対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
……扉は開いたものの誰かが入ってくる様子はない。
入ってくる様子はなかったが、こんな異様な空気によってピリピリとした空気が張りつめ、過去に様々な実績が残る異常事態が付きまとう洋館なのだ。むしろ勝手に扉が開いたこと、誰も室内に入ってこないこと、その現象自体にこの部屋の誰しもが恐怖に怯えている。
扉を開けた何者かに対して声をかけることすら、自身の命を死神へ差し出してしまう行為になってしまいそうで……あの洋館探検に意気込んでいた神村ですら、余計な口を開くつもりが一切起きないようだ。
片手に
………
……
…
「「「…………」」」
……あれから何分たったのかは分からない。
結局、扉を開けた存在は陽葵ちゃんではなかった。いつまでたってもその姿を見せないこともそうだが、私がどんなに〈聞き耳〉をそばだてても、鼻をひくつかせ彼女特有の香りを確認しても何も感じられない。壁の反対側に誰か人のいる気配が一切感じられなかったこともある。
これによって私達は現在、単独行動を行っている陽葵ちゃんを探す必要性が発生している。だがチラリと一瞬だけでも……その開け放たれた扉から視線を逸らすこと、何分経過したのかと腕時計を確認する時間すら惜しいと感じてしまい、動きだすことはできなかった。
「…………ケッ……ンだよ。勝手に扉が開いただけじゃねえのか? ビビらせやがって」
この誰も動かない空間で、真っ先にしびれを切らしたのは神村だった。
彼女は先ほどまでの恐怖で萎縮した状態から持ち直す。片手でトリガーを反対の手でロケットランチャーの砲身を掴み、しっかりと銃身を固定していたが……今はその手を離し銃口を下げて構えること自体をやめている。
心寧ちゃんはというと、私の視界の端で正面の空きっぱなしになった扉から視線を外しこちらを見ている。
私も警戒を解くように消火器ジェットの銃口を上へと向けて、近接用武器として構えていたヒカキボルグを脇に抱え手汗をその辺にあった茶色にくすんだ適当な布巾で拭きとった。
——ガァアッンッ!!!!!
こちらが警戒を解いた瞬間を狙ったかのような大きな音がダイニングキッチン中に響き渡る。
心寧ちゃんが陽葵ちゃん宛てに書置きを残した机が、まるで竜巻によって巻き上げられるかのように凄まじい勢いで縦軸回転し、机に乗せられた僅かなガラスの破片を周囲に撒き散らせながら天井に目掛けて突き刺さった。
——バキャアッッッ!!!!
本当に一瞬の出来事だった。突き刺さった机は、不可視の何者かによるちゃぶ台返しに遭った威力に耐えられず、自身の破片をバラバラの粉々に撒き散らす。
油断していたというわけではないが、気のゆるみを狙われた目前の現象によって思わず脇からヒカキボルグを落としてしまう。金属製の部位が重みと重力の関係上、地面に叩きつけられて鈍い金属音が部屋全体に響いた。即座に拾い上げたが、今の衝撃音は十分に大きな物音だ。
「直進を避けながら出口目掛けて走ってッ!!!」
シュゴー!!! シュゴーッ!!!!!
不意打ちによって固まる2人に対して即座に号令を放ち、聖剣ヒカキボルグを抱き上げるように拾い上げながら消火器ジェットを “何者か” が存在するであろう場所に吹きかけながら出口へ向け疾走する。
クソッ! 目の前には何もいなかった! 何が起きたのかも分からない! しかし、確実なことは周辺に散布した消火器ジェットの消火薬液は何ににも直撃しなかったッ! だが、このままダイニングキッチンに居座ることは、自分たちが天井に突き刺さってバラバラになった食卓のように天井の肉片のシミへと変えてくれと言っているようであるとも捉えられたッ!!!
それでも何度も何も存在しない虚空へと消火薬液を吹きかけて、見えない“何か”を特定しようと奮闘する。幸いにも真っ先に消火薬液を吹きかけた入り口には誰も居ない様子だった。
心寧ちゃん。
「アレが噂の亡霊か! 全部丸焦げにしてやるッ! 吹っ飛べやぁあああああっ!!!」
「ちょ、お——」
「奥義:
部屋から脱出ざまに神村が先ほどまでいた部屋に向けて、
そんな大胆な行動に出た彼女を止める為にも『ちょっとお前、やめろ!』という言葉を出そうにも呂律の回らないまま、その砲撃を止めるよりも先に彼女が引き金を引く方が速かった。
一瞬で、ダイニングキッチンは炎に包まれ、その火力によって壁や天井が全て吹き飛び 私の2度目の人生そのものが終わったと思ったが……。あれだけの威力にも関わらず、私が巻き添えを食らうと懸念していた壁が衝撃によって崩落、飛散する様子はなく九死に一生を得る。
——……今のは死んだかと思った。今のは、流石に死んだかと思った……っ!
こちらとしても即座に『新クトゥルフ神話TRPG』選択ルール:124頁“伏せ状態”で、彼女の火器攻撃の巻き添えから、逃れられる確率の高い姿勢を取っていた。
まぁ、そのような姿勢であっても壁が爆風によって崩落、飛散して破片や炎に巻き込まれて死ぬ可能性もあったが……。
彼女が無反動砲式のロケットランチャーを放った直後に発生する、後尾からのバックブラストに巻き込まれて死ぬ懸念もあったのだ。
親が暴力団関係者なら所持していても何もおかしいところは無いが、やはり大した専門知識を有していない学生がロケットランチャーなんて気軽に撃っていいものじゃない! どうして、室内戦になることが予め予測できた状態で、そんなものを持ってきたのか。どうして幽霊退治の洋館調査でそんなものを持って来ているのか。武器選択のセンスに、ツッコミどころは満載だがこんなロケットランチャーを連射するずぶの戦闘の素人がいたんでは『首のない亡霊』に首を捥ぎ取られて死ぬよりも先に、ロケットランチャーのバックブラストに巻き込まれる形で私と心寧ちゃんが真っ先に死んでしまう……!
だからと言って、彼女を気絶させて私が運ぶのは論外だ。方法としてはできないことはない。そう。『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』における“荒業”を利用すれば運搬に関して
ついこの間まで、たかが15㎏のダンベルを持ち上げるだけでゼヒゼヒ息を上げていた
「……」
「やったかッ!!!?」
虚空に対して完璧なロケットランチャーの直撃を決め、目をギラギラと眞田先輩のように輝かせながら勝利の歓喜とともに、片腕で力強いガッツポーズを取る神村。それを私は冷めたジト目で見つめる。
とにかく。何処か一時的な
……緊急時だ。最悪、こちらの言うことを聴かなければ、あのロケットランチャーが機能しないように〈機械修理〉での破壊も視野に入れる。
——くくくッ……
「!??」
「——!」
——ゥウゥウウウ……ヒ……ヒ……ヒヒヒッ……ゥウウウウウ……
そんな、完璧なフラグも建設した彼女を嘲笑うかのように、何処からともなく微かに聞こえてくる苦しそうな女のうめき声と笑い声。
あぁもう……まずい。
確定的に致命的な音を響かせてしまった。
もうこれでは首のない亡霊に対して『私達は貴女の屋敷に不法侵入し、
来る。来る。来る。……来るッ! 首のない亡霊が来てしまう。私が声を抑え、物音を最小限にしていた理由。一番避けたかった事態の到来だ……!
「日葵さんッ!」
伏せ状態から立ち上がる私の背後から、今まで大声を抑えていたはずなのに悲鳴のような心寧ちゃんの大声が廊下にこだまする。
私が隣の部屋で身を隠すようにと心寧ちゃんに声をかけるよりも、先に振り返った時には彼女に説明を求める必要もないぐらいに更なる事態の悪化による状況を理解してしまった。
……そこには長い廊下が続いていた。気が遠くなるほどの長く、暗闇によって先の見えない長い廊下。つい先ほどまで、廊下をほのかに照らしていた紫色の炎が灯る燭台の炎はすべて消えていて、入った直後には両側の壁に各3枚しかないあの通路はどこへ行ってしまったのか。20万8千円のドアストッパー付きの玄関扉は? 玄関の傍にあった階段は? 階段の隣に存在していた厳重に南京錠が掛けられた扉は? こんな扉が多いのでは床に付けた印を悠長に調べている時間も残されてはない。相手が視覚も聴覚も持たない筈の首のない幽霊が相手とはいえ、相手がどのような存在なのか理解や情報を手に入れられるまでは、こちらの居場所を示すような光を出すものは使用したくはない。ただでさえ、砲撃による爆音でこちらの居場所が割れてしまっているのだ。
——……まずい。まずい。まずい。まずい……ッ!
血の気が引いていく。ロケットランチャーをぶっ放して満足している神村の事など気にも留めなくなるほど。……自分でもわかってしまうほどに真っ青な顔をしている。
私の知りうるどのような〈クトゥルフ神話〉的事象とも状況が合致しない。こんな状況は初めての出来事だ……ッ!!!
「……この場からとにかく離脱します! 2人とも離れないでください! 離れたら最後、二度と合流できなくなるものだと思え!!!」
「は、はい!」「お、おう?!」
——ヒヒヒ……クカカカ……ゥゥウウゥゥ……クヒ……ヒヒヒゥゥゥ…………ケケケケケッ!
耳に詰まった泥を掻き出し、手を耳元に当てて首のない亡霊がどちら側から接近しているのか、迅速に見当をつけて2人を引率しながら走り出す。
どれだけ2人を連れて走っても、壁のあちこちから立体音響のように聞こえてくる女の泣きながらも混じる笑い声からは振り切ることはできなかった。
声の位置の判別は行ったが、それが正解かどうかは私にも確証を得ない。ゆえに正面からの奇襲をされても私が2人の肉壁となり守ることができるように先頭を走る。疾走中、2人が付いてきているか適宜確認しながら洋館を走り抜けていく。
五車学園の図書館で発見した新聞記事にも掲載されていた『玄関を目指したはずが他の部屋に来ていた現象』と似ているが……まさか、こんな通路が伸びるなんて想定はしていなかった。怪異が変異しているのか? それともこれは私が知り得ない魔術的効果によるもの? それとも幻覚を見せられているのか?
……こんな状況では下手をすれば首のない亡霊に殺される前に、こちらが脱水症状を引き起こしてゲームのコープスパーティーの高校生達に降りかかった悲劇のように餓死して野垂れ死ぬ可能性も考えられる。
五車学園の超人教師たちや彼女たちの親御さんたちが、『絶対に入るな』と注意喚起していた理由が私にもおおよそ把握ができた。いくら超人教師どもであれ、どれほど腕っぷしが強かろうが人としての生命活動に関わる条件を絶たれてしまえばどうすることもできないからだ。
警官隊の捜索を打ち切り、教師も忌み嫌う禁足地。……これでこの場所がどのような場所か彼女達にも十分によくわかっただろう。私も十分に理解した。二度と踏み入れたくない場所だ。まぁ、もう悔いても遅いのだが……。
せっかく対魔忍世界へ転移したのに、遭遇していることや現在の状況が前世とあまり変わらなくて少し物悲しくなる。だが、それでも一般人としての後悔はあっても、探索者として後悔は不思議と感じなかった。きっと私が介入しなければ酷い状況になっていたことには間違いないのだ。
だから今は頑張る。いつかは……対魔忍世界だけど、一般人枠で人生を謳歌できると信じて。
「2人とも大丈夫?!」
「はい! ちゃんとっ! いますっ!」
「クソッ! クソがっ! 何が一体どうなってやがるんだよ!」
二人とも必死な形相で私の後をついてきている。ついてきてはいるが、軍隊でもないのに私と神村は重装備で全力疾走。心寧ちゃんはもともと義足にも拘らず、そんな全力疾走の私達についてきている。このままでは……体力も限界が来てしまうだろう。それこそ、ここで全ての体力を使い果たしてしまい動けなくなってしまう事は避けたい。
「何が起こっているか?! それは私も知りたいですね! ……このまま逃げ続けても、いずれは走れなくなってしまいます! 今はこの部屋に隠れてやり過ごしますよ!」
ゆえに袋小路となってしまうかもしれないが、即席のバリケードを設置して首のない亡霊をやり過ごすための
~あとがき~
『新クトゥルフ神話TRPG』にはチェイスなる逃走劇システムが存在するのですが、今回の状況では、その状況は発生しなかったようです。
なぜ発生しなかったのか。そこは、閲覧者兄貴姉貴達の考察班にお任せしたいとおもいます。
そして、最近。閲覧者兄貴姉貴達にお尋ねしたいことがございます。
2022年01月18日にお気に入り登録してくれた閲覧者兄貴姉貴達……この日に何があったんですか? お気に入り登録数が一気に32人も増加して目が点ですよ。メガテン。
新規評価者が増えたのかなー?と思ったのですが、変化なし=特にランキングにも入ったわけでもない……。推薦されたのかなー?と思えば違う……。では、なぜ???と頭をひねっているところです。
何か理由を御存じの方がいれば教えて頂けると助かります!
~宣伝~
この度、初めての推薦を書きました。
ついでに原作:対魔忍の初推薦も奪っていきました。
本当はあとがきで紹介しようかなと検討していたのですが、大勢の目に留まりやすさやここで『推薦書いたよー』と紹介すれば、閲覧者兄貴姉貴達も見に行ってくれるかな?と思いました。
ジャンルは対魔忍です。個人的に好きな作品の1つでして、良かったら見てください。
※注意
ちなみに推薦した小説を読むと、本小説『対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい』のネタバレに繋がる部分【何故、Episode22-EXで
ってか、原作の対魔忍RPGのChapter1で堂々と出てくるあの幹部が一番悪いと思うんですけど。原作のネタバレするタイミングよ。お前もっと他に適した登場するタイミングとかあっただろ。周りの対魔忍に影響され過ぎて頭対魔忍になったか???
ところで、閲覧者兄貴姉貴達。2月から、本小説を3日おきのぺースで投稿するって作者が言ってたけど、どれなら許容できますか? 締め切りは2022/2/3投稿日とします。
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3日おき、文字数5000前後
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3日おき、文字数3000前後
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7日おき、文字数5000前後
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7日おき、文字数3000前後
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文字数はいい、3日おき小説を投稿し続けろ
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文字数はいい、7日おき小説を投稿し続けろ
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自分のペースに合わせて、毎秒投稿しろ
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対魔忍“冷蔵庫”マダー?