対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode65 『無茶振り』

 7人メンバーという大所帯は、私の前世であるクトゥルフ神話TRPGの世界線で考えてしまえば、1人、2人いつ死んでもおかしくない状態だ。

 そんな大所帯となった私達は一旦、死体部屋のクローゼットで身を潜めていた幼女の精神的影響を鑑みて、死体の山で構築された部屋から隣の別室へと移動をしていた。

 ここにも壁には血糊がべっとりとしていたが、一切の死体がない分だけいくらかマシな光景に見えてしまう。

 ここでは室内に置かれているベッドになお先輩が腰をかけ、その隣にあのクローゼットに隠れていた幼女。幼女の向かい側にコロ先輩。窓際の壁に寄りかかる神村。出入り口に心寧ちゃんと陽葵ちゃん。書き物机近くの椅子に私が座っていた。

 

 心寧ちゃんが発見した……死体部屋の床に散らばった粉砕死体?

 

 幼女の精神状態の兼ね合いの元、早急に立ち去る必要があるということで一切の調査はできなかったよ!

 心寧ちゃんが一時的と言えど失踪したのだ。あの出来事の直後で分散することなんか、私達の選択肢にあるわけがない!

 

………

……

 

 コロ先輩が幼女の面倒を見ている間に、なお先輩が何故、幼女があのようなクローゼットの中に隠れていたのかを説明してくれる。

 どうやら彼女は一昨日の段階で父親と母親、そして姉の家族4人でハイキングに来ていたそうだ。

 しかし突然の悪天候。ニュータウン(笑)な田舎町である五車町へ入ったあたりから、カーナビの調子がおかしくなり山中にて迷ってしまったらしい……。

 そうこうしているうちに自動車はガス欠でエンスト。JAFに相談しようにも携帯の電波は届かず、車の中で雨が上がり活動できるのを待っていたが……。どこからともなく車体をかぎ爪で凹ませ、タイヤをかみちぎることのできる大熊に遭遇。窓を叩き割られて、あわや熊パンチで死にかけたところ、熊が他の得物に気を取られその場を離脱。その隙に、車の中は逆に危ないと判断した一家は森の中を彷徨い歩いていたところ、洋館があるのを発見。道を尋ねようと洋館の中に入ったところでフワフワのドレスを纏った亡霊に襲われて……——

 

 なお先輩の見立てでは『両親・姉は既に惨殺されたのではないか』という話をかいつまんで話してくれた。

 

 彼女がクローゼットに隠れていた件については、彼女の父親が彼女をクローゼット内に隠したらしく……。あのクローゼットの前で干からびていた首のない死体こそ、今コロ先輩が見守っている幼女の父親だったようだ。

 また幼女の話によれば、心寧ちゃんは非常に慌てた様子で自らクローゼットの中に入ってきたとも話してくれたらしい。心寧ちゃんの記憶が曖昧な以上、こればっかりは真実か嘘か確かめようはない。しかし、なお先輩は幼女の話を信じているようだ。

 まぁ、こんな状況で嘘をつく利点が特に見当たらないのは充分にわかる。

 例え彼女がドレスを纏った首のない貴婦人が化けた亡霊であったとしても……なおさら、心寧ちゃんを生かして私達と合流させたことに道理と理解できない。複数の虫けらを一度に薙ぎ払うよりも、犠牲者の手記や事前情報にもあったように邪魔者を1人ずつ消して行った方が確実性は取れるだろう。

 そもそもクトゥルフ神話における神格や生物は、我々人間の思考などで考えつくような存在ではないが……亡霊にとっての利点が何も思い浮かばないこの状況では、私達がこの幼女を疑うような状況にはなり得なかった。

 

「えっとまず初めに自己紹介と行こうか。僕たちは、これからこの洋館を脱出するために最低限、お互いの名前を知っておくべきだと思うんだ」

 

 事情を話したなお先輩は室内にいる全員に聞こえるほどの声の大きさで話を始めた。

 必然的に全員の視線が、なお先輩と幼女へと向く。一瞬にして私達の注目を集めた彼女は、ビクッとその身を震わせて注目を集める原因となったなお先輩の腕に縋り寄っている。

 

「大丈夫だよ。彼女たちは全員、僕のかわいい後輩……そう、わかりやすく言うなら妹たちなんだ。だから決して怖くないよ」

 

 そんな幼女を落ち着けるようになお先輩は彼女の頭を撫でる。頭を撫でられた彼女は、まるで子猫が母親に舐められ心地よさそうにするかのように目を細めて撫でられていた。

 

「それじゃ、まず……そうだね。君から自己紹介をしてもらえるかい? 妹たちも君の名前を知ればもっと仲良くなれると思うんだ」

 

 彼は幼女の緊張がほぐれるまで優しく頭を撫でた後は、ゆっくりとその手を彼女の肩に回してポンポンと叩く。

 

「うん。あのね。わたしは、『影本(かげもと) 鹿子(しかこ)』って言うの。来年から小学1年生になります。好きなものはアイスクリーム、かな」

 

 それからまずは幼女から、幼さとおぼつかない日本語で簡潔に自己紹介をした。

 『鹿』という名前を聴いた瞬間に条件反射的にも私の体がビクンと跳ねてしまったが、幸いにもその様子は誰にも見られていないようだった。

 鹿子ちゃんかぁ……いい名前だなぁ。

 

「いいね。よい自己紹介だよ。それじゃ、次に自己紹介をしてくれる妹は誰かな?」

「はーい! はいはーい! 私がする! 私がするね! 私は日ノ出 陽葵だよ! よろしく! 好きなものは運動かな! 身体を動かすのって気持ちいいよね!」

「日ノ出お姉ちゃん……」

「せっかくだから、鹿子ちゃんにも陽葵ちゃんって呼んで欲しいけど、ここにはもう一人日葵ちゃんがいるからね。日ノ出お姉ちゃんでよろしくね!」

 

 流石、ソーラーブライトポジティブウーマン。彼女特有の長所(元気のよさ)を全面に押し出して、扉から少し離れる形で鹿子ちゃんに近寄って明るく挨拶している。

 

「それじゃ、次は心寧ちゃん! 自己紹介、いってみよー!」

 

 更に自然な流れで次の人に自己紹介を振る。陽葵ちゃん、自己紹介で自然な流れを作るのうまいなぁ。

 

「速水 心寧です。好きなものは……ふうm——ポッ……は、恥ずかしくて、い、言えません。言えませんけど……私もアイスクリームは好きですよ。味はバニラ味。五車町のアイスは滑らかでクリーミーなんです。無事に出られたら一緒に食べに行きましょう?」

「バニラ……! バニラ! 私も好き! 心寧おねえちゃん、よろしくね!」

 

 心寧ちゃんは自己紹介の最中に顔をぽっと赤らめて、恋する乙女のように首を左右に振って見せた。

 ……今、こいつ……好きなモノ紹介で昼行燈(ふうまくん)って言おうとしなかったか?

 ざっくりと他の5人の様子を伺うが、誰も何も今、心寧ちゃんの『ふうまくんは私の思い人だから手を出すんじゃねーぞ(偏見)』という忠告に反応した様子はなかった。まぁ、少なくとも㊙ふうまファンクラブに関してはここにいるメンバーは彼の話題を挟んでも大丈夫そうだ。

 一歩間違えれば、陽葵ちゃんがせっかく温めた空気をサツバツと化させない発言をする女、心寧ちゃん……! 恐ろしい子……っ!

 否。これは敢えて鹿子ちゃんという子がいる手前、怒れないという状況を利用した自己主張だったのか……? もしそうだとすれば……計算高い! 計算高いわ! この子! でも計算高い行為を瞬時に思いついて実行できる知略が練れるからこそ、洋館へ突っ込もうとした彼女達を止めに来た私の意図を誰よりも素早く察知したのだと思うけど……。

 そしてバニラというオーソドックスな味で、この子の心も掴むことにも成功している。

 

「えーっと……それじゃ、白羽の矢で……神村さん」

「ゲッ……俺か。スーフゥー……。しゃーねーな……俺の名前は神村 舞華。夜露死苦(よろしく) で、好きなモンだったか……そうだな。んー……バリバリにカッコイイモンだな。ビシッと決めてバシッと恰好を付ける。最高だろ?」

「舞華……お姉ちゃん」

 

 神村は心寧ちゃんが私に順番を回してくると睨んでいたのだろう。不意を突かれた順番に動揺をみせるが、タバコを少しだけ吸い込むと煙を噴き出して、気持ちを整えたのちに相手の肝を潰してしまうような挨拶をかました。

 それからハードボイルド風の話し方で恰好を付けていたが……夜露死苦などと気合を入れてしまえば……怯えた鹿子ちゃんがなお先輩に縋り寄るのも当然の流れだ。

 

「大丈夫だ。彼女はあれが普通なんだ。別に君の事を怒っているわけじゃないんだよ」

「う、うん」

 

 そして私の順番が回ってきた。鹿子ちゃんは不安そうな目でこちらを見ている。

 だからこそ、ここで一発逆転。彼女を落ち着かせ安堵させてできる女として一世を風靡するべきだ。ふっ……わたしに任せてくださいよ。陽葵ちゃんの時ような元気を取り戻して見せましょう……!

 

…………♪(頑張れ♪(想像))

………………(コイツか……(想像))

…………………(先に日葵さんに振るべき)…………………(だったでしょうか?(想像))

………………………………(彼女を最後にするのは悪手では?(想像))

…………。(うん……。(想像))

 

 え? 何さ? なんで陽葵ちゃんを除いて、そんな心配そうな顔してこっちを見るの?

 私は群馬県まえさき市で、あわや高位魔族の名誉棄損しそうになったことに対して、完璧なアフターフォローをしたできる女ですよ? そのあと、ボッコボコにぶん殴られたけど。

 でも全員、口には出さないがなんとなしに、そんなことを想像しているような気がしてきたぞ。

 

「最後は私ですか……。青空 日葵です。好きなものは音楽。今後ともよろしくお願いしますね。鹿子ちゃん」

「青空……お兄…………えっと……お姉ちゃん?」

 

 おやぁ……? なんか既に不穏なんですけど??? てか今、この子、私の事を見てお兄ちゃんっていうか、お姉ちゃんと言うか迷ってなかった?

 ……おい、ガキ。今どこ見て私を判断しやがった? 声か? 胸か? まさか胸で判別しやがったわけじゃねぇよな?

 あら。いけない、いけない。うふふ、相手は年下(メスガキ)だ。そんなマジになってどうする。ここは盛り上げられなさそうだったら、頼れるお姉さんアピールだけでもしておこう。

 

「はい。そうですよ。何か困った事や気になることがあったら相談してくださいね」

「あ、それじゃあ」

 

 オッ。さっそく聞きたいことがあるのか。いいでしょう、いいでしょう。

 完璧な回答をして『このお姉ちゃん、できる』というポジションを確立させましょう。

 

「なんで、お姉ちゃんは泥だらけなの?」

「え゙っ」

「どうして足に棒を巻き付けているの?」

「ゔっ」

「手にフライパンを持っているのは、なんで?」

「ぅぇぁ、それはぁ……」

「ねぇ、どうして?」

 

 ここでふと皆の顔を確認する。

 心寧ちゃんは真っ先に私から顔を逸らし、陽葵ちゃんは両手を合わせて俯き謝罪のポーズになっている。神村は呆れ返り、コロ先輩は面白いものを見るような期待している眼でこちらを見ていた。なお先輩は……どうフォローすべきか迷っているそんな顔だ。

 ここで神村に宝物を破壊されて暴れまわって泥だらけになったことや、陽葵ちゃんに足を砕かれた事実を話すわけには行かないだろう。つまり、ここで求められているのは彼女に理解ができて無難な回答。かつ、つまらなかったり私が変人だと思われるような解答は避けるべきだ。

 

「あぁ……これですか……。これは——楽器ですよ」

「がっき?」

「「「!?!?」」」

「「…………。」」

「えぇ、そうです。私は音楽が好きなので、身体に楽器を括りつけて、いつでも演奏できるように準備しているんです」

 

 私の言葉に鹿子ちゃんは興味をもったようだ。神村による怯えた目から一転。好奇心旺盛なキラキラとした眼差しを向けてきている。一方で陽葵ちゃんとコロ先輩を除く、五車学園の愉快な仲間たちは『正気?』『何言ってんのコイツ』『それは無理があるんじゃないかなぁ』という顔や目が向けられる。

 でも、子供って純粋だなぁ……。君だけは私の渾身の嘘を真実だと信じ込んでいるよ。

 陽葵ちゃんとコロ先輩? そりゃもう、2人ともそろって声を殺しながら大爆笑ですよ。声を抑えてケラケラ笑ってます。ありがとう。笑ってくれて。

 

「それじゃあ、一曲歌って欲しいな!」

「ぅぇ……?」

 

 うーん、ちょっとそれは想定外だったかな? 待ってね。ちょっとアイコンタクト会議をするから。

 再び五車学園メンバーへと顔を向ける。流石にそれは止めるべきか悩んでいる心寧ちゃんと陽葵ちゃん。笑顔を浮かべるコロ先輩。『あーあ……』とでも言いたげな顔をした神村。大きな物音は出さないようにとジェスチャーでGOサインを出すなお先輩……。

 

「だめ、かな?」

「うっ……」

 

 渋っている私の反応を見たのだろう。鹿子ちゃんは、うるうると目を潤ませて、自己紹介をした他の3人には近寄りもしなかったのに、私に対しては接近してきた。

 ……間近で、そんな目で見られちゃ…………。子供って残酷だなぁ!

 

やってやろうじゃねえかよ! この野郎!!!

 

「歌います」

 

 もう。これはやるしかなかった。

 なお先輩の言う通り、部屋の外に漏れ出ない程度まで音量を落として演奏すれば大丈夫なはずだ。

 砕け折れた左足を反対の膝にのせて、右手にフライパン、左手にアサルトライフル、腰には改造消火器の銃把の位置を調節する。

 

………

……

 

 

daily(デイリー) necessities(ネセスィティーズ)

作詞・作曲:釘貫 神葬  演奏:青空 日葵

ジャンル:ドロ・メタル 意味:日用品

 

 

 

~[青空(釘貫) 日葵(神葬) 演奏中]~

 

 

 

 

 

 

 

 

[青空(釘貫) 日葵(神葬) 演奏中終了]

 

……

………

 

「——はぁっ……はぁっ……はぁっ……! せんきゅぅーーー……」

 

シュゴー! シュゴー!!!

 

パチパチパチパチ

パチパチパチパチ!!!

 

 ドレスを纏った首のない貴婦人がいるという洋館の一室に、少女の小さな拍手と陽葵ちゃんのそこそこ大きな拍手が重なる。叩く度に生じる激痛に耐え忍びながら、精神的にも肉体的にも、消火器を頭からかぶって物理的にも真っ白に染まった私を労う。

 ヒカキボルグの音が想像以上にいい音を響かせたおかげで、ヒカキボルグを連打しなくてはならない事態に陥った。

 激痛が限界に来た時には、ライフルのリロード音とコッキング、薬莢の落ちる音、フライパンドラムで場を繋ぎながら、踵を軽く鳴らしてリズムを刻み、身体に付着した泥を床に叩きつけてビートを旋律したのだ。

 

「青空お姉ちゃんってすごいんだね。私、すごく楽しかった」

「喜んでもらえて……なにより……ですよ……。でも……続きはWebで……ガハッ」

 

 転がり落ちた薬莢を拾い上げて弾倉に再装填した後、椅子の背もたれに寄りかかりそのまま沈み込む。

 二度とやらねえ……。

 

 怪我した足の固定具をゴンゴン叩いて

 楽器にするなんてクソみたいな所業は二度とやらねえ!!!!!

 

 

 そう、固く誓って。

 

 




~あとがき~
 幼女の事情説明パートを省いたので……。
 少し文章がおかしくなってしまったかもしれません……。
 ただでさえ、長い第8章がこれ以上伸びるのはまずいと思ったので、仕方ないね。
 でも親睦パートは外せなかったんです……!

~評価へのお返事~
 『kode様』
■ 投稿乙です。この小説の特殊タグの使い方って、最初は面食らうけど慣れれば一昔前の神坂一やあかほりさとるのラノベみたいで好き。
  対魔忍RPGのレイド戦って、ちょっと前はURでLv100まで育てた有利相性キャラで編成すれば上級までは1人で勝てたのに、今は救援が入らないとまず削りきれないように調整が入ってちゃって、モチベがいまひとつなんだよねぇ
◇ 評価ありがとうございます! これは年代世代がバレてしまいますよ! お恥ずかしながら、私には『神坂一』や『あかほりさとる』については存じ上げないのですが、本小説の表現構造を好きと言って下さりありがとうございます!
  対魔忍RPGのレイド戦につきましては、同意します。一昔前の復刻イベントで知ったのですが確かに相性さえ合わせれば1人で上級の相手をボコボコにできましたが……今はできないのですよねぇ。せめて超上級辺りからみんなで囲んで袋にするぐらいの難易度が助かるのですが……。

 『大い凪の海様』
■ 続きが読みたいから高評価します
◇ 作者の我儘に付き合って頂きありがとうございます……! 頑張って続きを書いていきますので、今後ともお付き合いいただければ、な。と思います!(;ω;`ゝ)

 『そこら辺にいそうな納豆様』
■ 募金(スパチャのような何か)
◇ スパチャありがとうございます! 確かにお気持ちを頂きました……! 続きの執筆。頑張ります!

 『わん太郎様』
■ 影ながら応援してます。
◇ 影ながらにと言いつつも、表に出ての応援ありがとうございます……! キツくなったら、評価に戻ってわん太郎様のように影で応援してくれる人もいるんだって応援を振り返りさせて頂きますね! ありがとうございます!

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