無限転生 ~LOST REQUIEM~ 作:とんこつラーメン
今回もそんな話になる予定ですので、嫌だって人はブラウザバック推奨です。
銀色に輝くヘラを両手に持って、私はエプロン姿でカウンターに立っている。
弦十郎さん達に戸籍を作って貰い、その後にせっせと履歴書を書いてから電話をして応募したのが、私が今いるお店『ふらわー』だった。
ここは所謂『お好み焼き屋』なのだが、それだけではなく他にも色んな鉄板焼きのメニューが取り揃えられている。
ここの店長であるおばちゃんがかなりいい人だったので、即効で採用して貰った。
面接自体も凄く簡素なものだったし、そこら辺はかなりテキトーなのかもしれない。
「はい。豚玉いっちょー」
「お! こいつはまた美味そうじゃねぇか! いただきます!」
ここの常連と思わしきおじさんが嬉しそうに私の作ったお好み焼きをパクリと食べる。
すると、一気にその顔が笑顔に変わった。
「う…う…美味い!! 匂いから想像はしてたが、これは想像以上の味だぜ!! おばちゃん! いいバイトを見つけたな!」
「でしょ? いや~…まさか、ナナシちゃんがここまでの腕前だとはいい意味で予想外でね! お蔭でアタシの負担が減って本当に大助かりだよ!」
「そいつはよかったじゃねぇか! ウチの娘とは大違いだぜ! この間もよ…やれ『一緒に洗濯するな』やら『加齢臭がキツイ』やら言いやがってよ…」
ここでおじさんの愚痴モードに突入。
悲しいですけど、思春期ってそんなもんですよ。
誰もが一度は必ず通る道ですから。
大丈夫。あと10年もすれば、昔みたいに仲良くなれますよ。
「あ~マジで美味かった! ごちそうさん! またナナシちゃんのお好みを食いに来るぜ!」
「「まいどありー」」
食べ終わったおじさんが、お金を払ってから手を振って店を後にした。
私がここで働くようになってから一週間。
気のせいか、日に日に男性客が増えていってるような気がする。
「ナナシちゃんは、すっかりウチの看板娘になったね」
「それほどでも」
「料理が上手で可愛くて。こんなんじゃ、世の男共がほっとかないでしょ?」
「いやいや。私なんて全然モテませんて」
「またまた~」
事実である。
実際問題、私よりも可愛かったり美人だったりする女性なんて世の中には星の数ほどいる。
現状、数少ない身近な同年代である響さん達だって全員が美人&美少女揃いだ。
私なんて一瞬で霞んでしまうに違いない。
別に異性にモテたいだなんて願望は微塵も無いんだけど。
今までの無限転生の中で、良い意味でも悪い意味でも男と女の両方の『幸せ』ってのを身を持って味わってきてるから。
割とマジでその辺の事はどうでもいい。
「けど、店長には本当に感謝してます。まさか、アパートまで紹介して貰えるだなんて」
「それぐらい全然いいのよ。ナナシちゃんの身の上を聞かされちゃったら、協力しない訳にもいかないでしょ?」
「恐縮です」
身の上…なんて言っているが、そこまで大したことは話してない。
精々、S.O.N.G.や私の転生の事を省いた内容を話しただけ。
ちゃんと面倒くさい所は端折ったけど。
「お給料を前借してくれたお蔭で、ちゃんと生活雑貨も買えましたし。感謝しかありません」
「別にいいのよ。その分、ナナシちゃんにはこれかも頑張って貰うから」
「勿論です」
これが労働っての喜びってやつか…。
この感覚も久し振りなのだぜ。
転生した世界によっては、働くことは愚か人間扱いさえされないなんてことは頻繁にあるからな。
「さて…と。もうそろそろ『あの子達』がやって来る時間帯だね」
「あの子達?」
あのおじさん以外にも常連がいるのだろうか?
『あの子』という表現をしている辺り、学生とかなのかな?
「こんにちわー!」
入り口から聞こえてきた、この無駄に元気そうな声は…まさか?
「もう響。いつも言ってるけど、もう少し声のボリュームを抑えるように」
「はーい」
「完全にオカンじゃん」
「しかも、尻に敷かれるタイプ」
「あらあら」
続いて聞こえてきたのは未来さんと…誰?
あ、すぐにこっちに気が付いた。
「あれ? もしかしてナナシちゃんっ!? 師匠からアルバイトをし始めたって聞いたけど、ふらわーだったんだ!」
「いらっしゃいませ、響さん。未来さん。学校帰りですか?」
「うん! 今日は体育があったからお腹が空いちゃって~」
成る程。それは何か分かる気がする。
体育があった後の放課後ってなんでか凄く空腹になるんだよね。
そんな時に寄り道をして食べるものがまた美味いのなんの。
「エプロン、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます」
「というか、ナナシちゃんって料理出来たんだ!」
「聞いてないの響? この前、弦十郎さんとエルフナインちゃんがナナシちゃんの料理を御馳走になったって言ってたよ?」
「ホントっ!? 私も食べたかったなぁ~」
そういや、そんな事もあったね。
私の作ったホットケーキを美味しそうに食べているエルフナインさんを見ていると、なんだか懐かしい気分になったのを覚えている。
「嘆かなくても、お金さえ払ってくれれば今から私が作りますよ」
「そうだった!」
忘れてたんかい。
「つーか、二人だけで盛り上がってないで、私達にも紹介してよ」
「そうだよビッキー。完全に私達だけ置いてきぼり状態じゃん」
「お二人とこの方はどんな御関係なんですか?」
「「えっと~…」」
この金髪の子…いきなり確信をつくな…。
二人揃って困ってるし。仕方がないですね。
「初めまして。私は『
「ちょっとしたこと…ねぇ……」
おや? なんだか怪しまれてる?
因みに『天薙』という名字に特に意味は無い。
ネット上を徘徊している時にふと目に入った文字を適当に組み合わせただけ。
こーゆーのは瞬間的なインスピレーションが大事なのだよ。
「まぁ…いいか。二人と仲がいい時点で良い子だってのは確定なんだし」
なんなの? その意味不明な信頼感は。
単なる友人にしては信頼度が天元突破してない?
「私は板場弓美。よろしくね」
「安藤創世。ビッキーやヒナと友達なら、あなたともすぐに仲良くなれそうだね」
「寺島詩織と申します。以後お見知りおきを、ナナシさん」
なんといいますか…見事に三者三様な子達だな…。
熱血そうな子に、ちょっとクールそうな子、そんでもってのんびり屋な子。
なんだかゲッターチームを思い出させる三人組だ。
彼らも、個性の塊みたいな三人組だったけど、その絆は間違いなく無窮レベルだったし。
「なんだい。ナナシちゃんと響ちゃん達は知り合いだったのかい?」
「はい! 大切な友達です!」
いつの間にか私も友達扱いに。
なった覚えは微塵も無いのですが……。
「それじゃ、ここはナナシちゃんに任せて、あたしは店の奥の整理でもしてこようかしらね。ナナシちゃん、お願いね」
「了解しました」
そう言ってから、店長は奥に引っ込んでいってしまった。
別に緊張とかはしないが、五人分のお好み焼きを一人で焼くの?
それはちょっと面倒くさい。
けど、これも立派な仕事。頑張らなくては。
「では、ここからはお客とお店側のお話でもしますか。皆さん、何にしますか?」
「ナナシちゃんのお任せ!」
響さん、それが一番困るんですよ? 分かってます?
「ごめんねナナシちゃん。私は豚玉を貰おうかな?」
「未来さんは豚玉…と。他の皆さんはどうしますか?」
「あれ? 私の注文は?」
「響さん。ちゃんと固有名詞で注文してください」
「ハーイ……」
大体『お任せ』って…そんな風に言われたら、それこそマジで適当な物を出すからね?
お好みと見せかけてもんじゃ焼きとか出すからね? それでもいいなら注文を通すけど。
「あれ? ここって広島風とかってあったっけ? なんかそこに書かれてるけど」
「はい。私がバイトに入った日から追加したらしいです。私が広島風も作れると言ったら、紙とペンを持ってきてすぐに……」
「おばちゃんらしいや…」
気が付いた時には、焼きそば用の麺が沢山入荷されてた。
普通はちゃんと受けるか心配するところなのに、なんでか店長は『大丈夫』の一点張り。
実際、お客さん達には好評だったからよかったけど。
「それじゃ、折角だし私はその広島風を食べるよ」
「私も。詩織はどうする?」
「では、私はシーフードミックスを頂きます」
「分かりました。では、準備をするので少しお待ちください」
シーフード1に広島風2、豚玉1…と。
どの順番で作っていくのがいいかな?
「あの~…私がまだなんだけど~…」
「そうでしたっけ? いっそのこと、未来さんと同じ豚玉でいいのでは?」
「私の意志を完全無視っ!? けど、ナナシちゃんの作ってくれるのならなんでもいいか! 私も豚玉にするよ!」
「では、豚玉追加という事で」
ま、一つ増えた所で大した差じゃないから問題無いんですけどね。
それじゃ、こんな私の事を『友達』と呼んでくれた人達の為にも頑張りますかね。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
可能な限り、すぐに準備を終えてから注文された品を焼き始め、未来さんの豚玉から完成させていく。
全員分を作り終えた時には、私の顔は汗だくになっていた。
「美味しい!! これ、すっごく美味しいよナナシちゃん! おばちゃんのも美味しいけど、ナナシちゃんのも全然負けてない!」
「そうだね。焼き加減も完璧だし、ナナシちゃんって料理が得意なの?」
「そうですね……一応、和洋中は一通り出来ますし、やろうと思えばお菓子作りなんかも……」
「うわぁ~…ナナシちゃんって女子力が高いんだね~」
「そうなんでしょうか?」
女子力の高い低いは余り、よく分からない。
世の中には、家事スキルが絶望的な女性も数多くいたし。
まぁ…誰とは言わないけど。
「料理が出来て、気立ても良くて、美少女で……うん。間違いない。ナナシちゃんはアレだ。世の男共が求める理想の嫁だ」
「私程度が理想なら、その中には理想の嫁が山ほどいる事になりますが?」
話によると、未来さんもまた家事全般が得意だと聞く。
私などよりもずっと理想の嫁なのではなかろうか?
「けど、これはマジで美味しいよ。最近になって急にふらわーに男性客が増えたって聞いたけど、理由はこれだったんだ」
「ナナシさんに胃袋を掴まれたってことですね」
詩織さん、その言い方だと誤解を招くから止めてくれません?
「やっば…この焼きそばも最高だし…こりゃ、また来たくなるわ。つーか、絶対にまた来るし」
「だね。今までも割と頻繁に来てたけど、来る回数が増えそうな気がする」
「看板娘のナナシさんにも会えますしね」
あなたまで私のことを看板娘にしたいんですか?
こんな無愛想な看板娘なんて嫌でしょうに。
「ナナシちゃんの他の料理とかも食べてみたいかも」
「ちょっと響? それは少しがめついよ?」
「その機会があれば私は別にいいですよ?」
「ホント? やったー!」
「はぁ…ごめんね。ナナシちゃん……」
「気にしないでください。慣れてますので」
この手の相手の扱い方なら熟知してるから問題は無い。
変に無視したりせずに、気が済むまで構ってやればいいのだ。
満足したら勝手に向こうからいなくなってくれるから。
皆が食べ終えるまで、店内は半ば女子会のようなピンク色の空気がずっと漂っていた。
響さん達が帰ってから、店長が嬉しそうに私の頭を撫でてくれたけど…なんだったんだろうか?
次回、胡散臭い奴等がやって来る?
それから、なんだか飯テロっぽくなってしまいすいません。
お腹が空いたら各自で勝手に食べてください。