対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
メタタイトルが対魔忍オチなのは、一体魔忍!?
Episode71 『即堕ち2コマ』
おそらく、洋館の地下へと逃げ込んでいったであろう心寧ちゃんの救出のため、また1人きりで準備を整える。
今手元に残された真面な装備と武装と言えば、アサルトライフルであるガリルAR、ガリルARの弾倉1つ(20発)、松葉杖、注射器、半分以上使用した神葬カスタム簡易応急手当セット、腕時計、室井からくすねた複数の薬小瓶、洋館を脱出するためのカードキー、質屋に入れれば買取価格50万は下らなさそうな高価そうな指輪、ネックレス、その他貴金属の装飾品、謎の護符ぐらいなものだった。
それ以外のものは、すべて室井先生の治療室に置いてきてしまっている。
「心もとねぇ……」
ボソリと呟いて、
なお先輩と神村の銃撃と砲撃でたじろいでいる様子から、私が〈クトゥルフ神話〉技能で判断を下した赤き霧/磯八目巾着鰻という存在は誤った認識だと思う。でもあの外見と特徴、吸血行為は確かに……赤き霧/磯八目巾着鰻で間違いない。と思いたいところだが……火器が通じていたという事から断定的なことは言えなくなっていた。……この装備は赤き霧/磯八目巾着鰻
そもそもの話として、赤き霧/磯八目巾着鰻とドレスを纏った首のない貴婦人が同一の存在であるかどうかも不確かな話だ。
「…………やっぱり、なにか引っかかる」
うーん……。やはり、これまでの既出の情報をすり合わせて、何度も考え直してみても『ドレスを纏った首のない貴婦人
単純な話。なお先輩と神村の銃撃・砲撃の火力が
「……。備えあれば憂いなし……ねぇ」
ひとまず考え事を止め、ブツブツと独り言を呟きながら腕時計のアラームタイマーを45分でセットする。
次にカーペットを引き裂いて松葉杖に巻き付けた。紫色の炎が煌めく燭台も手にして、シャンデリアKBTIT BBのように持ちながら光源と新たな武器を手に、こじ開けられた地下の階段を下りていく。
またその地下へと続く階段の途中で、心寧ちゃんの黄色の
アサルトライフルを片手、反対の手に火の灯った燭台を握り、松葉杖は背中に背負って階段を降り切る。階段は途中まで木製の階段が続いていたが、地下の床に辿り着くころにはコンクリートとなっていた。
辺りは薄暗く、逆に蝋燭の光が光彩を縮小させてしまい室内の奥の方を眺めることは叶わない。地下は階段付近の小部屋と、犠牲者の手記にあった魔族が壁に寄りかかったところである出現した広間の2部屋に分かれているようだ。
………
……
——地下 小部屋————
……
…
スィ……
「……心寧ちゃーん?」
しらみつぶし式による調査のため、まずは小部屋の方から探索を開始する。
やけに重い扉を身体全体で押し込むように開く。この部屋は……——
「ウゲッ……」
この部屋にも、いくつものオーク族や人間の死体が転がっている。いや、転がっているという表現は正確ではない。正しくは両足をロープで結われて、天井の梁から逆さづりに吊り下げられている。
首にはナイフで引き裂いたかのような刀傷が残り、床には傷口から滴り落ちたであろう血溜まりが広がっていた。足元を燭台で照らすと血は既に渇ききっていて、ぬるりと滑って転ぶような心配はない。
またこの死体はどうやら、吊り下げられてから首を掻っ切って殺されたようだ。死体を回転式カタログスタンドのように回してみるが、残存している肉の部位にどこにも青あざなどの外傷は見当たらなかった。つまり、争った形跡が見当たらない。
逆さ吊りにされたが故に、血液が頭部に溜まった弊害として赤く充血した眼球が飛び出て2つの睾丸のように飛び出て垂れ下がっているが……。死体の特徴としては、歪な点としても些細なものだった。
またこれまでに発見した死体とは違い、ここの死体は干からびてはいない。更に言ってしまえば、どの死体も奇妙な痙攣もしていなかった。
ただ、まるで食肉工場で吊り下げられる牛のように放置されて、所々の肉や内臓が切り取られている。部屋の戸棚には切り取られた肉が、ショーウィンドウ内に並べられたブランド品のように陳列されていた。またここでは、蛆や羽虫も湧いている。
「……」
残念ながら青空 日葵の身長では、天井の梁には背伸びしても、背伸びをしたまま〈跳躍〉しても手は届かない。〈跳躍〉しながら松葉杖でやっと手の届く高さ……約4~5mほどの高さだ。
つまり。この憐れな犠牲者を地面に落として、肉盾装甲や蛆を捏ねて作った蟲爆弾として用いることはできなさそうだと理解する。
「……」
死体はさておき一通り〈目星〉をつけた探索ののち、この部屋には心寧ちゃんは居なかった。
最低限わかった事として、壁に血で描かれた紋章が浮かび上がっていることぐらいだ。
確か、この紋章の意味は……。……見覚えがある。でも思い出せない……。間違いなく〈クトゥルフ神話〉関連の紋章だったはずだ。……何だったかなぁ?
思い出そうと頭をコンコンコンとノックするが……呪文の名称が出て来ない。
でもどんな用途に使用するかはこれまでの情報や、前世で他の
しかしクトゥルフ神話的魔術を用いている時点で、それが本当に “魔界” に通じているか疑問視できる部分があるが。
無事にこの洋館から、迷子の心寧ちゃんを引き連れて、脱出した暁には私の説明書を読み返そう。この紋章を関連する呪文の記載が見つかるかもしれない。
——ガシガシガシッ! ガシッ!
「んぐっ!?」
調査を一通り終えて考え込むのをやめて、手に持ったアサルトライフルの銃口を下に下ろした時の出来事だった。
何かが、私の喉仏と口と腕と腰を掴む。しまったと振り返り持っている銃弾を叩き込もうとしたときにはすべてが遅かった。
私の身体の4か所を掴む手。人間の手じゃない。
三本指で動くたびにガチガチとギシギシと錆び付いた歯車がきしむような音。
溶接に失敗したかのような金属製の腕。
触られただけでも鳥肌の立つ皮膚の肌触り。
息を潜めると背後にいる何者かの体臭が漂ってくるような気がした。
鼻が曲がってしまうような異質な錆っぽい悪臭。
カメムシのようなパクチーに下水道の汚水を混ぜたかのような臭気。
直上からカチカチと火打石を叩くような音。
肩に掛かるこの世のものとは思えないよだれ。
肩甲骨あたりに感じられるゾリゾリとした
スチールウールの塊を擦り付けられているかのような感触……!
「グッ……ハッ……ハッ……ハッ…ハッ…ハッ、ハッ、ハッ」
クソッ……! 体の震えが止まらない。呼吸は過呼吸になって、その速度を上げていく。
探索者としての覚悟を決めたはずなのに『心寧ちゃんなんか見捨てるべきだった』『やっぱりこんな洋館に入るべきじゃなかった』なんてクソみたいな自己中心的な言葉が脳裏に過ぎる。
拘束されて居ない腕の方で、背後にいる奴を撃たなきゃいけないのにッ……! 三本指で4本の腕を持った怪物が気まぐれに軽くひねっただけでっ、私の命も捩られてしまいそうでッ……動けない……!
今、私の背後にいるのはきっと犠牲者の手記に残されていた、ブラッドドレスを纏った首のない貴婦人と協力関係にある顎が4つに裂けた猿のような毛むくじゃらの巨大な黒い蟲と人が融合した実体に違いない。
身体が引っ張られて、小部屋から外の大部屋へ……。
——闇の中へと引きずられて行く。
ここでもオークの死体が逆さ釣りにされている。
床には肉を削がれて、微量に肉片のついた白骨自体がゴロゴロと……!
小部屋を出て、作業員が破壊した壁の向こう側へズルズル……ずるずると……あぁ…………紋章に気を取られ過ぎた……!
……ここに何かがいることなんて、分かっていたのに! 分かっていたのに……! これじゃ、まるで! まるで——
………
……
…
——ピピピ……ピピピ……ピ——ガシャン!
…
……
………
「——うっ……うぅ……? どこだ……? 私は……」
何処から鳴り響く腕時計のアラーム音と破壊されたような音で目を覚ます。次に目が覚めた時は、馬小屋に存在する藁のような人間にとっては粗悪なベッドで寝転がっていた。
周囲は闇に包まれている。アラームが鳴っていた腕時計に触れようとするも、持ち物はすべて奪われていた。装飾品も、銃も、カードキーも、服までも…………あ。でも、現場監督の魔族から奪った宝石の付いた指輪だけはそのまんまだ。ラッキー。
……クソ。でもこれじゃ。やっていること、やられていることが対魔忍と変わらないじゃないか。私の馬鹿。頭対魔忍。蟲と人も言えぬ怪物に抑え込まれて……。
……あれから何時間たった? だが、腕時計のアラームが鳴っていたという事は、最低でも45分。心寧ちゃんを見つけて洋館から脱出する合図の時間まで経過してしまったか?
まずい。はやく心寧ちゃんを見つけて、カードキーを手にしてこの洋館から出ないと……!
「……ッ。……ッ」
手探りで何かないか探る。
私の装備は奪われてしまったが……この際、なんでもいい。小さな石でも、布切れでも。欲を言えば、小さな石と布切れさえあれば、入学初日で紫先生と対峙した時のようにブラックジャックを〈製作〉できる。それさえ有れば、無い状況よりは事態をより打開しやすくなる。
「……!」
「」ビクンッ
今、何かに触れた。ふにっとして、柔らかい。ビクンっ……と震えた。今もビクンっ、ビクンっと握ったハムスターのように鼓動を脈打っている。人肌ほどの何か。触れたものをゆっくりと触りながら感触と輪郭を確かめ、闇に慣れつつある目を凝らしてそれが何かを探る。
「ひぅ!」
さわさわと。どこに触れても素肌の存在を撫でてもいると、それは可愛らしい声をあげた。聞き覚えのある声。触っている物体をなぞる様に両手を添わせ、対象の肩を掴み顔を近づける。
「——心寧ちゃん!?」
「そ、その声……その顔……ひ、日葵さん……?」
「ああ! 良かった。急に走り去ってしまったので……お待たせしました。助けに来ましたよ」
「だ、駄目です! 何しているんですか!? 外に出られたのでしょう!? 私の事なんか構わず逃げてください……!」
「大丈夫、落ち着いてください。逃げるときは一緒ですよ。陽葵ちゃんが今、丁度おかしくなってしまっていて、治すにはどうしても心寧ちゃんの助力が必要なんです。いや、ほんとにもう手が付けられなくて——……どうして私が外に出たことを知っているんですか?」
「駄目です! 駄目! あの人に見つかる前に逃げてください! 逃げてっ! これは罠なんです!」
「……罠?」
必死に訴えかけてくる心寧ちゃんの言葉に顔をしかめる。
罠……ね。実は、もうその罠にハマった後なんだけど……。なんて、ここで正直に答えて彼女の不安を余計に煽る必要性もないため、少し考える素振りをして誤魔化した。
それから念のため私達以外の存在。つまり敵影を確認しようと周囲を見渡すが、闇に包まれていて何も見えない。心寧ちゃんもまたこの暗闇の中で目が慣れていないのだろう。きっと私が完璧な泥まみれの装備をしているのだと思っているに違いない。さて……ここら辺の部分はなんて彼女に説明しようか。
それにあの
それに外の事情も知っているようで……まさかとは思うが——
~あとがき~
やったぜ。
私の本小説が、ハーメルンで原作:対魔忍の中で最も『話数が多い順』で現状トップに来ることができました!(2022年4月14日時点)
しかも対魔忍っぽいタイトルで、無事に達成とは!
今日はお祝いだ! 寿司とピザ食ってくる!
ですが、ここまで続けられたのは私だけの力ではございません。
今でも感想や評価、お気に入りで応援してくださった皆様の力があってこそだと思っております。
仮に、本作にそれらの応援がなかった場合……。
きっと4章の『群馬県まえさき市』(表)と5章であたりで執筆に飽きて筆を止めていたでしょう。(5章は閲覧者兄貴姉貴達をドキドキさせるために書いていましたが、いま読み返すと執筆を中断するにはキリも良かったですし……)
(4章 『群馬県まえさき市』(裏)も無かったかも……)
ここまで長期休載で途切れることなく、続けてこられたのは皆さんのおかげでもあります!
ありがとうございました!
まるで最終回みたいな言い方ですが、物語はまだまだ続いていきます。
このまま100話投稿行きたいなぁ……と思ったり。
次回、あの
ここまで情報が至れり尽くせりしているのに、ダミーで終わるわけがないよなぁっ!!!?
これからも、どうぞ、本小説をよろしくお願い致します!