対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode44 『憧れの人』

 お昼休み、久方ぶりに4人で集まって食堂でご飯を食べようと誘われたが……私は1人教室で売店購入したサンドウィッチをトイレの個室に籠城する形で頬張っていた。

 それもそのはず。マスクで隠してはいるものの唇の端が裂けて、ひどい有様で到底見せられるような姿でもなかったからだ。……口を軽く開いた瞬間に、これ以上口が裂けてしまわぬように貼り付けていたテープが外れ、食べたサンドウィッチは鉄錆の味であったが……それでも痛みと共に腹は膨れたためヨシとした。……そして、この痛みは私はもっと強くならなければならないという戒めだと心に刻みつける。

 サクッと人生初めての便所飯を済ませ、しばらくのあいだ3人が食堂から帰ってくるのを待つ。軽食を食べ終わった私はマスクを付けた状態で彼等を笑顔で出迎えて、ふうま君の教室に集まって雑談を始めるのだった。

 

………

……

 

「それで今回の課外授業はどうでしたか? うまく行きました?」

「あー……うん! まずまずだったぞ!」

「鹿之助くん……いつも『まずまず』って言いますけど、私としてはもっと具体的な内容を知りたいのですが……?」

 

 適当な雑談で話が弾んだところで、いつものようにサラッと課外授業について触れてはみる。だがしかし、3人は今日も詳細を教えてくれることはなかった。

 私がこの課外授業についての話題を振ると鹿之助くんも蛇子ちゃんも、私からそっと目を逸らす。なんとなしに触れられたくないのはその仕草から察することはできるが、ここまで露骨に頑なに教えてもらえないとなると知りたくなってしまうのが私の性。それに、これまでの言葉の言い回し具合や視線の動きを見る分に〈心理学〉の観点から『触れられたくない』というよりも……彼等の中で何をどこまで話して良いものか迷いが生じていて、安牌をとった結果話せないと言ったような様子なのだ。

 それに別段、彼等自身について話しにくいことを聞いているわけではない。私は学校行事の1種である“課外授業”について尋ねているだけにしか過ぎないのだ。

 3人が居ないときに、一応親しくなったクラスメイトに対しても、3人がどこに出かけているのか。“課外授業”とは一体どのようなものか。どうしたら参加できるのかと色々尋ね回ってはいるものの『田舎町グンマーから離れた都心部に出かけて、何か色々状況に応じた活動をしている』というボランティア的な情報しか掴めず困っている。

 うーん……。毎回、話の終着地点がこうなってしまうと私に情報を渡さないために口裏合わせをしているのではないかと勘繰ってしまう。

 いやいやいや。3人は学生としての友達だ。そんな社会に出たときの会社で作る裏切り裏切られのビジネスストライクな交友関係とは違うのだ。よっぽど、何か、言えない事情があるのだろう。疑うなんて最低だ。

 

「青空さん……毎回、話しているとは思うが、俺達の口から“対魔忍としての任務(“課外授業”)”については教えられない、知られてはいけない(教えてはいけない)機密情報(決まり事)になっているんだ」

「はぁ……課外授業で出題される小テストの“公平性”を保つため……でしたっけ?」

「ああ。ため息をつかせてしまって悪いが “一般人は知るべきではない情報(“公平性を保つため”)” なんだ。……今回も諦めてくれると助かるんだが……」

「もちろんですよ。残念です。今の会話の流れならポロリと情報を口走ってくれそうな雰囲気だったんですけどね……」

「蛇子、日葵ちゃんのそういうしたたかなところ ちょっと怖いかなー?」

 

 ふうま君は前髪を触りながら、いつもの通りの流れを作り出していた。私が尋ねる。鹿之助くんか蛇子ちゃんがはぐらかす。ふうま君が〆る(シメる)。これが前回と同様の流れだ。

 私も片目を瞑りながら後頭部を掻いて残念そうに振る舞いつつも、3人の表情をつぶさに確認していく。鹿之助くんは話をよっぽど振られるのを避けたいのか視線を真下の膝に落としてこちらを見ようともせず、蛇子ちゃんは私の言葉に苦笑いしながら率直な気持ちをぶつけてくる。ふうま君は、毎度のやり取りに少し頭を抱えた様子を見せていた。

 

「なるほど。私がもっと露骨なら情報を引き出せるというわけですね? うわーん! 鹿之助くんが日葵をいぢめるー! 私に隠し事してるー! わーん! おしえて! おしえて! おせーて! おせーてくれよぉ! ……チラッ

「…………言わないぞ。俺は言わないぞ……

「声が震えていますね。なるほど、ではもうひと押し——」

「『もうひと押し』や『チラッ』じゃないんだが……」

「日葵ちゃん……。ふうまちゃんや蛇子じゃ口を絶対に割らないことを考えて、あえて規則と良心に板挟みにされた鹿之助ちゃんに尋ねているでしょ。……既にそういう部分が露骨じゃなくて、したたかだって言えると思うんだ」

「……こちらの考えていること、そんなにわかります?」

「うん」

 

 こうして今日も彼等が受けている“課外授業”について尻尾を掴むことはできない。しかし、いつかは“課外授業”について情報を掴んでやるつもりだ。

 僅かに掴むことができた情報の中には好成績を残すことができた学生には、なんでも“金一封”が贈られるようではないか。株の投資に金が入用なのだ。まぁ学生に送られる金一封なんて高が知れているが、それでも好成績を残すだけで軍資金を荒稼ぎできるのだ。この手を逃さないわけにはいかないだろう。

 

「では話題を替えまして……そういえば、お三方って1年生の『神村さん』と3年生の『穂稀 なお』先輩『死々村 狐路』先輩はご存じだったりしませんか?」

「……!」

 

 鹿之助くんは僅かな反応があったが、まだ下を向き続けていた。これはかなり私を警戒してらっしゃられると見受けられる。大丈夫ですって。私が隙を生じぬ二段構えを鹿之助くん達に放ったことはないでしょー?

 そんな鹿之助くんはさておき、残った2人は顔を見合わせている。この様子だと2人はそこまで3人の情報を持っていなさそうだ。私が視線を外すと、少しだけ顔を持ち上げチラリと視線を向けてくる鹿之助くんは何か知ってそうだが……。私が鹿之助くんの方に顔を向けると、また俯いてしまう事からまだ警戒しているようだ。……聞き出すことは厳しいか。

 やはり、ここはクラスの1つ1つに顔を出して行って直接相手を探す方が早いかもしれない。

 ただ……。私には自業自得な噂もあるが、良からぬ噂が立ちすぎてもいるし、おまけに今はこんな顔だ。二車(にしゃ) 骸佐(がいざ)の取り巻きの中には3年生の姿もあった。私が出向いてこれ以上の良からぬ事態の発生および更なる噂の派生は避けたかったのだが……。

 

「……」

「神村さんっていうと、『神村(かみむら) 舞華(まいか)』さんのことか?」

「おそらくですけど。他に1年生で神村さんという方がいらっしゃらないのであればその方だと思われます。ふうまくんはご存じなのですか?」

「ご存じも何も、鹿之助の奴だって知っているぞ。鹿之助の奴なんだけどさ、朝の昇降口でも話した体術のクラス合同授業では神村さんを見掛けるといつも見つめてさ。どうやらぞっこんらしくて()——「ちょっと!? ふうまちゃん!??!!」

 

 急いだ様子で席を立ちあがって大声を出した蛇子ちゃんに、ふうま君は腕を引っ張って廊下へ強制的に連れていかれる。

 何故、俯いたままなのかが判明した鹿之助くんと……ふうま君の言葉が “課外授業”について、しつこく聞いてくる私に対するカウンターの要領で突き刺さり、衝撃だけが走った私の2人だけがその場に取り残された。

 ひとまず……ありがとう蛇子ちゃん。最後に聞こえてきた一文字は蛇子ちゃんの声で書き消されたような気がした。したと思いたい。

 余計なことを口走ったので、ふうま君の口は縫合予定ですが……今日は蛇子ちゃんに免じて許す。それにふうま君は、その、疎いから……きっとあれはカウンターなんかじゃなくて、何も考えていない昼行燈ムーブをかましただけだと……思う。

 ……でも次は首の骨を折って死ぬほど疲れさせる。

 

「……」

「……」

「……えっと。鹿之助くんは神村 舞華さんを御存じで……よく見つめて……らっしゃられる……?」

 

 おかしい私は日本語を喋っているはずなのに、脳が日本語認識せずに別の言語を喋っているような違和感に捉えられる。一回落ち着くべきだ、私の脳みそ。まだ思考停止するには早い時間なのに思考がうまくまとまらない。足元をすくいあげられたかのようなめまいがし始める。

 目が白黒して、普段よりもぱちくりと瞬きの数が増えてしまう。心臓が不整脈のように小刻みに震えているようなそんな気がする。

 

……えっと?

「……えっとだな。ふうまの言っていたのは、別に俺は神村さんのことが好きってわけじゃないんだ。……俺の憧れってだけでさ。日葵もクラス合同の体術の授業に出ればわかると思うけど、神村さんって男子より体術に長けていて すっげー強いんだよ。日葵には話したと思うけど俺の将来の夢って正義の対魔忍(ヒーロー)だから 対魔忍(ヒーロー)としてこうありたい存在でさ……」

「な、なる……ほど?」

 

 両目を瞑って頭頂部をかく。うん、そっか。憧れ。憧れね。うん。うん。憧れ。うん。うん。

 あ、憧れかぁ。た、たはは……。憧れ。うん。うん。

 

「ご、誤解するなよ!?

は、はは、は、大丈夫ですよ。うん。分かってますって……うん。あの……その神村さんのところまで、連れて頂いて貰ってもよろしいですか……?」

「お、おう! な、なぁ。なんか日葵ちょっと様子が変だぞ……?」

 

 彼は眉をひそめて、平常心を保とうとするも半分機械のような声しか出ない私の顔を覗き込む。

 ……うん。神村さん。憧れ。うん。うん。うん。憧れ。うん。息切れ、うん。

 

「……大丈夫ですよ。低酸素血症の症状ですね。今、呼吸を整えます」

 

 大きく深呼吸。

 そう、神村さんは鹿之助くんにとっての憧れである存在。落ち着け。テメェ(わたし)は鹿之助くんの何だ? まだ何でもないだろ? 取り乱すな。……だけど、鹿之助くんを将来パトロンとしてサポートするためにも、彼が将来目指している存在について理解を深めておくべき必要性があるだろう。そうだ。もしも彼が道を(たが)えたり、道を見失ってしまったら神村さんを思い出させるだめ……ぐっ…………思い出させるためにも……。一目。一目見て置こう……そうしよう。

 

案内をお願いできますでしょうか?

「おう。その、すっごく体調が悪そうだぞ?」

「鹿之助くん……これは不正生理出血による(女の子にはよくみられる普通の)貧血の一時的な症状です。気にしなくて大丈夫です」

「そ、そうなのか。でももし本当に辛くなったら教えてくれよ……? 眞田先輩に訓練してもらった翌日なら猶更さぁ」

「ははは……鹿之助くんは優しいですね。そういうとこ、好きですよ」

「はははっ! 正義の対魔忍(ヒーロー)を目指しているんだから、当然だろ?」

 

 ……うん。うん。今は、その不安が払拭された曇りなき笑顔を見れただけでも満足です。うん……。

 

………

……

 

 




〜あとがき〜
 今回も三日月歯車兄貴姉貴誤字修正ありがとうございます!
 その語彙力の豊富さは私が追いつけるレベルじゃないことがひしひしと伝わって参ります…。


~評価返信~
『窮敏様』
■ クトゥルフ神話のシステムをこんなにうまいこと織り込める小説は初めて読みました!
 ありがとうございます!
◇システムをうまいこと織り込めるなんて、いやぁ……そんなぁ。
 ……褒められると照れますね。(*´ω`*)
 そして『ありがとうございます!』だなんてお礼を言われるとは思いませんでした。こちらこそ、本小説に関する評価を頂きありがとうございました!

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