対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode60 『死に対する価値観』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

………

 

「————ゔっ……うぅ゙……?」

「あ……。なお先輩。日葵さんが目を覚ましました」

「速水さん、報告ありがとう。……さて、と。気分はどうかな? 妖精ちゃん」

「あれ……? なお先輩? 私は……えっと……?」

「まだ混乱しているようだが……錯乱はしていないようだね。まず僕の声は聞こえるかな?」

「あ……はい。聞こえますが……? ッァ……!」

 

 ——次に目が覚めた時には、いつの間にか神村に背負われる形で鍵の捜索を再開していた。神村のフワフワフサフサとしたオレンジ色のくせっ髪がこそばゆく、それが目を覚まさせる要因になったようだ。

 しばしばとする目を凝らしながら周りを見ようとすると、鼻頭が痛いことに気が付く。鼻血こそ出ていないが、触れてみると青あざを押したかのような痛みが走る。この痛みはまるで小学生だったころ、正面に鉄棒があることに気づかず全力疾走で顔面をぶつけたときのような……ガンガンとした響く痛みだった。

 

「ったく。余計な手間ばかり増やしやがって! 俺はてめえの悪いところをもう1つ見つけたぞ! “自分が囮になる” だとか、“捨てて行け” だとかよ! 動けなくなった時の自決や自己犠牲の判断が早過ぎなんだよ! もっと他人を頼って妥協策を選択肢に増やしやがれ!」

「妖精ちゃん。君の本気を無に帰したことは謝るが、これは僕も神村さんの意見に賛同するよ。そうは言っても神村さん(君は)、もう少しばかり声を抑えてくれないか?」

「五車町に移住したばかりの新人のクセに、ベテランヅラをした青空 日葵(コイツ)がベラベラと自己犠牲前提の作戦(余計なこと)を立案しやがって、俺を余計にイラ立たせなけりゃ大声は出さなかっただろうよっ!」

「そうだとしてもね、君の大声で洋館の亡霊を引き寄せる可能性があるんだ。だから、部隊(チーム)全員の安全のためにも感情を制御してほしいわけで……」

「……おう、分かったよ。これ以上はしねえ。だがな? 最後にもう1つ愚痴らせてくれたっていいだろうが、穂稀先輩に青空 日葵(隊長さん)

「聞くだけ聞こう」

「隊長つっても、穂稀先輩より青空(あおぞら) 日葵(ひまり)。俺はてめえに言いたいことがある……!」

「……ぁ」

「てめえ! 隊長の癖に『必ず全員で生還しよう』って自分が言いだした作戦のことを忘れてんじゃねえよ! 穂稀先輩との作戦を盗み聞きさせてもらったが、日ノ出(アイツ)とあんなに仲いいのに、見え透いた嘘(テキトーな理由)で日ノ出を“説き伏せられる”(納得させられる)とでも本当に思ってたのか!?」

「…………それは……」

「そうだよ! 日葵ちゃん! 私は絶対に日葵ちゃんを置いて行ったり、捨てたりなんかしないよ! 付き合いは短いけど、日葵ちゃんも心寧ちゃんと同じぐらい大切な友達だもん! 見捨てるわけがない! 見捨てられるわけがない!」

「…………すみません

…………。(まあまあまあ。)……、(でも、)………………。(もうだいじょうぶ。)…………。(あんせいにして)

 

 目覚めて顔を上げたところで、ほぼ耳元から聞こえてきた神村からの怒声で、私の意識は冷や水を顔面にかけたかのように覚醒する。そんな彼女にすぐになお先輩が仲介に入って、彼女の制御に入ってくれたが彼は私のことを残念そうな顔でこちらを注視していた。

 その後も顔の見えない神村に懇々と叱られたところで、陽葵ちゃんが神村の前に踊り出て、ふてくされたように頬を大きく膨らませて唇を尖らせる。

 そんな四方八方からお叱りを受ける私に、やがてコロ先輩の仲裁と労いの言葉が掛けられた。

 話もひと段落ついて、意識がはっきりしたところで『仮眠終了! あとは自分で歩けるから!』と降りようとすると、今度はコロ先輩と心寧ちゃんが背中を押さえつけて降りることもできない。そんな状況で廊下を進んでいる。

 

「なお先輩。こちらは大丈夫です、進行方向や背後からあの声は聞こえてきてないですよ。はい。はいはいはい、隙あらば日葵さんは神村さんの背中から降りようとしないでくださいね?」

「いやぁ……でもぉ……神村さんの背中に泥がべったりと……」

「ああ゙? 泥なんか、この洋館から出られた後に洗濯すりゃいいだろ! てめえはぶっ倒れちまうぐらいの怪我人なんだから、このまま大人しく “お荷物” として背負われてやがれ!!!」

「…………はい」

「日葵ちゃん。ずっと寝言でも『陽葵ちゃん(わたし)は悪くない』って言ってたけど、元はと言えば私が一番悪いよ。ちゃんと相手を確認せずに鉄球をぶつけたし……」

「だからそんなことはないですってば。その件は泥まみれで徘徊していた私が一番、悪いって何度言えば……。ところで……陽葵ちゃん。その私の改造消火器、重いでしょう? それは置いて行って構わないんですよ?」

「何言っているの! 片足の折れた日葵ちゃんが運べたんだよ? これくらいへっちゃらだよ! 軽い軽い!」

「いや、あのそれは……総重量が約15㎏はあるはずなので重いはずです。私が作ったものなので重量ぐらいは把握しています。ほんとに無理しないで……。3連結しているので、せめて2連結分は外して。それだけでも十分に扱えるから。ね? お願い」

「それじゃあ、次の休憩時間の時にお願いするよ!」

「ケッ。……何が『無理しないで~』だ。その片足が折れたままその15㎏もある消火器を運んでいた奴が何かほざいてやがる……」

 

………

……

 

 あれから倒れて完全に動けなくなった後、私は軽く気絶してしまったらしい。

 その後、すぐに意識を取り戻したらしいのだが……。

 その時を境に、私との会話は基本的に一方通行。うわごとのように『これは眠いだけ、眠いだけなの』と繰り返し、泣きじゃくる陽葵ちゃんを励ましながら、ヘラヘラと笑って私をあの部屋に置いていくように(棄てていくように)促していたそうだ。それどころか、なお先輩と2人きりの時間を設けて指揮系統の譲渡および私が動けなくなった時の作戦をひどく真面目……人格が完全に切り替わったかのような様子で垂れ流して居たらしく……随分と彼を混乱させたらしい。なお先輩曰く、洋館の中に入ってしまった自分を見ているようで気が気でなかったらしい。

 最後はその状況を見かねた神村が、死角である頭上から私の顔面をぶん殴って、今度は確実に気絶させた(一発派手にノックアウトした)後。殴った彼女が責任を持って背負い、『鍵』の再捜索に出たことが陽葵ちゃんの証言により判明した。

 これは殴られたことによる一時的な記憶喪失なのか、それとも何者かによる《魔術師の支配》を受けていた影響か個人的には分かりかねるが……。私の記憶上では、陽葵ちゃんを慰めたり、見捨てるように促していたという会話の記憶が一切ない。しかし、この場にいる5人が口を揃えて同じことを言うという事は……嘘ではないのだろう。

 私としても記憶上の有無は置いといて、そんな発想に至るような、思い当たる節はいくつかある。

 まず今回の自己犠牲に関する作戦は、この対魔忍世界にやってきてから1回目の(初めて)展開した作戦ではない。1年前の……ビルを占拠した東雲革命派と名乗るテロリストから、私の不注意のせいで達が対魔忍するハメになりかけてしまった為、自分の尻拭いと達を守るために実行している。結局あの時は、テロリストとゼロ距離で撃ち合ったのに、どういうわけか死亡することなく病院に入院したのだが……。

 まぁ、あの時のことなどはどうでもいい。今はこの行動原理について整理すべきだ。この行動はすべて私の説明書に記載された『新クトゥルフ神話TRPG11頁“勝者と敗者”の第二段落目に基づくものである。そこの定義文には、“超神話的存在の根本的な計画を阻止できるならば、1人の探索者の死は小さなこと”と定義されている以上、私が死ぬことに対してそれが彼等(グループ)の生存に繋がるのであれば……。拷問狂の時のように苦しまずに死ねるのであれば……と。時間を稼ぐための捨て奸(すてがまり)戦法として私が彼/彼女達を逃がす最終手段として想定はしていた。

 それでも、そもそもそんな私の胸の内にある真実を知れば、負い目を感じてしまうようなことを本当に私が言っていたのか疑問が浮かぶところではある。でも……切羽詰まっていたことで、口から漏れ出ていた可能性も……あるっちゃあるんだよなぁ……。『私が敵を引き付けるから、棄てていけ』なんて、この作戦は周囲に事情を説明してから実行しないと思わぬ二次被害を齎してしまう事もある。それ故に、こればかりは何も断言できない。

 

 されども、彼/彼女から話を聞く限りでは、その時に私の説明書である『新クトゥルフ神話TRPG』や『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』のような、私の世界に関する単語を口にしていなさそうなのは不幸中の幸いかもしれない。

 死が確定しているのであれば、この情報を漏らしてしまっていても問題ないだろうが……この生還する可能性のある状態で『青空 日葵』の中身が、『釘貫 神葬』という別人だという情報が露見するのは非常に避けたい事態ではある。一般人がそこまで気が回るかという問題は置いといて、彼/彼女等の証言があの蓮魔(はすま)先生の耳に入って面倒ごとに発展するのは避けたかった。彼女(蓮魔先生)世界の真実(ヴェールの裏側)を知る者と同じ目をしている。

 ともかく、そんな事態に陥らないように最低限、立ち回っていた自分を少しだけ褒めつつ。

 この世界では御伽噺の住人でしかない釘貫 神葬(わたし)のことを、1人の人間として大切に扱ってくれる対魔忍世界での友人達に対して感謝をするのだった。

 

 




~あとがき~
 既に感想欄で主人公に対する違和感を覚え、考察されていらっしゃられたIsYo兄貴姉貴という方がいらっしゃられたのですが、すごいですねぇ……。
 今回はオリ主が、青空 日葵(自分)という存在についてどういう価値観を持っているか公開するお話となったのですが、考察そのまんまの思考であります。

・感想に書いてくださった一文を抜粋させて頂くと
 主人公は自分を現実に存在している人間というよりも、TRPGのプレイヤーキャラクターであるという認識が大前提だから。

 私はこの考察に、ぐうの音も出ないです。
 ゆえに前回やEpisode4での自己犠牲の作戦を厭わず決行できてしまっている形ですね。
 “自分を現実に存在している人間というよりも、TRPGのプレイヤーキャラクターであるという認識が大前提だから” こそ現実に存在している対魔忍達を救うために、ただのキャラシートでしかない、対魔忍世界上では御伽噺の住人である自分の命を軽んじているというのが今回の心理状況です。そこに釘貫 神葬の説明書(基本ルルブ)が合わさって、その行為に拍車がかかっているような状態です。

 今回の死に対する価値観もメタ的な発想をしていますが、既に新クトゥルフ神話TRPGCALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPGのオリ主の世界に関するメタ的情報を入手していますので、思考が準じている形となっています。

 ※今回の話に関して閲覧者兄貴姉貴達の中には、確かに『ルール上ではそう想定義されているけど探索者はそんな存在じゃない!』と思われる方もいらっしゃられたかもしれません。
 そこに関しましてはおっしゃる通りだと思います。探索者のあり方につきましては、そのPLやKP、それぞれのプレイスタイルや思考や定義がありますので、本小説から新クトゥルフ神話TRPGCALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPGのルルブにはこういう記載があるから『探索者の定義はこうだぞ!』と言っているわけではないことをここに明記させて頂きます。
 『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』156頁“生か死か” 4段落目の項目にも、“典型的なプレイヤーなどというものは存在しない”と定義されているように、典型的な探索者などは存在しないのです。
 多種多様なプレイヤーがいて、多種多様な探索者がいる。それでいいと私は思っています。(と言っても、ゲームとして遊ぶときは基本ルルブ28頁『TRPGとは(6版)』『この章について(7版)』の最低限は探索者の定義として守ってほしいなと稀に思うことがありますが……)

 また『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』156頁“生か死か” 8段落目の項目には“その死が何らかの意味で仕方のないと思われるときまでは、起こらない方が望ましいこと”も定義されています。今回はお荷物になって部隊(グループ)の足を引っ張るぐらいなら囮になって仲間の生存確率を上げた方が良いと思ったので、この行為はヨシッ!
 6版ルルブくんはサイコパスで抜けているところがあるので、もしかするとドラマチックに死ね!と書かれていたりするかもしれませんが……私が執筆中に発見できなかったので割愛します。

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