対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
お話を少し前進させるために、ほんへ
「さてと、妖精ちゃん。同じ指揮するものとして目覚めた君に話しておきたいことがあるんだ」
私が神村の背中に乗りながら、重い改造消火器を背負う陽葵ちゃんと話しながら、当時の状況を振り返っているとなお先輩が横に並んでくる。
「あれから君が気絶している間にも、僕達で調査できる場所は調査したんだが……奇妙なことに気が付いてね。是非とも君と情報共有して、相談もしておきたい」
「奇妙な事……? ……ですか?」
「あぁ。これまでの部屋には大量の血痕が残されていただろう?」
「そうですね……。似たり寄ったりの部屋ばかりでしたが、惨状を物語っていた血痕だけは毎度部屋ごとに異なっていましたが……それが?」
「……何かおかしくないかい?」
彼は腕組みをしながらこちらに問いかけて来ていた。
こちらとしては気絶から目覚めたばかりで、意識ははっきりしているものの頭がぼんやりとしてはいるが、そんな状態であっても神村の背中に揺られながらもあることに気が付く。
「……死体が何処にもない?」
「あぁ、その通りなんだ。どの部屋にも明らかに致死量の血痕があるにも関わらず、そのどの部屋にも死体が1つもないんだよ」
なお先輩の言葉に眉を潜める。
それは由々しき事態……というわけでもないが、死体が無いという事はつまり、誰かがその場から持ち去った。あるいは移動させたと考えるのが妥当だろう。まぁ、そこまではよい。
問題は……『誰がそれを行ったか』だ。
これまでの情報から考えられるのは、やはりドレスを纏った首のない貴婦人という線で考えるのが……妥当ではあるが……。そもそも実体があるかどうかも分からない亡霊がそんなことをできるだろうか?
でも陽葵ちゃんが私に聞かせてくれた怖い話では、実体のあるような描写をしていたから……あり得ない話ではない。
…………今ここで一番、考えたくない可能性としては “死体が勝手に歩いて行った” という状況だ。……クトゥルフ神話世界線上では割とザラにある状況ゆえに、そんな自体になっているとすれば——ここにあった死体の数から考えて頭までもが痛くなってくる。死体を持ち去った時に生じるはずの、引きずった痕跡がない説明までもができてしまう。
それでも少し安堵できることもある。今回、死体が勝手に歩いて行ったという状況になっている可能性は極めて低い。そう、《呪術師の傀儡》を作るには頭部が必要で、《闇の束縛》の場合でも墓の中に死体があることが前提条件だったはず……。
「とにかく今はその謎も踏まえて——」
「なお先輩!」
「——どうかしたかい?」
神村の背中で首を傾げ唸る私に対し、更なる調査すべき情報を告げようとするなお先輩であったが、その言葉は次の部屋の扉を開けた心寧ちゃんによって遮られた。
私も切羽詰まったかのような心寧ちゃんの顔を見る。視線の先には心寧ちゃんが扉を開けて、陽葵ちゃんは客観的に見ても分かるほどに身体を硬直させて固唾をのみ込んでいるのが見える。
やがて私も何故、上級生を呼んだのか。どうして硬直させていたのか理解する。次第に部屋の中から臭いが漏れ、私の鼻孔にも伝わった。
それはバナナが熟したのを越えて、腐ったかのような甘くもわずかに酸っぱい匂い。それとこれまでの部屋の壁から漂っていた悪臭よりも強めの鉄錆の腐臭。そして、押し入れに詰め込んだ布団が飛び出るように隙間からは緑色に変色した人間の手のひらが見えていた。
まさに話題の
「……!」
固まる陽葵ちゃんを掻い潜るようにして、コロ先輩が真っ先に室内へと入って行く。続いてなお先輩。最後に、私を背負った神村が開け放たれた扉の前に立った。
「うわ……こりゃひでえな……」
神村がボソリと言葉を漏らす。彼女が室内を覗き込んだという事は、否応なしに背負われている私も確認するという事になる。
確かにこれは酷い。室内は死体の山が築き開けられていた。比喩ではない。本当に多数の首のない死体が、1つの部屋に押し込められ積み重ねられている。中には天井まで積み上げられている死体の山まであって……。床には足の踏み場がないほどに死体が散乱しており、四肢は重なり合っているおかげで、もしも仮に神村が私を背負ったままこの部屋に入ろうものなら、投げ出された四肢を踏んでしまい転んでしまいそうなほどに敷き詰められていた。
「これは……なかなか……」
私としても、この惨状に対して出てきた言葉はこれがやっとだった。
心寧ちゃんは出入り口で蝋人形のように固まっている。死体を見るのは初めてで、なおかつ死体の腐敗具合から衝撃を受けている様子も薄々感じられた。陽葵ちゃんは気を緩めようものなら、吐いてしまいそうな顔をしている。
君は心寧ちゃんと比べて、本当に喜怒哀楽の感情が顔と態度に出るなぁ! わかりやすくて素直な反応、私は好きだよ!
なお先輩とコロ先輩は死体との遭遇に対し、特に意に返す様子もなく真っ先に入って行ったが……そんな2人に2人は自分達も入るべきか顔を見合わせて……でも本音としては入りたくない、死体を踏み荒らしてまで入りたくなさそうな顔をしている。
……それは至って普通の感性である。なお先輩やコロ先輩みたいに高校生にも関わらず、ズカズカ死体の山の中へ入って行ける方が特殊なのは違いない。
「神村さん。背負ったままでは転倒リスクが高いかと思われます。私の事はここで降ろしてください。背負って頂き、ありがとうございました」
「当たり前だろ。ウゲッ……ひでえ臭い」
神村もしゃがみ込む形で、折れた足に衝撃が入らないようにと丁寧に私を降ろしたあと、腕で鼻を抑えながら入っていく。
ひとまず私は自分の役割として、心寧ちゃんと陽葵ちゃんの2人を廊下で待たせるわけにもいかないため、入り口に積まれている死体を引きずっては部屋の奥に積む作業を始める。
足は相変わらずの痛みだが、神村が私に僅かばかりの休憩時間を割いてくれたおかげで問題なく動くことはできていた。
「さて、と。これで少しは片付きましたかね? 陽葵ちゃん、心寧ちゃん2人ともこれで入れますよ。あと消火器は一旦、分解するのでこっちに下さい。持って頂いてありがとうございました」
「あ、あははー……日葵ちゃん、ありがとー……。でも…………大丈夫……」
「は、はい。私達は別に廊下で待っていても……大丈夫なので……」
お。なんだか、2人とも私がうわごとのように言っていたらしい、時のようなことをゲンナリとした顔で話している。
あぁ。私がこんな感じだったときの2人の気持ちが分かったような気がする。そりゃ、置いて行けるわけがないよな。心配かけて本当にごめんね。
「……。……すみません。2人の心情は分かっているつもりですが、この状況での分散の可能性は確実に潰しておきたくて。……だめ、かな?」
死体を4、5体分片付けたところで、やっと2人が入れる分だけのスペースが確保できた。
2人への説得は、愛らしい小動物を連想させるくりくり・うるうるとした〈魅惑〉でお願いをしてみる。2人に対して手招きをして感情に訴えかけた。
「あー……うん……」
「えぇ……。えぇ……」
「……わかりました。では、私もそちら側で待ちましょう。なお先輩にも話を通したいので扉の内側に立って少しだけ待ってていただけますか?」
ものの見事に慣れない私の〈魅惑〉は無事に失敗し、2人はそれでも入ることを渋る。ゆえに分散は避けたいが、少しでも死亡リスクの高い方に私が身を置いて2人を守れるようにと私も廊下側で待機することに決めた。
……やはり一般人。これは当然の反応だ。私からとってしてみれば、親の顔より見た凄惨な死体ではあっても……特に高校1年生には荷が重すぎる光景には違いない。
「あ……。すみません。——いえ。陽葵ちゃん、行きましょう。きっとこういう慣れも今後は必要になってくると思います。次にこういう死体を確認したときに、そのつど狼狽していたら色々支障が出るはずです。だから——慣れる為にも」
分散は避けたいが……ここはなお先輩に事情を説明し、私が彼女たちの引率役を担おうとしたとき心寧ちゃんが口を開いた。それはちょっと意外な言葉で、個人的には耳を疑うような一言だった。先ほどまでは俯いて自身の足元を眺めていた心寧ちゃんの方が顔を上げ、私の方へと陽葵ちゃんの手を引きながら足を一歩踏み出している。
「……そうだよね……。……私達は
陽葵ちゃんもそんな心寧ちゃんに勇気づけられ、最初こそぎこちない笑顔を浮かべて居たものの死体の積もった部屋に入る瞬間には、まるで初めて訪れる観光地の風景を眺めるかのような顔を周囲に向けながら室内へと入ってきた。
その直前に何かボソボソと私には聞き取れない声で喋っていたが、恐らく鼓舞的なものだろう。
「あ、いや。あの……2人には、そんな無理矢理にでも『死体に慣れろ』って言っているわけじゃなくて、分散して欲しくないだけで……。そのっ、死体は直視しなくていいですからね? 部屋の中に入って、部屋の隅で壁を向いているだけで良いだけですからね?」
「いえ、そういうわけには行きません。私達もカードキー探しをします」
「日葵ちゃん! 死体の持ち物を調べるときは、どういうふうに探ったらいいのかな?」
「アノッ。エット。ハァイ」
……一応。こちらの意図が誤って伝わっていないかどうか、確認と遠慮をしながら少しズレて解釈してしまったと思われる二人をなだめる。
現在この部屋に広がっている光景は、ゲームでいうところの
あくまでも私がして欲しいのは、この部屋に入って部屋の隅で壁とお話してくれているだけで十分なのだが……。
2人は先ほどまでの嫌気は何処へやら、やる気に満ちた眼差しでこちらを見つめていた。
これはもう『部屋の隅でおとなしくしてて』なんて言っても無理があるだろう。
「えっと。ここにある死体は腐敗の兆候が現れているし、細菌の温床になっているから触るときは手袋とかあった方がいいんだけど……」
さっそく黙々と出入り口の死体を漁る心寧ちゃんに対して、片目を瞑って後頭部を掻く私の死体の荷物あさり講座を陽葵ちゃんは熱心に聴いている。
ちょっとここの反応は意外だった。私としては心寧ちゃんの方が講座を聴きに来て、陽葵ちゃんの方がまずは独学で。うまく行かなかったら、私のやり方から学びを得るのではないかと推測していたのだが……。
「手袋ね! あるよ!」
陽葵ちゃんは、今着用している勝負服にぴったりなオレンジ色の皮手袋を着用していた。
「ヨシッ」
ヨシ。ヨシじゃないが私。話の流れで現場猫のポーズを取る自分にノリツッコミを入れる。
……待てよ? 普段このような状況に遭遇した時には、まず警察に連絡するとか、不用意に死体を触ってはいけないということから説明した方がいいのだろうか?
いや、でも陽葵ちゃんはきっと普段は死体漁りなんて行為はしないはずだ。それぐらいの最低限の知識はあるだろう。これはあくまでもこの場だけでの話に違いない。
「探る場所は衣服のポケットとか、首のネックレスとか、上着の裏ポケットなんかを探ります。またこの時、死体のガスが爆発する恐れがあるので、飛散物が体内へ入ってしまわないようにゴーグル・マスク・フェイスシールドなどあると良いと思います」
「ゴーグルかぁ。確かに飛散した肉片が体内に入ったらまずいこともあるもんね! 私の
「ひとまずはそんな感じです。……無理だけはしないでね?」
「あはは! それは日葵ちゃんもだよ! でも、わかった! ありがとうね!」
「は、はぁ……」
こうして6人で死体の山を舞台にカードキー探しが始まった。
ふとここで、死体の事、他の彼女達を観察していくらか気づいたことがある。
まず初めにここに転がっている死体だが、いずれも首は無いことは確定的であり、すべての死体がミイラのようにカサカサに干からびていることがわかる。中には私が懸念していた餓死らしき死体も見つかるが、不可解なことにその死体も、まるで、体液が消失したように干からびていた。
次に死体の原型についてだ。少なくとも私が事前調査した段階では、この洋館が完全な幽霊屋敷と化したのは15年以上前の話だ。にも拘わらず、ここの死体はすべて肉がついたままで、カビは存在しているのか緑色に変色はしているものの蟲に貪られた死体はない。なおかつ先ほど死んだばかりのように肉が痙攣……蠢いている個体も見つかった。つまり、死体の殆どがそのままなのだ。顔こそ分からないが、衣服やオークなどの異種族肌から大体の職業は分かるのは幸いだった。
中には銃火器を所持している死体もあり、ポケットからは弾薬が手に入った。これは私が求めていた念願の2連ダブルバレル10ゲージ・ショットガン……ではない。手記に記述されていた本部の魔族達が使用していたアサルトライフルだ。ガリルARの外見に酷似しており、
ま、『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』79頁 ショットガン、84頁 ライフルには、どちらかの扱いにしか長けていなくとも、扱えなくもないような趣旨が掲載されていたとは思うが……。あちらは記述が曖昧過ぎるので、確実な方を使用するに越したことはないだろう。
~あとがき~
2本だけかと思ったか? 3本目の投下だよ!
でも、記念すべき2022/02/22/22:22の投稿小説が陰惨で草。
今回の3本投下でイレギュラーが発生しました。
3月から投稿ペースにマイペースが加わります。
また前回の主人公が自分の命を軽んじているという情報から、これまでの行為や出来事に合点が言った閲覧者兄貴姉貴達もいるのではないでしょうか?
ちなみに4章 『群馬県まえさき市』の出来事。あの時の行動原理は純粋に愛です。
愛だよ! 愛!
好きな人の為なら。好きな人の住まう世界を守るためなら。なんだってやってやる。
それがクトゥルフ神話の脅威に立ち向かう探索者でしょ?
(・ω< )⌒☆
~評価返信~
『ウニの塩漬け様』より一言評価していただきましたので、返信させていただきます!
■ これからの青空ちゃんの暴走、楽しみにしています
◇ 応援ありがとうございます! 今のところ暴走するためのスイッチは、作中では4つしか登場してないのでその4つの条件(1.上原鹿之助くんに関すること 2.カルティストを発見すること 3.探索者に関係すること 4.
『ねりまき様』
■ クトゥルフ神話とのクロスオーバーは初めて見ましたね。この先がとても気になります。
◇ 私も最近、ハーメルンで様々な対魔忍の小説を読み漁っているのですが、それっぽいのはまだ見つけられていませんね。初のクロスオーバーを楽しんで頂ければ幸いです!
話の展開はスローペースですが、2月に入ってからは3日に1本ペースとなっているのでサクサク読めると思います! 今後ともよろしくお願いします!