対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode62 『黄泉録り』

 さて、死体の違和感と発見したアサルトライフルはさておき次は——

 

「……。……。……。」

「そうか、それは残念だ……。コロちゃんなら、何か分かるかもしれないと思ったんだが……」

「……。……。…………?」

「ん? 消火器の妖精ちゃん? そんなに僕達をまじまじと眺めて、どうかしたのかい? そんなに熱っぽい視線を送られちゃうと照れるじゃないか」

「チッ! おうおうおう! さっきから、なにガンつけてやがる!」

 

 この3人に対する違和感だった。

 先ほどまでコロ先輩を除いた2人……なお先輩と神村は、死体が着用している衣服をまさぐってはポケットから役立ちそうなものを探っている。

 一方でコロ先輩は、というと……相変わらず他の部屋で血痕に対して執り行っていたように、死体へ手を当てて長時間うつむいていたかと思えば、適当な間隔でなお先輩に何かを話しかけていた。

 それは一種の弔いのようにも見えるが、なお先輩との会話では彼が情報的な意味合いで残念がっていることから、コロ先輩が行っている行為は弔いとは異なるようにみえる。

 ……この3人は…………陽葵ちゃんや心寧ちゃんの2人とは異なり、“逆に” 死体慣れ過ぎてはいないだろうか? 死体発見時の初期反応もそうだが、初めて死体を目撃したにしては非常に淡白な反応を示している。死体を目撃したことに対して現実味がないように感じている……と言った心理的作用が働いている可能性も考えられるが、3人を眺めていると別段そういった感じでもないように見える。彼、彼女たちは本物の死体であることを理解した上で、慣れた素振りのまま調査を行っているような……そんな感じだ。

 そもそもの話として、いくら私が鍵を探すように指揮を執っていても。洋館に閉じ込められるような非日常に巻き込まれたからと言って、探索者(私達)のようにやむ終えない事情や“特殊な職業についている人間” でも無い限り、自ら率先して死体を触ることなど避けるはずだ。

 

「神村さんは自惚れ過ぎです。別に大したことではありません、なお先輩はコロ先輩が何を話しているのか理解できることに興味を持っただけです。私には、どうしてもコロ先輩が何を話しているのか聞き取れず、初歩的な〈読唇術〉で読み取れる程度なので……」

「お゙ぉ!? 元気になったとたん、今度は喧嘩売ってんのか! てめえ!」

「……だから私は貴女の奥に居たコロ先輩となお先輩を見つめていただけですよ? 視線はあなたより奥を見ていることに気が付きませんでしたか?」

「上等だよ……。素直に謝れねえってんなら、次はその減らず口を二度と叩けねえようにしてからてめえを運搬してやるよ」

「助けて貰った手前、あまり言いたくはないのですが……貴女と眞田先輩。“類は友を呼ぶ”とは言いますが、まさにその通りですね」

 

 もしもこの景色がアニメーションであれば、今頃私と神村はバチバチと火花を散らしてにらみ合っているシーンが適当だろう。

 彼女はロケットランチャーを手にして大きな棍棒のように掴み上げる。きっとあのぶっとい大筒で私の事を殴ろうとしているのだろう。……でも、何だかんだ言って即砲撃して来ないところや少しだけニンマリしているのを見ると、断定的な事は言えないが〈心理学〉上では本当は怒ってなんかいなくて冗談を言っているようにも見えた。それにそのやや無邪気な笑顔が、私を五車学園の地下に存在するシミュレーションルームでボコボコにしていたときの眞田先輩と重なってみえる。

 

君達、やめたまえ! 先ほどまで協力的な関係になったかと思えば、今度は喧嘩か! 喧嘩なら洋館から出た後でも好きなだけできるだろう!」

…………!(や め て!)

 

 彼女の笑顔に釣られるようにして不敵の笑みを浮かべる私に接近する神村だったが……その間になお先輩とコロ先輩が入って制止をかけてきた。神村側には彼女に情報を伝達する係のなお先輩が。私側にはコロ先輩が眉を持ち上げ厳しい表情で、陽葵ちゃんから受け取った改造消火器の銃把(グリップ)へと忍ばせた私の腕をがっちりと掴んでいた。

 ここで神村がつまらなさそうな顔をしながら先に視線を逸らした。私もコロ先輩に抑えられていながらも、改造消火器の銃把へと伸ばした強張った手をゆったりと脱力させる。

 

「…………」

「……」

 

 ——されどコロ先輩の眉は持ち上がったままであり、口元は固くキツく、ヘの字に閉ざされている。

 言葉こそなかったが、彼女が何を言いたいのかは分かる。……ごもっともであり、彼女の性格をある程度把握している私が煽らなければ、ここまでに発展しなかったはずだ。それに彼女(神村 舞華)の真意を計り知れず、あと数歩近づいてきて何か動きがあれば、こちらも〈応戦〉しようと(撃とうと)していたこともあった。

 

「——すみません。道中助けて頂いたにも拘わらず、失礼なことを」

「気にしてねえよ。が……今のは俺も悪かったよな。すまねえ」

 

 互いに視線を逸らしながらも謝罪の言葉を述べる。彼女から似たような返事があった所で、やっとコロ先輩は掴んでいた手を離してくれた。

 はぁ……。神村は冗談だったかもしれないが、私は半分本気だった。

 でも、その選択は避けるべきでもあった。『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』153頁“信頼と公平さ” 第三段落にも余程《魔術師の支配》のような特殊な場合を除き、仲間を騙すような裏切りや内輪揉めによって、探索の核心を見失うことは避けるべきだと記述されていたはずだ。

 

「それで……その死体や血痕に触れてはしばらくの間、何か追悼のようなことをしてましたけど……その直後にコロ先輩はなお先輩と何をお話されていたのですか?」

……(……)…………。(よく観察しているね)

 

 神村との悶着がひと段落ついたところで、話が流れてしまう前に気になっていたことを尋ねる。問いかけに対してコロ先輩は口元をパクパクと動かしながら、〈聞き耳〉で辛うじて聞き取れる声の大きさで私の行動を褒めてくれた。

 

「ああ、コロちゃんは僕に対して彼女が “黄泉録り(よみとり)” で得た情報を教えて貰っていたんだよ」

読み取り(よみとり)……? ですか?」

「そうだ。……妖精ちゃんは最近転校してきたばかりだし、僕達3年生とも接点はあまりなかったから知らなくて当然だよね。コロちゃんは、死体や切り離された部位……この場合だと血痕も該当するかな。その遺留物に対して長い間、集中しながら触れることで霊魂に刻まれた情報を読み取ることが出来るんだ」

「!?」

「霊魂に刻まれた情報っていうのは、その人物の死因や遺伝情報といった科学情報の他、強く残っている思念、記憶といったものの事だね」

「…………」ドヤァァァァ……

 

 なお先輩の口から発せられるスピリチュアルな発言に信じられないものを見るような目でコロ先輩を見る。彼女は私のそんな目に、少し口元を緩ませ誇らしげな顔で私と向かい合っていた。

 正直、コロ先輩がそんな特殊能力を持ち合わせていたことに面を食らっていた。まさか対魔忍世界とはいえ、そんな能力を持った人間とこんな形で、こちらの世界に来て約1年程度で遭遇するとは思っていなかったし、何よりもそんな能力を持った人間が存在することに対して驚いたのだ。

 ……しかしよくよく考えてみれば、私の元居た前世(世界)でもとある研究所がそのような超能力に関する実験や実験体(素材)を手に入れていたという話を小耳に挟んだことはある。確か……マホロバPSI(サイ)研究所だったか。そこではPSIの種類にサイコメトリ(過去感知)と呼ばれる “物体に残る「記憶」を読み取り、過去にその場所で何があったのか知覚することのできる能力” があったはずだ。つまり、コロ先輩はそれに類似した力を持つ……超能力少女なのだろう。……まさか、こんなところでそんな力を持った少女と出会うとは思ってはいなかったが。

 

…………。(すごいでしょ)」フンスフンス

「え、えぇ。正直驚きました。それに、今、この場で、この物言わぬ死体に対して何があったのか知ることのできる必要不可欠な人材じゃないですか! でもだったら——あ」

「……」ションボリルドルフ

 

 ここまで言及したところで、先ほどのなお先輩とコロ先輩のやり取りが思い浮かび、私としても合点がいったのと同時に何かを察したような表情をしてしまった。コロ先輩の先ほどまでの誇らしげな顔は何処へやら、2021年ニコニコ動画で一躍ブームとなったウマ娘のたぬき画像……ションボリルドルフ顔へと切り替わっている。

 しかし、私としてはそれだけでも十分だった。例え何か直接的な手掛かりや情報にならずとも、何もない状態とわずかな手掛かりならば、わずかな手がかりとなる情報を私は優先したい。

 

「コロ先輩は、何が見えたのですか? なお先輩は残念がっていましたが、私としては今は少しでも多くの情報を得たいと思っています。私にもその情報を教えて頂けませんか?」

……。(いいよ。)……——。(私が黄泉録——)

「え?」

 

 されど悪いタイミングで外の雨足が強くなり、雨音によってコロ先輩の声が〈聞き耳〉でも聞こえなくなってしまう。なんとか、彼女の口元の動きと耳に手を当ててこの声を読み取ろうとするが……聞こえない。

 

「す、すみません。外の雨音で……コロ先輩の言っていることがよく聞き取れなくなってしましました」

「それじゃあ、僕が替わりにコロちゃんが読み取った情報を伝えよう」

……。(なお。)…………。(ありがとう)

「いいんだよ。さて、妖精ちゃん。さっきコロちゃんはね——」

 

 コロ先輩の言葉を聞き取れなくなった私になお先輩が代弁をしてくれる。

 先ほどのコロ先輩による読み取り(サイコメトリ)によると、ここにあった死体の殆どの記憶は死の間際に見た光景を捉えていたようだ。

 だがしかし、肝心な内容としてはほぼすべて、犠牲者の手記2の後半に記載されていたような出来事だったらしい。……あちらでは “瓶に詰められたコルクが栓抜きで捩り開けられるように”との描写がされていたが、コロ先輩が読み取り(サイコメトリ)で読み取った情報では、目の前で見えない太刀で斬首されたように首が吹き飛んだという事、亡霊がすすり泣くとは違った……まるで生者を嘲るかのような笑い声しか聞こえてこなかったことしか分からなかったそうだ。

 そして痙攣する死体だが、こちらはもっと不可解だったらしい。こちらの犠牲者たちは全員が全員、『誰かたすけてくれ!』『闇に喰われる!』という魂からの叫びをあげていたが、肉体としては死を迎えるその(とき)まで外面上では何も変化はなかったそうだ。更にその犠牲者たちは、死に方も1点を除いてまちまちだったらしい。ある時まで棒立ちだったものが突然足に力が入らなくなり倒れ込んでから死亡したり、前述したように首が跳ね飛んで死亡するもの、中にはその場に立ち尽くしたまま壮絶な絶叫と共に死を迎えたものもいたようだ。こちらはこちらで、首が跳ね飛んだ者以外は亡霊の声が聞こえてくることはなく、本当にプツンとマリオネットの糸が切れるようにその場に倒れ込んだとのことだった。しかし共通点も存在し、すべての死の引き金は身体が急速に青ざめ、干からびていくことは変わらなかったというものだったらしい。

 『敵の姿は確認できなかった』それがどうやら、なお先輩が残念がっている理由でもあったようだ。確かにコロ先輩の読み取り(サイコメトリ)情報が確実なものであれば、コロ先輩は敵の姿の情報を得られたかもしれない。

 だけど、私としてはコロ先輩が『その怪物達の姿を確認していなくてよかった』と思う。“必ずしもそうなるとは限らない”が、この洋館で作業員たちを鏖殺(おうさつ)*1をした存在が、クトゥルフ神話世界線上の神話生物だった場合……どうなっていたか。

 ……既に “前例” はあるのだ。彼等も例外なく“発狂”をする危険性は存在する。鹿之助くんの時は、彼は発狂状態に陥ってしまった。もしもコロ先輩がその読み取り(サイコメトリ)で怪物と間接的に遭遇し、それがクトゥルフ神話生物だとしたら? “発狂状態”に陥ってしまったら? ……分散を避けたいこの状況で、考えたくはない状況が発生した可能性は極めて大きい。例え、分散するような狂気状態ではなくとも私達(グループ)にとって何かしらの悪影響は及んでいたはずだ。それが発生しなかっただけ、良い状態ともいえる。

 

「それで、妖精ちゃんは今の話を聞いて何を思ったかな?」

「そうですね……。コロ先輩が発狂せずに(無事に)読み取りを終えたことは良かったと思います」

「? ……?(ぶじに?)

「妖精ちゃん何を言っているんだい? コロちゃんの黄泉録り(よみとり)はあくまでも記憶や思念を読み取るものだから、危険なことは何もないよ?」

 

 私の言葉に対して二人は、同じ方向に首をかしげて私が変なことを言い出していると言った目で見始める。

 あぁ、そうか。恐らく先輩たちは読み取り(サイコメトリ)を行うことによって正気度が削られた経験がないゆえに、読み取り(サイコメトリ)での情報収集に危険性を感じていないのだろう。これは対魔忍世界の住人とクトゥルフ神話TRPG世界線の住人の大きな認識の差によるものに違いない。

 

「あ……。そうなんですね。ごめんなさい、コロ先輩の能力についてあまり詳しくないものだから……余計な勘ぐりをしてしまいました。すみません」

「……。……。……。」

「いいさ、謝ることじゃないよ。誰だってそういう事はあるものだって、コロちゃんも言ってる」

「ありがとうございます」

 

 3年の先輩方に励まされながら、ここで1つの違和感も新たに抱え込んでいた。

 コロ先輩の読み取り(サイコメトリ)による話の中には、ドレスを纏った貴婦人の笑い声のようなものと、死後も痙攣する不気味な死体のその瞬間についての情報を得ていた。

 しかし……あの手記。『犠牲者の手記2』の中には『顎が4つに裂けた猿のような巨大な黒い蟲と人が融合した実体』の情報があったはずだ。でもコロ先輩の読み取り(サイコメトリ)情報からは、その怪物による被害報告はされなかった。コロ先輩が読み取り(サイコメトリ)でその怪物を直視しなかったことは本当に良かったとは思うが、どうも腑に落ちない。

 手記の中では、確かに暴れまわったような記述がされていたような気がするが……。私の記憶違いだろうか?

 

「みんなー! 見つかったよー!」

 

 そのような考え事をしている辺りで、周囲の空気が再び平穏を取り戻すような声が響く。

 死体の山の反対側から、初めて陰惨な死体に直面し、初めて死体の身ぐるみを剥いでいるとは思えないほどの明るい陽葵ちゃんの声が室内に響いたのだ。

 

 

*1
皆殺し




~あとがき~
 感想欄でコロパイセンが物置になっているところを指摘されて、プロットを確認したら本当に物置になっていることに気づいて、派生したのが今回のお話です。

 そういえば感想欄に反応をくださった、同じ対魔忍小説を書いている迷子の鴉兄貴姉貴もコロパイセンのファンだったと思うのです。
 いぇーい! 迷子の鴉兄貴姉貴、見てるー!?
 コロパイセンが"黄泉録り"で活躍しておりますよー!!!
 オリ主は、コロ先輩の忍法のおかげで気づきを得られました!

 やっと物語も佳境に突入します!

※マホロバPSI研究所について。
 こちらはクトゥルフ神話TRPGのサプリメントに登場する超能力研究所となります。掲載サプリは『クトゥルフ カルトナウ』と雑誌となります。
 雑誌に関しては、超能力の取得方法について掲載しているだけであり、重要度に欠けるため紹介は省かせていただきます。

~評価返信~
 『ジョイン君様』
■ 読んでる途中ですがすでに滅茶苦茶面白いので評価させていただきます
◇ 評価のタイミングが48話だったのですが、最初から読んで頂いているのですか!? 最初の投稿は半年前以上の作品ですが、面白いと感じられ楽しんで頂き、手間のかかる評価で感想を頂けるのは、作者にとって とても嬉しいことです! ありがとうございます!

『うー茶様』
■ クトゥルフTRPGと言うものを小説としてしっかり書けているのが素晴らしいと思います。
 今後の話がどうなるのかがまだわからないため現段階の評価として☆8にさせていただきます。これからも楽しみにしています。
◇ 評価コメントありがとうございます。今後もゲームとしての体裁を保ちつつ、物語に落とし込んでおります!
  本章の物語はまもなく大詰めですが、良かったらまた感想や評価でコメントを下さい!お待ちしております!

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