対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode39 『追加条件提示』

「おいおい、もう終わりかよ?」

「蓮魔先生。いかがでしたでしょうか? ……それと……私の太刀のことで♥ また“個人指導”をお願いできますか?♥♥♥」

 

 黒田先輩による背後からの牙突(ガトツ)攻撃によって痛みに悶え苦しむ私に対し、眞田先輩は子供のような無邪気な笑みを浮かべながら槍の鉾先を用いてまるで芋虫でもつつくように突き刺しながらこちらを見下ろしていた。眞田先輩の槍も鉄製ではあったが、刃が付いていないことはこの近距離でやっと理解できる。だが、彼女がこちらをつつく威力に生ぬるさはなく、一刺し一刺しに悶えてしまうような激痛が走るほどの一刺しであった。

 一方で黒田先輩は先ほどまで私に見せていた殺意を完全に解いて、まるで子供が母親に走り寄って自慢できる作品を見せつけるかのように蓮魔先生へと寄り添いに行っている。

 

 ……ちっくしょう。

 そりゃ、2対1逃げ場なしのチームデスマッチならそうなるよな!

 ……でも言い訳をするべきではない。これが神話生物との “実戦” なら私はまた死んでいたはずだ。こればかりは私の読みが甘く、また同時に弱いのが悪い。もっと、もっと強くならねば。この世界(対魔忍世界)でもまた食い物として、いつかは生涯を閉じてしまうことになるだろう。だから、私はここで生徒指導でボコボコにされておしまい……ではダメなのだ。

 この状況から2人を打ち負かすような逆転方法を考えつかねばならない。

 周囲の状況を見渡して、情報を整理する。

 ……黒田先輩の方は眼中から完全に外れているが、眞田先輩はまだやる気みたいだ。……このままでは、本当には殺されずとも必ずと言ってもいいほど病院送りにされてしまうことは違いはない。ここは学校だから病院送りで済まされるが……なんとしてでも今はこの生徒指導に打ち勝たねば、死を迎える代わりの代償として……愉快な学校生活のイベントを片っ端から逃してしまう。それどころか『雨の降る中、出現する洋館』に遊びに行く陽葵ちゃんを止めることすらできなくなってしまう。

 ……ときどき悪さをすること以外は、普遍的な女子高生として振る舞って居たかったが。もう今はそんなことを言っている場合では無い。それに暴れたところで、この場の目撃者はこの青空 日葵より年上の4人しかいないのだ。これを逆手に取ってやる。

 

 教室にあるものを思いだす。

 現在この教室にあるものは、眞田先輩に幾つかは吹き飛ばされて並びは乱れているものの7個×5列の35個の机と。天井には蛍光灯とエアコン。教室前側部には教卓。教室の前方部分には取り外し不可能な黒板、黒板の真下には教室の床より1段(15㎝)高い教壇がある。あと役に立ちそうなものと言えば、掲示物を止めている画鋲と花瓶、チョークの粉が塗された黒板消しだ。教室後方部は生徒の私物を入れるための鍵付きのロッカー、手洗いうがいのための流し台。掃除用具入れのロッカー……掃除用具入れには確か、もう1つ分バケツが入っていてその中にホースがあったはず。

 窓側は……私が片付けたガラスの入ったバケツに、黒田先輩が破壊して永遠に開きっぱなしになった窓。窓の外にはバルコニーは存在せず、直下には地面が広がっている。ここは4Fだ。地上までの高さは12mぐらい……。屋上の排水用雨どいパイプが壁伝いに1階まで伸びていたか……。それ以外には、たしか1階の(へり)には用務員のおじさんこと沼津(ぬまづ) 彦四郎(ひこしろう)さんが管理・手入れしている花壇や茂みがあったと思うが……その花壇はレンガで囲われていた記憶がある。

 ……消火器や消火栓は残念ながら、この教室に設置されてはいない。それらを取りに行くには蓮魔先生と紫先生を突破する必要があるが……まぁ。まず無理だ。狭い出入り口を完全に封鎖している2人を突破する算段は、目前の2人を打倒する以上に作戦が何も思いつかない上に、教室の外には氷室先輩なる存在もいる。どう考えたって消火器を取りに行く方が難易度インフェルノだ。

 ……普遍的に嫌がらせ目的なら、流し台の水道を教室にぶちまけたり、エアコンによじ登ってエアコンを叩き落したり、窓ガラスを片っ端から叩き割っていく方が効果的なんだろうが……。それだと、学校への嫌がらせとなるだけで、『眞田先生と黒田先輩』には致命的な嫌がらせにはつながらない。……窓から2人(眞田先輩と黒田先輩)を放り投げるのも……まずいだろう。そんなことをすれば、学内だけの出来事として処理されようとしている生徒指導が、私の親を巻き込んだ3者4者面談ならまだしも警察沙汰に発展しかねない。

 ……この現状の情報から状況を切り抜ける方法は……。

 

————一つだけ残されている。

 

「さ……眞田先輩…」

「お。まだ喋れるだけの気力があるなら、続行できるよな? 立てよ。もっと紫が話していたようなガッツを見せてみろよ!」

 

 ズンズンと響く様な痛みに耐えながら、横転した机に背中を預け彼女の顔を見据える。息絶え絶えになった私の正面で眞田先輩は蹲踞座りでしゃがみ込みながら、ペットを呼び寄せるための手のひらを上へ向けて指先を動かす手招きで挑発的な態度を取る。だが、私は戦闘狂ではない故、そんな安い挑発などには乗らない。

 まずは彼女達に勝つ土台を組み立てることだけを考えていた。

 

「……黒田先輩と眞田先輩。2対1なんですから、私に勝利条件を1つ増やして頂いても……よろしいでしょうか? それで……フェアな生徒指導にしては、いかがでしょうか……?」

「はぁ……?」

「それとも……。たかが15歳の(年下の)1人の(ソロ)一般学生(パンピー)()生徒指導する(いじめる)のに2人掛かりじゃなきゃ勝てないんですか? 最っっッ高に! ダサい(シャバい)ですね。しかも今のダウンは黒田先輩の一撃でダウンしただけですし、それは眞田先輩の力じゃないですよねぇ?」

「……面白いこというじゃねえか」

 

 幸いにも私は……戦闘狂い(せんとうぐるい)の煽り方はよく知っている。鼻で笑って、吐き捨てるように相手が自分よりも格下であるように嘲り笑ってやるのだ。

 そして今のダウンは、特に彼女の闘争心を煽るには絶好のシチュエーションでもある。自分は、彼女(眞田先輩) “には” 負けてはいないと煽り立てることができるのは最大の強みだ。幸いにも眞田先輩はまだ続行する気なのだから、今の決着では満足していないのだろう。更にそこの不満部分を煽れば……あとはこちらの予想通り食いついてきた。

 彼女はどちらかと言えば、鹿之助くんから聞いた二車 骸佐(黙れドン太郎)のようにチームで群れるようなタイプではないのは明白だ。最初(ハナ)から腰巾着を連れていない様子や、誰よりも素早く殺意を放ってくる立ち振る舞い。開幕に頭上で敵の注目を引き寄せるかのような槍を大旋回させる動き、周囲に配慮しない障害物を遠慮なく投げつける遠慮のない範囲攻撃から推測できる。

 ……兎にも角にも。1人目(眞田先輩)()釣れた。(その気にさせることは成功した。)

 だが私が大義名分の元。彼女に追加条件を飲ませるためには、もう一人の黒田先輩も釣り上げる必要がある。彼女は今、蓮魔先生に私がダウン状態から復活しつつあることを聞いて、再びその武者のような殺気を向けてきている。あの様子ならまた2対1での戦闘続行するのは容易ではありそうだが……確実性を固め、攻撃の正確性、連携も乱したほうが私はより戦いやすくなるだろう。彼女をその気にさせる適切な煽り方は……。

 

「はんっ……黒田先輩もツメが甘いですね。私はまだ動けますよ。眞田先輩が作った隙……あぁ、これは漁夫の利とも言えますね。それをついておいて、私を完全な気絶まで持っていけないとは……蓮魔先生に鍛え上げられた剣技も……蓮魔先生の個人指導も……——それを教えた蓮魔先生自体も(・・・・・・・)大したことないんじゃないですか?」

「——はぁっ——?!」

 

 目を細めてあきれた様な表情……進撃の巨人でサシャ・ブラウスが入団式の際、教官に芋を差し出した時のような哀れみに満ちた表情をしながら、こちらも鼻から吹き出す溜息とともに嘲笑ってやる。

 このタイプに効く煽りは、彼女自身を貶すよりも……自分の大好きな存在を本人のいる前で面と向かって貶してやることだ。

 今の私の発言で、彼女は明らかな動揺と声の震え、右目の瞼と眉がピクピクと痙攣している。先ほどよりも鋭利に砥がれたナイフのような殺気が私に向けられる。……とてもいい傾向だ。そうだ。怒れ。狂え。冷静さを失え。

 

「あーぁ、失望しました。これは今さっき聞いた話でしかないのですが、お二人は私より先輩なんですよね? ということは、私以上に蓮魔先生や紫先生からあんな過酷な訓練を受けている経験者。にもかかわらず……今月、入学して半分以上の日々を病院で過ごしている……か弱い凡人に、気絶の1本すら取れないなんて…………さぞヌルい学校生活だったんですね。そんなんじゃ、後輩に簡単に追い抜かれますよ」

「……」

「撤回しなさい! 今の発言、直ちに撤回しなさい!」

 

 彼女が鞘から抜刀して、首……元に突き付けてくる。良い感じに燃え上がっているようだ。こちらは両腕を中途半端に広げて、おどけた表情で肩を竦めておちょくる。

 突き付けられた刀は模擬刀の為、刃先はついていない。ゆえに私は、タイミングを見計らいそれを掴んで握りしめてやった。

 ……おかげさま(・・・・・)で、こちらも情報が抜けた。黒田先輩が振るっている得物だが、これは日本刀じゃない。彼女が私に背中を見せたことによって、やっと見ることのできた納刀している鞘の曲線向きや、抜き身の刃渡りを計算して……これは太刀だ。大太刀か、まで判別する知識は私にはなかった。だが、そもそも大太刀ほどの長さの得物は、彼女の腕の長さと納刀している腰の位置を考慮すると居合術には適さない。どのように初撃を放つとしても、太刀という刀の構造上、横に振り払った一閃の刃、あるいは切り上げるような刀の抜き方となる。

 ……掴んだ彼女の抜き身の太刀の長さと、私の握りこぶしを比較して……おおよそ刃渡り95㎝前後。柄の長さも考慮すれば、全長1m15㎝(鹿之助くんより-25㎝短い)ぐらいか。これである程度の彼女の攻撃範囲を把握することができた。上等だ。

 

「えぇ、撤回してあげても(・・・・)いいですよ? ま、私の提示する条件を飲んだうえで、フェアに戦って、勝てたら(・・・・)ですけど」

 

 私の言葉で眞田先輩の殺意が風船のように更に強まった気配がし、黒田先輩の歯を噛みしめる音がここまで聞こえてくる。

 よし。狙い通り怒りが激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームだ。

 

それで? その条件ってンだよ?」

「簡単です。現在の生徒指導の勝利条件は私が2人を倒すこと。この勝利条件に この場……。あぁぁぁ……あぁ、生徒指導(・・・・)から逃げ出すことができたら私の勝ちという条件を付け加えてください。出入り口には蓮魔先生と紫先生もいましたね。おっと、ははぁー。廊下には氷室先輩ですかぁ。実質5対1。いかがでしょう? どう考えても……そちらにとって悪い条件ではないと思うのですが」

 

 ニヤニヤとした完全に馬鹿にしたような笑顔を2人に向ける。もう十分すぎるくらいの煽りだ。私の〈値切り〉交渉の〈言いくるめ〉は確実にうまく行った兆しを見せている。

 だが私は倍プッシュをここでは止めない。更に黒田先輩の太刀を手すりのように掴まって立ち上がった。彼女たちが私でも鼻をそぎ落としてやりたいくらいにクソ生意気な私に対して、瞬時に攻撃を加えてきていないところを見る分に、生徒指導は一時中断していることを察せる。

 ……だからこそ、あえて脅威でもないように2人から視線を外し。無防備にも教室の床で悶えたときに付着した汚れや砂埃を確認しながらスカートやブラウスからゴミを振り払ってみせた。

 それに対して2人の顔はほぼ真顔だ。それなりのプライドが新人でなおかつ2人よりも低身長(チビ)の私によって踏みにじられればそんな顔にもなるだろう。

 

「……上等だよ。だがテメーがそこまで辿り着けるなんて思ってんのか?」

「……骨が10本折れることは覚悟しておいてくださいね?」

「人間には215本も骨があるのですから、10本ぐらい……なんですか? 私はその高慢なお二人のお鼻をへし折ってやるつもりですから。あとで負けて鳥の雛みたいにピーピー泣かないでくださいよ」

「「…………」」

 

 動きやすさを重視するため、彼女等の目の前で横倒しになった机を元に戻して、あまつさえその机に腰を掛けて余裕そうな様子を見せつける。この時、視線は上目遣いにして三日月のように口は歪めたままにする。その場でストッキングを脱いで片手に巻き付け、靴、靴下すらも脱ぎ捨てて逃走経路の1つである廊下側に投げ捨てた。その場で軽く飛び跳ねて、身体が動くのを確認。動作には申し分ない。あとは、こちらを睨みつけ武器を構える2人からまた視線を外して離れ……先の戦闘で吹き飛んでいったアコギギターも回収して、持って帰れるように負い紐で背中に回す。

 そのまま近くの椅子に片足を乗せ、もう片足を机に乗せて、大きく息を吸い込んで……。

 

「黙ってさっさと、かかって来いやァ! この一般人(凡人)どもッ!!」

 

 力強く吼えて身構えた。

 

 




〜あとがき〜
 さぁ! 第二開戦の開幕だドン!
 作戦を練ることはできたようです! あとは行動に移すだけですね。


~評価返信~
『トンカツ醤油派様』
■ 文章の文字が震えるというアクセントを加えさらに、主人公の考えが引き立っていていいやん(謎の上から目線)
◇ 特殊タグ肯定派だ……! 反応ありがとうございます! おまけにオリ主が何を考えているのか伝わっていることが伝わっている……伝わっている……! 例え、上から目線と感じられていても、作者としましては具体的なお褒めの言葉で率直に言って落ち込みながらも気分が再び上昇し、そんな様子は微塵にも感じられませんでした! ありがとうございます!

閲覧者兄貴姉貴達に報告です…。今、プロットを組み立てて毎日色々執筆しているのですが、これ……物語上で8月に到着するまでに100話超える懸念が出てきたのですが…兄貴姉貴達的にはどっちが好きですか?

  • もっとテンポアップして、ホラホラホラホラ
  • 現状維持。槍刀拳の丁寧な物語展開好きやで

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