対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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10章 『対魔忍 With 悪霊の家』
Episode47 『亡霊の洋館』


 天気予報の通り、その日の朝から視界が白く染まるほどの大雨が五車町を襲った。

 時刻は15時30分。私は昨日、帰宅してから整えた装備を背負って、普段より少し高価なポンチョ型のレインコートをすっぽりと約2、3週間前のカルティスト共の返り血を防いだ時のように深く被る。

 玄関に設置されている等身大の鏡には背中が異様に膨らんだ私の姿が映っていた。洋館調査に向かうには心もとない装備や武器であるが、手ぶらで赴くよりは何倍もマシな装備であることを願ってこの日のために準備を整えてきたはずだと自分を励ます。

 

「……日葵? こんな状態なのに何処へ行くの?」

 

 重装備のままドアノブに手を掛けた私へ背後から声が掛けられる。方向転換もままならないような、実にノロマな動きで振り返ると、そこには心配したような顔をした母親の姿があった。壁に寄りかかりながらも、腕組みをして神経質そうに眉をひそめている。

 

「ちょっと畑と用水路の様子を見に……」

「……」

「なーんちゃって。体力作りのメニューをこなしに。きっと夜までには戻れるよ」

 

 呼び止められるような声が背後から聞こえた様な気がしたが、そのまま外へ出て駆け出す。同時に背後の声やヘッドホン越しの音楽を掻き消すほどの雨音が全身に降り注いだ。音量を上げて先を急ぐ。

 陽葵ちゃん達の日程では18時30分に裏門へ集合、19時には洋館調査を開始するといった予定だったはずだ。いくら蓮魔先生と黒田先輩が、その時間帯に裏門で張り込みをするかもしれないと言ってもこんな大雨であれば約15分前からの張り込みになるに違いない。

 あの洋館跡地近辺を探索した調査結果として。事前にそのような休息地点を築かない限り、羽休めできるようなポイントは一切なかった。いくら骨のある蓮魔先生であろうとも、こんなバケツの水をひっくり返したような雨の中、木陰に隠れて神村さんたちの到着を待ったりはしないだろう。つまり、私としては早くても18:40頃から洋館跡地に張り込みを始めるのではないかと目論んでいる。学校の裏門を張り込みを行う可能性も考えたが……その場合、先生方と生徒たちがすれ違いを起こした場合。間違いなく生徒たちは先に『森の洋館』に侵入してしまうという観点から、その場所で張り込みを行うとは考えにくいと判断し、あの洋館の出入り口を監視できる場所にやってくるとして目標を定めた。

 

「よし」

 

 鬱蒼と茂る森を見上げ、足元を煌々と照らす登山用ライトを付けたのちに安全確保のもと森の中に入る。

 事前にこの辺りの森についてのマッピングとルートの確保は済ませてある。

 現在時刻は16時。空はどんより鉛色で雨は一層激しくなっていた。それでも陽葵ちゃんの晴れ乞いの効果がまだ適応されているのか、周囲だけはまだ明るく現状は油断でもしない限り遭難の危険性はなさそうに見える。洋館跡地から森の出口までに要した時間は最短ルートを通って20分。雨で進行速度が遅れたとしても30分。今から向かえば、もしも蓮魔先生が18時40分ごろに見張りに来ると言っても、それ以前の時間は私が見張ることができる。

 心寧ちゃんが諦め、陽葵ちゃんに検討を促し、主計画者を断念させた確率は高く。蓮魔先生への密告を済ませた今……見張る必要などはないのかもしれないが……。引くことを知らなさそうな神村さんのことだ……。穂稀 なお先輩と死々村 狐路先輩がどんな先輩か検討もつかないものの、この2人をうまく焚きつけて向かっているという可能性は十分に考えられる。だが今回は陽葵ちゃんと心寧ちゃん(2人)に対して使用することがなかった資料も持参しているのだ。例え先輩方が同伴していたとしても、相手が理知的な会話ができるような相手であれば、危険性を説明し理解してもらえればこちら側の味方につけることだってできるはずだ。先輩方と協力し、神村さんを何とか説得までとはいかずとも……最悪、縛り上げてでも蓮魔先生の到着まで時間を稼げれば良いし、もしも蓮魔先生の姿が見えたとしてもそれまでの時間に3人が姿を現わさなければ、あとのことは先生方に引き継げば済むだけの話だ。

 

………

……

 

 16時30分。今。信じられない光景が私の目前に広がっている。

 私の目の前に洋館が建っていた。

 実地調査に来た際に、付近の木々に対して効力を持たない旧き印(エルダーサイン)を刻んでおいたのだが……それすらもこの場、あの木々に印として残されているということは私は誤って別の場所に来たのではなく……以前は何もなかった草原だった場所に足を運んでいることに間違いはない証明でもあった。

 現状神村さん、なお先輩、コロ先輩の3人の姿はない。ゆえに私は先に外観からだけでも情報を手に入れるためその周囲を徘徊し探索を始める。

 洋館は2階立てのレンガを用いたバンガロー風の洋館だった。雨が降っている時点で、放火には適さない環境だが……レンガという素材から見ても燃えにくそうであることは明白だった。有象無象に壁や屋根から垂れ下がったツタがこの洋館の不気味さを余計に引き立て、これだけなら燃やせそうだとは思う。今回は特別に燃やすための材料や起爆させるための道具一式は持ち寄っては居ないのだが…。更にこの洋館からは、まだ燃やしても燃えてもいないのにも関わらず木材が焼けるような臭いが立ち込めていた。

 そっと壁に手を当てて、そこに実体が本当に存在するのかどうか確認を取ってみる。

 ゴツゴツ、ザラザラとしたレンガの感覚や味、腕を押し込んでもそこにある存在感が目前の光景が雨による幻視が造り出している存在ではないことを証明していた。

 さらに窓から洋館の中を覗き込もうとするも、どの部屋も光が無いほど真っ暗な闇が広がるばかりで何も見えない。足元を照らすための登山用ライトの出力を高めにセットして、内装を照らそうと試みたが……結局は光が闇に吸収されて、やはり何も見ることはできなかった。

 裏口はなく、陽葵ちゃんの話にあったように正面には木製の大きな両開き扉だけが、まるで不浄な崇拝者/六肢兎口症の巨人の器官である縦割れの口のようにも見えて……何を考えたらここから調査を開始したくなるのか……私には見当も付かない。

 一通りの探索を終え、表玄関を監視できるようなポイントである少し小高い丘、斜面の天辺の上に足を運び、その場所で雨風に晒されながら簡易的なテントを設置し始める。テントと言ってもキャンプで使用するような寝泊りの出来る本格的なものではない。森林迷彩柄に塗装を施したブルーシートを三角形に折って、それらの3隅を木に括りつけた本当に簡易的な雨や日光を凌ぐための簡易的なものだ。

 雨を凌ぐ準備を整えたら、雨合羽からはみ出て濡れた顔面や胸元をタオルで拭き、折りたたみのアウトドアチェアを監視方向に設置する。あとは彼女等と接触時の簡易的な装備を整えるだけだ。洋館へ侵入するのを思いとどまらせる資料と、遭難時に使用するための衛星電話+GPS、洋館から悍ましい貴婦人が出現したときの為の得物2種、発煙筒、簡易応急手当キット、スマホ、ヘッドホンを含めた音楽機器などだ。それらは纏めて背負ったあと、再びレインコートを羽織ってアウトドアチェアに座った。

 それ以外の物品はひとまず雨の濡れない場所に置いておく。

 時刻は16時40分。蓮魔先生等が張り込みにやってくるまで、残り約2時間……このまま取り越し苦労。誰も来ないことを願いながらジメジメと蒸し暑く雨音が響く簡易テントで待機する。

 

………

……

 

「——。」

「—。 ——。」

「————。」

 

 17時00分。張り込みを始めて、約20分。

 雨音に混じって、私が通ってきた道と同じルートの方角からビジャビジャという複数人の足音と誰かの話し声が聞こえてくる。声が聞こえてくる側へと視線を向ければ、まだ姿までは視認はできないが、それでも光源が3つこちらに近づいてきていることだけは確認できた。

 食べかけのエネルギーバーを口の中に放り込んで、暇つぶしで聞いていた音楽を止め、その光源の主の姿が見える位置で息を潜め待機する。

 

「ここがその例の洋館ですか……」

「なるほどね。雨降る洋館の話は噂には聞いていたけど、まさか本当に存在するとは僕も思っていなかったよ」

「ケッ。2階建てか……ひとまず2階は俺の獄炎でぶっ飛ばしていいかぁ!?」

「それは駄目だよ! 幽霊以外に誰か私達以外にも探検している人が居たら消し飛んじゃうよ!」

「…………」

 

 その姿が見えたとき、溜息をつかざるを得なかった。

 現れた5人のうち3人は見知った顔の3人かつ、うち2人は諦めたと思った相手だったからだ。

 今この場に『穂稀(ほまれ) なお』『死々村(ししむら) 狐路(ころ)』『神村(かみむら) 舞華(まいか)』『速水(はやみ) 心寧(ここね)』……そして『日ノ出(ひので) 陽葵(ひまり)』……この5人が全員そろって洋館前に姿を現わした。

 それにしても5人はこんな大雨のなか何を思ってそんな恰好でこんな場所に来たのか、特に陽葵ちゃんに関しては蓮魔先生が到着する1時間30分の間、懇々と説教をしたい。

 現状この大雨の中、雨合羽を着ている人間は私を除いて2人しかいない。1人はレインコートから義足がはみ出して見える速水 心寧ちゃん。そしてもう1人は物静かで何も言葉を発していない3年の先輩のうち1人だ。

 ……それ以外の3人? よし。それじゃ、解説していこう。

 まず鹿之助くんの憧れである神村 舞華。彼女は股間部や臀部を覆い隠すには明らかに布面積が短い袖のないチャイナドレスと……何故そんなものを持っているのかこっちの知った事ではないが、ロケットランチャーのようなものを肩に背負っている。……出身や親が修羅の国(福岡県)の人間であると仮定すれば持っていても何処もおかしいところはない。前世で私の友人にもいた。彼は一見善良で人畜無害な市民だったが、出身は福岡県北九州市戸畑区浅生、職業は暴力団組員だったか。暴力団関係者ならロケットランチャーの1つや2つを持っていても不思議ではない。

 ……。鹿之助くん。ちょっと彼女は……目標にしちゃ駄目かなぁ……。

 次にもう片割れの女性っぽいが、一人称が僕と言った3年の先輩の片割れ。彼女は背中にライフルを背負って その服装はエヴァンゲリオンに登場するプラグスーツを赤と白と黒を織り交ぜて露出度の高くアレンジしたかのような、ネコをモチーフにしたような尻尾付きの衣装を纏っている。……趣味はコスプレイヤーかな? ……もしかして、相方の3年生の先輩ってカメコだったりするのだろうか? ライフルに関してはモデルガンとかだろうか。

 そして最後の……。日ノ出 陽葵ちゃんは……彼女が一番ひどい。首に黒のチョーカーを付け、私に見せて着用も許してくれた橙色のライダースジャケット。その下には衣服らしい衣服は纏っておらず、おそらくあれは水着だ。黒のチョーカーに繋がったホルターネック式のモノキニと呼ばれる胸元と腹部のくびれが協調できるハイレグ水着で、靴は内股が強調されたサイハイブーツ。傘も差さずに一番目立っていた。

 あれは全体的にオレンジ色の目立つ服装で遭難対策はばっちりだけど、雨の降りしきる森に入る装備じゃねぇんだよなぁ……! 思わず観察している私の顔がゴルゴ13のような仏頂面になってしまう。

 彼女からは『どうせ濡れるんだから水着でも変わらないよね!』ぐらいのノリがひしひしと伝わってくる。……うーん、うーん……陽葵ちゃん……。そんなに露出しているお肌の面積が広いと、森の中では枝とかで身体が傷ついちゃうんだよ……?

 それにあの時((Episode36))で光源をいっぱい持っていくとか言って、何も持ってねぇしよぉぉお……。今は明るいからいいのかもしれねぇけど、帰り道は真っ暗ぞ? てか陽葵ちゃんの左手に持っているの何? ねぇアレ何? ハンマー投げ? え? 森の洋館に来て、ハンマー投げでも始める気なの? 無くすよ? 洋館でハンマー投げなんかしたら、片っ端から壁やら窓やらが粉砕するよ? 大丈夫なの? あの子??? 一番、不安な友人が 一番不可解で意味不明な装備で森に来ている件について。

 ……予定の時間よりも2時間は早いが、彼女たちが来てしまったのであれば仕方はない。洋館に入る前に止める。それ以外に方法はないだろう。予め通販で購入した衛星電話を使い五車学園に連絡を取り始めようと試みる。この話を早めに先生方に伝えて、私の引き止める行為が仮に失敗したとしても〈説得〉で時間を稼ぎ、到着した教員にまとめて連れて帰ってもらう方が確実に違いない。

 そうして、まずは衛星電話を取り出すため視線を彼女達から外そうとした時だ。……レインコートを着用した先輩の1人がこちらに指を指しているのが見えた。

 さらに、こちらの嫌な予感を裏付けるかのように、神村さんがロケットランチャーを————

 

 ——あ゚っ——

 

 




~評価返信~
『カーレライズ様』
■ おもらししちゃダメッ!!もったいないおばけが来ちゃうっ!!
◇ Episode48、59話目で評価を頂けましたので神村 舞華ちゃんによる子宮パンチで失禁したことを言っているのですね……!
 いやはや細かく本小説を閲覧していただいているみたいで、脱帽致します。そうです。本小説4度目の腹パン聖水ジョババーでした!!! あまり失禁しないようにした方がいいのはそうだと思います。なんて言ったって対魔忍世界ですから。失禁の臭いに誘われて魔獣が……なんて展開もあり得ますよね!

『Eagle3718様』
■ とても良いです。もっと多くの宇宙的恐怖を、いあいあ
◇ ありがとうございます! その言葉が糧になります!
 オラッ!対魔忍ども!お前等も宇宙的、ヴェールの裏側を見てガタガタ震えるんだよ!
 Let's いあいあ!

『Barzai様』
■ 対魔忍や魔族といったオカルトがある世界、そんな世界の住人にとってさえ驚異の存在である神話生物がエントリー
 魔族は神話生物に対抗して化け物の面目を保てるのか?対魔忍は無事即落ち2コマ出来るのか?
◇10評価ありがとうございます! 魔族達には魔族なりの気骨を見せて頂きたいですよね! 個人的にはオーク達が心配です。彼等は知能が人間並しかなく、強い者にはとことん媚びへつらう臆病で卑屈な習性を持つ。(対魔忍RPG wiki用語集引用)なので神話生物にヘコヘコして取り入ろうとするも、首をザッパー!されそうな予感しかしないです。いあいあしてください。いあいあ。
 対魔忍の即堕ち2コマ……やはり首がジャックザリッパーな予感が……お前等もカルティストになるのですよ!

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