ジョージ・カークランドはヴィランである。

 誰がなんと言おうとヴィランなのだ。

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自分をソ連だと思ってるヴィラン

 ジョージ・カークランドは、絶望していた。自分にも、社会にもだ。

 

 ことは一週間前に遡る。

 

 あれは確か曇りの日だ。私は祖父から譲られたピックアップトラックを転がして就職先の面接に来ていた。

 

 就職先はアメリカでも有数の車工場であり、私はそこに就職するはずだった。だったというのは、アイツがいたからだ。

 

 ジャスパー・ローガン、私の故郷にいた御曹司であり、その故郷、小さな街であるアップルトン・シティの産業はローガン家が仕切っている。

 

 何代か前に街に鉄道を敷き、林業を行い、炭鉱と岩塩採掘を行って、今や化学肥料や大企業の下請けなど多種多様だ。

 

 そして奴の父は、私を嫌っていた。特に科学者だった母と軍人だった父を持つ私の家を毛嫌いしていた。そして、あの男はショットガンを持って現れた。狐狩りだと称して。

 

 私の両親をスパイだと言って、追いかけ回し自警団に追われた私と両親はハイウェイでトラックに正面衝突をして死んだ。

 

 事故の見聞を行った警察と軍は自警団の隊長メィスン爺さんを逮捕して、ローガンを逮捕しなかった。トラックは、ローガンの持ち物だった為に、多額の賠償金が払われた。

 

 そして、隣の州の祖父母に引き取られて私は育った。それなりに幸せだった。大学でローガンの息子と合うまでは‥‥。 

 

 ローガンの息子は私と親しくなり、ある女性と一緒に好きになった。その女性はサイエンス部でポンプ開発をする私よりも、フットボーラーのローガンの息子を選んだ。

 

 それでも、ローガンの息子と彼女を私は祝福した。しかし、奴は‥‥。

 

 「最初から知ってたよ。ナード。お前が誰の子かってな。俺は友達ごっこしていただけだ。お前の両親が国を裏切ってたようにな!これから楽しいことになるぜ!」

私にそう言うと腹を殴りつけ、投げ飛ばされた。私は抗おうにも、奴の胸のホルスターからM1911ガバメントが覗いていたからだ。

 

 悔しくて、私はそれから体を鍛えた。幸い、祖父も元軍人であり、射撃も教えてくれた。そしてそれは起きた。

 

 あの好きになった女性のポルノ画像が出て、私が犯人とされ大学は中退になった。ローガンが関わってるのだろうが、ローガンの父はもはや、副知事候補でローガンの叔父は検察官だ。もはや泣き寝入りしか無かった。

 

 私は更に隣の州に移るしかなかった。そこの工場の面接を受けに来たら、アイツがいる。嗜虐的な目付きだ。

 

 そこから数時間後にすべてが終わった。ローガンは私に質問をしたが、奴は私を覚えていなかったらしい。

 

 私は帰路につくとなぜだか、携帯が明るい。面接の際に消音にしていたせいか、気付かなかった。私は携帯に沢山入った着信を見ると祖母からだ。

 

 「大変なの!すぐに帰ってきて!」

話をよく聞くと祖父の車が、前を走っていたトラックが積んていた材木が崩れてきて潰れたしい。大変なのですぐに帰ったが間に合わなかった。

 

 それが4日前、そこから弁護士などで訴訟を起こし、祖母も私も裁判をする経済的な体力がなかった為に彼らの和解案を飲むしかなかった。

 

 そこで、奴は私に気付いて採用を取り消しにした。それが昨日だ。それを聞いて、祖母は卒倒してしまい。そのまま、今日息を引き取った。

 

 私には、祖母の保険金と祖父の保険金と示談金があるからまだ持つには持つ。私の両親のささやかな貯金などもあって当面は大丈夫そうだが、私には職がないし不安だ。また、引っ越しと祖父母の遺品を片付けていると、私は両親の遺品が入った納屋も片付けていた。

 

 納屋には、ホコリを被った母のペンダントがあった10セントを加工したお土産品だ。洗おうと思い、私は歩き出したが足元にあった缶に気付かずに足を取られて、コケた。ホコリが舞う。カビ臭い床に強かに体を叩きつける。

 

 手からペンダントが無いことに気付いて慌てる。周りを見渡すとテーブルまでペンダントは吹き飛んでいたようだ。

 

 そして、今に至る。

 

 「どうしようか?」

呟くのには理由がある。母のペンダントは割れて中から小さなフィルムが出てきて、母の遺品の顕微鏡で見たところ。マイクロフィルムであった。ローガン達が言うように、両親はソ連のスパイだったのだ。

 

 両親は腐敗した統治機構や企業の独占的な態度に怒りを覚えソ連に味方をしていたようだ。今やソ連はいない。それにソ連は悪いやつだった。

 

 「ハッ。」

私は初めて酒を飲んだ。祖父の買っていた小さい瓶ビールを胃に流し込むと、どうにかしようと考えた。

 

 そこに、チラリと私の目に自分の部屋に置かれたヒーローの本が目に入り、私の採用取り消しの手紙が目に入った。

 

 「そうだ!そうだったんだな!」

今はもうソ連がなくても、あったとしても理想のソ連がなかったとしても‥‥。

 

 「自分自身がソ連になればよかったんだ!私が“いや、俺が”今日からソ連だ!」

こうして私はソ連になることを決めた。まず、それには姿を隠さないといけない。

 

 翌日、祖父が若いときに着ていた作業服をグリーンに染めてソ連の人民服風に幅広のズボンを乗馬ズボンの形に変えて、ライダーブーツを履き、帽子は無いので赤い布に星のワッペンを付けて作った覆面を作った。様々な道具を買ってきた。

 

 俺は今日からヴィランだ!アイツラに復讐をしてやる。衣装を作ったが、復讐を始めるにはモノを買いすぎた。それに動機もある。2年間だ。その2年間を訓練に費やし、捜査を掻い潜る場所などを作ろう。奴らに正当な復讐を施すために。

 

 

 

 ー2年後ー

 

 

 

 俺の体は筋肉で肥大し、また射撃の訓練をし続けたことにより、銃は勿論、弓矢やスリングまで使える。祖父の杖を加工して作った仕込み杖もある。

 

 防弾チョッキも装備した。

 

 「今日が狐狩りの時間だ。」

アンティークの許可証がいらないウィンチェスターライフルとM1911ガバメントを持ち、仕込み杖も持った。

 

 あの男、今は知事に立候補しているローガンの父に狐狩りは何かを教えるために私は歩き出した。

 

 ローガンをただ殺すのではない。たとえ真実だったとしても、俺の家族にした噂の流布をしてやるのだ。まずは人が少なくて事務所に入りやすいローガン水道局事務所からだ。

 

 水を止めたら、ローガンの名声に響くだろう。まずはそういうことから始める。私はコスチュームに着替えて自転車に乗った。

 

 深夜の田舎町は人が少ない。

オフロード用の自転車で颯爽と夜風切り進む。

 

 「下調べどおりか。」

事務所の周りには誰もいない。経済的効率らしいが、警備員が常備していな時点で危機管理がなっていない。茂みに自転車を隠すとすぐさまフェンスをよじ登った。

 

 ねずみ返しや有刺鉄線も無い。ましてや電流や侵入されたときの赤外線もないとはいやはやなんとも不用心だ。

 

 そして、予めバーで酔いつぶれた職員から、型を取って作った合鍵でするりと入ると資料室に進んだ。事務所の資料室の床には古い扉があり鍵がかかっている扉を通らずにボイラー室に入れるのだ。

 

 俺が資料室に入った頃、ガチャリと音がした。慌てて私は扉を締めて耳を澄ませる。やがて、扉の向こうから声が聞こえた。

 

 「対抗馬の支援をやめてくださいよ。カーターさん。」

カーターとは誰だろうか?この声も知らないが、場所を考えるとカーターはローガンの対立候補のカーリッジを支援しているのかもしれない。

 

 「何度言われようが私は立場を変えない!第一になんで私をこんな人気のない場所に呼んだ?」

カーターと呼ばれた男は怒っているようである。

 

 「それはね、カーターさん。貴方に分からせるためですよ。あれを持ってこい!」

雲行きが怪しくなってきた。カーターとやらをローガンの手下が殺すつもりなのか?俺は集中して話を聞いた。手はホルスターの銃のグリップを握った。

 

 「そ、それはなんだ!」

ドサリと音が聞こえあとにカーターの声が聞こえた。

 

 「しめて、50万ドルだ。なかなか良い額だろ?これは手付だ。ローガン代表が当選した暁には更に50万ドルをやろう。」

話が変わった。ローガンはなんて汚いやつなんだ。この国の選挙を金で買おうなどとは。

 

 「受け取らなかったら?」

カーターの声が震えている。それも仕方があるまい。100万ドルの不正の話だからな。

 

 「どうなるかわからないほど馬鹿じゃないだろ?」

ローガンの手下の声がそう告げる。なるほど、銃か何かを突きつけながら話しているに違いない。

 

 「奥さんは病気なんだろ?ローガン代表はあの病院にも寄付をしていてな。わかるだろう?カーター。そう震えるな。受け取れよ。」

静まる部屋、俺は資料室に隠れているがそこまで伝わる緊張感だ。

 

 ザァーと急に雨が降り出す。

 

 「そうだ。いい子だな。」

カーターは受け取ってしまったようだ。

 

 目を閉じると俺は唾を飲み込んだ。唾を飲み込んだ拍子に肩が動き僅かに、ライフルの銃身が壁にぶつかった。それに伴い。影がこちらに動いて見えた。

 

 まずい気付かれたか!!俺は急いで資料室の窓から飛び出て逃げる。後ろから銃声が聞こえる。目の前の木に銃弾が突き刺さった。足を止めたら死ぬ!いくら防弾チョッキを着てても何発も同じとこは受け止めれない。

 

 月がない雨降りの中、俺は走る。野良犬のように。

 

 「誰だ!待て!」

俺は茂みに隠れていた。後ろは深い河で有名な別名インディアス・リバーだ。このまま居たら、確実に俺は撃たれる。

 

 「後はそこの茂みだな。大人しく出てきたら撃たないでいてやるよ。」

バカを言うな警告もなしに撃ってきやがって信用できるか!!

 

 俺はライフルをちらりと見た。ウィンチェスターライフルはレバーアクション。アイツラの自動拳銃には負ける。しかし、相手が3人ぐらいなら別だ。勝てるからもしれない。

 

 その瞬間、少しだけ雲の合間から月光が指して相手を照らす。5人組だ。無理だと悟った。にじり寄ってくる。

 

 「ッ。」

躊躇をしたが川に飛び込んだ冷たくて死にそうだ。潜っている間にもアイツらがバンバン銃を撃ってくる。

 

 やがて、意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 「ゲフッ、ガフッ。オエッ。」

水を飲んでしまったのか川の流れでぶつけたのか。怪我はしたがまだ生きてはいた。

 

 周りを見渡すと荒れ地である。まるで開発前の街のようだ。道を歩く看板にはあり得ないことが書いてある。アップルトンシティ拡大予定地。

 

 アップルトンシティ拡大は、15年前の出来事のはず。つまり、俺は15年前にタイムスリップした?なんで?なんの為に?

 

 「いや、チャンスだ。」

ローガンはまだ俺がいたときほど絶対的な権力はない。そして、2年間調べ上げたローガンやその周りの大企業の不正の記憶や事件が頭の中に入っている。

 

 どれも不起訴処分をされたり、無罪にされたから15年後は一切罪には問われなかったがこれで合法的な復讐ができる。

 

 私は濡れたウィンチェスターライフルを片手にそう言えば、この世界だと金を持ってないし身分証もないと気が付いた。

 

 しかし、だから警察も補足できないだろうなとニヤリと笑みをこぼし、アップルトンシティに更に足を進める。

 

 「狐狩りはまだ終わらないぞ。ローガン。俺が“ヴィランのソ連”だからな。」

 

 朝日にたなびく覆面の布地の赤が俺を奮い立たせていた。濁流のせいで星は取れていたが。

 

 

 

 ー3ヶ月後ー

 

 

 「どうしてこうなった。」

日雇いをしながら何とか食いつないで居たのだが、今日の新聞を読む。

 

 そこには【また、あの赤い怪盗現る!今度は二大政党の幹部の献金問題を明らかにする!】

 こっちの新聞には【赤いヒーロー、市長選の貧民地区の捨てられた投票用紙を見つける!】

 あっちの新聞には【またもお手柄!我らがヒーロー。インサイダー取引をしていた大手の闇を暴く!】

 

 「俺はヒーローじゃないっての。」

非合法な手段で証拠を集めて居るのに。

 

 「また、赤い奴が出たのか?物好きだよなあいつ。」

隣りにいるのはカーターだ。俺は身寄りがないので、カーターの妻の病気を使い下宿をするつもりだった。

 

アップルトンシティでは、カーターは3件しかいないので簡単に見つかったが、最初は変人として見られていた。カーターはこう見えても刑事らしい。

 

 刑事のカンとやらで、俺が嘘を言ってないのを察すると奥さんを病院に連れていき、病気が判明して、見事下宿を勝ち取った。

 

 しかし、カーターには問題がある。

「赤い奴が何者か知らんが絶対に俺が捕まえてやるよ。ま、お前さん、ジョン・スミスには敵わないだろ?俺の奥さんを救ってくれたんだもんな!なぁ、ミザリー。」

このように、ジョン・スミスと名乗って隠れている俺を捕まえようとしていることだ。

 

 「そうね貴方。ところで、勝手にマフィン食べたでしょ?」

カーターの奥さんは、かなり怖い。

 

 「おっと!俺は仕事の時間だ!ミザリーの機嫌を治してくれジョン!」

二人が追いかけあって居なくなると俺はため息を吐いた。

 

 「こんなはずじゃなかった。」

俺はローガンを超えるヴィランのソ連のはずだ。なぜだ!

 

 一口飲んだコーヒーは、いつも以上に苦味を感じた。

 

 



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