対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
「さて、さっそく隊長同士の作戦会議と行きたいところだが……まず初めに君へ謝らせてはくれないだろうか? 洋館に入ることを必死に引き止めてくれた……というのにも関わらず、君の警告を無視し……。五車風紀隊の隊長という身分にありながら、このような場所に率先して入ってしまい申し訳なく思っている。すまなかった」
私の頭の中で戦略が纏まったあたりで、『よし。話そう』としたときに今度はなお先輩が頭を深く下げてくる。
何事かとこちら側が驚いていると彼は目を伏せながら、当時。あの時何があったのか事情を話してきた。
「実はだな……僕達も消火器の妖精ちゃんと同じように、五車風紀隊のメンバーとして。雨降洋館に侵入しようとする1年生3人……日ノ出さんから聞いていた話なら、君を含めて4人か。君達4人を止める予定で、この洋館には赴いていた筈だったんだ。それまではあくまでも、洋館調査隊に参加する体で加入してね。他にも誰が洋館内部に侵入するのか把握したいこともあって、あの場に赴いたんだが……」チラリ
「……」コクリ
なお先輩が、コロ先輩とアイコンタクトを取る。コロ先輩はというと……何も言いはしないが、その顔は真剣でなお先輩の言葉に心から同意しているように見えた。
「洋館の前に辿り着いて、神村さんが森の中で潜んでいた君を打ち落とし、速水さんが君の制作した資料を見せるために僕達を呼んだ時だったかな……? ……自分でもどうしてあんなことを言ってしまったのか……。自分の行動に対して、いまだに理解が及ばないんだが、勝手に……いやでもあれは自分の意思……? とにかく、気が付いたら洋館の中に入ってしまっていたんだ。あとは説明した通りさ。事態に気が付いてしらみつぶしの戦法として、まずは僕たち以外にも2階で洋館探検している1年生たちが居ないかどうか調査して、1階に降りたところで日ノ出さんと合流、その後に君達と……という流れでね」
彼の言葉に、こちらとしては顔を怪訝な顔をして首をかしげる。
つまり、その、なんだ。彼の話を纏めれば、彼等は初期段階では私と似たような立場で動いていて、元々から入る予定がなかった。でも、どういうわけか……自分自身でも理解できないままに入って、気が付けば洋館の中に居たという事か?
私は、軽い握りこぶしを作った左手を自身の口元へ持ってくる。
そういえば、神村も似たようなことを言っていたような……。あれは陽葵ちゃんだったか。入った直前は物静かだったのに、ある部屋からスイッチが入り出したように喋り出して、それまでの記憶が曖昧なような言葉を口走っていたと……。
それについさっき私もなお先輩に対して激情を……——
「…………」
「あの。えっと、日葵ちゃん……。実は私も……なお先輩と同じことがあって……。日葵ちゃんは必死に洋館に入ることを心寧ちゃんと一緒に止めてくれていたのに。でも、なぜだか分からないけど『洋館の中に魅力的なものがある』って、こう……うまく表現はできないんだけど、誰かに誘われた感じがあって……。気が付いたら——ごめんね。言い訳だよね。日葵ちゃん、それに心寧ちゃんも……私達の事、必死に止めてくれたのに……本当にごめん」
考え込む私に対して、陽葵ちゃんも声をかけてきた。ここでふと彼女を見る。彼女もなお先輩と話している内容が聞こえていたのか、こちらを見つめており視線が合うと自分の行動に理解ができておらず気分の悪そうな、不安そうな顔で当時の状況を話してくれた。
……2人の証言を〈クトゥルフ神話〉技能に照らし合わせて考えてみる。通路が伸びる現象については、何の検討も付かない状況ではあったが、その結果や犠牲者の手記の内容だけで今回の事件が魔族によるものと判断を下してしまうのは早計だろう。
現に手記の中では、その魔族達も何者かの襲撃を受けていた。それがクトゥルフ神話的事象だったのか、それとも以前鹿之助くんが私に教えてくれた高位魔族によるものだったのかで対応はかなり異なってくる。
ひとまず謝る2人と、こちらを見つめてくる心寧ちゃんとコロ先輩に対して『大丈夫。分かっているから。怒ってないよ。でも今は、少しだけ考え事をさせて』と少し微笑みながらジェスチャーを送る。それから軽い握りこぶしを作っていた左手で、頭をコンコンと叩きながら目を瞑り前世での記憶を甦らせる。
………
……
…
…
……
………
「——まさか」
ここでふと一つの呪文を思い出した。
この呪文は私の祖先を名乗る親戚が愛用していた呪文であり、彼女の実家、元日元旦の親戚一同の集まりの際に
そして、『雨降洋館の壁田 鋼人』について調査した際の『藩主の武士を口先一つで同士討ちにさせた』という情報。
私がなお先輩に抱いてしまった破壊的衝動。
2人から聞かされた、洋館へ入る直前にあれだけの会話がありながらも『気が付いたら』洋館内に居たという情報。
あの日、親戚の先祖の家で起きた出来事……。
——祖先が唱えていたあの呪文の名称。あの呪文の名称は——
——確か……《
……断定的なことは言えないが、それでも犠牲者の意に反して何者かの思惑通りに行動させることのできる魔術と言えばこの呪文が妥当だろう。私の知る限りでは、この呪文を掛ける際には、犠牲者が術者の最長10m以内に存在していなければならないという制約があるのだが……。あの場に居なかったという保証はどこにもないが、もしやこの呪文は肉眼で捉えていなくとも発動が可能なものなのか?
他の可能性も鑑みるが……
ここで追加の問題を上げるとするならば、術者は誰なのか?という事だ。ドレスを纏った首のない貴婦人か? それとももっと別のクトゥルフ神話的存在なのか。
ひとまずはクトゥルフ神話的存在が一枚噛んでいる……と見ておくべきだろう。玄関付近でのやり取りを見ていた何者かの仕業だと考えることは間違いはない。
これが例え対魔忍世界側の高位魔族による魔法の一種だと仮定した場合でも、呪文の効果が消えるタイミングや、神村が大きな物音を出すまでの間。侵入者が何者からも襲撃を受けなかった疑問点などが上げられる。ここから考えられる推測として、術者が《魔術師の支配》を用いていた場合。その人物は対象2人……あるいはあの場に居た全員に《魔術師の支配》を掛けた結果、MP切れ……あるいは目的を達成したことが予測できる。
こんな死地同然の洋館に獲物を侵入させるような存在だ。きっと正気ではあるまい。この対魔忍世界線で協力関係を築けそうな
呪文の持続効果に関しても、さほど長時間のあいだの拘束をされなかったことから、術者の区切りとしては洋館内におびき寄せるのが目的だったのだろう。あとは神村自身の身に起こったように、精神的な揺さぶりを仕掛けて冷静な判断を鈍らせる目的とか。私が抱いた激情は仲間割れを促す行為だったとか。
何がともあれ私が介入している以上、これ以上は友達や先輩を術者の思い通りにはさせない。
~評価返信~
『さちまと様』
■ 一日で全話読んでしまいました。 続きが楽しみなので10です。
◇ 一気読みありがとうございます! 評価に応援までして頂いて、気力も沸き上がっていますので今必死に続きを執筆しております。
ご期待を裏切らないように頑張ります!
『鷹王様』
■ 何とも言えない面白さがありました
◇ 表現の出来ない面白さがある。それだけでも言葉として伝えて下さっただけでも、作者としては嬉しい限りです! ありがとうございます!
『火猫様』
■ 対魔忍、クトゥルフのどちらも未履修な者ですが、楽しませていただいています。そのうち原作も読んでみようと思います。
◇ どちらもご存じないのに楽しんで読んで頂けているという事は、本作が単品でも楽しめるものであるという事ですね! わーい!わーい!ありがとうございます!(*´∀`*)
本作の原作は『対魔忍RPG』、『クトゥルフ神話TRPG』および『新クトゥルフ神TRPG』となっております! クトゥルフ神話に関しましては『クトゥルフ神話』と『(新)クトゥルフ神話“TRPG”』では雰囲気が異なるので『クトゥルフ神話』の方をお読みになられるとオリ主の思考に戸惑いが生じるかもしれません!
『対魔忍RPG』は現在も基本プレイ無料ゲームとしてパソコン(chrome)、スマホはandroidで楽しめますよ!