対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
あれからむやみな交戦を避け、現在私はビルの屋上を活動の主軸として行動している。
屋上にはヘリポートから警察が突入して来ないよう見張り役のテロリストが数名、私を輪姦する目的だったテロリストが数名、私の工作活動によって破壊された監視カメラが数台ある。さらに大型の室外機やダクトなども設置されており、〈隠密〉行動できるスペースの多い、この場所は私にとって〈隠れる〉には好都合な場所であった。
発見され追い詰められるようなことがあったとしても、肉便器として使役・酷使される前にビルから飛び降り、自由にこの命を散らすことが出来る。あわよくば死出の旅は道連れ世は情けだ。
私はもう、既に1度。思い出したくもない拷問のさなかで死を待っていた。投身自殺による一瞬の衝撃で死ぬぐらい、あの悪夢に比べれば大したことはないと考えていた。
……シューッ……
グォオオオオン!!!
……テロリストの占拠から約12時間後。
それは薄青銅色に輝くビルの合間を縫うようにして隠密形態をとり、突如としてアレは屋上へ現れた。
形こそ前の世界で陸上自衛隊が保有するF-2のような形をしているが、F-2より分厚い——AKからの銃撃にもたじろぐこともない重厚な装甲を持ち、空気抵抗の強そうなその機体からは考えられないほどの速度で、唸るような
完全にテロリストたちの意識は私から逸れ、アレを注視するために上空に視線を向けている。
それから上空50mぐらいの地点から屋上を目掛け、米粒大の何かが落下してきた。
「……!」
——航空機から何かが落ちてくる。
テロリストと同じように航空機に視線を攫われた私もそれを注視する。
最初はテロリストが要求している物資かと思ったが、銃口を向け乱射する彼らの反応からどうも様子が違う。
落下してくるそれは、3つの人型実体であった。途中でパラシュートを開くこともなく、ターミネーターが登場するみたいに膝を地面につき、そのまま着地する。
(うわっ。膝に地面を受けて冒険者やめてそう)
そんなことを思う私を他所に、彼女たちは平然と立ちあがる。あれが普通の生身の人間であれば鉄板の地面に叩きつけられて、今頃キンメダイの開きのようにつぶれ高所から落とされたトマトのように内臓や骨粉をぶちまけているはずだ。
だが彼女達はそのような様子はない。
それどころか、私は彼女達の1人に見覚えがあった。
デッド オア アライブに登場するマリーローズのような赤いフリルの付いた黒をベースとしたスクール水着と、布地を尻に食い込ませ過度に大腿部と鼠径部、臀部を露出した引っ叩きたいプリケツ、野生児を連想させるスクール水着痕の残る褐色肌。くりくりとした大きな瞳と膝裏まで伸びるツインテール。そしてフリントロック式の二丁拳銃。あれは——
——『
前の肉体で、私がヨミハラで『拉致監禁肉便器化調教』を強いられそうになった事件に巻き込まれたときに、別室でオークに激しく輪姦されて無様なアヘ顔を晒していたが……。あのデッド オア アライブのマリーローズのような服で、上空から降ってくるツインテールの気の強そうな
他の2人のうち1人は鮮やかなオレンジ髪ショートヘアの元気がよさそうな……悪く言えばノホホン面をした脇差を二刀流にした女性と、最後の1人は紫色に近い青髪を下ろし細目で紫色のラバースーツを纏った大人びた女性だ。
——対魔忍だ。
そう直感した。『
……ところで、転移・転生前から気になっていたのですが。その乳袋はどんな構造になっているんですかね?
私も今の身なりから、人のことを指摘する余裕はありませんが……“服装はその人を表す”って言いますけど……その服はどう見ても頭対魔忍ですね?
「これが占拠中の本物のテロリストかぁ……。訓練より弱そうやっちゃなぁ」
「私たちは訓練通り、速やかに屋上を制圧して人質の脱出経路を確保すればいいのね!」
「常に状況は変わるものよ。各員油断はしないで。制圧開始!」
「「はーい!」」
彼女等は、まるでピクニックに来たかのような気の抜けた会話と返事をするが、その実力は対魔忍をニッコニコ大百科でしか知らない私でもわかるほどに確かなものだった。瞬きをするほどの一瞬で一般人では手も足も出ない分厚いケブラーベストのような装備を持つテロリストを“忍法”と刀や小刀のような脇差、旧式拳銃でなぎ倒していく。
私にはこの光景を描写するだけの余裕も、状況の判断もできない。
せめて分かることは、一番年長者の紫色の対魔忍が横を通過しただけでテロリストは血しぶきを上げながら倒れる。
スタンロッドで動きを止めようとするテロリストに対してオレンジ髪の対魔忍が影の中から出てきたかと思えば猟犬のようにカウンターを決める形で屠っていく。
一方『
5分もしないうちに、十数人は居た銃火器武装を含めた東雲革命派のテロリストは、突然現れた対魔忍によって骸として地面に伏すことになっていた。
「にゃははは~。やっぱり最新鋭訓練施設のテロリストの方が手ごわかったよー」
「ふうまが設定したような多脚戦車も居ないしね!」
「こっちの首尾は問題ないわ。ふうま君、脱出経路の確保ができたことを、別動隊にも——」
どうやら制圧は済んだようだった。
よかった。身投げする必要はなさそうだ。彼女たちに保護してもらい、一足先に自宅へ帰らせてもらおうと物陰から一歩踏み出した時——
パァン!!!
私の大腿部に熱い何かが貫通した。
視線を下ろせば、じんわりと赤いシミが太ももに広がって……同時に背中にも日大タックルされたような激しい衝撃が走る。今の銃声に彼女たちも気が付いたようで、こちらに視線を向ける。
「動くなッ!!この
「い゙ぁ゙っ……」
脚と背中の痛みに顔を歪めるが、テロリストはお構いなしに片腕で私の首を絞めあげ、私は宙吊りにされるような形で大型室外機の外に連れ出される。私の背後にはいつの間にかにテロリストが回り込み、のど元に鋭利なコンバットナイフを突き付けられる。
ああああああああああっ! まずいぞ! これでは、ビルから飛び降りれない! 組みつかれて宙に足が浮いた状態では飛べなぁいっ!
対魔忍たちも、すぐに武器を構えるがその表情からは焦燥の色が伺える。
「武器を捨てろ! 武器を捨てないと……っ!」
「ッ……」
刃先が私の喉に刺さり、一筋の血が零れ始めた。痛い!
彼女たちは、お互いにアイコンタクトを取り合いどうするか悩んでいるようだ。だが最終的な決定としては、武器をその場に落そうと指先を緩めようとしている。
それはダメだ! 彼女達がゲームと同じように対魔忍となってしまう! 対魔忍が対魔忍になってしまう!!!
それも私まで巻き込まれる形で!!!
それだけは避けなければならなぁああい!!!
「……っ! ……ッッッ!」
「! 武器を捨てるから!武器を捨てるから!!まずは、その子を離しなさい!それ以上は息ができずに死んでしまうわ!!!」
私に出来ることは、この完全にキマった首絞めを行っているテロリストに向けて呼吸ができるようにと解放されている手で高速でタップすることだった。一番年長者っぽい大人の対魔忍はこちらの状況を察してくれたようだ。流石、対魔忍。
さっきは頭対魔忍とか思って、ごめんなさい。
テロリストは体をこわばらせたまま私を地面におろす。足を射抜かれ、低酸素状態によるふらつきで立てない私は当然、床に腰を打ち付けるわけだが……。テロリストはそんなことお構いなしに、今度は私の頭に銃口を突き付けた。
「カヒュッ…………ぜぇー……はぁー……ぜぇー……はぁ。ゴホッ! ゴホッゴホッ!!」
「おら、さっさと武器を捨てろ!!! そんなに
私が解放されたところで、対魔忍の彼女たちは仕方ないと言った表情のままゆっくりと武器を地面におろし始める。
——だがおかげさまで、こちらは話すことはできるようになった。今が逆転の好機だ。
「あ゙ぁッ!?こんクソ野郎が!俺の予定がテメー等のせいで全ておじゃんだ!!!見て見てぇッ!見てみてぇなぁッ!!!ほらッ!撃てよッ! 俺は自分の脳漿を見てみてェっつってんだ!!!ビビッてんのかッ!? オラァ!!さっさと撃ってみやがれぇッ!」
大きく息を吸い込み。地獄から突き出た鬼のような声で、つい先ほどまで首を絞めていたテロリストに私は絶叫に近い〈威圧〉をし始める。
この行動に対魔忍とテロリスト双方の動きが……止まった。
「だが、よく考えろォ!? テメーはたった1人だ!テメーの援軍が到着するまで時間はまだかかるだろうさ! この対魔忍共を
映画:『アウトレイジ』張りの〈威圧〉的な脅しの怒号を響き渡らせる。
「な、なんだ……このメスガキ……」
これに対してテロリストは明らかに動揺の色を見せている。
意識が私に逸れている今、対魔忍側としては攻撃を仕掛ける絶好の機会だとは思うが人質となってしまった不甲斐ない私がいる以上、迂闊な救出活動に打って出られないのか、それとも——
「ほらぁ!早く撃てよ!!!タマぐらいあんだろ!?ここでテメーの発言がハッタリじゃないってことを証明して見せろッ! 撃ってみろよッ! 俺は先に、テメーを地獄で待っててやる。テメーが地獄に来たら第二ラウンドで、真っ先に爪楊枝でお前の眼球をお裁縫セットの針刺し、ハリネズミ状にトゲ山にしたら、足の裏を炭になるまでガスバーナーで焼いて、ドラム缶に括りつけた後 缶の中に熱した石を投げ込んで前面と顔面の肉を地獄の業火で焼き切ってやるからよ゙ぉ゙お゙ぉ゙お゙お゙ッ゙!゙!゙!゙」
ああ、やっぱり。
ふと視線を挙げてみれば、動揺してしまったのは対魔忍たちも同じで……陰キャっぽい気が弱そうで大人しそうな一般人の少女がいきなり豹変したら、誰だってそー怯む。私だってそーなる。
されどせっかく生み出すに至れそうな、この
「陰茎と睾丸と直腸にギンピーギンピーを摺り込んで一年以上、死にたくなるような地獄の痛みでのたうち回らせてやる!!!便器に括り付けて脱肛させた上で、ウォシュレットで内臓をズタズタに引き裂いてやる!テメーの額に来世まで残る『死因:ウォシュレット』って
「……きょ、恐怖で頭が……おかしくなったのか……?」
テロリスト側が明らかに動揺して私の頭の心配をしてくる。
……失礼な。おかしいのは元々だ。
私はここにいるはずの人間じゃないのだから。
ここで私には2つの選択肢があった。
1つは、テロリストが投降するように飴と鞭で揺さぶりをかけること。もう1つは、刺し違えても隙をつくること。
取るべき選択肢は……——
「——だが……今なら間に合う。テメーが大人しく武器を捨てて、対魔忍に投降しろ。彼女等は正義の味方だから、大人しく投降すれば法で裁かれることになるが、これ以上の危害を加えることはねぇはずだ」
「……」
情緒不安定な豹変の繰り返しで揺さぶりが効いているようだ。あともう一押し……。
パァン!!!
銃口を額に押し当てていた方の腕が、テロリストによって振り払われ撃ち抜かれ……。
——うがああああ!!!クソ痛ぇ!!!!
「うるせぇ!!!黙ってろッ!俺にはもう後がねぇんだ!!! ここで東雲様のためにも、一矢報いなけりゃ意味がねぇんだよ!!! オラ!対魔忍ども!このクソガキが——」
交渉は決裂した。
だが、致死となる脳から銃口をそらさられ、奴の視線が一瞬、意識は完全に対魔忍側に向いただけ十分だ。
こちらも無事な腕で腰から鹵獲した拳銃を引き抜き、テロリストに突き付ける。腕と脚に開いた痛みに苛まれながら
こちらが銃口を向けたことに相手が気が付き、こちらに向けられた銃の引き金が力強く握られたとき。迸るアドレナリンにより、周囲がスローモーションのような光景になったような気がする……。
直後、お互いにお互いの胴体目掛けてゼロ距離での発砲。鉛弾をぶつけ合う。向こうは分厚いケブラーベストや軍用ヘルメットを着用しているため、私の攻撃では致命傷には至らない。だが弾丸の衝突による衝撃で言葉なんかよりも確実に怯ませることはできた。
……私との勝敗が決したとき。
血だまりの中、意識が薄れゆく中。……背後にいた対魔忍たちが一斉に怯んだ最後のテロリストにトドメをさす。
「(斯くして、対魔忍を隷従させようという……テロリストの“根本的な、計画を阻止できるのならば1人の私の……死は……小さなことに”過ぎな……い……——)」
口のなかが鉄さび味に満たされていくさなか、私は『新クトゥルフ神話TRPG』11頁の勝者と敗者のフレーズを思い出していた。
……異様に体中が熱く、心拍が通常の3倍の速さで鼓動を打つのを全身で感じる。
……大人びた対魔忍が、私を助けようと動くが、私はそれを尻目に……自分とテロリストの返り血で……おぼれていった……。
次の話で、第1章を閉幕します。