対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
Episode69 『ダイナミック☆お邪魔しました』
悪質な日大タックルによって膝裏から吹き飛ばされた私は、雨ざらしの屋外へと飛び込むことになった。
目前には泥の地面が広がっていたが、いくら泥とはいえこの質量と重量、速度が加わった衝撃を緩和するためのクッション材としては微々たるものにしか過ぎない。
そんな地面に陽葵ちゃんを下敷きにするわけにもいかず……。腹筋を使って無理矢理にでも上半身を起こして、歯を食いしばって決死の覚悟で私の顔面から泥の中に飛び込む。
ズザザザザザザザザザザザーーーッ!!!
地面に顔面からもみじおろしにされるようなノリで顔面スライディングをキメる私。本日2、3度目の顔面から泥に飛び込む出来事に涙が出てくる。しかも、ストレスで感覚器官がおかしくなったのか、この泥が人肌並みに温かいのが……なんか泥にまでも慰められているみたいで……私の涙腺を余計に刺激する。
やめろよぉ……。そんな私の涙を拭わないでくれよ……。泥にまで同情されたら、私が本当に残念な奴みたいじゃないか……。
地面への顔面スライディング。当然、激突の衝撃で左手に持っていた神村と右手のコロ先輩も手放し、周囲に彼方へと転がっていく。
(おんなのこにしていい仕打ちじゃない……! こんなの、女の子にしていい仕打ちじゃない!)
そんな泣き言を心の中で叫びながら、泥の中に突っ伏していると次第に私の膝にしがみついていたなお先輩の重量が消失し、右手側から誰かが走り寄ってくる音が聞こえた。
「おい、大丈夫か? 立ち上がれるか?」
ここでふと、再び泥まみれになった顔面を泥に突っ伏したままになりながら、泣きたい気分になっている私に対して、誰かが泥の地面に膝をつき手を伸ばしてくれる。重たい頭を持ち上げてナスDのような顔で見上げるも、首の可動域上その人物の顔までは見えなかった。しかし、どデカい爆乳と1年前に見たことのある井河アサギのぴっちり対魔忍スーツじみた紫色のロンググローブと紫色のサイハイソックスは最低限確認できる。
「うぅぅ……どこのどなたか存じ上げませんが……すみません。まずは背中に乗っていると思わしい、背中の陽葵ちゃんを降ろしてもらってもよろしいでしょうか……?」
「……わかった」
「わたしの……わたしの首を絞めてくるので……ゲホッ……。剥がすときは慎重にお願いします……」
「…………うむ」
「やー! やぁー! ひまりはひまりちゃんといっしょなのー! まだひまりちゃんのすきなところ874こも、いってないー! ひまりちゃぁあぁあああああああ!!!」
「日ノ出 陽葵! 大人しくしろ!」
「ひまりちゃぁあぁああああああああああ!!!」
陽葵ちゃんの絶叫と共に背中が軽くなる。あー……なんだろう。もう十分に頑張り切ったし、ここでダウンしてもいいかなと再び顔面を泥に突っ伏した。
病院の一般病棟でも、患者16人に対して医者1人、患者3人に対して看護師1人の割合とか比率が決められているけど、私はそれらの職業についているわけでもないのに発狂者4人の面倒を1人で見たのだ。
もうちょっとしばらくこのまま休んでいたい。折れた脚も確認したくないレベルで何も感じないし……。先ほどまで人肌ほど温かいと感じていた泥も、今では『慰めの時間は終わりだ』と言うように冷たいし……。動けない私に、そんな思考が錯綜していた。
「おいおいおい……? この前ナスビ色にしてやったばかりなのに、今度は真っ黒じゃねーかよ。1人だけスプラチューンな奴がここにいるとは——オラ。起きろよ」
ゲッ……。聞き覚えのある声。脇腹に軽く足の甲で蹴られたかのような衝撃。……このタイミングで出会いたくないヤツの声。
この状況では関わりたくもないため、しばらく死んだふりをしていると、今度は私が神村にしてやった時のように首根っこを掴まれ強制的に引きずり起こされる。虚ろに開いた瞼の先に映ったのはブリーチ色の髪、自然に下ろした長髪にギラついた笑顔。私の左手に握られていた神村と似たような赤いチャイナドレス風の服を纏った——プラチナブロンドの光彩をした勝気の強そうな女性。
そう。陽葵ちゃん談では、戦闘狂で有名らしい眞田 焔先輩だった。
「あぁ…………」
「ンだよ、露骨にがっかりした顔をされると、助けに来てやったのに損した気分だぜ」
「……助けに……?」
「そうだよ。ほら、その顔面についた泥を拭って周りを見てみろよ」
「……うわっぷ! や、やめてくださいよ。自分で泥は拭う! 泥は自分で拭いますから!」
ふらつきながらも2本足で立ち上がる。眞田先輩から泥を拭うため往復ビンタをされるのを避けるように身体を前傾姿勢で屈めながら、手で顔面の泥を拭って周囲の状況を確認した。
「————」
周囲には、様々な五車学園の生徒や教員。雨合羽を纏った警察関係者が洋館の前で洋館から転がり出た5人の治療や保護にあたっていた。
洋館を中心にベースキャンプが築き上げられており、何をどうしたのかは分からないが、洋館の周囲は5mもあろうかというほどの隆起した土の壁で覆われている。あれならば外周の森林地帯から熊に奇襲されるような心配はないだろう。
その中には現場の指揮を執る蓮魔先生とそんな蓮魔先生に付き添う黒田先輩の姿もあって…………。
あ、ヤベっ。目が合った。
「青空ァ……」
「…………」
「げぇっ!
目の逢った瞬間に『あなたは今、私と出会ってどんな気持ちでい~る~の~?』なんて疑問を投げかけなくても、彼女が建設重機喧嘩バトル ぶちギレ金剛状態なのは火を見るよりも明らかだった。
あの殺気だった目つきに加えて、まるで膝まで浸かる程の沼の中をズンズンと力任せに突き進むかのように肩を大きく揺らしてこちらに近づいてくる。さらに言えば、この土砂降りの雨の中。2人とも傘や雨合羽を着用しておらず、そのありのままの自然体で雨に濡れる姿が私の恐怖を煽り立てていた。
とっさに『バケモノにはバケモノをぶつける理論』で、眞田先輩の背後に隠れて首筋側からひょっこりと2人の様子を伺う。
まぁ。眞田先輩が壁になるなんてことはなく、眞田先輩はやるべきことはやったと背中で語りながら両手を自身の頭の後ろに回して、やっと正気に戻ったらしい神村の元へ歩いて行ってしまった。
私としても眞田先輩の両肩に手を置き、俯き、両腕で顔を隠して威嚇するカマキリのようなポーズになりながら、電車ごっこのノリでその場から離れようとするも、黒田先輩と蓮魔先生に両肩を抑えられて強引に引き離される。
「蓮魔、
「すみませんッ!」
「まったく貴様という奴は……。事前に私に対して報告してきたことは認める。だが、あれほど洋館には入るなと言っただろう?」
「おっしゃる通りです! おっしゃる通りでした! 蓮魔先生! でも、私はその件に関して洋館には入らないとは言ってません!!! 『善処する』*1って言った記憶があります!」
「あのなぁ、そういう問題じゃない。そういう問題じゃないんだ。お前は入ってはならない場所に不法侵入した。この意味がわかるか?」
「わかります! その件は、すいませんッッッ!」
その構図はさながら親父狩りに遭う。オバサンの図だった。
「まぁまぁまぁ。蓮魔先生、そのくらいでいいじゃないですか」
「……室井先生。しかしだな、青空は……」
「説教であれば学校に帰ってからでもできます。まずは彼女の様態と怪我具合を校医の私に確認をさせてもらってもよろしいですか? 彼女。私の見立てでは片足を粉砕骨折以上の怪我をしているように見えますよ?」
「あっ! あいた! あいたたたたたたたっ! そうなのー! ワタシ、足がー! 足が折れてるのー! イタイヨー! イタイヨー! イタイヨー! んほぉぉおおぉおおおおおおおお!(白目で舌出しアヘ顔ダブルピース)」
「馬鹿にしているのか貴様……」
「チ、チガウヨー! ウェーン!」
そんな親父狩りの構図を繰り広げているところに、私を五車学園の地下に存在する病院へ監禁することで(私の中で)定評のある室井先生がビニール傘を片手に、看護師を1人引き連れて会話に割り込んできた。
さらに私の足の状況も一発で見抜いて助け船を出してくれる。本当は脛から足先までの感覚はなかったが、こちらも痛いふりをして大袈裟に騒ぎ助け舟に乗りつける。
おまけに対魔忍世界ジョークとして、無様アヘ顔ダブルピースを晒したのに理解してもらえなかった。対魔忍世界のはずなのに。なぜだ。
「ふん。本当に白々しい痛がり方ですね。青空さん、あなた本当は足など痛くなんかないんじゃないですか?」
「ソ、ソソソソソ、ソンナコトナイヨー! ウェーン! イタイヨー! イタイヨー! 足の骨を折っちゃったのー!」
「本当ですか? では、本当ならその足を今ここで見せてもらってもよろしいですよね?」
「エッ……それは……良いですけど……。……黒田先輩、私の脚……本当に見ます?(素)」
「……何故そんな含みのある言い方をするんですか? やはり貴女——」
「黒田。もういい。室井先生の言う通りだ。……そうだな。続きは学校で話そう」
「……承知致しました」
「イヨッシャァァァ! あっ、イタイヨー!オーン!おんおんおん!(かにかま流あえぎ声)」
「……。……今回の彼女の活躍は目を見張るものがありますよ。あなた方の流儀に乗っ取って考えた場合、私としては彼女の今回の件をおとがめなしで対応しても良いとは思うんですけどねぇ」
「そこは生徒指導部である私と校長、他の教師が判別することだ。校医が判断することではない」
「ははは……蓮魔先生は真面目なんですから。はいはい。わかりましたよ。では、青空さんはこちらでお預かりしますね?」
「好きにしろ」
やったぜ。
なんとか、この場は蓮魔先生と黒田先輩を撒くことに成功する。
そんなことよりも、あの私を地下に縛り付けることに定評のある室井が今日はイケメンに見えるわぁ! 何かしら? 心はトキめかないけど、これまでの監禁を許してあげられそう!
許さねぇけどな。措置入院で私の学校生活のイベントを潰した罪は重い。
………
……
…
あの後、室井先生に追従した看護師が私と室井先生が濡れないようにビニール傘をさし、腰が抜けてしまった私を室井先生がお姫様だっこするような形で医療用簡易テント内のストレッチャー上に寝かされる。
寝かされると言ってもそれは一瞬の出来事であり……私としては長座位になる姿勢を保ち、室井先生の指示の元、他の生徒の治療の為去って行く看護師と治療の準備をし始める彼の背中を眺めていた。
室井先生は非常に細身で、背後から野球のバットでフルスイングしようものなら、骨を簡単に折ることができそうなほどの貧弱な身体をしているのだが……。意外とああ見えて、体重が68㎏ある私を御姫様抱っこで悠々と持ち上げられるほどに筋力はあるようだ。
私としては、室井先生の容姿は非常に好みなのだが……どうもこれまでの行為が彼を嫌う要因となっていた。容姿だけは私好み。そんな感じ。
私の好み的な話では、鹿之助くんはキング オブ レジェンドな存在ではあるが、男性教師陣で好きな容姿順をあげるならば。やはり室井先生は一番に上がってくる。その次に
そんなことを考えながら室井先生を眺める。彼は医療鞄から様々な薬品を取り出して、それを机上に並べていた。そのほとんどが室井先生の身体に覆われてしまっており、何をしているのかは分からないが、チラリと見えた注射器の空気抜きをしているのがぼんやりと眺める私でも理解することができる。
私も大したことはできないが、治療を受けるにあたってそばに置かれていた清潔なバスタオルと飲料水で患部を洗い流す。第二次世界大戦、塹壕戦を繰り広げたドイツ兵のように真っ黒になった顔や腕の泥が取れて多少はマシな姿にはなった。
「さて、と。早速ですが青空さん。治療のために、この乱暴に固定している火かき棒を外して、ズボンを裁断してしまっても構いませんか?」
「もちろん。手当してもらえるのであれば構いませんよ」
「……」
『先ほどまでの痛がる素振りは何処へやら……』とでも言いたげな室井先生が、ハサミを片手に近寄って来る。
それから脚に付けていた聖剣ヒカキボルグが取り外され、断切りハサミで衣類が切除されて行く。さてはて、実際に見るのは初めてだが私の脚はどうなっているのかな……っと——
「——ン゙っ゙!」
「これは——……青空さん? あなたは一体、あの洋館で何をしたのですか?」
「ぁ゙ぁ゙ぁ゙ーーー……んー……」
ズボンが断裁され現れた患部を見た時。室井先生に原因を問われたとき。何も答えることはできなかった。
これは、ひどい。一言で言って、ひどい。でも自分の脚なのに、なぜ途中から感覚や痛覚が途絶えたのか、これではっきりもした。
今。私の脚。丁度、膝の下。脛の部分。その脛の皮下には、ハリネズミが存在していた。ズボンで保護されて泥こそ付着してはいないが、骨が皮膚を突き破って飛び出た血潮が靴下を赤黒く染め上げている。弁慶の泣き所の中心がまるで圧縮されて、ハンバーガーを真横から見たような……その上から皮膚をかぶせたみたいな側面をしていて……。
「室井先生」
「……何でしょうか?」
「これ、桐生先生の魔界医療で治ります?」
「……おそらくは」
即答しない部分が余計に私の恐怖を煽る。
ま、まぁ。大丈夫だって。なんとかなるでしょ。なんとかならなくったって、その時は心寧ちゃんみたいにサイボーグの義足を付けてもらおう。そう。心寧ちゃんだって、あんな素敵な義足を付けて、あんなに洋館内を爆速で走りまわっていたのだから、きっと大丈夫だって……ってって……あ。心寧ちゃん——
~あとがき~
確定ガチャを使って【サンライズチアー】日ノ出 陽葵ちゃんを2枚も、入手しました! これはタブルひまりを暗示してますね! 間違いない……っ!
回想も開放してきました。
これは……3枚目が出た場合、今回の回想が繋がる予感がするのと、今回の導入の経緯を見て思ったことは「フフ……へただなあ、ヒマリちゃん。へたっぴさ……! いや、警戒心を持って! お願いだから!」……現場からは以上です。
3枚目、4枚目のNew 日ノ出 陽葵ちゃん娼館のために、本小説にトリプルひまりちゃん、クワッドひまりちゃんを召喚する必要があるかな?と思った次第です。
日ノ出 陽葵「Vは勝利のピースサイン!」
???「ブイが3つで、トリプルひまり! 点と点を繋ぎを合わせて夏の大三角形△!」
??????「ヴイが4つ揃えば、
4人「「「「我等、ひまり! クアッドひまり参上!」」」」
はい。
~評価返信~
『人生下り坂様』
■ 対魔忍かクトゥルフTRPGのどちらかをふんわりとでも知っていればかなり楽しめる作品だと思います。私は対魔忍をふんわり、クトゥルフを程々に知っているので更新を楽しみ待つくらいに楽しんで読んでいます。クロスオーバー物の醍醐味であるお互いの世界線の常識のギャップを丁寧に書かれているのが個人的に嬉しいです。
◇ 人生下り坂兄貴! 感想欄で去年の冬から顔を見せてくれる人生下り坂兄貴じゃないか!
更新を楽しみに待ってくれるだなんて……照れます!(///‘ω’///)
私も対魔忍RPGで対魔忍のことを学習するまでは、対魔忍ふんわり、クトゥルフがみっちりであったのですがそんな中でも対魔忍側の価値観が描けていましたか!それは吉報です!よかった! 今後も相容れない価値観による事故は怒ると思います! お楽しみに!
『月夜幾多様』
■ ゴールデンウィークで一気読みしてきました。読みにくい読みにくい言うなら、誤字報告プラットフォームで読めばええねん。2回楽しめる!
◇ 一気読みありがとうございます! 誤字報告プラットフォーム……!その手もありかもしれません。でも今後、そこから読み込む兄貴姉貴達は覚悟してください。その先は読みにくさも2倍で地獄ですよ。