対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
手記を読み終え、なお先輩と共に互いの手記に書かれた情報の共有を済ませる。
ひとまず内容の長くなってしまったものは、手記の空白の頁を取り出してその部分に現状必要そうな情報だけをピックアップして要点としてまとめ上げた。
筆記用具などは持ち合わせてはいなかったが、代用できそうなものは幸い拾い上げているので問題はない。心寧ちゃんに声をかけ、暖炉で拾った炭を受け取ってそれを筆記用具の代わりに即席のまとめを作り上げる。
「……君は情報の整理が上手いね。以前もこういうことをやったことがあるのかい?」
「……えぇ、まぁ」
「ふむ。それは噂で聞いている君の人物像からしてみれば実に惜しい人材だな」
「————。……? ——お褒めに預かり光栄です」
手短かつ簡潔を心掛けて手記の空白のページに情報の整理をしていると、頭上からなお先輩がひょっこりとこちらを横から覗き込んできた。
その言い草はこちらをまるで値踏みするような言い方で、私の感情を逆撫でされているような憤怒が沸き上がってくる。だが、きっとこの怒りは一時の感情。あくまでも怒りで脳を騙し、痛覚をマヒさせるための快楽物質であるドーパミンを分泌させるために潜在意識がそういう風に仕向けているのだと自分をなだめた。
……それにしては、今すぐにでも彼に飛び掛かって両目の目玉をくり抜いてしまいたくなるような激情だが、流石にカルティストでもない彼へそんな仕打ちをしてはならないと自分の身体を制御する。怒りなんて、よっぽどのことが無い限り6秒経過すれば自動で静まるのだ。
一瞬ではあるが、感情の制御をしていなければ実行に移そうとしていた自分自身の思考に違和感を覚える。しかし、ここで考え込んでしまっては不信感を沸かせかねないと判断して、なお先輩にはこちらの殺意を悟られぬように笑顔を向けて誤魔化した。
「なお先輩。今後の洋館からの脱出方針の決め方ですが——皆さんに対する指揮系統を譲って頂いてもよろしいでしょうか? 普段であれば、こういった非常時には上級生であるなお先輩やコロ先輩が指揮を執られるのが世間一般的であることは存じ上げております。……ですが、今回は事態が事態だけに年功序列を謳っている場合でもないのです。——お願いします」
「……」
高ぶった感情が完全に鎮火したところで、椅子から立ち上がり彼に頭を下げる。
骨折している足は、道中で拾い上げた聖剣ヒカキボルグによって固定され比較的な安定感は得ていたものの、それでも少しだけ立ち上がった瞬間によろめいてしまう。その姿はまるでロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説『宝島』に登場するジョン・シルバーの様で、よろめいたことは彼の目に少し指揮を執るには頼りなく映ったかもしれないと思った。
なお先輩は何も言葉を発さない。今の私には彼の表情を見ることはできないが、漏れ出る僅かな吐息からどうするべきか決めあぐねているように感じる。
「——なお先輩。日葵さんは、普遍的な女子高生を自称する割には行動がちょっ……。……。いえ確実に、かなり。かなり、アレな人ですけど、この状況に関してだけは頼れると思います。私からもお願いしたいです」
「わ、私もっ! 日葵ちゃんはね! 噂はすごいけど、人を喜ばせる為にいろいろ機転とか気遣いとかできる私の友達で! 1年生で3年生を指揮するっていうのは聞いたことないけど、眞田先輩と黒田先輩の生徒指導にも素手で渡り合える実力者だし、先輩にこんなことを言ったら失礼だって分かってるけど……私は日葵ちゃんの方がリーダーとして安心できるかな!」
私のお願いに対し、背後からの声援……ウィンザー効果が乗せられる。
こちらをディスっているのか、それとも推してくれているのか……。ちょっと判別に悩むところだが、この少しだけ毒の入った言葉と声は心寧ちゃん。でもそこは、強調していうところじゃなくない?
そしてもう1人は普段から私が見せている人格を推して、こちらを褒めちぎっている陽葵ちゃんの声だった。
二人の推薦はとても嬉しい。でも、でもね。知っておいて欲しいこともある。
確かに
しかし、結果はものの見事にネタに対する真顔の
んー……でも、ここら辺は弁明していなかったから、噂のみの情報で彼女達がそうやって判断してしまうのも無理はない。紫先生の件はあとで弁明しよう。
窓ガラスの件は……。もう弁明しても聞き入れてもらえなさそうな空気だし、今はいいや。
「——はぁ……君達は、この僕がそんな年功序列ような古臭い仕来りで、この非常事態の指揮系統の隊長を決めるとでも思っているのかい? ……それは心外だな」
と、ここでなお先輩が考え込むのをやめて口を開いた。
90°以上、深々と頭を下げてお願いをしていたのだが、彼の声が掛かった時点でその礼の角度を45°まで持ち上げた姿勢で彼を上目遣いで確認する。
彼は片足に重心を掛けながら腕組みをしていた。顔の向きはそっぽを向いているが……時折、頭を下げ続けている私のほうをチラチラと細目な横目で確認している。
「確かに僕は五車風紀委員であり、五車風紀隊の隊長を務めているが……。僕自体は消火器の妖精ちゃんが今回の指揮を執ることに関して異論はないよ」
「わぁ……っ! ほんと!?」
「本当だとも。実際に彼女は、この場にいる誰よりもこの洋館について事前調査を済ませて、僕よりも洋館の背景や事態に詳しいのだからね。それに噂はあくまでも噂だ。僕も妖精ちゃんに出会って僅かだけど、噂ほど酷い人柄じゃないってことは分かってる。それでも……怪我の状態が——と言った視点では気になるところではあるけど、隊長を務められるのならば務めても良いと思うよ」
「やったね! 日葵ちゃん!」
「
彼の言葉に背後から私を推してくれた二人の歓声が上がる。
ここで頭を下げるのをやめて姿勢を元の状態に戻すと、なお先輩もこちらを見つめ若干微笑みの表情を見せてくれていた。コロ先輩は相変わらず背後に青色の人魂が浮かんで見えるものの、私が彼女の方にも視線を向けるとただ頷いて『き た い し て い る か ら が ん ば っ て。』と口を動かしているように見える。
ただ……今回の指揮系統の申し出について全員の賛同は得られないことは分かっていた。食堂では心寧ちゃんの介入もあって、多少の揺さぶりをかけられた間は一時的な協力をすることができたが……流石に
「はあ? デスメタル花子が隊長? 姐御や黒田先輩と渡り合ったっつても、最終的には全身ナスビ色になるまでボコボコにされてたじゃねーか! そんな実力で指揮を任せられっかよっ! たかが年上の2人に
神村は私を隊長とするこのグループの輪から少し離れたところで、新しいタバコに火をつけて口から副流煙を吐き出していた。彼女は今、明らかな苛立ちと怒りをこちらへと向けている。そして私が校舎裏で出会った時よりも、タバコを吸いきるのが早い。恐らく私が指揮することに対して、彼女にはよっぽどなストレスがかかっているのだろう。
やはり。先ほどから懸念していた通り、端から
本音を言ってしまえば、
これまでの経験上、こちらがどんなに引き止めたとしても全員生還の活路を導き出そうとしても、中には助けられない
私が神村を見限れば、彼女が間違いなくこの洋館で命を落とすことになるのは分かっていた。私は彼女が嫌いだ。それと同時に私の恋路を阻む邪魔者とすら感じていることもある。だから私が彼女を排斥すれば、どんなことになるか想像に難くはない。
……しかし、それでも彼女を見放して見殺しにすることはできなかった。彼女の訃報を聴けば……鹿之助くんはきっと悲しむのだ。私は彼のそんな顔は見たくはない。彼を曇らせることは、それはそれで “おいしい” のだが……そんなことで曇らせたくない私も居た。……それに……本ッ当に悔しいが……鹿之助くんには
だからこそ、私が彼女を無事に洋館から逃がすためにも掛けるべき次の言葉は——
「では、消火器の妖精ちゃんは僕達を指揮する隊長の役割を担うわけだが、僕も
「!?」
「……ああ?」
「そして、僕は君に指揮と指示——いや君みたいなタイプは助言がいいのかな? 助言をするから、君はその助言をもとに好きに動けばいい。それならば異論はないだろう?」
「……」
「それとも君は、消火器の妖精ちゃんが隊長として自分の指揮してくることは嫌だが、3年生であり五車風紀隊の隊長も務めて
「?!」
脚の違和感のせいか、普段より回らない頭を無理矢理にでも動かし、しかめっ面をしながら神村をうまく動かせる方法が無いか知恵を振り絞る。
神村をここからどのようにして洋館から脱出させるか考え込んでいると、ピシャリとなお先輩が輪を乱す神村を言い切った。彼の言葉に、考え込んでいたのを中断して目を丸くする形で彼の顔を見る。その顔は一切、見捨てる発言をしたことに関して悪びれていないような冷酷な顔のようにも見えた。
待て待て待て待て待て待て! 待って!
その流れは私が困るのだ! 今、神村を見捨てるのは私が困るのだ! 彼女は見捨てられない……!!! だからと言って、反目する彼女を護るために立ち回った結果、私を慕って
しかし、そんな言い方をして彼女が癇癪を起して、勝手な単独行動を取られたら囮としては非常に有用だが『神村 舞華』の生還は成し得ない!
私が比較的に波の立たない仲裁するための言葉を選んでいる間にも、なお先輩の口は止まることを知らない。
「もしそうなれば、間違いなく君はこの洋館で骸を晒すことになるだろうけどね。君には眞田 焔という慕う先輩がいるようだけど、君が死んだとして彼女は君の事をどう思うかな?」
「……姐御は関係ねえだろ」
「いいや。関係あるね。——君に『姐御』と慕われ、自信家で無鉄砲な彼女のことだ。ひょっとすると、洋館に囚われたままの君を助けるためにここへ乗り込むかもしれない。それこそ、僕が知りうる彼女の性格を考えるなら、消火器の妖精ちゃんのように周囲に自分の居場所を知らせることもなく “単身で” だ。君が僕の指揮や助言に従わなかったばかりに。君は、“君のみならず” 慕う先輩を殺してしまう事に関して何の気持ちも湧かないのかい?」
非常にこちらの肝を潰されるような会話のやり取りだが、ここでハッと彼に気づかされる。
今、なお先輩が話している内容は『神村 舞華を見捨てる』という宣告ではない。
これは私には知り得ない情報。なお先輩は、五車学園に長いこと在籍しているがゆえに知っている情報。
私が事前に洋館探索をすることを制止して回っていたころ、捜し求めていた相手である神村 舞華が姐御として慕っている人物とは、あの生徒指導で槍を派手に振り回していた眞田 焔先輩だったか。
なお先輩は一見、見捨てるような口調で話しているが……正確には彼女が慕う眞田先輩にも影響が及ぶことを絡めて最悪の事態を説明している。これは彼女が眞田先輩を慕っているのであれば、彼女としても猶更避けたい事態のはず。そこに付け込んだ一種の〈威圧〉に近い〈言いくるめ〉だった。
それにしても『眞田 焔』と『神村 舞華』……。改めて考えると似通っている属性は多い。オラオラ系のヤンキー属性に、槍の石突部位から噴き出た爆炎と爆炎系ロケットランチャー。周囲の事など何も配慮しない遠慮のない攻撃方法……。あの姐御にして、この舎弟あり。そんな言葉がぴったりの関係性だ。
「チッ! わーったよ! ……穂稀先輩の指揮だっつーなら、聞いてやる」
彼女はまるで嫌々ながらも最善策の妥協案として、なお先輩の案を受け入れてくれた。それから私とは顔もあまり合わせたくはないのか、私から視線を外すようにロケットランチャーを肩に担ぎ直して出入り口の見張りを始める。
一時はどうなるかとひやひやしたものだが、話がうまく纏まったことに関して私としては溜息を吐きながら片目を瞑って後頭部を掻いた。
そんな私に対して、なお先輩はゆっくりと近づいて肩に手を置いてくる。こちらの心情を察してもいるのだろう。その顔、目には同情の色も浮かんでいた。
「話は纏まった。さて、これからどうするつもりだい?」
「そうですね。……数秒だけ考える時間を下さい。それから隊長間の相談を挟むのと、今後の方針について順を追って説明をしていきます」
「了解したよ。……——ところで消火器の妖精ちゃん」
「はい。なんでしょうか?」
「君は先ほどまで、君に反発する神村さんまで救おうと色々策を練っては居なかったかい?」
「! ……ははは……どうでしょうね……」
「隠さなくたっていい。彼女と君の反応を見る分に、そりが合わないことも分かっているつもりだ。でも君は、僕が2人でこの部隊の指揮を取ると言い出すまで眉間にかなりの皺を寄せて、彼女を助けるために必死に悩んでいるのは分かったよ。……君は彼女を見捨てずに策を練ろうとするあたり有情だな。速水さんはともかくとして……日ノ出さんが洋館の道中や今この状況で君の事を推してくる理由も分かった気がするね」
彼の言葉に、こちらは少し照れるのを誤魔化すかのような口をすぼめ苦虫をかみつぶしたかのような顔をする。
……別にそんな褒められるようなことはない。救えないときは見捨てる。駒に使う。それが
それに、無事に五車学園に帰ったら帰ったで、心寧ちゃんにスマホで取った映像を私に送ってもらって神村を社会的にぶっ殺す予定ではある。ついでに鹿之助くんにも初期段階の幻滅してもらう。そちらの方がもっと面白くなる。そんな裏事情も孕んでいたのだから。
~あとがき~
次回以降の投稿時刻ですが、いろいろな編集時間なども考慮して、20時37分か、これまでの24時間1時間ずつズラして投稿する方法を逆時計回りに投稿していきたいと思っています!
もしかすると、ここ等辺はのちのちに変更があるかもしれませんがその時は、気長に待って頂けると幸いです。
Ps:深夜2時37分に投稿すると、体幹2日投稿みたいで辛いのです!!!
~評価返信~
『あさみ。。様』
■ 表現方法にしても文字揺れがやや多い。
◇ 携帯版の方の見栄えが悪すぎるので、小説の執筆方法を公式のものに合わせたのと同時にリメイクしたらしいですよ。でも評価4で手心を加えて下さっているのが分かります。優しい手心ありがとうございます。
(追記:リメイクすっぞオラァ!!! 呼びに行くから待っててやァッ!?)
『たちくらみあるふぁ様』
■ 非常に面白かったです!
◇ ありがとうございます。今後も面白い物語を展開、公開できるように執筆を続けていきたいと思っています!よろしくお願いします!