対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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~まえがき~
 記念すべき70話目に到達しました!
 70話目のタイトルが特殊な演出なもので、作者の心はぴょんぴょんしています。
 また閲覧者数150,000回ありがとうございます! 作者は既に3日投稿に限界を感じておりますが、頑張って執筆と投稿を続けていきます!




Episode58 『神村 舞華』

 神村は、陽葵ちゃんから視線を逸らして小声で『……悪りい』と呟いている。

 きっと彼女も今の軽い発言で、陽葵ちゃんがあんなふうに取り乱すとは思ってなかったのだろう。タバコの煙を激しく肺へと取り込んでは噎せ込み始めた。

 

「………………」

「ゴホッゴホッ……! ……お、おい、そんな目でこっちを見んなよ。……本当に悪かったって……」

「………………」

「ああ、日ノ出。悪かった。すまねえ」

「う、うん……でも日葵ちゃ——」

「大丈夫ですよ」

「……うん」

「……」

「……」

「……だがよ。俺がこんな話題を振ったのは、別にてめえの友達である日ノ出に意地悪したかったわけじゃねえ。なぁ? ……自分でも分かってんだろ? 我慢して無茶な行動してるってよ。少なくとも、他の4人の目は誤魔化せても俺の目だけはごまかせねえぞ」

「…………」

 

 しばらくの沈黙のあと。それでも彼女は言いたいことがあるのか、陽葵ちゃんには聞こえないような声の大きさでこちらの容態についてつついてくる。確かに神村の言葉は的を射ていた。

 本当は足はズキズキとして——今は眠気なんかが吹き飛ぶぐらいにズッキンズッキンと痛んでいる。早く休憩を切り上げて、歩き出したい。別に新たな痛みを自ら加えることに喜ぶ『マゾヒスト』というわけではないが、痛みを新たな痛みで麻痺させたいほどには現在の状況を煩わしく思っている。

 ——それでも私は説明書上では歩く事、走ることは理論上可能なのだ。あとは実践するだけ。実践するだけ。なのだ。

 だから必要以上に心配させたくなくて、陽葵ちゃんにも罪悪感も抱かせたくなくて……。先ほどは何とも無いような顔でにっこりと笑って、眠そうな顔して問題が無いように振る舞っていた。だって、陽葵ちゃんは悪くない、わるくないもん……私が泥まみれで徘徊していたから——

 

「てめえが太ももに射ち込んでいた薬も、ありゃホンモノじゃねえんだろ? てめえの薬箱にはてめえで使用した薬瓶以外にも、きちっとラベルの張られた小瓶があった。日ノ出(ヤツ)を気遣って自分の身体に鞭を入れて動くのはてめえの勝手だ。だがな? 俺もなお先輩に似たようなことを言われたが、我慢しすぎて後遺症が残った場合の日ノ出(ヤツ)の事を考えたことはあんのか?」

「…………」

 

 胸倉を掴まれ引き寄せられる。でも、その手はすぐに離されて——

 少し彼女らしくもない他人を気遣うような言葉に、思わず向けていた不快そうな視線を取りやめ顔を上げて直接神村を見つめた。彼女もまたこちらを睨みつけることはやめ、いたって真面目な顔でこちらを見つめ返している。

 しかし、今の一言で都合の悪いことに自身に掛けていた自己催眠が溶けてしまったような感覚もあった。折れた足が更に金づちで骨折部位を殴られているようにズキンズキンと再び痛み始める。それも先ほどよりも強く鋭く。これまでに負傷してきた身体の至る所が、これ以上の無理は止めろと反乱を起こすように痛み始める。奥歯がガチガチする。無理やり歩いたことで肉のみで繋がっている部位の骨が、近辺の血管や筋肉をズタズタに引き裂いてしまったかのような痛みが響き始める。

 隠そうとはするが……駄目だ。顔が歪み始めてしまう。視線が左右の足元に移ってしまう。俯き、目を瞑り、隠す。コントロールだ。コントロール。痛くねぇ。こんな怪我、今の私なら1週間ぐらいで完治できる。私はモルヒネを打った。打ったんだ。まだ効果が来てないだけ。プラシーボ効果じゃない。わたしは誰がなんと言おうと打ったんだ。

 ぐっ……うまく考えが纏まらなくなる。まずい。でも返事を返さなきゃ。何か、返さなきゃ……。誤魔化しだって思われないように、神村(やつ)の目をみて、なにか……——

 

「……っ……では、どうしろと? 私も最初こそ歩けなくなったら、捨て置けと言おうと思っていましたが……そんなことを話そうものなら、きっと陽葵ちゃんは私の事を背負ってでも連れて行こうとしたと思いますよ。そ、そんなことになれば必然的に鍵を探す移動速度も遅れます。襲撃があれば対応できる人数だって限られてきます。であれば、多少の障害が残ろうとも私が歩いた方がいいでしょう? 私が……わたしがいけないんです。あの時、泥を落としていれば……あの時、よそ見なんかしなければ……あのときわたしが、〈回避〉ロールができる状況にしておけば……わたしが、がまんすれば済むはなしなんですから」

 

 ——そう。私の身体は、説明書にあるように“キーパー”という存在が障害さえ認めなければ、どんなに酷使しようが、砕けて映画に登場する普通の人間では何もできない状態であろうが、あまつさえ四肢を失うハメになったとしても。死さえ迎えない限り肉体的に壊れることはないのだ。これは持論ではない。私の説明書である『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』61頁 肉体的な損傷(負傷) 4段落目に明記されていること。月棲獣によって証明されたこと。だから彼女が心配しているような後遺症が残るなんてこと決して起こりえない。

 つまりこの痛みも『人生』という長い視点で見れば、この洋館にいる一瞬のことにしか過ぎない。あの月棲獣共に拘束されて、いつ終わるかも分からない数日、数週間にわたる拷問に比べたら、ほんの短い僅かな期間。終わりのある痛みなのだと言い聞かせて堪える。

 もちろん、青空(あおぞら) 日葵(ひまり)には頭の上がらない悪いことをしているってことも自覚している。もし彼女が無事で身体を返却することになった時、万が一の可能性として足に障害を患ったキズモノ(・・・・)にするのは私だって心が痛い。その万が一が起きずとも、私の心臓付近を貫いた刺突による傷跡は残っているのだから、足の表面にも何か痕跡が残るかもしれない。でも、私は今も無事かどうか定かではない青空(あおぞら) 日葵(ひまり)の……彼女の身体を大切にするよりも、目前の助けられる可能性のある5人を優先したいのだ。

 まるでトロッコ問題のようだが、わたし、釘貫(くぎぬき) 神葬(しんそう)はそうする。そうさせてもらう。

 

「……てめえの悪いところが分かったぜ。お前。1人で何とかしようとするタイプだろ」

「————」

 

 それは違う……。

 でも、何も言い返せない。痛みのせいではない。これは神村 舞華(彼女)に事情を説明できるほど転生者の説明は、単純な内容ではないのだ。

 

「……ッ!」

 

 彼女の言葉に、かつてピンチの時、自分の憧れていたヒーローになれなかった鹿之助くんへかけた言葉がフラッシュバックする。

 

——“1人1人に足りないところがあっても、みんなで補い合えればよい” のですからね。

 

 やめろ。そんなことは分かっている。十分に承知している。

 だが、今はそんな周囲の協力を得られるような状況ではない。自分でも分かっているだろう?

 この場には五車学園の生徒(未成年の一般人)は居ても他の探索者(成人の仲間)は居ない。私、1人だけなのだ。だから私1人でなんとかしなければならない。なんとかしなければならない状況なのだ。たかが足の骨が折れた程度で弱音を吐いている場合ではないのだ。頑張らなきゃ。わたしが(釘貫 神葬が)頑張らなきゃ……。

 誰が他に頑張るというのだ……?

 

「……えぇ。……今は……他の探索者(他の大人たち)が居ないですからね。わたしが……私が……高校生の皆さんに甘えるわけにもいきませんし」

 

 両目を瞑って、うつむき後頭部を掻く。

 

「はあ? 俺達が頼りねえって言いてえのか? それに、てめえも高校生だろうが。なに大人ぶったことをほざいてやがる。ふざけてんじゃねえ」

「あぁ——そうですね……今は……いま、は……そう、でした……そうでした……ですが——」

「ああ、じれってえなぁ! ですがもクソがもあるか! 俺は面と向かってこういうこと言うキャラじゃねえし、こっちがよそ見している間にいきなり首を絞めてきたり、不意打ちで人の頚椎をぶん殴って来ようとするてめえが死ぬほど気に食わねえ!!! だがな! 危険を顧みず他人を助けに来ときながら、真っ先に弱って脱落しそうなヤツを黙ってみてることなんかできねえし、それを見捨てるほど俺も性根は腐ってねえ! 日ノ出を気遣って無理するぐらいなら、俺が背負ってやるから辛いなら頼って来いって直接言ってやる!!! 俺がてめえに言いたいことはそれだけだよ! この大馬鹿野郎!」

 

 神村(彼女)は不器用ながらにも言いたいことは言えたのか、彼女の方がアドレナリンとドーパミンが激しく分泌しているかのような怒りを散らして去っていく。それから、こちらを凝視していた陽葵ちゃんと心寧ちゃんが座っているベッドの対面側にあるベッドに腰を掛けると拗ねた子供のように胡坐(あぐら)をかいて壁に向き直った。

 それでも彼女なりの気遣いは分かったし、鹿之助くんが彼女を好きかどうかはひとまず置いといて、“憧れ”として尊敬している部分も理解できたような気がする。

 この神村 舞華という人物。こんなヤンキースタイルで周囲を寄せ付けないような怖い雰囲気を放っているが、本当は不器用で根は優しい……皮肉を込めた言い方ではあるが、平成の時代SNSで美化されていたような“昭和時代(昔ながら)の不良”というやつなのかもしれない。

 絵空事、漫画から飛び出してきたような人物だが、元々この世界は私の認識だと凌辱ハードポルノゲームの世界だ。そんな美化された“昭和のヤンキー(昔ながらの不良)”と呼べる本物(・・)が実在したとて、何もおかしくはない。……それに五車町って、ニュータウン(笑)な田舎町だし……性根は曲がってない不良少女なんてありそうな話ではある。

 惚れこそしないし、嫌いという感情が苦手に戻った程度ではあるが、彼女に対する気持ちが少しだけ改まった。

 

「スゥ…………フゥ…………スゥ…………フゥ……——大丈夫。大丈夫だ。まだ歩ける。歩ける。わたしは、ベテランだ。 わた、しは……おと、な、だ……。まだ……たえ、られ……る。こんな、場所で……倒れない……。いざとなったら……ひゃく、21ぺーじの“幸運を消費して意識を保つ”で……意識を——」

 

 ヨロヨロとよろめいたりして他4人に余計な心配させないように、ひとまず壁に手をついて身体を支えながら平常を装って最も近い部屋の角に行く。

 彼女等に私の表情が見えないようにと壁に向かい合うようにして〈瞑想〉に入る。痛みをコントロールするためにも大きな深呼吸と励ましの言葉を小さな声色で繰り返す。

 頭の中で『いっそのこと、あのオフショルダーの喪服を着用した少女の忍者刀で左足の膝から下を切断してしまえば、きっと苦痛が和らぐぞ』と、誰か。誰か? 私が。私か? 私の頭の中の声だから、わたししかいないだろ。わたし。私が語りかけてくるが判断力が低下しているのに違いないと自分に言い聞かせて正気を保つ。嫌に固い固形物と化した唾が喉を通っていく。

 そうか、あのコロ先輩の背中に背負っているのは、剣じゃなくて忍者刀なのか……対魔忍世界にぴったりな武装だ、なぁ。

 陽葵ちゃんが心配そうな顔で見ている。くっ……視界が霞みダブって見える。額に流れる脂汗を拭う。大丈夫だ。限界は引き延ばせる。気を強く保って。笑う。笑え。笑え。笑え。笑え。

 洋館を出たら、五車学園の病院に入院して、魔界医療で治癒する。きっと元通りになる。きっと後遺症もなく元通りになるから。大丈夫だと。自分に言い聞かせる。

 

「——さて、そろそろ行きましょう。長いこと休憩していると蓮魔先生達が到着してしまいます。……逆に考えてみてください。蓮魔先生よりも早く脱出ができれば、おとがめなしですよ。はははっ。最高でしょ? 口裏合わせて、おとがめなし。です。さぁ、もう少しだけ。もう少しだけ頑張りましょう」

 

 自分にも言い聞かせるように5人を鼓舞する。希望も見せる。笑いかける。なんともない。なんともないんだ。大丈夫だ。あともう少しだけ。あともう少しだけ……。

 そして先ほどと同じように何事もないように歩き————歩ける。幻覚だ。痛くない。足が捻れて、肉から骨が飛び出しているようにズボン越しから見えるけど、きっと疲れて幻覚を見ている。休まなきゃ。痛い。痛くない。大丈夫。あ、歩ける。歩く。歩け——

 

 




~あとがき~
 今回の話で『神村 舞華』の良い部分を推す形で描写として描けているといいなぁ……と思いながら執筆しています。
 対魔忍RPGを遊んでいる兄貴姉貴達は、いろいろ『本作の彼女』と『原作の彼女』とで、ギャップを感じていらっしゃることは作者としても承知しておりますが、本作では彼女は原作の『イベント:期末試験と最強の対魔忍』や『操られた爆炎』などでふうま君と出会い、成長する前の彼女だと割り切って頂けますと幸いです。

 あと作中、オリ主が自信を鼓舞するために『大人(おとな)』という文脈を使用していますが、これまでの行動を振り返って、高校生の集団に混じって行った蛮行などを感想欄で掘り起こさないようにお願いします。
 【されると、作者が主に共感性羞恥心によって死にます。

 あの蛮行は、アレです。『ひぐらしのなく頃に~業~』で古手 梨花が聖ルチーア学園で、100年による過程で卓越した精神を持つ大人にも関わらず、他の生徒にマウントを取ってハイソサエティしていたアレと似た状況です。
 あ、あと、オリ主はハプニングに巻き込まれているだけだし!
 テロリスト襲撃事件時(強姦から身を守ろうとしただけ)も、紫先生の基礎能力調査時(殺しに来たのを防いだだけ)も、えっちなお店の蛇子ちゃんの時(スネークレディが逃がせば大丈夫だった)も、鹿之助くん救助時(拉致った奴等が悪い)も、窓ガラスを頭で叩き割った時(カバンで足元が見えなかったんや)も、生徒指導の時(こっちは素手のみやぞ!!!)も……。

 オリ主は、回らない頭で自分を鼓舞する為だけに発言しているので、深く突っ込まないでくれると助かります。

 そしてふと思いました。
 Episode58(70話目)で、小説の時系列はまだ6月上旬ですが……。
(※オリ主の五車学園入学は同年5月初頭)
 在学してから、まだ1カ月しか経ってないのかぁ……(遠い目)
 書き起こすとそれなりに事件簿(イベント)を書いているんですね。
 青空 日葵の母親とバチったことと今回の洋館事件も換算すると8本ぶんぐらいですね。

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