無限転生 ~LOST REQUIEM~ 作:とんこつラーメン
目を開けると、視界に広がっていたのは清潔感のある真っ白な天井。
頭や体から感じる感触から、自分がベッドの上に寝ている事が分かる。
(あぁ…成る程。今回は『このパターン』か…)
普通ならば、ここらで半身を起き上がらせてからの周囲の様子の確認とかをするのだろうが、生憎とそんな事をするような気力は無い。
ついでに言えば、全身に激しいまでの脱力感があり、指一本動かすだけでも億劫になりそうだ。
(もうこれで通算何回目の転生になるんだっけ……)
一万回目を境に数えるのが馬鹿馬鹿しくなったのでよく分からない。
少なくとも、天文学的な回数の転生を繰り返してきたのは間違いないんだけど…。
ここでいきなりの自分語りをさせて貰うけど、私はよくいる『転生者』と呼ばれる部類の人種だ。
死んだ人間が何らかの要因によって別の世界へと生まれ変わる現象。
私の場合は一番最初だけ、神の力により転生した。
そう…私の転生は一回ではないのだ。
一度死んでも、その瞬間に間髪入れずに次の世界へと強制的に転生させられる。
それこそが、今ではもう顔も声も名前も何もかもが思い出せないでいる神から与えられた傍迷惑な転生特典である。
これだけを聞けば、頭の中がお花畑なバカどもは『なにそれ超いいじゃん!』とかと思うかもしれないが、そんな気持ちでいられるのは三回目ぐらいまでだろう。
実際、私は三回目の転生で心が折れた。
しかも、この無限に転生し続けるという特典、それ以外には何もメリットが存在しないのだ。
転生先でどれだけの技術、技能、能力を身に着けたとしても、次の転生時には全てがリセットされてしまうのだ。
最初は『それでも生きるためには頑張らないと』なんて思っていたが、そんな事が幾度も無く繰り返され続けると、流石に心が萎える。
死ねば全てがゼロになる。誰にでも理解出来る当たり前の事ではあるが、次の転生が確定している身としては洒落にならない。
私が引き継げるのは記憶だけ。しかも、それだって自分の記憶力依存になっているので、今ではおぼろげになっている記憶の方が大半だ。
転生する時は基本的に私の肉体は完全にランダムで選ばれる。
男である時もあるし、女である時もある。
両性具有者であった時もあったし、人間ですらなかった時もあった。
顔の形、スタイル、肌の色、髪の色。他にも色々な要素が全て完全にランダム。
死という現象に対する恐怖心なんて当の昔に無くなってしまった。
現在の私にとっての『死』とは、睡眠と大差がない。
目を瞑ってから、再び目を開けた時に異世界にいるのか、いないのか。
その程度の違いでしかなかった。
だから、今回みたいなことが起きても私には至って日常的な事なので動揺なんてしない。
転生した時の状況も様々で、今回のようにいきなり肉体が成長した状態で覚醒する時もあれば、母親の胎内から出産されるパターンもあり、人体実験用のクローンとして生まれた時もあった。
言い出したらそれこそキリが無いのだが、およそ考え付くであろうありとあらゆる転生を経験してきたと思って貰えばいい。
因みに、今回のように病院のベッドの上で目が覚めた状態で転生したのは、96841回目の転生以来になる…と思う。多分。
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頭の中で状況整理をしつつ、私は自分に着せられている病院服の内側に手を入れてから体をまさぐってみる。
(…成る程。今回は女か)
前回も女ではあったが、とある組織によって体を改造されて無理矢理に両性具有状態にされてしまったので、股間に何も生えていないというのは久し振りかもしれない。
(髪は長いみたいだな)
シーツの上にばらけている後ろ髪を手に取ってから視界に入れる。
茶髪…天然か?
(今にして思えば、本当に色んな世界に転生してきたもんだよな……)
ガールズバンドをしている女の子たちがいる世界。
死神と呼ばれる存在がいる世界。
カルデアと呼ばれる組織がある世界もあった。
アラガミと呼ばれる人類の天敵がいる世界。
ハンターと呼ばれる職業と『念』と呼ばれる能力がある世界。
色んな忍たちが沢山いる世界。
大海賊時代に転生した時もあった。
キラキラと輝くアイドルたちが頑張っている世界。
宇宙活動用のパワードスーツがある世界で学園に通った事もあった。
ウマ娘なんて子たちが頑張っている世界にも行ったっけ。
私と似たような境遇の骸骨なマジックキャスターがいる世界もあった。
戦車道なんてものが流行っている世界もあったな。
見ているだけでもどかしくなる男女がいる超エリート学校に行ったこともある。
外には大量のゾンビが徘徊している世界にも転生させられたな。
艦娘なんて女の子たちがいる世界で提督をさせられたこともあった。
宇宙世紀に至っては、かなり長い時間生きていたような気がする。
それ以外にも色んなMSがある世界に転生してきたな。
フレンズとかいう獣っ子がいる変な世界にも転生しなよな…。
かと思えば、凄く平和的な世界に転生して、とある喫茶店の店員をした時もあった。
私と同じように転生した男の子がいるファンタジーな異世界もあって、そこではとんでもない駄女神がいて、改めて神なんて碌なもんじゃないと思い知らされた。
凄いエリート料理学校のある世界に転生した時は大変だった。
スタンドなんて特殊能力のある世界はかなり殺伐としていた記憶がある。
巨人たちが跳梁跋扈していた世界がある意味で一番怖かったかもしれない。
使徒とかいう化け物がいる世界では、私は最後まで傍観者を貫いた。
ウィッチがいた世界では、色々と驚かされた。
使い魔として召喚される形で転生した時は、柄にもなく呆けてしまった。
私が一番嫌いな神々がいて、数多くの冒険者たちがダンジョンに潜っていた世界では碌な目に遭わなかった。
転生後に精霊なんて存在になってしまった世界もあったな。
私と同じ転生者なのに、超絶チートなスライムがいた世界は凄かった。
学園都市がある世界……彼らは今でも元気にしているだろうか。
幻想郷……あそこに転生した時が一番、楽しかったような気がする。
サイヤ人に転生した時もあったが、すぐに殺されてしまったのでよく覚えていない。
悪魔と天使と堕天使がいる世界はなんだか凄くピンク色だった印象がある。
なんか変身ヒロインみたいのがいる世界にも転生したよな…。
ペルソナという能力で戦う学生たちがいる世界では、少しだけ心が揺さぶられた。
個性とかいう特殊能力が普通になっている世界にも転生をした。
ポケモンがいる世界では、ずっとブリーダーだけをやっていた。
外道とも言うべき白い獣がいる世界では、魔法少女達が必死に運命と闘っていた。
私と同じように死んだ魚のような目をした彼とは、いい友人同士になれた。
とあるカードゲームが大流行している世界では、一生分の頭を使った気がする。
幼女に転生をした男がいる世界では、私もまた幼女に転生をしてしまった。
スクールアイドルがいる世界……あれもまた非常に眩しかった。
私が辛うじて印象に残っている転生の記憶はこれぐらいか。
天井を眺めながらボーっとそんな事を考えていると、ふとある事が気になった。
(今の私の姿ってどんな風になってるのかな…)
今となっては、不細工になっていても特に気にはしないが、それでも知っておきたいとは思う。
これは私が転生をした時に毎回毎回やっている癖のようなものだ。
(手鏡…なんて、あるわけないか)
そもそも、転生したての私に荷物があるのかどうかさえ怪しい。
場合によっては、着の身着のままの状態で生きていかなくてはいけない。
幸いなことに、女の身であるならば金を稼ぐ手段に事欠かない。
援助交際でも、身売りでも、手段を選ばなければ金なんて稼ぎ放題だ。
その事に関する抵抗感なんてとっくの昔に失ったし、これまでに産んだ子供も今までの転生の中で数えきれない。
転生した時に処女膜も元に戻っているだろうが、破瓜の痛み程度でどうこうなるような生娘じゃないので大丈夫だろう。
(まずは体を動かせるようにならないとな…その後に情報収集しないと)
これから何をするにしても、転生した世界の情報はどうしても欲しい。
じゃないと、行動の指針自体が立てられないからだ。
(そうと決まれば、まずは寝てから体力の回復に専念するかな……)
どうせ、動きたくても動かせないのが現状なんだし、それなら今の状況を利用させて貰おう。
誰が私を此処に運び込んだのかは知らないが、今だけは感謝しておこう。
転生直後にフカフカのベッドで寝られる機会は本当に貴重だから。
(あぁ~…眠たくなってきた…)
よし、このまま行けばぐっすりと眠れる。
後は瞼を閉じるだけ…と思った瞬間、いきなり病室の扉が開かれて一人の大柄な男性が入ってきた。
赤いシャツを着ているが、筋肉のせいで半ばパッツパツになっている。
彼を見た時の第一印象は『一体どこのプロレスラー?』だ。
「看護師から体調が回復したとは聞いていたが、どうやらナイスタイミングだったようだな」
「…………は?」
このマッチョマンは何を言っている? ナイスタイミング? 何が?
「君がここに運ばれて来たから一週間ほどが経過したが、無事に意識が戻ったようでなによりだ」
「はぁ………」
どうやら、この男が私をこの病院に運び込んだ張本人のようだ。
別に私自身はいつ死んでも構いやしないのだが、それとは別に立派な寝床を与えてくれた事に関しては礼を言わないといけないだろう。
何度も転生を繰り返して来た結果、随分と前から自分の死に方にも拘るようになってきたから。
どうせ死ぬなら、安らかに死にたいから。
「ありがとう…ございます…」
「どういたしまして。意識が回復した以上、君に色々と聞きたい事があるのだが……」
事情聴取か? けど、今の私から抜き出せる情報なんて何も無いぞ。
たった今、私としての意識が覚醒したばかりなんだから。
「…今はやめておこう。また今度、お見舞いに来るから、その時に改めて話をさせて貰いたい」
「いいです…けど……」
なら、こっちもその時までに何をどう話すか考えておかないとな。
過去の捏造なら今までにも散々とやってきたことだ。
「取り敢えず、今回は自己紹介だけをしておくことにしよう。俺の名前は『風鳴弦十郎』だ」
「えっと…私は……」
ヤベ。なんて名乗ろう…。
前の転生先での名前にする?
ここ数万回程の転生は出逢った連中が適当に名付けてくれたから、自分で名前を考えるなんてことは久しく無い。
どうする…? 自慢じゃないが、私には命名の才能は無い。
「…無理をしなくてもいい。今は俺の名前だけを憶えてくれさえすればな」
「分かりました……」
助かった。けど、問題を先延ばししただけで何の解決にもなっていない。
この人が去った後でのんびりと考える事によう。
目もすっかり覚めてしまった事だし。
「では、失礼する。お大事にな」
「…はい」
なんとなく明朗快活なイメージが似合いそうな人物ではあったが、その表情はとても暗かった。
何かあったのだろうか? いや…私には関係ないか。
こちらの事を案じてか、弦十郎と名乗った男性は静かに扉を閉めていった。
気遣いの出来る良い大人のようだが、感情のコントロールは苦手のようだ。
(鏡……)
そんな事よりも、まずは自分の顔を見たい。
看護婦が巡回にでも来たら、ダメ元で頼んでみるか……。