対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。 作:槍刀拳
どぅん ぱぱーぱーぱーぱー……(空耳)
入院から2週間目へ突入しましたが、今日も今日とて私は五車学園の地下の施設で、入院暮らしが続いています。
毎日毎日入れ替わり立ち代わりで、私のお見舞い客は様々な人たちが訪れていますが、頻度的な話をすれば……。主に顔を見せに来てくれるのは陽葵ちゃん。次に鹿之助くん。その次に青空 日葵の母親、鹿子ちゃん、蛇子ちゃんとふうま君の6人が主に見舞いに来てくれるような感じで……。
陽葵ちゃんは言わずもがな私の食事介助。もう『ここはお前の家か』って頻度で訪れて長居する。
鹿之助くんは学校での出来事を話しに。たまに陽葵ちゃんが、学校の出来事を話そうとする彼の話を遮って妨害することも度々あったけど……鹿之助くんに利尿剤を盛って彼が尿意を催して席を外した時に陽葵ちゃんへ「ヴ~~~っ」と唸った〈威圧〉を込めたところ、妨害はあれからしてきてはいない。貴重な鹿之ニュウムとアセトシカアノニンを補充する。そして自身の頻尿に理解ができなくて不思議な顔をしながらトイレへ走って行く鹿之助くんは可愛かったです♪ またやろう。
その次にやってくる『青空 日葵』の母親はパジャマの交換やふりかけの追加、足の容態の確認。
同じく入院している鹿子ちゃんはデザートをせびりに。
蛇子ちゃんは授業の進捗具合を教えに。
ふうま君は図書館で本を見繕っては、私に本を貸しに持って来てくれている。
その他にも、心寧ちゃんやなお先輩、コロ先輩、神村さんと眞田先輩、燐先生までもが顔を見せに来てくれた。
入院した翌日こそどたばた☆神社な騒動のおかげで、うやむやになってしまったものの……。
心寧ちゃんからは、ちゃんと正式な感謝の気持ちを伝えてもらったし、無事にコロ先輩には『魔族語で書かれた書物』のメモ端を渡すことも叶った。
コロ先輩には、退院したら写本を渡そうとも考えていたところもあったが、そもそもあの本はあのまえさき市でえっちなお店を開いている蛇子ちゃんが、わざわざ会いに来てまでこちらを色々と探って来ようとする代物なのだ。私の目の届かないところでコロ先輩が被害に遭うのはこちらとしても気分が悪い。だからこそ、記憶を頼る形にはなるが写本の一文をメモに書き写して渡す形となった。これならば文字を知る人間がメモを拾ったとしても意味までは理解できないだろう。
……なんだかんだで、毎日は楽しい。確かに私の学校生活でのイベントは潰れてしまっているが、このお見舞いのおかげで私の2度目の青春は、それなりに充実はしていた。
………
……
…
タッタッタッタッタッタッ……
今日も早速お見舞い客がやってきたようだ。
この足音は陽葵ちゃんに違いない。
病院で走り寄ってくる人物は、陽葵ちゃんか鹿子ちゃんしかいないこともそうだが……。
走った時の足音の間隔が鹿之助くんの場合、1としたとき。〈物理学〉的な音の到達速度を計算した時、陽葵ちゃんは0.8倍遅く、鹿子ちゃんは1.1倍速い足音の間隔に差が生じている。
鹿之助くんは身長が低い分、足の歩幅も短いからね! かわいいね!
バンッ!
荒々しい扉の開閉音と共に、その人物は入ってきた。
私はそれを慣れ親しんだ微笑みの表情で出迎える。
「いっちばん乗り~! 日葵ちゃん! 私が居なくて寂しくなかった?」
予想は的中。そこに立っていたのは陽葵ちゃんだった。彼女は私に対して、死体の山でカードキーを見つけたときのような笑顔で、しかし両手は後ろに隠した様子でウキウキしながら入ってくる。
「いや、別に……」
「またまたぁ♪ そんなこと言って! 顔はにっこりしているから、本当は嬉しいんでしょ!? 嫌よ嫌よも好きのうち~っていうもんね!」
「……。まぁ、ほぼ毎日欠かさずにお見舞いに来てくれるのは確かに嬉しいのですが……」
「ほらっ! やっぱり! あははは! 今日も来てよかったぁ!」
「ところで、一つ疑問を投げてもよろしいですか?」
「なに! なに!? 日葵ちゃんの知りたいことならなんでも答えてあげるよ!」
彼女は日光や電気の光に当たると、ユラユラと左右に揺れるフラワーロックのように身体をクネクネと揺らしながら、一歩一歩着実にその距離を縮めてくる。
別に彼女のことが、嫌いになったり嫌な存在ではないのだが……身動きの取れない状況で繰り広げられる、不審な動きと彼女の浮かべる悦楽な表情。それはこちらの警戒心を煽り立ててくる。
彼女が未だに背後に隠しているものが、何なのかは知る由も無いが……。催涙スプレーならぬ、催淫スプレーの可能性は……なんと言っても対魔忍世界なのだ。彼女の精神状態も鑑みて、ありえない話ではないだろう。まぁ、一般人の学生ってことを考慮すればありえない話だろうが。
ところで催淫スプレーとはどんなものなのだろうか? 折角、対魔忍世界に転生したのだから、記念に一度は浴びてみたいとは思う。前世で対魔忍世界へ訪れた……というよりも拉致された際に聞いた程度の情報なのだが……快楽で身動きが取れなくなるほどの強烈な媚薬らしい。だが、そんなご都合主義なシロモノ、私の世界や時代には存在しないものでもあった。
「えーっと……親友の心寧ちゃんとの関係は大丈夫ですか? 私ばかりにかまけて、彼女との交流をおろそかにしてはいけませんよ」
「心寧ちゃん? もー日葵ちゃんたら、心配しなくても大丈夫だよ! 心寧ちゃんとは、学校内で仲良くしているし、ちゃんと日葵ちゃんのお見舞いに言っていることも伝えてあるから!」
陽葵ちゃんは、本当によく笑う。
今の彼女の笑顔を例えるなら、幼児が描く太陽に笑ったようなペカーっとした表情と例えるのが一番だろう。
〈心理学〉で彼女の発言に後ろめたい部分がないかどうか一通り見定めるが、あのニコニコの笑顔には一点の曇りも感じられず、ちゃんと心寧ちゃんとの交流は継続しているように見えた。
「それならいいのですが……。なんだかんだで陽葵ちゃんと心寧ちゃん。異色の凸凹コンビでしたが息は合っていましたし……友達は大切にしてくださいね?」
「うん! もちろんだよ! あっ、そうだ! 心寧ちゃんも日葵ちゃんが早く治りますようにって言ってたよ! 今週もまたお見舞いに来るって言ってたし、最近はふうま君とも一緒に帰れるようになったから、日葵ちゃんにまたお礼を言いたいんだって!」
「マジで?」
陽葵ちゃんの言葉に、目を丸くせざる負えなかった。
ってことは、だ。帰り道が混沌と化しているのが、容易に想像ができてしまう。
……心寧ちゃんは恋愛クソ強女だ。でも、蛇子ちゃんは心寧ちゃんに比べるとそこの押しは弱め。これはとんでもないサークルクラッシャー(破壊神型)を乱入させてしまったかもしれない。
面白半分で見たい反面、まえさき市で3時間もウンコしていた方の蛇子ちゃんに対して申し訳ない気持ちが沸き上がる。
「あはははは! わたし、日葵ちゃんのそういう想定外の時に敬語が崩れるのも好きだよ!」
「それは、どうも。……えっと、鹿之助くんには既に伝えてあるのですが、来週は……いらっしゃられる日時は水曜日以降が良いって伝えてもらえます?」
「わかった! 水曜日以降ね! 伝えとく!」
「ありがとうございます」
「ところで日葵ちゃん。どうして水曜日以降がいいの?」
「あー……それは……」
来週の水曜日以降の面会が良いと日時指定する私に陽葵ちゃんは、やや食いつき気味にベッド柵から内側へ身を乗り出し、こちらの顔を覗き込んでくる。その口元は笑っていたが、目だけは鈍く光る輝きを秘めていて……。
私も彼女の圧から逃れるよう目を逸らす。目を逸らしても、より激しくベッド柵から身を乗り出して来ては、確実にこちらの視界に入ろうとしてくるんですけどね。
「あと来週の面会は水曜日以降がいいって話、私は初めて聞いたけど……?」
なんか愛の重い彼女みたいなことを言っている友達が目の前に現れたが、そっちの理由であれば割と遠慮と容赦なく言えるぞ。
「陽葵ちゃんは毎日、通い妻張りに来るじゃないですか。それに『来週は水曜日以降に来てください』って伝えて、今週の金曜日から来週の水曜日までの6日間。我慢できま——」
「せん!!!」
「でしょうね!」
うん! 正直で、素直!!!
陽葵ちゃんの素直かつ私の発言に被せながらも、できないことを力強く宣言する陽葵ちゃん。素直だわ。素直すぎる。そして正直。“隠そう” って気が微塵にも感じられないもん。でもね、だったら猶更 “
理由を話そうものなら彼女から私への “スキンシップ” が苛烈の猛烈を極め、ベッドから降りることすらできない身動きの取れない私はたやすく蹂躙されるに違いない。……特に今の陽葵ちゃんのお見舞いムーブを考えれば猶更だ。
「えへへ……♪ でも日葵ちゃん、今、私のこと“通い妻”って言ってくれたの嬉しいな」
おいぃ? なんか変なこと言い出したぞ。
陽葵ちゃんの言葉に思わず変な顔になる。そんな顔で、陽葵ちゃんの方を向くが彼女は今モジモジと身体を揺らしながら恋する乙女のように顔を赤らめていた。
確かに
そのハツラツとした元気で、洋館侵入時では
でも私が言ったあの“通い妻”っていうのはあくまでも例え話であって……。
前世も今世も私はノンケなのだ。オトコノコ=ガスキー。
「……例え話ってご存じでしょうか?」
「え? 本気でしょ?」
「いいえ」
彼女は真顔で答える。
うん。そっかー。本気にしちゃったのかー。
でもね、私としては例え話で深い意味はないんだよ。でもきっと看護師さん曰く発狂状態から持ち直したって話していたし、ここら辺は拒否すれば分かってもらえ——
「なんでー!? 洋館でも、病院でもあんなに愛しあったのに!? 日葵ちゃん『突っ込むのは苦手』って言ってたから、『誘い受け』な日葵ちゃんの為に私がいっぱい突っ込んであげたのに!?」
なかったわ。
彼女の大声が、病室内に響き渡る。でもこれだけ大きな声だと、絶対に病室の外まで響いちゃっているよなぁ……。語弊を生むようなことが、病室の外に響いちゃったよな。
でも、私まで大声で反論してはならない。ここはあくまでも冷静に、宥めるようにして彼女を落ち着かせよう。
陽葵ちゃん。私達すごい死線を潜り抜けた仲だけど、まだ2週間ぐらいの関係なの覚えているかな? 対魔忍世界とはいえ、一般人同士でそんな肉体関係を結ぶのは早すぎるんだよ。
私と陽葵ちゃん、ダブルひまりだけどセフレじゃないんだからさ。
「えっと、陽葵ちゃん。病院で誤解を生むような内容を叫ばないで頂けます? 文脈も誤っていますよ? “私の口にご飯を”が抜けているんですけど?」
「間違ってないもん! 私は、ご飯以外にも
「OK. 陽葵ちゃん。ちょっと落ち着いて黙ろうか」
確かに間違ってはないね。間違ってはいないけど、そんなに目を固く瞑って、頬を赤く染めて首を横に大きく振りながら大声でいう事じゃないと思うんだ。
あと君が心寧ちゃんと仲が良い理由もわかったよ。余計な一言が加わる意味で、発言の方向性が似ているね。
でも、やめて貰っても良いかな? その言い方はかなり語弊を生むから。恐らく今の絶叫で『耳』を嘗め回したことだと連想できる人は数えられる程度だと思うんだ。大多数の人は、今の発言は下半身の『ある部分』を嘗め回したって連想すると思うんだ。
それに陽葵ちゃんの声ってすごく通る声なの。響くの。遠くまで聞こえるの。だからやめてね? やめてね???
そもそも“誘い受け” なんて単語を何処で覚えてきたのかな……?
おばさんね。数日見なかった友人が、明らかな専門用語に関する語彙力の上昇についていけてないの。そのうちリバーシブルとか、攻守逆転とか、オメガバースとか覚えてこないよね?
「ところで、誰から
「“誘い受け”は他クラスのおもちちゃんに教えて貰ったよ」スンッ……
「
「日葵ちゃんって、キャンプも好きなんだよね! おもちちゃんに、キャンプ好きの日葵ちゃんの事を聞かれたから色々教えてあげたら、日葵ちゃんみたいなタイプを“誘い受け”って、にこやかに笑いながら教えてくれたの」
「あぁー……うん」
その『おもちちゃん』とやらは……本当ににこやかに笑って陽葵ちゃんにそんなことを教えたのだろうか? 腕組みをして何度も頭を捻っても、会話の文脈が分からない以上、確実なことは言えないが……にこやかに笑って教えてくれたというよりも、引きつった笑いで教えてくれた感じが否めないのだが……。
うーん。どうしてそんな話になったのかは分からないけど、退院が怖くなって来たぞ? これ、陽葵ちゃんの絶叫も含めて、退院した後に誘い受けなクレイジーサイコレズみたいな噂話や不名誉なあだ名が増えていないよな??? そもそも、おもちちゃんって誰だ? 私のクラスには、そんな名前や愛称のクラスメイトはいなかったと思うし……。
「日葵ちゃんが突っ込めないって話もしたんだけど、そういう人のことはバリネコって言うんだね! それじゃあ、私はやっぱりバリタチかな!?」
「看護師さーん? 看護師さーん? やっぱり陽葵ちゃん正気じゃないですよー? まだ私に異常な執着か奇妙な性的思考、
はぁはぁと息を荒げながら、私のベッドに身を乗り出して……いやベッド上の私の身体に圧し掛かって、ギラギラと輝いたいつもの調子とは明らかに異なる陽葵ちゃんに若干引き気味になりながらも、ナースコールを押してマイクに向けて助けを呼ぶ。
そろそろ貞操の危機を感じ始めた。
~あとがき~
本作品、皆様に支えられて無事に1周年記念とゾロ目で22万人突破を迎えることができました!
また今回を期にリメイク版も同時進行で制作になります!!!
これからも『対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。』を、『対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい+(ぷらす)』と重ねてよろしくお願いします!
そして、これは作者の偏見なんですけど……。
おもちちゃんって、
ヒントはRPGXで米連製作のスライムにチョメチョメされたHRなあの子です。
そして、これは作者による展開の都合に寄りますが……。今の日ノ出 陽葵ちゃんなら、三重士に加われると思うのですよ。まさに三重士イッカクである速水 心寧ちゃんと性格が……似通い始めましたよ……。
作者の匙加減な部分もありますが、こりゃ友達なのも納得な展開に……。
【ほぼ全ページにアンケート掲載中】本小説において、どの特殊タグが見づらい要素でしたか? 他にあればメッセージまでください。新小説の方で修正予定です。2022/06/12の夜で〆。例文はEpisode-NullとEpisode81にあり。
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