対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
幸いにも私達の移動速度は落ちてはいない。私の左足が砕けて激痛は走ったままだが、神村から心配されたときに啖呵を切った時と変わらない移動速度で……歩む速度だけは落とさずに進むことができている。
あれから鍵はまだ見つかっていない。クレジットカード大のカードキー状の鍵なのだが、それらしいものが見つかったと思えば……
しかも、それがベッドの下やマットレスと枕の間、グズグズに崩れた本の隙間から〈目星〉をつけて発見する必要がある分、こちらは希望を見せつけられながらも嘲笑われているかのような……希望は見えているのに手が届かないようなもどかしさを煽られる。その脱出のためのカードキーを燃やした輩は、相当性格の悪いクソ野郎だと容易に想像がつく。
しかしそんな状態であろうとも、ポジティブに振る舞ってくれている陽葵ちゃんは『殆どが半分以上、燃え尽きちゃっているけどもしかしたらどれかはまだ使えるだけの鍵になるかもしれないから、見つけたカードキーは全部 持っていくね! 大丈夫! 大丈夫! こう見えて、私すっごい力持ちだから!』と明るく、これまでに見つけたカードキーの残骸を全てジャケットのポケットやモノキニの隙間……時には胸の谷間に埋め込んで所持してくれている。
しかし……やはり、あの御守りの中身のように原形を留めて居なければ意味はないのだろう。
未だに私達はループから抜け出せていない。
………
……
…
誰も何も喋らずに歩き続けている。
でも、心なしか
周囲から聞こえるのは、外が土砂振りのような雨音のみ。視界で得られる情報も代わり映えしない景色で、進行方向には先が見えなくなるほどにズラーっと左右の壁に規則正しく並んだ閉じられた扉。後退方向には進行方向となんら一切変わりのない扉の景色が、こちらも先が見えなくなるほどに並べられている。そんな扉だが、心寧ちゃんは一見しただけでは分からないような位置に炭で印をつけてくれていた。
室内も代わり映えがなく、大体同じような作り。……ここを拠点として用いていた魔族の寝具と作業台、作業着用のクローゼット……適度な感覚で娯楽室がある程度だった。各部屋の相違点と言えば、争いがあったかのように辺りに飛び散る血痕模様が不規則なことぐらいで、この血痕の模様が異なることや落ちているゴミや廃薬莢の位置、そして心寧ちゃんが印をつけていないことが、私達は『この部屋に初めて訪れている』という実感を与えていた。
「妖精ちゃん。少しここら辺で休まないか?」
「……」
同じ景色、同じ雑音、同じ部屋の造りで精神にガタが来ている私になお先輩から声が掛かる。
ロボットのように心を殺して周囲・前方向の警戒・奇襲に対応するため進行方向の扉を開ける私はまるで、彼が次の攻撃目標であるかのように振り向いてしまう。
その声の大きさはきっと彼が考えているよりは抑えているのだろうが、外部から雨音しかしないこの廊下ではやけに大きく、響いて聞こえた。
「おっと……声が大きかったかな?」
「……いえ、そんなことはありませんよ。流石、
私が声に反応し、振り返るのと同時になお先輩は自身の口を抑えるような素振りをした。なお先輩の前を歩いている陽葵ちゃんが私の顔を見てびっくりしたことから、きっと余程恐ろしい神経質そうな顔をしてしまったのだろう。
私の顔のこわばりがほぐれるよう両手で自身の両ほっぺたを挟んで回し揉み、笑ってみせる。
………
……
…
この部屋でも、休憩の前に一通りの探索は済ませたが鍵はなかった。
窓から見える僅かな空は、どんよりと鉛色の雲があって空からは霧がかったかのような雨が絶え間なく降り注いでいる。窓の外はすぐ森があり、先ほど入った部屋と変わってないのではないかと錯覚するほど、こちらも変哲のない景色だった。
陽葵ちゃんはこの部屋の調査を済ませる前。真っ先に私の元へ椅子を引きずって持って来てくれたが、自分でも座ったら最後……立ち上がることができなくなってしまうような……そんな気がして、やんわりとした言葉で左足の痛みは立っていた方が楽だと伝え壁に寄りかかる。
「ねーえー? 心寧ちゃんはどのカードキーなら機能しそうだと思うー?」
「そうですね……やはり最低でも半分以上は残ったものでないと、鍵としては機能しないのではないでしょうか?」
「だよねー! そう考えると、拾ってきたカードキーで機能しそうなものは——」
この休憩時間中。陽葵ちゃんと心寧ちゃんはこれまでに集めたカードキーの残骸を取り出して、どのカードキーが脱出のカギとしてまだ機能しそうか相談し合っている。あの2人の周りだけ穏やかで日常を連想させるような空気がただよい、彼女達を外へ逃がそうという気持ちと、こちらを励ます暖かい気持ちにしてくれる。
コロ先輩はドレスを纏った首のない貴婦人の犠牲になった魔族達を追悼しているのか、壁に付着した血液に手を当てて俯いていた。人魂は彼女の周りをまだぐるぐると回っており、その様子は成仏しきれていない魔族か他の犠牲者が自分達も外へ連れ出してもらおうと必死にアピールしているようにも見える。その頃、なお先輩は持ってきたライフルの整備をしているようだった。
それにしてもなお先輩のライフルだが、その造形は私の前世で『FN F2000』と呼ばれていた銃の形と似通っていた。私の知っている『FN F2000』と異なる部分と言えば、本体を横長に引き延ばして、それに本体を覆うような装甲とSF要素とサイバーパンク要素を追加しているような見た目をしていることだろう。また彼のお気に入りのカラーでもあるのか、銃もまたプラグスーツと同じ赤、黒、白の3カラー要素で彩られていた。
「……」
「!」
「ん……」
「……♪」
私がまじまじとその銃を見ていると、彼もその視線に気が付いたのかこちらに視線を返してくる。だからと言ってどうという事ではないのだが……そのまま視線を気にすることもなく『良い銃ですね』と顎と指先でサインを送ると、にっこりと笑って私がその銃を眺めやすいような立ち位置で整備をし始めてくれた。
私はここでふと腕時計を見る。体感ではかれこれ2~3時間は調査したつもりで居たが、時計の針はどういうわけか20分程度しか進んでいない。スマホも同じだ。泥が染み込んだことが災いしてかその機能を完全に停止させてしまって分からないが表示されている時刻は先ほどからそこまで進んでいないような気がした。
一瞬『時間軸までもが歪んでいる』などという可能性も脳裏に過ぎる。だが、ここで日常オーラを放っている1年生2人組を含めた彼・彼女達の士気を落とすわけにもいかなかった。モチベーションは大事だ。それがなければ人間は今の作業を続けることを止めてしまう。だから、そっと何事もなかったかのように懐へスマホをしまった。
「おい、なにコソコソとしてやがんだ?」
「——ッ!」
なお先輩とは反対側からの不意を突いたドスの効いた声掛けに加え、患側の脚に痛み。
重心を掛けている健在の足がビクンッと跳ねてしまう。おかげで私はバランスを崩し、患足側から倒れ込みかけてしまった。
「チッ! ボーッとしてんじゃねえよ!」
「ぐぇっ!」
まるで随分の食堂での出来事をそのまま仕返しされるような形ではあったが、間一髪。不自然な姿勢のまま更なる負傷を重ねそうになる前に持ち直すことができた。
「ゲホゲホッ!」
「ちったあ首を絞められる側の気持ちも分かったって顔してやがるな。——大丈夫だ。ちょっとした世間話だよ。別に揉め事じゃねえ。今のはデスメタル花子のヤツが転びそうになったから、俺が襟首を掴んで支えてやっただけだ。今は休憩時間なんだろ? なんだよ。俺達を指揮する
首が締まってむせる私に、他の4人が異変に気づき近寄って来ようとするが神村が先に周囲を〈威圧〉する。それでも4人はお互いに仲の良い相手同士と顔を見合わせたあと、心配そうな顔をして近づこうとしてきた。でも私としてもここで、揉め事を引き起こすつもりは毛頭なかったため『大丈夫だ』と仕草を彼女達に送る。
しかし最終的には、なお先輩がいつでもこちらの喧嘩を止められるような位置で待機をはじめ、陽葵ちゃんは広げていた鍵の残骸をそそくさとベッドの片隅に片付けると心配そうな顔でこちらを眺め始めていた。
「ゴホッ……倒れ込むことを支えて下さったのは感謝します。それで、話とは? ……手短に済ませましょう」
「そんな邪険にすんじゃねーよ。ちょっとした世間話だよ。世間話」
「はぁ……」
「……タバコは吸うか?」
「……結構です。未成年の身体で喫煙を行うと、がんや虚血性心疾患、ニコチンへの依存度が高くなる傾向があるので」
「ケッ。やっぱてめえは優等生ちゃんだな。噂に基づいた行動は“やべえ”のに、こういうことは遠慮しやがる」
「ええ。健康は何物にも代えがたいものですからね。神村さんもいつから喫煙しているのか存じ上げませんが、将来の事を考えるのなら辞めておくことを推奨します。厚生労働省が掲載しているWebページ『Q.未成年者の喫煙について』を閲覧したことはありますか? 今の時代では魔界医療があるため、そのような疾病などいとも簡単に治せるのかもしれませんが……百害あって一利なし。恰好がついて苛立ちは抑えられるかもしれませんが……鎮痛剤にはならないある種の薬物ですよ?」
「ああ゙?」
彼女との会話で空気がピリピリとし始める。
これは私がアドレナリンを分泌するために彼女にわざと敵意を向けているのか、それとも様々な彼女のことを嫌いになる要素が累積しすぎた結果なのか……。ともかく身長の関係上、こちらを見下ろし睨みつける彼女を、下から不快そうな顔をして上目遣いで見つめ返す。
でも会話を振り返れば……私の方が悪かったかな。発言に余計な一言があまりにも多かったような気がする。
「——すみません。話題を変えましょう」
「——……そうだな。で、日ノ出に砕かれた、左足の調子はどうなんだ? 俺の見立てじゃ芳しくないようだが」
彼女の言葉で陽葵ちゃんが、勢いよく立ち上がりベッド上に並べられていた鍵の残骸がバラバラと地面に何枚かが零れ落ちる。
大した物音ではないが、過敏になっている私の注意を引くには十分な物音だった。彼女は今まで見せていた明るく振る舞う様子が、取り繕っていた仮面が剥がれてしまったかのように涙目になってわなわなと震え始めてしまう。すぐに心寧ちゃんが、陽葵ちゃんの肩を持ってフォローに入るが……彼女の顔は晴れるどころか、今にも罪悪感で潰れてしまいそうな……そんな顔だ。
ダメだ! 今、ムードメーカーの要ともなっている彼女が沈んでしまったら、次第にチームの士気はガタ落ちしてしまうに違いない。ここは私も励まさなければ——
「神村さん、言葉を選んでから発言してください。——そんな顔しなくても大丈夫ですよ。陽葵ちゃん。事前に私が用意していた薬のおかげで、へっちゃらです。こんな傷なんともないですから。泥まみれの姿で徘徊していた私が悪いんです。だから、気にしないで。陽葵ちゃんは悪くないですよ。でも、ちょっと体調悪そうに見えるなら……今日という日のために夜更かしと早起きをしたこともあって……少し、眠いですかね? ふぁーあ……」
なんともないような顔をしてヘラヘラと笑ってみせる。痛いけど。笑う。それから、辛そうに見えるのは睡魔と戦っているせいだと言いたげに大きなあくびをして見せた。
……うん、よし。少しだけ落ち着いたな。
今、彼女は心寧ちゃんと一緒に床へ落としてしまったカードキーの残骸をせっせと拾い上げている。でも、拾い上げているその様子も何処か上の空で、私の事が気になるのか耳だけはこちらに向けて会話の内容を探っているようにも見えた。
~あとがき~
どっちの足を粉砕されたのか記載していなかった件について。
それはそれとして、3日投稿。辛い。つらくない?
勤務によってはまったく書けないんだが?
1年前の私はどうやって小説を書いていたのでしょう……?
~評価返信~
新しい評価とコメント! 再掲載! 返信させていただきます!
『ケンジントン様』
■ 自分も他の方が感想で書いているSS紹介サイトで知りましたので、おそらく其処かな<お気に入り登録数が増えた理由。CoC(というかTRPG全般)について詳しくないですけど読んでて楽しいです。対魔忍シナリオなんてものまであるのかあ。
日葵の無茶苦茶っぷりが面白い、鹿之助を脳内でえっちえっち連呼しながら煩悩全開なところをニヨニヨしながら読んでました。あと見た目陰キャが散々暴れた後で投げキッスで煽ってくるところ、こんなのされたら盛大にわからせようとブチギレること間違いなし。エドウィン・ブラックにもかましてほしい。
◇ やはり『チラシの裏の読書感想文@ネット小説紹介様』のところですかね? 状況は把握できました! ありがとうございます。
テロリストと蛇子ちゃんは2者ともブチ切れさせております!テロリストは分からせようとしましたが報復に失敗して壊滅させられているので、次は蛇子ちゃんの番ですね! エドウィン・ブラックに対しても頑張りますが、彼の威厳と強さを落とさないように配慮しながら執筆したいと思っております!
本小説を読んで楽しんで頂けているようであれば、作者としては何よりです! 今後とも楽しい物語展開できるように執筆を続けていきますので、どうぞよろしくお願いいたします!
『plunderer様』
■ 異界の邪神はやくきてーはやくきてー(堕とし子並感
◇ 既に彼等は侵食しつつあるので、いずれは登場するやもしれません。
邪神を招来が待ち遠しいときは、本小説を読んで登場をお待ちください! いつになるかは分かりませんが、クロスオーバー作品なので出ると思います! さぁ! レッツ、いあいあ!