対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
今回のお話はEpisode9と同様に、アサギ校長視点で話が進んでいきます。
Episode38~40までの裏事情編としてお楽しみください。
『……青空。約束する。決して不意打ちをしたりはしない。……だから早く机から降りろ。……また上原を悲しませるつもりか? お前が五車町に帰ってきてから意識不明の重体だった時、アイツはな——』
私は校長室にて、紫が回収してきた問題児だらけの
「はぁぁぁぁ……」
映像記録もひと段落ついたところで私は報告書の筆を置き、深いため息をつきながら、机に肘をつき両手で顔面を覆った。
何を隠そう、この机上に大量に並べられた報告書や修理伝票はすべて今回、『
確かに事件が発生したときの学生からの報告では『ダブルひまりの闇属性。消火薬液をバラ撒いたほうが、頭にカバンを被ってデスメタルを始めた挙句に他クラスの窓ガラスを頭で叩き割ってそのクラスの女子生徒へ絡みに行った』と聞かされたときは真っ先に青空 日葵の顔が思い浮かんだものだが……。
まさか入学から2カ月目。学園生活では1カ月も経過していないにも関わらず、流石に2度も問題を起こすことは無いだろうと。……入学当初は緊張と紫の基礎能力試験で追い詰めたこともあって、あんなことをしてしまっただけであって……。その後の経過観察を他の先生方から聞かされていた情報からや、まえさき市での事件で上原鹿之助を単身で一般人にも関わらず助け出したという功績を聞く分に根としては問題児ではないだろうと心の奥底で考えていたこともあった。だが、その予想は大きく外れたことになる。少しばかり優等生になっていると聞いて期待していた半面。裏切られたようなそんな複雑な心境だった。
「ア、アサギ様……」
紫の狼狽える声が聞こえ、顔からゆっくりと両手を離し、部屋を見渡す。
今、この校長室には紫と私以外にも蓮魔先生の姿もあった。彼女は深いため息をつく私に対し、壁に寄りかかりながらも『青空 日葵』の経歴資料を片手に顔だけをこちらに向け、心底気の毒そうなものをみるような眼でこちらを見ている。
「紫。私のことは大丈夫よ。こればっかりは嘆いても仕方ないわ。もう起きてしまったことだもの。それで、蓮魔先生。その『□青空 日葵』の資料を読んだ上で貴女の意見も聞かせて貰いたいのだけど、彼女の振る舞いについて どう思ったか意見を聞かせてもらえるかしら?」
「アサギ校長。……あなたは私が冗談は嫌いであることを御承知の上でこの資料を見せて
「もちろんよ。
「…………ふっ。それは酷い。本当に酷い冗談だ。……この際、はっきり言わせて貰うが。彼女を“ただの一般人”として評価しているのであれば、私からは誤りだと指摘させてもらう。いくら紫の指示のもと忍法を制限した
「……」
蓮魔の言葉に肘を突いた両手の指を組み、視線は報告書に向けたまま一点を見据え何も返事することなく顎を乗せる。こればかりは何も言い返せなかった。
私も、彼女と同じ状況であれば その資料に書かれている情報が誤りに違いないと鼻で嗤ったことだろう。だがその資料は紛れもない事実なのだ。
『これがお前用のノーマルな生徒指導だぜ!!!』
『見て見て! 紫先生! 日葵ちゃん、素早い身のこなしで黒田先輩の攻撃を避けちゃったよ!』
『あぁ』
『あっ! 眞田先輩の……躱したぁーっ!!! 心寧ちゃん、早く早く! 紫先生! 日葵ちゃんはやり過ぎちゃったかもしれないけど、ああやって心寧ちゃんが巻き添えにならないように立ち振る舞って、実は今回の件も心寧ちゃんへのサプライズで……あぁっ! だからあんな酷い生徒指導を止めてあげて! お願い!』
『あぁ。心配することはない日ノ出。眞田も黒田もお前よりも先輩だ。ちゃんと理解して手加減をしている(大嘘)』
『ほんと!?』
『あぁ。ひとまずここは危険だから離れろ』
『で、でも、日葵ちゃん……。よし、私も対魔忍として日葵ちゃんと一緒に生徒指導を——』
『速水、日ノ出を連れて教室の外に出ろ』
『はい。行きますよ、陽葵ちゃん』
『え? え? えっ。え……』
映像記録がループして再生され始める。組んだ指に顎を乗せた姿勢によって自然に猫背な姿勢となり映像記録へと視線が移動する。
この紫の映像記録に入っているこの声は……最近『青空 日葵』と友好関係を結んでいる『日ノ出 陽葵』によるもので間違いない。学生達の言葉を借りれば『ダブルひまりの光属性』とは彼女のことだろう。さしずめ『太陽熱や元気を放射する方』という二つ名になりそうではある。
……それにしても“目は口程に物を言う”とは言うが、まさに『青空 日葵』はその通りだった。
記録に残された彼女のその目の動きは常に目まぐるしく動き続けている。常に眞田と黒田の動きを注視し、出入り口で逃走経路を阻んでいる紫、蓮魔……時折、廊下で野次馬整理をしていたという氷室にも注意を払っていた。
紫の斧撃を防いだ時のような立ち回りでは、流石に眞田が槍を振り回して机を吹き飛ばすことは想定していなかったようで、教科書が彼女の身体に当たり怯んだ一瞬の隙を付け込まれて回り込んだ黒田に背中を一突きされ教室の床に転がったが……。その後も、追撃、身悶えしながらも薄目を開けて何か突破口を探している様子がなんとなしにこの後の展開を鑑みることによって推測することができる。
しかも、寝転がっている際、彼女は単純に執拗な眞田の追撃による痛みに悶え苦しんでいるだけかと思いきや、どこか自分の境遇に対してか、それとも攻撃を加えてきた2人に対してか、何か情けないものを嘲笑うかのような苦笑をしている様子も見られた。
そしてその後で展開したのが、眞田と黒田、2人の連携を断ち切らせるため、2人が『青空 日葵』自身に食らいつく様な言葉で嗾け、更に自然な流れで自身が勝利を達成できるために条件の提示を行ったのだ。
『青空 日葵』と眞田 焔、黒田 巴の2人は初対面のはずだ。
……3年生の黒田に関しては普段から蓮魔と連れ添って歩いていることから見たことがあるかもしれない。だが眞田は今回も長期任務を終えて、気まぐれにふらりとこの学校に立ち寄ったばかりなのだ。彼女がどのような人物像であるか知っているはずもない。例え噂で小耳に挟んでいるとしても出会って数分で乱闘しているような状況にも関わらず、彼女は2人の性格に適した煽り文句を吐いて、更に怒りを煽る行動を示しその気にさせた。
おまけに一見、黒田の武器を手摺りのように掴まるようにして握りしめてはいるが、これは居合による抜刀術で攻撃を放つ太刀の長さを計測しているのだろう。現に以降の戦闘で一定の間合いで戦う素振りが見られる。
これは、世間知らずで学校以外に外を知ることもない15歳の子供が見せるような洞察眼ではない。
……それから彼女は紫と蓮魔の前で何をしてみせた?
「紫。あなたが、この映像で棄権を宣言したのは……」
「…………はい」
「……正気とは思えないな。この資料を貰った今だからこそ言えるが、本当に奴が
「ああ、あった。日ノ出は青空を擁護していたが、アレも違う。
「……正気じゃない」
「“ただの一般人”にも関わらず、その正気ではないことを平然とやってのけるのが彼女だ」
吐き捨てるような言葉を放ったあと、蓮魔は資料を私の机の上に置き、連携が完全に乱れている眞田と黒田との戦闘記録を紫と一緒に覗き込んできた。
記録された戦闘記録は戦闘用プログラム視線追跡ソフトも併用され、現在『青空 日葵』が何処を見ているか事細かに表示されている。『青空 日葵』は頭に血が上った2人に対してあからさまで露骨な逃走経路を提示し、確かにその視点は紫や蓮魔のいる出入り口を注視しているように見えるが実際には異なる。彼女の視線は黒田が破壊した窓枠の外を多く指し示していた。
紫は……『青空 日葵』が生身の一般人にも関わらず、地上4階の高さ……約12mの高さから飛び降りることを危惧したのだ。
「……」
ごくりと固唾を呑み込む。
医師の
そして紫にはテロリスト襲撃時の『青空 日葵』の
逆に蓮魔は彼女のそのような強行手段に出たことを知らないが故にあのような反応を示した。
紫と蓮魔。どちらの気持ちもよくわかる。
「蓮魔先生。今後はあなたにも『青空 日葵』の監視を命令するわ。今回、彼女の資料をみせたのもそれが理由だったりするのだけど。頼めるわよね?」
「あぁ、いいだろう」
「ア、アサギ様!?!?」
一呼吸を置き、振り返って蓮魔へと視線を合わせる。彼女は私の指示に二つ返事で承諾し、代わりに……と言ってしまっては難だが、紫は右隣で青ざめた顔をしながら悲鳴のような声で私の名を呼ぶ。まるで私一人では役者不足だと言いたいのか。今回の一件で私を失望させてしまったのか? 不安そうなそんな顔だ。
「紫、今度あなたは長期任務に出かけるでしょう? 今後もそういうことが続くはず。それに監視役は多いことに越したことはないわ。……私とさくらは顔が割れてしまっている。さくらなら陰ながらに監視することはできるけど、常には無理。それに今の段階では彼女に私達の事を悟られるわけには行かないの。残った信頼のできる教師は蓮魔先生ぐらいなのよ。私には『青空 日葵』がある程度恐れていて、彼女の問題行動をけん制することができるのは蓮魔先生以外に考えられないわ」
「ぐ……っ。そのような事情があった上での判断であれば……かしこまりました……」
「アサギ校長、一つ質問がある。青空日葵に尋問をかけなくていいのか? 彼女が一般人ではないことは明らかだ。何者であれ、あのような狂人を野放しにするわけには行かないだろう? 必要であれば私が担うぞ」
「それについてはまだよ。今はまだその時ではないわ」
そう。蓮魔先生の言う通り彼女を尋問するとするなら早いほうがいい。
彼女は何者なのか、何処の組織に属するものなのか、なぜ“ただの一般人”にも関わらず対魔忍について知り得ているのか。様々なことを知ることが必要だ。
しかし彼女はまだ現状私達に“見せている力”以外にも、別の力を隠して生活しているような気がしてならないのだ。急ぎ足な尋問をしてしまい、彼女の『切り札』に気づかずこちら側が致命的な痛手を受けるのは避けたい。
この生徒指導の映像記録でも『青空 日葵』は、眞田 焔が見せてしまった長槍から噴き出る火遁術に驚くどころか冷静なままで何かを納得する素振りが見られた。更にスカートのポケットに手を入れて “何か” を探し、 “何か” が無いことが分かると落胆するような素振りも見せている。
更なる内務省公共安全庁 調査第三部の調査によれば、学生にも関わらず臆することもなく株に手を出して取引の類稀なるセンスで儲けを出しているそうだ。これは小遣い稼ぎと考えるべきか、それとも何か事を荒立てる際の軍資金を整えていると考えるべきか……。
~あとがき~
コンセントプロトタイプ兄貴姉貴、幽姫兎兄貴姉貴の予測『私刑ではなく実力調査』『開け放たれた窓からダイナミック☆お邪魔しました』は的中しておりました。
お見事でした……!
Episode39で公開している情報にある『屋上の排水用雨どいパイプが壁伝いに1階まで伸びていた』経路を使用しての《登攀》を用いた降下逃亡を予定していました。
手に持ったストッキングはパイプについている金具に巻き付けての簡易安全紐への代用。靴と靴下を脱いでいたのはパイプを伝うための滑り止めのつもりでした。
それ以外の情報としては、『1階の縁へりの花壇や茂み』これはコンセントプロトタイプ兄貴姉貴が感想欄で予想していた《跳躍》を含めた、万が一の転落落下時のクッション材への転用となっています。ただその後に続く『レンガで囲われている』という情報には《跳躍》にファンブルしたら、そこの角に強打させるからな?という暗示が含まれていました。(具体的ダメージ4D6→4D10。一般的探索者の体力値は平均12点。即死圏内の博打打ち(でもこの博打打ちが止められないのがTRPGプレイヤー……))
……でも、最終的にはダイスロールの結果。
先に紫先生がオリ主が何をしようとしているか見抜いてしまったんですけどね……。
本当にプロットクラッシャーですよ……ダイスの女神って……。
作者はダイスの女神が最大の敵だと思ってます。
そして、教師陣のお話は次回も続きます。