対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode68 『洋館内で最大級の脅威が、最も警戒していたはずのブラッドドレスを纏った首のない貴婦人という恐怖対象から、穂稀なおという五車学園の一般生徒に切り替わっていた件について』

 レーザーで焼かれた皮膚がヒリヒリ、ジュクジュクと痛むが、私は引き続き彼から逃走し続けることができている。

 金属製のヒカキボルグの足音を響かせて走る私に、背中に笑い狂う陽葵ちゃん。左手には装甲の役割を果たしながらも砲撃を続ける神村。右手には途方もなく大きな棍棒と化したコロ先輩を近接武器として洋館からの脱出を目指す。

 背後へ少し視線を送れば、青ざめた鹿子ちゃんを首からひっさげた、神話生物とどっこいどっこいな白き閃光/プロミネンスキャットがレーザーを乱射しながら、こちらを全力で追尾し続けてきていた。

 

——ビシュンッ!!!!

 

「逃がさない! 逃がしてたまるものか!」

「……ッ!」

 

 しかし、コロ先輩が所有しているカードキーのおかげだろう。明らかに先ほどまでとは洋館屋内の状況は一変している。6人で鍵探ししていた時では燭台に炎は灯っておらず、薄暗い雰囲気の廊下が闇の中に溶けるように延々と続いていたのだが……。今では私達が入った当初と同じように燭台に炎が灯り、先が見通せるようになっていた。

 既に希望は見えている——あともう少しだけ。あともう少しで、この現存している最低限のメンツを引き連れて外に出られるのだ。だから、例えそれがどんな無茶だろうとやってのける覚悟はできていた。

 この終わりなき廊下(絶望)の出口も見えている。廊下(絶望)の突き当りに位置する部分からは、縦に亀裂の入った一筋の外部(希望)の光が差し込んでいた。アレは間違いなく私が築いた20万7千985円! 防水加工された20万7千985円に違いない!

 おーい! 20万7千985円(防水加工された衛星電話)!!! 私はお前の代わりに50万ぐらいしそうな指輪とかネックレスとか装飾品を見つけたぞー!!!

 

「待てぇぇえええっ!!! コロちゃんを! コロちゃんををぉをを!!!」

「…………」

 

 背後から響くは絶叫。

 出口側へと煌めいていた光線が止んだことに気が付いて、もう一度だけ背後を振り返る。

 なお先輩は、そのモデルガンのように見えているレーザー砲の再充填を行っていた。マガジンの部分に該当する箇所が紫色の光で満たされて行く。

 先ほどの室内では、神村の炎であのレーザー砲を炙っている行為に対し、何をしているかさっぱり理解できなかったのだが、何度も繰り返される行動と彼の攻撃方法で構造を理解した。彼の持つあのモデルガンのように見えるレーザー砲は、光を貯めてそれを武器として扱うことのできる超科学的な銃だったのだ。

 私の知り得る知識で類似した存在を例えるなら、充電の必要な冥王星(ユゴス)の科学者/医学的甲殻類の持つ電気銃のような……。だから、あの一見側からみれば支離滅裂な行動は、彼の武器の理屈を考慮すれば合理的な行動であったのだ。

 ……。ところで、なお先輩。頭の中身の脳みそを奪われたり、冥王星の科学者/医学的甲殻類が入っていたりしてませんよね? ……恐らくその人間的な感情が暴発しているところを見るとそんなことはないのでしょうけど。

 

——ビシュンッ!!!! ビシュンッ!!!! ビシュンッ!!!! ビシュン!!

 

 そんな、なお先輩の頭の中身の話は置いといて……。

 いくら『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』のルールによって、神村とコロ先輩の体重と2人の装備の重量を無視して運搬しているような状況とはいえ、背後から銃撃を受けるという事態は着実に私の精神を蝕んでいる。

 この場で逃走劇(チェイス)に持ち込み、逃げ果せても良いが……彼が私との距離をじわじわと詰めてきているという事は、彼は私よりも走る速度が速い(移動率(MOV)が勝っている)のだろう。では、そんな状態で私の説明書にあった楽しい逃走劇タイム(チェイス・ラウンド)に入ったとしても滅多撃ちにされるのは間違いなかった。

 それどころかどのようなチェイスルールを用いれば、彼を出し抜くことができるのか皆目見当も付かない。それどころかチェイス・ラウンドに入れば私だけに不利益が生じることは想像に難くない。

 だが、このままでは埒があかないのも事実だ。なんでも良いから、こちらからも行動を起こして少しでも身の安全の確保をすることが必要であることは理解していた。

 幸いにも、どういう訳かブラッドドレスを纏った首のない貴婦人は背後から追いかけてきている様子はない。既に完全な不可視化によって視界に捉えられない可能性もあるが、それにしてはこれまで館内で聴こえて来ていた貴婦人の嘲笑う『くすくすくす……』という鳴き声は一切聞こえてこない。

 追跡を中止したということに、妙な違和感を覚えながらも同時に好機と捉える。今は洋館内で、一番の脅威として猛威を振るっている穂稀なお先輩をなんとかするべきなのだから。

 

「……ッ……しかたねぇなぁ! そっちがその気ならやってやるよッ! コロ先輩、ごめんなさい!」

 

——ブオンッ! ガッ ゴロゴロゴロゴロ……

 

「」

「コロちゃんんんんんん!?!!!!」

 

 出口まで残り20m程の距離に迫っていたが、骨折のしていない方の足でブレーキを掛けつつ彼に向き直る。その際に、途方もなく大きな棍棒として運用していたコロ先輩を追跡の足を止めるため、彼を目掛けて謝罪と共に〈投擲〉した。

 分かっていたことではあるが、安定した重心で完璧な〈投擲〉を成し得なかった結果。コロ先輩は埃まみれのカーペットの上をスーパーボールのようにボインボインと。悪代官から帯回しをされる遊女のように横回転しながら跳ねていく。時々伺える白目や、投げられて打ち付けられても無反応な様子から、気絶しているという発狂状態にあることだけは確定的にわかった。

 結果として。なお先輩はこちらの思惑通りにその足を驚愕しながら止めてくれた。陸にうち上げられた挙句トラックに撥ねられたコイキングのようにビタンビタンと跳ねるコロ先輩へと走り寄っている。そんなコロ先輩を彼が注視している間に、装甲兼砲台として扱っていた神村の手を放し、魔族が用いていたガリルARを新たな障害である白き閃光/プロミネンスキャットに向けて構えた。

 背中にしがみついている陽葵ちゃんは、振り落とされまいと首に手を回しており、遠心力が加わったことも相まって私の首を……グェっ!! 

 

「……よくも! ボクは……っ! 僕はッ! 僕は絶対に君を許さないッ! 君は僕達に指揮を執るとか言いながらも本心では、自分の指揮の有能さをひけらかして、僕から隊長の座に加えてコロちゃんまでもを奪おうとしていたんだな! 君みたいな問題児は外に出してはいけないんだ! いや!君みたいな人間は処分されるべきだっ! ここで五車風紀隊の隊長として君を処分するッ!」

「ゲホッ!? ゴホッ! ゴホッ!!!」

 

 『いつになったらなお先輩の支離滅裂な暴走は治まるんだ』と思うほどに、彼は彼らしくもない冷静さの欠いた血走った眼でこちらを睨みつけ、ブラッドドレスを纏った首のない亡霊がこちらを襲撃してくる可能性さえも厭わず大声でこちらを〈威圧〉してくる。

 おまけに銃口を完全にこちらへと向けていた。まさに射殺される1ラウンド前(12秒前)とはこのことを言うのだろう。

 私としてもコロ先輩を〈投擲〉したあたりで既に銃を向けてはいた。彼がこちらに銃口を向け私から撃たれる覚悟が整った瞬間に、既に構え終わっているガリルARを全弾連射するつもりであったが……。

 流石にあまりにもの勘違い男の支離滅裂な言動にカチンとくるものがあって引き金を引くよりも先に口を開いてしまったこと。20発全弾を彼へ向けて放つことによる様々なリスクの誘発を恐れるあまり、20発の弾丸が込められた弾倉(マガジン)から、13発の弾薬が込められた弾倉(マガジン)へ交換を行ってしまったことが災いして射撃に出遅れが生じてしまっていた。

 

「この……勝手にほざいてろ! どいつもこいつも、ふうま君だの、コロ先輩だのそっちの勝手な勘違いで暴れやがってぇっ! 私は洋館から全員無事に脱出させたいだけだっつってんだろうがぁッ! 心寧ちゃんはどっかに行っちゃうし! 背中からは撃たれるし! 濡れ衣を着せられるし! 大体、こちとら【鹿之助くん一筋】なんだよ!はい!ここ大事ッ!!! 私は(だぁぁれがッ)!!!あんな昼行燈(ふうま君)超能力少女(コロ先輩)を好きになるか! このボケカスゥ!」

 

 狂気的な状況にある分、彼の反応は仕方のないものであるとは理解しているが、私の堪忍袋の緒も限界が来ていたのだ。首にしがみついている陽葵ちゃんの腕を掴んで締まった首を緩めながら、彼へとこれまでに抑えていた恨み言を怒鳴り返す。

 冷静でない相手には、1年前のテロリストと交渉した時と同様に感情かつ荒っぽい訴えかけの手法を用いた〈交渉ロール〉の方が好ましい。冷静に諭すことはヒートアップしてしまっている相手の頭脳では処理・理解されにくいからだ。まぁ、荒っぽい言動は相手がよりヒートアップすることが間々あるものの、冷静さを欠かせて隙を作るには持ってこいではある。諸刃の剣な場面になる可能性も高いけど。

 案の定、私の発言に歯を食いしばり怒りの表情を露わにしたなお先輩はトリガーに指を掛け、完全な銃撃の体勢に入った。紫色の光が充填されたレーザー砲の焦点が私へと突きつけられる。うーん。これは〈言いくるめ〉失敗した感じがある。もう一発、今度は身体の前面をレーザーで焼かれそうな流れだ。

 ……ふとここで、援護射撃が欲しい時に限って砲撃が止んだ神村へと視線を落とす。

 

 カチッ カチッ カチッ カチッ カチッ カチッ カチッ カチッ……

 

 彼女は何も出ないロケットランチャーのトリガーを一定の間隔で引き続けていた。やけに周囲が静かだと思えば…………これ、暴力衝動の発狂じゃねぇな?

 

「……ひまりちゃん? “しかのすけくんひとすじ”って、どういうこと? ひまりとはあそびだったの……? こんなにひまりちゃんのこと、ひまりはだいすきなのに? あいしているのに?」

 

 そんな中、今にもなお先輩の引き金が引かれようとする瞬間。静寂に包まれた部屋で私の耳元から背筋が凍るような一言が——いだだだだだ! 耳を噛むな! 耳を噛むな! 耳を! 噛むなぁっ!!!  マジカミッ!!!

 

ちゅぱっ ぺろっ ちゅちゅちゅ♥♥♥

 

 あっ や゙め゙ろ゙ぉ゙ぉ゙っ゙!゙!゙!゙ 

 

 飴と鞭とか言いたげに、私の耳を舐め始めるな! こそばゆい快楽で転びそうになるんだよ! おいコラ! 耳の中! それも更に奥へ舌を細めて入れるな!!! 中耳炎になるだろうが!!! 陽葵ちゃんは5人の中で特に仲が良かったから大事にしてたが、そっちがその気なら陽葵ちゃんもこのまま床に叩きつけてやろうか?!!!

 大体、いつ私が陽葵ちゃんとそんな関係になった! 今こそこの場には居ないけど、陽葵ちゃんには心寧ちゃんという大親友がいるだろ!!! 狂気に陥っているからってやっていいことと悪いことがあるんだぞ! 陽葵ちゃんッ?!!

 

「ふふふ……♥♥ しかのすけくんはひまりちゃんに、こんなことてくれないでしょ? ひまりはひまりちゃんのためならいつだっててあげるよ?♥♥♥ ほぉら……からだはしょうじきだね ひまりちゃんのとっきぶも…… もう、こんっっっなに、ガッチガチにかたくなってるよ……?♥♥♥

「なっ……! 君はコロちゃんのみならず、日ノ出さんにも手を出していたのか!?」

「うん、陽葵ちゃん!! これ以上は話がこじれるから黙っててくれませんかねッ?! あといつか鹿之助くんにはてもらうから! 私がヤるから!! だから、彼からされなくてもいいの!!! 私が! するから! 私が! 彼を! 食べるんだァッ!!!」

「……ひどい。ひまりちゃん、ひまりのことをすてるの……?」

「まだそんな関係にも——バッ! い、いまぁ……く、くびを! くびを絞めるなァ……!」

「不潔だ! 君は不潔だ!!! やはり君は、不純異性交遊……! いや! 不純同性交際により……だがこの場合は……不純異性同性交遊によって、ここで処分する!」

「ひ、ひまぁりちゃん! なおせんぱいがこわいこといってる! こわーい!」

「だからッ、くびを……絞めるなァ!」

 

 会話の内容が痴話喧嘩のそれだが……風紀委員で真面目君らしい、なお先輩には目前の光景に対する衝撃が大きかったのだろう。

 陽葵ちゃんが私の外耳道から舌を引っこ抜き、甘い声で囁きながら、片手で私の日葵ちゃんをつまみ、コリコリ。カリカリ。さすりさすりと弄ってくれたおかげで。明らかな動揺を見せたなお先輩の照準が私からズレて床へと、動揺のあまりあわやライフルを地面に落としかけている。あれでは正確な射撃はできまい。いいや、なお先輩が所有しているのはライフルなのだ。この戦闘ラウンド(タイミング)では私の事は狙えないに違いない。

 

「び、びま゙ぁ゙……ちゃ゙ん゙!゙ 自分の耳を塞げ゙ぇ゙!゙!゙」

 

 首を絞められてダミ声になりながらも、隙を作るのに貢献してくれた陽葵ちゃんに『首を絞めるのを止めて、耳を塞ぐよう』指示を送る。ここでやっと、窒息の危機から脱して……。

 

「ひまりちゃん、やっさしー! これはもう、絶対! そうしそうあいだねっ! じゅんび、おっけー!」

「……」

 

 陽葵ちゃんは自分の両手で自身の耳を塞ぎながら、ぷにぷにとした肘近くの上腕筋で私の耳も挟み込むように塞いでいた。……陽葵ちゃんさぁ、発言はアレだけど。こういうところがあるから憎めねぇんだよなぁ。

 ともかく。悪いな。なお先輩。ライフルの早撃ち、ここで決めさせてもらう。

 

ズガガガガガガガガガガガガガッ!!!

 

 先ほど定めた照準のまま、引き金を引く。もちろん、射撃方法は連射(フルオート)だ。

 なんと言ったって、私には『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』68頁“火器のスポット・ルール《自動火器、連射》”が適応される。加えて■2つ目の収束弾道ルールまでもが命中率に加算されるのだ。これにより、私の攻撃命中率は最大2倍まで跳ね上がる……ッ。

 そう。命中率が2倍まで上昇する。これが何を意味しているか。

 それは『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』49頁“技能ポイント”3段落目の概念『どんな技能(・・)も99%を超えることはない』という概念を “払拭” することができる。現在、私の “命中率” は99%を突破し、確実に弾丸をブチ当てられる! それは同時に、最初の一発目しか適応させられないが66頁の“戦闘のスポット・ルール”貫通……相手にとって致命的な部分に命中して重傷状態を発生しやすくなっているという事でもある。

 更に『新クトゥルフ神話TRPG』における“貫通”の定義・概念を適応させれば、99頁の“イクストリーム・ダメージと貫通”を流用できるだろう。『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』の貫通などよりも比較にならない程の一撃だ。その威力は具体的に、12ゲージ・ショットガン(散弾)を10m圏内で放ったぐらいの期待値を持った火力にはなる。

 

「ッ!」

 

 私の狙った弾丸は正確に彼の武器を捉えた。

 (新)クトゥルフ神話TRPGには、部位狙いルールなるものは存在しない。*1

 しかし、『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』67頁 “戦闘のスポット・ルール《一部が隠れている場合》”に露出した部位狙いについて。更に77頁 “キック”の『股ぐらやアゴを狙った』という部位の指定、おまけに『新クトゥルフ神話TRPG』109頁 “掩蔽と遮蔽” には半分以上その姿を現わしていれば“狙える”趣旨が掲載されているのだ。

 ゆえに私はこれらの手段(ルール)を用いて彼の武器。それも弾倉部位を狙った。

 殺すことは目的じゃない。

 この場から私の背中を焼くつもりの厄介な銃火器の無力化さえうまく行けば、今はそれで充分なのだ。

 

バキンッ!

 

「ぐぅっ!」

「ビューテフォ……」

 

 私の思惑通り、幾発かの弾丸がなお先輩のレーザー砲に突き刺さる。そのほとんどは効果がないように見えたが……私の世界線でのバフをかけまくった最初の弾丸だけは異なった。その弾丸は光のエネルギーをチャージしていると思わしい貯蔵タンク部位に突き刺さる。

 まるで沈没していく船内に、水圧に耐えきれなくなったガラスへヒビが入るかのようなビシィッという異音が響き、バキンと弾倉部分が弾ける音がした。見る見るうちにチャージされていたレーザー砲のエネルギー源が漏れ出て空へとなっていく。

 彼はそんな銃火器に対して、再び光のチャージのために燭台へと近づくが……もう充電はできないのろう。目頭にしわを寄せて怒りをあらわにこちらへと振り返っていた。

 

消火器(しょうかき)の妖精(のピクシー)……!」

「ヘッ……グピッ?!

「ひまりちゃん……? おへんじは……?」

「わかった! わ゙が゙っ゙だ゙っ゙!゙!゙!゙ 陽葵ちゃん! 陽葵ちゃんが一番好き! 陽葵ちゃんが、一゙番゙ずぎだ゙がら゙っ゙!゙!゙」

「——ムフー

「ムフーじゃねぇよ……ぉぇっ……」

「そんな乱暴な口調のひまりちゃんも、ひまりだぁーいすき♥♥♥

「はぁ……嘘つけ。その感情。(発狂しているだけだから)絶対、今だけだぞ」

「そんなことなーいもーん! あ、そうだ! ひまり、ひまりちゃんのすきなところいってあげようか? 100いじょうあるけど……えへへ♪」

「……勝手にしろ」

「はーい! それじゃあね、まずひまりちゃんのすきなところは——

「陽葵ちゃん……」

「ちくびが——ん? なぁに?」

「そんなこと言われたって、突っ込まないからな?」

「ひまりちゃんは、つっこむよりつっこまれるのがすきなの!? いがい~! あぐれっしぶなところとかから、てっきりつっこむがわかと——」

「……。…………よっこいしょういち」

「……! 待て!」

 

 脅威を完全に排除した後は簡単だった。首を絞めて気絶させたのちに、こちらの身体を弄ばんとする陽葵ちゃんをなだめる。彼女からのを受け止め応えると、大人しく首を絞めるのを止めて、肩からうなじに掛けた部分に顎を乗せては幸せそうな声を上げていた。

 そんな陽葵ちゃんを適当にあしらいつつ、燭台に注目しているなお先輩からコロ先輩を奪取する。床に転がっているコロ先輩が『鍵』を所持しているか確認をして、途方もなく大きな棍棒での運用として持ち上げた。もちろん、一度は手放した神村の回収も忘れない。

 それから、我先へと出口目掛けて走った。振り返れば遠距離からの射撃攻撃手段を失った先輩が追いかけて来ている。着実に距離を縮められてはいるが、あの精神的負荷の掛かっていたレーザー光線は飛んで来ない。

 うん。実に完璧な戦闘だった。実にスマートな戦闘。

 やはり戦いってのは、状況に応じて頭と知識を駆使して問題に立ち向かうべきなのかもしれない。『CALL of CTHULHU クトゥルフ神話TRPG』33頁 “頭を使う”の項目にもそのような趣旨が書かれていたはずだ。

 

………

……

 

 洋館の外まであと数歩というところで、ある異変に気が付く。

 それはこの洋館に訪れた当初とは異なる点だった。

 この洋館の入り口には2階へと登れる階段と、南京錠で封印された地下へと続く階段が存在するのだが……。

 その、肝心の地下に続く階段の封鎖地点が、1階の廊下側から強引な一撃でも貰ったかのように叩き開けられ、周囲にはなお先輩のレーザー砲で焼かれたかのようなコゲ目が木の板から煙を放っている。煙の先には怪物の口のような漆黒の闇が広がっていた。

 あの時は……鍵がかかっているから、この中に誰かが入って行く心配はないモノとして探索することを見逃していた。でも今は……——

 

「うおあああああああああアアアアアッ!!!」

「んなぁぁあああああああ!?? お゙ぅぇっ?!」

 

 地下への階段の前で、異変を眺めている間になお先輩による膝裏を目掛けた日大悪質タックルが突き刺さった。膝が関節にとって適したくの字になって吹き飛ぶ。メイド・イン・アビスのナナチとおそ松さんの十四松が混じり合ったかのような声が出る。

 陽葵ちゃんの『わぁー』という気の抜けた悲鳴が聞こえる。く、くびが。首が締ま……るぅ。

 おかげさまで洋館からの脱出は、質量と重量が込められた膝カックンを強制的にさせられるような姿勢で、土砂降りの洋館の外に私達は鹿子ちゃんを加えた6人で洋館を文字通り転がり出たのだった。

 

 

*1
サプリメント:『クトゥルフ・ナウ』には部位狙いルールが掲載




~あとがき~
 文末の方に作者の文で「日大悪質タックル」という言葉があったということは事実です。
 ただ、これは本小説上においてよく使う言葉で、「日本に存在するどこかの大学であったとされる悪質タックル」という意味です。特定の大学を指定している訳ではございません。誤解を招いたとすれば、言葉足らずであったと心苦しく思います。
 じゃ最後に……マッチョして❤

 結構(今回のお話は、身内側から耳を)ガボガボ掘られましたね。
 それよりも1人ばかり失踪しましたが、これにて無事に洋館から脱出しました!
 さて……時間軸は歪んでおりましたが、外に蓮魔先生は黒田先輩を引き連れているのでしょうか……? いないと良いですね!


~生還報酬~
 正気度報酬 2D6
 新クトゥルフ神話TRPG 選択ルール:幸運ポイントの回復(95頁)
 成功した技能の成長ロール

・特記
 穂希 なおくんに、《クトゥルフ神話》技能を+5% 贈呈。
 神村 舞華ちゃんに、《クトゥルフ神話》技能を+5% 贈呈。
 死々村 狐路ちゃんに、《クトゥルフ神話》技能を+5% 贈呈。
 日ノ出 陽葵ちゃんに、《クトゥルフ神話》技能を+6% 贈呈。

小説初期から、オリ主(釘貫 神葬)と水城ゆきかぜ(と秋山 凜子)とは面識があるという情報をちょくちょく出していましたが……。どういう経緯で知り合ったのか、その内容を描いた本作の~外伝~小説は、閲覧者兄貴姉貴達にとって需要はありますか? あれば本作の息抜きがてら描きたいと思います。

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