対魔忍世界へ転移したが、私は一般人枠で人生を謳歌したい。   作:槍刀拳

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Episode84 『陽葵のプレゼント』

「うわーん! 看護師さんを呼ぶのやめてよぉ! 冗談! 冗談だってばー! ね?! ごめーんーねっ!

 

 マイク越しの看護師さんに助けを求める私に、陽葵ちゃんはNYN姉貴のイントネーションで謝罪しながらナースコールのリセットボタンを連打してサービスステーションと繋がる私の通話を強行手段で断切った。彼女の両胸が私の鼻頭に突き刺さりかけたが、それを右手の甲で防ぎきる。

 同時に陽葵ちゃんがゼロ距離まで近づいてきたことで、入室時から背後に隠し持っているものの全容も掴めてきた。あれはプレゼントボックスだ。クリーム色の箱に、萌黄色のリボンと黄赤色のリボンがひどく絡み合うように……まるでこれから起きる痴態を予言するかのような嫌な結ばれ方をしている。

 

「陽葵ちゃんの目が冗談じゃなかったんですよ……ところで、先ほどから背中に隠しているプレゼントボックスは何が入っているのですか? この流れから嫌な予感しかしないんですけど」

 

 ナースコールを手放したところで、陽葵ちゃんも私を胴体で跨ぐような姿勢になるのをやめてくれた。そこで意を決して、背中のプレゼントに尋ねてみる。

 

「あっ! これ? 別に変なものじゃないよ! 日葵ちゃんへのプレゼントだよ!」

「…………」

「あ、その目! 私のこと疑ってるでしょ!」

「そりゃ、ねぇ……」

「でも、そんな普段のジト目よりも目を細めた日葵ちゃんは、シリアスな顔でかっこよくて好き! でもこればっかりは本当だよ。変なものじゃないし、もし変なものだったら木の下に埋めて貰っても構わないよ! だから開けてみて!

 

 そういって彼女は私に萌黄色と黄赤色のリボンが絡み合ったプレゼントボックスを照れたような笑顔を浮かべながら両手で突き出すように差し出してきた。

 そのセリフは、のちに左手と左足だけが地上に突き出る形で、左半身犬上家の一族の刑になるような流れではあったが……。

 きっとこのまま開けなければ、私が開くその時まで居座るようなそんな気してプレゼントボックスを両手で受け取り、リボンを解いて箱のフタを開ける。

 

「ババーン!!!」

 

 その効果音をお前(陽葵ちゃん)が言うんかい! と言いたくなるようなツッコミをこらえながらも、箱の中を覗き込む。

 箱の中にはオレンジ色のレザージャケットが入っていた。

 ——私は——これについて見覚えがある。

 

「ねっ? 変なものじゃなかったでしょ?」

「陽葵ちゃん……これって……」

 

 両手を後ろ手に回して、こちらを覗き込んでくる日葵ちゃんに視線を返した。いま彼女は折部やすなバリのドヤ顔で、さながら驚くソーニャちゃんのような私を見つめている。箱の中に手を入れて入っていたものを広げて、驚く私を見てその反応から想定を出し抜いたことを大いに喜んでいる。

 

「これね! 日葵ちゃんの為に、新調してもらったの!」

「ほぁ」

「でも、日葵ちゃん。初めて私の対魔忍スーツ(勝負服の上着)を纏ってくれた時、半丈が短いのは好みじゃないのかなと思って、普通のジャケットと同じような長めにして私服でも使えるようなデザインにしてもらったんだ。……どう、かな? 気に入ってもらえた?」

「気に入ったも何も……」

 

 陽葵ちゃんの顔と、プレゼントボックスの中から取り出した陽葵ちゃんとお揃いのオレンジ色のライダースジャケットを交互に見る。こんなの、こんなのって……。

 

「最高ですよ……! 大切にしますね!?」

「ほんと!? やったぁ!」

 

 嬉しさのあまり彼女からもらったライダースジャケットをぎゅっと抱きしめる。私の心はキルミーベイベーだ。

 そんな様子に、陽葵ちゃんは先ほどまでの喜んでもらえるか不安が募ったような顔は一瞬で払拭され、大きな万歳をしながら私の喜びに合わせて一緒に嬉しそうな顔をする。

 改めて彼女からプレゼントしてもらったジャケットを細かく確認し始める。

 基本的には陽葵ちゃんが着用しているジャケットと同じ物だったが、相違点としてはまず、陽葵ちゃんが言うように総丈が着用したときに私の腰に来るほどに伸ばされている。袖口は季節や時期に応じて腕捲りしやすいような材質で、見方を変えれば丈の短いトレンチコートのような形だった。さらに陽葵ちゃんが着用していたものよりもポケットが多く、外面に4カ所、内面に4ヵ所とポケットだらけだが、私としてはバッグなどを持ち運ばなくても小物をしまうことのでき、なおかつ深い構造のポケットはスリから身をまもるこのジャケットはとても魅力的に映る。

 試しに早速羽織るが、重量はあの時((Episode34))と変わっていないような気がする。保温に適しているのか、ポカポカと温かい熱が溜まっていくのを感じた。

 

「はわぁ……! あれ!? ポケットに革手袋も!?」

「うん! 基本的にジャケットとセット品だからね! それに、ただの革手袋じゃないよ! この手袋は従来品と違ってこの手袋は細かい作業もできるんだ! すごいでしょ!」

「それはすごい! すごいですね!? え? こんなにいいものを貰ってもいいんですか?!」

「もっちろん!!! 日葵ちゃんがそんなに喜んで受け取ってくれるなら、本望だし……

 

 先ほどよりも素早い速度で、プレゼントの品と陽葵ちゃんの顔を交互に見る私に彼女は少しだけ表情を曇らせた。

 そんな普段は見せたこともないような初めての表情に、彼女の顔に私の視線が釘付けになる。

 

……日葵ちゃん。鉄球で日葵ちゃんの足を折っちゃって、本当にごめんなさい」

「?!」

「そのジャケットは贖罪のつもりじゃないけど……結局、あれから色々あってちゃんと謝れてなかったから……。こうして渡すものができて……2人きりになれたら、ちゃんと謝ろうと思ってて……」

「陽葵ちゃん——」

「いいの! 弁明しないで! これは私の誠意なの! だからこのまま謝罪を受け取って!」

「……」

 

 陽葵ちゃんは両目をぎゅっと瞑って頭を深々と下ろしてきた。

 正直、足の件は私が洋館内で自身の〈幸運〉に頼り切って、突発的な奇襲でも即座に〈回避〉ロールを振れる状態で扉を開けなかったことが全ての原因に起因すると考え、度重なる彼女の謝罪も私が悪いということで全ては丸く収まったのだと思っていたのだが……。

 ——彼女はそれでは納得しなかったのだろう。

 

「それでね……? 贖罪は別に用意してて…………これはトップシークレットな情報なんだけど……」

「?」

 

 首をかしげる私に、そっと彼女は近づいてきて耳打ちのような姿勢になる。耳を舐めてきたら、その月曜のたわわをビンタしてやろうと一瞬身構えるも〈心理学〉上ではそのような悪意は感じられなかったため、そのまま耳を澄ます。

 

「期末試験は、3人1組のチームを作ってキャンプをするみたい」

「!」

「内緒ね!? 内緒ね?! 上原先生と紫先生と校長先生が職員室で話しているのが聞こえてきたから、この情報はほぼ確実だよ。辛うじて聞こえてきた話では、野外で生き残るサバイバル力を学生に付けることが目的なんだって」

「なるほど……」

 

 陽葵ちゃんの言葉に今度は私が目を瞑って、ウンウンと頷く。

 確かに五車町は市街地から離れれば、ほぼ森と山に囲まれた田舎だ。遊びに出かけて遭難した場合、そのサバイバル力を身に着けて実戦に挑むというのは理に適っている。何分、森の中には熊や蛇もいるのだ。そういった獣に対する対処法や蛇を捌いて食べる訓練も教師の監視の元、訓練することは非常に有意義に働くはずだ。

 それに私について尋ねてきた「おもちちゃん」なる存在がキャンプ好きの私について、陽葵ちゃんに尋ねてきたことも辻褄が合ってくる。

 

「どうかな? この情報……」

「陽葵ちゃん……」

「ぅ、うん」

「でかしました!」

「やった! (ブイ)!」

(ブイ)です」

 

 お互いのピースサインを並べて、タブルひまりのサインを作り上げる。

 陽葵ちゃんが私の脚を砕いたことは、最初から怒っても居ないし恨んでもいないが、彼女がその罪悪感を無効化させるには十分と感じられるほどのトップシークレットな情報ではあった。

 これで私は登校復帰に時間が掛かってしまった挙句に、若干の筋力低下で本調子は出せないものの……この陽葵の情報が情報があるのと無いのでは優位性は雲泥の差となるだろう。

 それにしても3人1組のチームか……。

 どんな方法で組み分けが決まるのかは分からないが、私としては鹿之助くんをチームに加えて、あと1人を陽葵ちゃんが望ましい……。だが、陽葵ちゃんは心寧ちゃんと組むに違いない。そう考えると、ここは私個人の意向を押し殺すことで、慣れ親しんだ鹿之助くんは蛇子ちゃんとふうま君と組ませた方がいいか。

 もしも彼がキャンプ中に困った状況に陥ってもサポートしに向かえるし、鹿之助くんを蛇子ちゃんとふうま君をうまいこと引き離せれば、私は合法的に彼を押し倒して単独行動は危険なことをその身に“染み”させることができる。

 ふっ……期末試験までの期間、何をしなければいけないか明確化できたな。

 

「あ~っ! 日葵ちゃん、悪いことを考えるときの顔になってる!」

「ん、ん~? なんのことか分かりませんね???」

「もうっ! 嘘ばっかり! あっ! あとね! あとね! 日葵ちゃん、7月の頭には退院できるみたいだよ! これは室井先生の情報!」

「ははぁ……退院。やっとですか……」

「よかったね!」

「長くも苦しい……いえ、一人ぼっちではなかったので、ちょっとは楽しい入院生活でした……」

♥♥♥!」

 

コンコンコン——バタン!

 

「……日ノ出か。貴様等は、いつも2人で仲が良いな」

「蓮魔先生!」

「こんにちは、蓮魔先生。できることならノックだけではなくて入室しても良いか尋ねてからにしてほしかったですね」

「…………そんなことをして、素直に私の入室を認めたか?」

「拒否してましたね」

「貴様は……質問に対して自身の感情を全面に押し出した即答ではなく、相手の気持ちを憚る解答も少しは学んだ方がいいな」

「はははっ。蓮魔先生みたいなタイプには自分の感情を押し殺すよりも率直な気持ちを伝えた方が良いと思ったので、つい」

「はぁ……まったく」

 

 更に陽葵ちゃんによる追加情報を聞いていると扉が開き、クリップボードにノートを挟んだ蓮魔先生が呆れたかのような顔をしながら私の病室へと入ってくる。近くに黒田先輩の姿はない。今回は私の病室に目的があったのだろう。それも黒田先輩を交えない、交える必要のない。あるいはもっと2人っきりで話す必要のある話題として。

 でも何をしに来たのかなんて、おおよその目安はついている。

 

「日ノ出、見舞いに来ているところすまないが、私は青空に事件の事情聴取をする必要がある。しばらくの間、席を外して貰っても構わないか?」

「……はい。……日葵ちゃん

「残念ですが、今回の生徒指導に関わる事情聴取は長くなりそうな予感です。陽葵ちゃん、また明日です」

うん。またね!」

 

 流石、蓮魔先生。陽葵ちゃんに駄々を捏ねさせる隙も与えずに部屋の外へと誘導している。陽葵ちゃんも、物悲しげな顔をしながら、それでも別れの挨拶は元気よく部屋を後にして出て行った。

 

「さて、蓮魔先生。洋館事件の事情聴取ですね?」

「ああ、そうだ」

「ちょーっとばかし、来るのが遅いんじゃありません? 2週間前の出来事なんてざっくりとしか覚えてませんよ?」

「ざっくりとで構わない。報告書をあげるのに必要な形式上の物だ」

「それじゃ、よろしくお願いします」

「では、まず——」

 




~あとがき~
 さて、期末試験ですが……。
 本小説を始めてからというもの、ずっとオリジナルの展開が多かったので原作の対魔忍RPG側に寄せたいと思います。

 ゆるキャン凸。乞うご期待ください!

 あ。次回はいよいよお待たせしました。
 蓮魔先生による報告書となります。
 蓮魔先生は生真面目なので、前半と後半に報告書を分けると思いますよ。

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