォンッ!!!

 

 そこでだ。遠心力を付け男の膝裏に狙いを定めて、モップで思いっきりフルスイングする。膝にはプロテクターが付いていたが、関節の可動域の観点から膝裏は基本的に無防備だ。

 バッティングセンターで振りぬくようにッ!

 

  支点! 力点! 作用点ッ!(超エキサイティング!!!)

 

バァン!!! ……ポロッ……

 

「アッ」

「ゔぐっ゙……!」

「はっ! 油断してんじゃねーよっ!」

 

 得物を振りぬいた瞬間にモップが瞬間的な負荷に堪え切れず、支点からポロリと、まるでひな人形の首が落ちるように地面に転がる。

 だが1人目には膝裏関節へ致命的な痛みを与えることに成功したようだ。テロリストAは左膝裏を抑えて蹲る。

 上階の1人のテロリストBはテロリストA……あるいは武器を破損させた私を嘲笑いながら、こちらの武器が折れた直後にスタンロッドから青白い火花を散らせ、剣のように大ぶりに振りかぶって振り下ろす。

 だが私に対する攻撃に“数的不利によるボーナスダイスが付与”(7版-104頁)されていようとも、相手より正確な動きでステップを踏めば、何も問題はない。

 身を仰け反らし、大ぶりな一撃を〈回避〉で振り抜かせる。発生させた隙に〈近接格闘(格闘)〉で報復する。振り抜いて姿勢が前傾に傾いたところを脇から擦り抜けて頭部を掴み、眼球部で出っ張った暗視装置ごと地面と眼球をディープキスをさせてやる。ちょっと無理をした私の膝に致命的なダメージが入るが、それは相手の眼球も同じことだった。ミュチュリ……という不快な圧迫感が腕に伝わり、テロリストBは絶叫と激痛で床をのたうちまわり始める。

 残ったテロリストCは銃を取り出しこちらに構えてくるが——実際はそうなってほしくはなかった。

 

 だが知っているか?

CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG(6版)』の探索者は、銃撃の目視〈回避〉は余裕なんだぜ?

 

 即座に身を屈め1発目を〈回避〉する。それから、目の前でのたうつテロリストBを抱え遮蔽物として運用してみせる。腕に伝わる衝撃波、彼の胴体に弾丸が数発撃ち込まれたことによる鈍い呻き声が聞こえる。

 まさか中学生風情がためらいなく他人を肉盾として起用したことや、誤射による同士撃ちによる精神的な動揺でテロリストCは身をたじろかせて怯んだ。

 そこに眼球を潰され、味方に誤射された哀れなテロリストBを階段から突き落としてテロリストCを巻き込んで気絶に追いやる。最後に膝裏の痛みでよろめく階段の隅のテロリストAも首を手刀でトン。

 ……恐ろしく素早い手刀。『新クトゥルフ神話TRPG』選択ルール:121頁“ノックアウト打撃”123頁“遮蔽を通して対象を射撃する”を一読していなければ、勝てなかったね。

 

「なるほど。私の説明書の使い方はある程度把握できました」

 

 初戦としては上々ではあった。敵が所持している拳銃を抜き取り、リュックサックから上着を取る。腰に上着を巻き付けてから、その下に拳銃をおぼつかない〈手さばき〉で〈隠す〉。

 それにしても……。魚眼型の監視カメラは全方位を映しだす傾向があるため、これは非常に厄介だ。出来ることなら、今の光景を記録している本体の破壊を〈機械修理〉や〈電気修理〉で試みたいところであるが……まぁ、それはこの場所からは不可能だろうし、そもそも警察は基本的に無能なもの。わざわざ映像記録なんて確認もしないだろう。

 これは私の世界での常識だ。

 

 戦利品として得られたのはスタンロッド1本に、拳銃1丁、拳銃の弾倉2本、肘膝当てのプロテクター、暗視装置だった。AKなども持っていきたいのはやまやまだが、重量がかさばり先の戦闘で膝を負傷した少女には扱うには不可能な代物だ。それに倒れた相手に挟まった負い紐(スリング)を悠長に外している時間的余裕などはない。……誠に遺憾で不本意ではあるが、銃声も響かせてしまった。

 下層の非常階段入り口から、輪姦目的と思わしい敵がわらわらと集まってくる音が聞こえる。彼等のバカでかい会話から、私の肉体に開いた銃創へ血液を潤滑油(ローション)一番槍(チンポ)を突っ込むという会話が聞こえてくる。どうやらテロリストの中には変態さん(リョナラー)も混じっているようだ。

 ……私は『ジョン・ウィック』ではない。特に鍛えてもいないような身体で連戦は不可能だ。ゼロ距離射程外のクロスファイアを行う敵を返り討ちに出来る自信はない。

 

「かつて私も昔はお前みたいな狂信者だった。だが膝に地面を受けてしまってな……。“もちろん、武器はいくらでも持ってもいい”だが“拳銃に頼るときは、永久的狂気から逃れるために自分自身を撃つときぐらいなのかもしれない”……なんつって!」

 

 負傷した膝を抱えながらも自分自身の説明書に関するフレーズを呟きながら、必要なものをまとめ、気絶し伸びているテロリストAの頭部にツッコミするよう叩いてから、足早にその場から去る。

 今更トイレに逃げ込んでも監視カメラがその姿を捉えてしまう事だろう。

 

 ……残された道は屋上だけだった。

 

 




 ……初投稿です。

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