対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
陽葵ちゃんは、天井まで積み重ねられた死体の山の中腹部まで登って探して居たのだろう。死体の山を下山するために『よいしょ、よいしょ』という掛け声が聞こえてきた。
迎えに行ってもよかったのだが、すれ違いを防ぐためにもその場でしばらく待つ。
やがて私が五車町で関係者に話を聞きに行ったときに、御守りの中に入っていたカードキーと同じ鍵を左手の指先に持った陽葵ちゃんが、つい先ほどまで死体をまさぐってきたとは思えないほどの笑顔で戻ってくる。その顔を例えるならば、犬が投げられたフリスビーを笑顔で持ってやってくるようなそんな満面の笑顔だった。
「陽葵ちゃん。焦らなくとも大丈夫です。ここら辺は足元が不安定なので、転ばないようにゆっくりと来てください」
「わかってるよ! 日葵ちゃんは慎重屋さんだね!」
彼女はこちらの忠告など気にしていないかのように死体の絨毯を器用に小走りで走り寄ってくると、真っ先に私に対して鍵を手渡してきた。受け取ると即座にその鍵を確認する。……確かにあの鍵だ。僅かばかり乾燥した血液が付着しているが、この『鍵』は電子機器に通すものではないためあまり気にする必要もないだろう。これまでの肩透かし品のような欠損部位は無いようにみえる。
一通り鍵を確認した後は、その鍵をなお先輩に手渡し、彼に渡った鍵はコロ先輩に、その次は神村の手に渡っていく。3人とも発見した『鍵』を大事そう……かつ『本当にこんなもので外に出られるのか』と訝しげに眺めている。
「お手柄ですね。これが上手く機能すれば、全員で出られそうです」
「えっへへー♪ 勝利のピースサイン! ブイ!」
「GJ. ……。……ブイです」
本当に嬉しそうな満面の笑顔でピースサインを突き出す彼女に、こちらも応じるようにしてウィンクをしながら親指を突き立てたGood jobサインを返す。
でも、やっぱりこの陽葵ちゃんに突き出したサインは何か違うなと思って、陽葵ちゃんのVサインに並べるようにしてVサインを送る。彼女はそのサインの意味を十分に理解しているようで、これまでに見せたことも無いような煌めく満面の笑みを浮かべていた。
「えへへ。ブイとブイが並んで、
「そういうことにもなりますね。小目標達成、次は洋館脱出ですよ」
「よーし! 最後まで頑張るぞー!」
「ふふふ。……ところでこの鍵は何処で見つけたんですか?」
「あの死体の山の中腹部分に死体で出来た小さなトンネルがあるんだけど、その奥にあった死体が持っていたかな? でもどうして?」
そして、あの鍵を見つけた場所について尋ねる。それに対する陽葵ちゃんの疑問は尤もだった。
「いえ、ね。恐らくあの鍵を所持していたのはここの現場責任者ですから、他に何か有益な手記とか残してないかなぁと思った次第でして」
「なるほど! しゅき! だいしゅき! それじゃ案内するよ! こっちに来て!」
陽葵ちゃんに連れられて、その鍵が発見された死体の山を登る。
乾燥し、死してなお硬質化した肉体でありながらも、生前の柔軟な肉体とは異なり脆くなった肉の山は思うように登れず……。陽葵ちゃんに案内と足を踏み外して滑落しそうになる私を時々、引っ張り上げてもらう形での〈登攀〉となった。
「おぉ……まさか、死体の山の中腹部にこんな洞窟地形があるとは……」
「私も最初見つけたときはびっくりしたよ! ふもとにある死体を調べてたら、上から死体が音もなく落ちてきてね!? 危ないし、何だろうと思って上を見上げたらこんな洞窟があったの!」
「……落石ならぬ、落死体ですか……」
「山から転がり落ちてくるなんて、死体も
「」
「♪」
「……陽葵ちゃんのそういう、恥ずかしげもなく 自信たっぷりで発言するところ好きですよ」
「えへへ♪ ありがと♪」
「……。それで、その『鍵』を持っていた死体はどちらですか?」
「あの奥にある死体だよ!」
小粋なギャグを飛ばしながらも、陽葵ちゃんが見つけたという死体は、死体で組み上げられたトンネルの最深部。指さす先にあった。
その死体も首から上が消失していたが、それ以外は他の死体と変わらない干からびたミイラ上の死体だ。生前はぶくぶくに太っていたのか、死後に残された薄い皮のようになった身体からは、ボコボコとした前腕の皮膚を捻った時のような脂肪が露出・浮き彫りになっている。
死体の崩落に気を付けながらトンネルの中に入る。陽葵ちゃんが調べた死体にもう一度〈目星〉を付けて、情報の取りこぼしはないか精査した。念のため死体もひっくり返して調べるが、それらしいものとしては小さな金属製の扉などについている鍵『南京錠の鍵』が見つかった。
そして陽葵ちゃんには『手記を目的とした再調査』とは告げているものの、本当の私個人としての目当て品に〈目星〉をつけて、目的物を手にいれる。
「クキキキキキ……」
思わず汚ねぇ笑みがこぼれる。
それは現場監督と思われるこの魔族が着用していた衣服のポケットから見つかった。
今、私の掌の中にあるのはキラキラと
それに、この死体にはもう必要のないものであり、こんな死体が持っていても無意味だろう。この死体も以前、手記で似たようなことを言っていたはずだ。確か……『もう奴には必要のないものだ』だったか? きっと奴も私が有意義に使用することを喜んでいるに違いない。死体のポケットの中で燻ぶらせるよりも、私が持っていた方がもっとうまく扱えるというものだ。神村に破壊された防水加工の衛星電話の亡霊も、私は許そう。と言ってくれたに違いない。
「よっこら……瀬戸ノ内」
「日葵ちゃん。どうだった? しゅき、見つかった?」
「いえ……残念ながら。ですが『犠牲者の手記2』に記載されていた地下に降りるために必要な『南京錠の鍵』を見つけました。地下も調べるかどうかは別として、探索関連で役に立ちそうなものはこれぐらいですかね」
「わぁ……っ! 私は洋館から出るための『鍵』を見つけた時点で満足しちゃったけど、細かいところまで気が付く日葵ちゃんは目が利くね! さすが!」
「むふっ。ふふふ。もう、陽葵ちゃんったら褒め上手なんですから」
「あはは! それじゃあ、もっと褒めちゃう! 照れる日葵ちゃんもかわいいよ!」
死体でできたトンネルの出口で、つつきあうように乳繰り合う。
それから死体の山の下山では、まずは消火器を転がして落下させ、その後に陽葵ちゃんに背負われる形で死体の山を滑り降りた。
下山を終えたところで、改造消火器の分離・軽量化する作業を思い出し手を加える。射撃可能回数は減ってしまったが、軽量化を済ませた改造消火器を背負って暖かい懐で皆の元に戻った。
先ほどから心寧ちゃんが見当たらないが、きっと既にカードキーを所持した3人の元に行ったのであろう。そんな想像を膨らませて。
………
……
…
「あれ? 心寧ちゃんは? こっちに来てないの?」
「なんだ。君達が探しに行ったわけではないのか」
しかし、そこには心寧ちゃんの姿はなく、先ほどと変わらないメンツの3人が部屋の片隅で私達を待っていた。
残量の少なくなったタバコを蒸かしながら腕組みをする神村。『鍵』をちゃんと所持していることを教えてくれるコロ先輩。そしてFN2000に似たライフルを携えるなお先輩の3人だ。
「私は日葵ちゃんと一緒に、私が見つけた死体に取り残しがないか調べに行っただけで……心寧ちゃーん?」
陽葵ちゃんが、外に声が漏れ出してしまわないほどの大きさで彼女の名前を呼ぶが……返事はない。
だがこれと言って、これまでの時間で外に出たような物音は聞こえてはこなかった。
——彼女が魔術的な転送や何者かに暗殺されていなければ、返事の1つぐらいはあっても良いはずなのに。
「全員、武器を構えてください……心寧ちゃんを探します。異常事態発生です」
ここでふとコロ先輩の
私の言葉にコロ先輩を除いて全員が武器を構える。それから室内の死体をうまく避けながら、前進しはじめた。
あぁ!もう!私の馬鹿馬鹿。大馬鹿!
これまでの探索でも問題はなかったから、室内なら大丈夫だろうと思って心寧ちゃんと陽葵ちゃんを2人きりにして、死体の山で隔てる形にして2人を視界から外してしまった!
2人は私が離れた後に室内で、別行動を取ったのだろう。陽葵ちゃんは死体の山。心寧ちゃんは床や壁の死体といった役割で。2人だけで放置してしまうなんて……そもそも、第一になぜ室内での分散は大丈夫だと思ってしまった? コロ先輩の
自分を責めながら先ほどまで通ってきた陽葵ちゃんと歩いたルートを逆走する形で歩いていく。出入り口を過ぎ、死体の山を越え、元の場所に戻ってくる。
——本当に何処へ消えた???
「陽葵ちゃん。陽葵ちゃんが死体の山で鍵を見つけて、私達の元に戻ってくるとき心寧ちゃんは何処に居ましたか?」
「さっき通ってきたルートの壁側に居たよ! 私が鍵を見つけたって言った時は、『後で行くから待ってて』って言ってて! 日葵ちゃんと鍵を持っていた死体を探しに行ったときには居なくなってたから、きっと私達とは反対側のルートから なお先輩たちと合流したんだと思って……!」
陽葵ちゃんの言葉を聴いて、自分自身の親指の爪を噛む。
これはつまり、陽葵ちゃんが『鍵』を見つけた直後はこの場に居たってことだ。私達と合流して、私達がこの現場に戻ってくるほんの僅かな時間で姿を消した。それも悲鳴を出すこともなく忽然と。そういう話になってくる。
「もう一周、室内を探ります! 何でもいいです。気になるものがあれば教えてください! そこの特に死体の山! その中に心寧ちゃんが混じっていないか捜索を!」
私の言葉に4人の表情にも戦慄が走る。彼女達には、私の発言は心寧ちゃんは殺されているかもしれないと言っているように聞こえたのかもしれない。
だが、その線が100%決してないなどと言い切れなかった。最悪の事態であるが、それを事前に告げておかねばその状況に直面した時、私達は正気を保っていられるかは分からない。
再び死体の山を眺めながら、心寧ちゃんを探す。干からびた死体の中に心寧ちゃんらしき身体は混じっているように見えない。“幸い” と言ってしまっても良いものか悩むところだが、彼女の両足は白を基調としたパワードスーツ型のような義足だ。それさえ見つかれば発見はたやすいものだと思っていたのだが……。
「…………!」
不意にコロ先輩が私の肩を叩く。振り返れば何と言っているか分からないほどに口をパクパクさせて、一点を指さしていた。強くなる雨音で〈聞き耳〉をしても彼女の声は聞き取るに至れなかった。
その指の指す先にはクローゼットが置かれており、クローゼットの前にはこの部屋のそこら中に転がっているような首のない死体が、もたれ掛かるようにして座り込んでいる。服装は梅雨に適した薄汚れたチノパンに無地のTシャツ、紺色のベスト、体格からそれが男性だということ。その死体は胸元が大きく切り裂かれており、クローゼットに自身の血糊をべったりと……まるで絵具の付いた筆をキャンバスに対して薙ぎ払ったかのように叩きつけていた。
「コロ先輩、クローゼットがなんですか? 貴女の無口な性格上。声の大きさを上げろと言うのは、こちらとしても大変恐縮かつ酷であることを存じておりますが、今だけ! 今だけで良いので、もっとはっきり大きな声で喋ってもらっても良いですか!?」
「…………。」
口調が強くなってしまうが、コロ先輩は動じた様子はなく先ほどと同じ一点のクローゼットを指さしていた。彼女の口元を見て何を言いたいのか掴もうとする。
なんだ? 彼女の唇の動きを見ながら、もう一度〈聞き耳〉をそばだて、なお先輩がコロ先輩の代弁を始める前に彼女の言葉を聞き取り、聞き取った言葉をそのまま発語して神村や陽葵ちゃんにも彼女がなんと喋っているのか共有をする。
彼女は……『な』……『に』……『か』……『い』『る』と言っていた。
——ガタン!
その時、私の読み上げる声に反応するかのようにして、クローゼットの中から物音が響いた。
~あとがき~
3月から投稿時刻が伸びます!!!
理由は2022/02/22に調子に乗って小説を連投した結果、執筆の体力を使い切りすぎたせいです!!!
3と7の平均値と中央値の数字で行きます!
前回、物語は佳境に迫ると言いましたね。間違えました。
正確には、『物語も“大詰め”となっていきます。』です。
使用する日本語を誤りました!
佳境 :興味深い所、景色のよい所。
大詰め:一つの劇の、最後の幕や場面。 物事の最終段階を指す。
この意味の場合。私が佳境を用いるべきは、前回のEpisode62『黄泉録り』のコロ先輩の魂遁の術で、15年前魔族達の身に何が起きたのか。疑似体験としての情報を得られたことですね。
前回が物語の深部へ触れた“佳境”でしたね!
~評価返信~
『night23様』
■ 素晴らしい作品でした。TS主人公の行動がロックすぎて面白いです。
ただ、ちょっと読みづらいのが難点です。揺れたり歪むのはいいとしても、そのままだと読めないところがあるのがいただけないです。
◇ 賞賛のお言葉ありがとうございます。探索者ムーブなる、クトゥルフ神話TRPGにおいて探索者が実行するような行為を反映している形となっています!
そのままだと読めないと申しますと、やはり点滅やにじみでしょうか? にじみにかんしては作者も同意見です。最近読み直して、直さなきゃなー……とは思っており、気持ちもわかります。
今後はにじみの仕様を多用化しないようにしたいと思ってはおります。使用してもにじみの濃さを軽めの仕様にして。既に読みづらい部分は、一部修正。あるいはきりたんを用いて頂くか雰囲気でふわっとして読んで頂ければと思います。
読みづらさを覚えながらも高評価ありがとうございます! 引き続き本小説をよろしくお願いします!