対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode64 『クローゼットの中身』

 ——ガタンッ!

 

 クローゼットからの物音。

 その音に反応して、神村となお先輩の2人が真っ先に銃口をクローゼットに向ける。コロ先輩はそのまま佇み、クローゼットを睨みつけていた。その中、陽葵ちゃんはクローゼットの中身を確認するために既に駆け出して——

 

「陽葵ちゃん! 待って!」

 

 声を掛けるが、もう遅い。心寧ちゃんの親友である彼女は、願いに希望を掛けてクローゼットを開けてしまう。

 こちらも開ける直前には、射程の長い拾い上げたアサルトライフルへを即座に構えてはいた。クローゼットから陽葵ちゃんを襲う怪物が居れば、鋭いかぎ爪が彼女の引き裂く前に吹き飛ばすつもりだった。

 クローゼットに潜むプギーマンが陽葵ちゃんとのゼロ距離の間合いにいるとはいえ、私の射撃の方がより正確で確実に頭蓋をブチ抜ける。

 

「日葵ちゃん!」

 

 ゆっくりと陽葵ちゃんが振り返る。その表情は安堵で緩み切った顔だ。

 次第にクローゼットの中身もこちらから見えていく。

 クローゼットの中には2人の少女が入っていた。1人は、両足が義足の少女。速水 心寧ちゃんだ。彼女はまるで今回の冒険で疲れて寝入ってしまったような少女のように寝息をスースーと立てて寝ている。

 

「ひっ……」

 

 もう1人は見たこともない少女……というよりも幼女に近い子だった。

 身長や顔のつくりから、小学1年生ぐらいが妥当だろうか? 彼女は怯えた様子で身を縮こまらせクローゼットの奥隅に隠れている。

 彼女はサラサラとしたオレンジブラウン色の長髪で、この場にいる神村よりも鮮やかな茶色寄りのオレンジ色の髪だった。くりくりとした大きな目には濃藍色の光彩が伺える。纏っている衣服からは凹凸なく、青空 日葵のような胸元はぺたんとしている。細い腕に細い脚。ロリータコンプレックス……否この表現は正確ではない。アリスコンプレックスを患い飢えている男には喉の奥から手が出るほどに、たまらないルックスだった。今、怯えている表情も非常に庇護欲をそそらせている。

 

「なんでこんなところにガキが……」

「震えているじゃないか! もう大丈夫だよ。君はこんなところで何をしているんだい? ここには一人で来たのかな? それともお友達と?」

………………。(お ち つ い て。)

 

 緊張していることもあって、バイオショックに登場する正気のリトル・シスターのような幼女に対して、アサルトライフルを構えたまま固まっている私に。コロ先輩がそっと銃に手を置いて銃口を下げさせた。これを機に引き金からも指を外す。

 そのやりとりの間にもなお先輩と神村が近寄って行き、クローゼットを取り囲む。なお先輩は、クローゼットの奥で身を潜めている少女に対して、優しい声色で声掛けしながら幼女の不安を取り除いてあげようと接している。

 

「日ノ出、どけ。……速水、おい速水。起きろよ」

「待って! そんなに心寧ちゃんの頬を叩かないで! 私が代わりに起こすよ! 心寧ちゃん! 心寧ちゃん! ねぇ、起きて!」

 

 神村は陽葵ちゃんと場所を入れ替わり、心寧ちゃんの頬をペチペチ叩いては目覚めさせようとさせていたが、彼女は唸るばかりで一向に目を覚まそうとしない。

 結局、神村は何度も心寧ちゃんの頬を往復ビンタの要領で叩くあまり、陽葵ちゃんが神村と場所を交換し、肩を激しく揺さぶる形で目を覚まさせていた。ガックンガックン揺さ振られるたびに据わっていない心寧ちゃんの頭がゴン。ゴン。ゴン。ゴンゴンゴンゴン。タンスにゴン(クローゼット用)のCMの要領でクローゼットに叩きつけられる。陽葵ちゃんの方がよっぽど、神村の起こし方よりも乱暴ではあったが、たぶん……いや絶対にアレは本人に悪気は一切感じられないような気がする。

 

ぅ……う……ゔっ! ゔっ! ゔっ!!! ゔっ!!! ゔっん……? はれ……? 陽葵ちゃん?」

 

 何度もクローゼットにゴン。ゴン。ゴン。と頭を叩きつけられている心寧ちゃんも、次第に鈍い悲鳴と共に目を覚ました。目を擦りながらまるで先ほどまで昼寝していたような反応をする。

 

「心寧ちゃん! ああ! 良かった! 心配したんだよ!」

 

 陽葵ちゃんが声を上げる。

 私も心配したよ。今は居なくなっていたことよりも、主にクローゼットに叩きつけられまくっていた心寧ちゃんの頭の方が。

 

「クローゼットなんかで昼寝なんて正気かよ?」

「陽葵ちゃんに、神村さん? クローゼット? ……あれ? なんで私クローゼットなんかで寝ているのでしょう……?」

「それはこっちも聞きたいぐらいです。探しましたよ。すごく心配しました。……頭とか……怪我していませんか? そこから降りられますか?」

「あ……。……すみません。ありがとうございます……」

 

 状況が飲み込めていないという心寧ちゃんに対して私も近づき、神村と陽葵ちゃんの間を割って入るようにして手を差し伸べる。彼女はその手を取って、ゆっくりとクローゼットから降りた。

 少しフラついているが、死体の道で数歩歩いたところで感覚を取り戻したのか見失う直前のような安定した歩行へと戻る。

 やがて後方で状況を見守っていたコロ先輩も近づいてきては、なお先輩の元で幼女に対して警戒を解くためのアプローチを開始していた。

 

………

……

 

「心寧ちゃん、あの後。私と別れた後何があったの?」

 

 ひとまず1年組の4人は3年組を見失わない距離まで離れ、心寧ちゃんにどうしてクローゼットの中で寝ていたのか尋ねる。

 

「はい……陽葵ちゃんと別れたあの時、変な死体を見つけたんです」

「変な死体……ですか?」

「もっとこう、詳しく言ってくんなきゃ、俺達にはわかんねえよ」

「……そうですよね。……すみません。ここの死体って全部、首が無くて、干からびていて、緑色で、骨と皮……あとたまに痙攣する死体しかないじゃないですか」

「ああ。たまにあったな、痙攣する死体」

「うん……痙攣する死体は私も鍵を探している時に見ちゃったけど、確かに変だよね」

「死後間もないわけではないのに痙攣する死体は変ですね。確かに」

 

 心寧ちゃんの言葉に3人そろってウンウンと頷く。

 痙攣する死体について初めはヴードゥーの犠牲者/従順な下僕/魔術師の傀儡かと身構えたものだが、ただ単に皮膚が痙攣する緑色の死体は変な死体ではあった。

 

「いえ……あの、私の言いたい変な死体っていうのは痙攣する死体のことじゃなくて……。意図的にバラバラにされたみたいな肉片とか骨がいっぱい落ちていて……。同じく乾燥しているんですけど……他にそんな死体もなかったので……その死体の事です」

 

 知らぬ間にすごい状態の死体を心寧ちゃんが発見していた件について。彼女の発言に3人まとめて彼女を凝視する。

 え? 意図的にバラバラってなに? その話を聞く限りだと、四肢と頭を分断したなんて生ぬるい死体じゃないよね? カチンコチンに冷凍したマグロをクラッシュ歯車に巻き込んだ時のような肉片って言いたいの?

 

「え? ちなみにその死体は何処に?」

「丁度、今いる位置から反対側に位置するところですね。それで、その死体の肉片を調べていたのですが、あのクローゼットの付近で唐突に誰かから抱き上げられる感覚があって……。 さ、最初は陽葵ちゃんが私をびっくりさせようとじゃれついてきていると思ったんですけど……」

 

 抱き上げられるとのくだりから、心寧ちゃんの様子が変わる。自分をまるで抱きしめるかのように腕をクロスさせ肩を抱き、真下を向いてカタカタと震え始める。

 

「違うんです。アレは……。ぶよぶよの肉の塊みたいなんですけど……イソギンチャクの触肢のようにいっぱいあるんです……。……冷凍庫の保冷剤みたいに異様に冷たくて……でも凍り付いていなくて……滑らかだったんです……。それが背中をなぞって、まるで多数の舌が私を……舌で全身を嘗め回して凌辱するみたいに……」

「…………」

「助けを呼ぼうともしたんですけど……怖くて……声も出なくて……逃げようともしましたけど見えない何かに押しつぶされるような感覚が支配していて……。それで……それで…………気が付いたら陽葵ちゃんが私の肩を揺さぶっていて起きたんです」

 

 やはり室内とはいえ、分散したのは悪手だった。

 彼女の話を聞く分に異質な存在に襲われたのは明白だ。それがドレスを纏った首のない貴婦人だったかどうかは定かではないが、心寧ちゃんと生きて再開できたのは不幸中の幸いでもあるだろう。次こそは、同室内であっても絶対に分散するような真似はしないと固く決意を抱いた。

 

「日ノ出。お前はどう思う? その仕業はドレスを纏った首のない女か?」

「うーん……私の聞いた話では、ドレスを纏った首のない女の亡霊はドレスを着てたって言ってたよ? 肉の塊だと違うんじゃないかな? ……抱きしめるのは同じだけど……心寧ちゃん、どこもガブーってされてないし……」

「てめえは? てめえはどう思う?」

「……え? 私ですか? 私は…………」

 

 神村に話を振られて、一応。心寧ちゃんの証言をもとに〈クトゥルフ神話〉技能で該当しそうな神話生物を模索してみるが……私の知りうる神話生物には、いずれも該当しなかった。

 やはり神話生物を判別するには、その神話生物に関する決定的な情報や、実際に自分で体験、その症状について明確にわかるものでなければ判別しかねる。

 クトゥルフ神話における不可視の神話生物はいくらでもいる。私の知り得る限りで十数種にも及ぶ……その中で本人に物理的な攻撃を食らわせなかった存在と絞って言えば、ナチュラルに『ゴースト(亡霊、幽霊)』ぐらいなものなのだが……。

 

「……どうでしょうね。現存の情報のみでは判別しかねます……。ですが、ひとまずは心寧ちゃんと無事に合流できたことが何よりも嬉しい知らせですよ」

 うん! それはそうだね! 私も心寧ちゃんが無事でよかったって思うよ!」

「そればかりは日ノ出と青ぞ……ひまり達に同意する」

「あぁ……ありがとうございます……!」

 

 私達の言葉に心寧ちゃんは感極まったのか少し涙ぐむような声と指先で目尻のしずくを拭って、あの表情があまり出ない彼女がほんのりニコリと笑った。

 さて……あとで心寧ちゃんが見つけたというバラバラ粉砕死体は、向こうで幼女の警戒を無事に解くことのできたなお先輩とコロ先輩、そして新たに脱出メンバーに加わりそうな幼女を交えて調べるとするか……。

 今、彼等は新しい仲間を引き連れて私達の方へと歩み寄って来ていた。

 

………

……

 

 




~あとがき~
 恐縮だが、ポッと出のオリジナルキャラは気兼ねなく殺せるんだ。
 だから安心して、またみてくれたまえよ。

~評価返信(再掲載)~
『メンマ様』
■ とても面白いです!書いてくれてありがとうございます!
◇ すみません、すぐに気が付けませんでした。丁度GWの日程と小説の続きが書けなくて発狂していた時に頂いたみたいです。
  こちらこそ面白いと言って頂いて、読んで評価を入れて下さってありがとうございます! 気が付くのが遅れてしまいましたがおかげさまでバリバリ執筆が進んでおります! 気に入って頂けたようでしたら、今後ともよろしくお願いいたします!

『麻辣担担麺様』
■ これでモチベ上げてくれるならいくらでも評価してやんよおらぁん!
◇ ウゴァァァァァアアアアッ!!! ヒギィッ! あ、ありがとうございます! 今考えると前回は情けない命乞いでしたが、評価して頂いたおかげで執筆の方が雲泥の差でガリガリと捗っております! 目指せ100話! 行くぞEpisode100! デッデデデデッ!!!

『KEROTA様』
■ 主人公のキャラクター性、機転の利かせ方が好きです。
◇ 主人公について過去に評価で『主人公の魅力が足りない』との頂いたことがあるのですが、今ではKEROTA様に主人公のキャラクター性がうまく伝わっている、それも好意を抱かれているという事でしょうか!?だとすればダブルの意味で嬉しいです! 
 やったーっ!!!\(*´∀`*)/ 

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